意味不明小説(ショートショート)コミュの愛

全く私は何をしているのだろうか？

今ごろ彼女はパリかニューヨークの社交界で・・・・

大モテにモテているにちがいないだろうなあ・・

それにしてもなんて素敵なんだろ・・・

さっき炒めて食べた肉のせいで胃がもたれている。

彼女はこんな風に胃にもたれる肉なんか口にもしたことないんだろうなあ・・・

彼女は、険しく厳しい高山の頂上に麗しく咲く一輪の花。

何人たりとも寄せつけることのない貴さのなかに、

あらゆる美が内在し、

一度彼女が大地を歩けば、

その震えは海をざわめかせ、

山が不自然な隆起沈降を繰り返し、

星たちはスパークし宇宙に無数の涙が流れるのだ。

そして神々は惜しみない賛美の唄に喉を震わすだろう。

彼のハデスの国すらあのような美は存在しないとさえ言われているのだ。

一度彼女を目にしたならエロースすらも職務放棄し、彼女のもとに駆けつけ犬っころのようにその足もとを這いずりまわるに違いないとも言われているのだ。

彼女を手に入れた放蕩児ドンファンは苦悩の情熱家トリスタンとその人生を好感する旨を神に申し出るだろうとも言われている。

男色で有名なプラトンはどうだろうか、ただちに少年の肛門に興味を失うに違いないとさえ言われているのだ。

一方、私はしがないイラストレーターである。

彼女の事を思うだけ無駄である。

しかし私は見てしまったのだ、彼女のことを消そうにも消せない眼窩の記憶は
日を追うごとに私を激しく責めたてる。

この思いを遂げる事が出来たなら、私はメフィストフェレスとすら契約を交わそう。

私は消費者金融に通う度に思う、この契約はあのときメフィストフェレスと交わした契約に驚くほど似通った部分が大きい。

危険だ・・・・。

「ご利用は計画的に」、もっともな言葉だ。

一時の感情に流されることほど馬鹿らしい事も無い。

感情は一時、後悔は一生だ。

私はこれまでの人生で、何度も一時の感情に流され、その度毎に過ちを犯してきた。

それで交通刑務所送りになった事もある。

故に、私は前科持ちである。

しかし、彼女は私にこんな事を言った。

「前科持ちでもいいじゃない。

重要なのは今あなたがどんな人間で、未来に向かってどんな風に向き合うか。

それだけ。」

私は頬を伝う涙にも気付かず、御前にあられる女神に問うた。

「それでは、過去の私は現在の私に関係あらずと仰るのですか？

連綿と続く私の行列の先頭を歩する私は、後に続くものたちを呼ぶとき彼らと呼んでもよろしいのでしょうか？

だとするなら、私がたった今この場で思いにまかせて、あなた方に馬乗りになって犯したとしても、次の瞬間その私は、彼らのうちに埋没するでしょうから、その業による咎はないと仰るのですか？」

「ええ、それは私にだけしてください・・・・」

「何故ですか？私にとってあなた方の言葉は何にも勝る真理に違いありません。
ですから、宇宙をも支配する不文律同様に聞こえるのですが。」

彼女は少し口をつぐみ、私を見つてため息をつき答えた。

「何故って？そんな馬鹿なことを聞かないでください。

それは私があなたのことを好きだからという理由以外ないのですから。」

「・・・・・・・・」

キターと心は叫び、喜びに打ち震える体は自分のものではないような気さえする。

「これが愛か。これが愛というものなのか？」

私は身に余る光栄に正気で保つのに精一杯だった。

彼女を近所のスーパーのレジスターで見かけてから、育んできた愛が今結晶化し、今度は今にも私に刺さろうとしている。

私は危機を感じた。

これは考え物だ。

感情は一時、後悔は一生だ。

あの現代の慣用句とも言えるコピーが頭に浮かぶ。

「ご利用は計画的に」

そうだ、ご利用は必ず計画的に行われなければいけないのだ。

しかし、ここはラブホテル、今まさにご利用せんとするための場所だ。

私は叫びながら、彼女に飛び掛る。

「南無三、どうにでもなれ、えいやあ！！」

地面を足が離れ、ベッドに着地するまでに頭をいくつもの光景が浮かぶ。

四人の子供、育児にやつれた母、穴だらけの靴下、生活が鎮座する四畳半、小さく背を丸めた私。