『 聖徳太子に祈る − 消された一族の女たち −』 米陀黎子著・新人物往来社
この著者は梅原猛氏の「隠された十字架」を評価し、逆に大山誠氏の著作を「主観の相異」として片づけている。
ならば、どれほどの反論が有るのかと期待すれば、然程の反論も見当たらない。
「聖徳太子に祈る」であるならば、もっと「存在証明」なりを展開して欲しかった、というのが読後感として残る。
しかし、見落とされがちな「敗者・蘇我氏、物部氏」に焦点をあてて、見落としがちな「係累・縁故関係」を掘り起こししているのは好感がもてる。
また「橘三千代・女性」にスポットを当てているのも良い。「奈良時代」を学ぶ「良書！」ですね。
よって、ここに「覚書」を残しておきたい。(ただし、「コピー厳禁！」は、マナーですよ！)
『 聖徳太子に祈る − 消された一族の女たち −１．』
《 第一章 『隠された十字架』の時代 》
ｐ．１１
『 聖徳太子怨霊説 』
「『聖徳太子は怨霊である−梅原猛氏・説』祟られたのは藤原氏である。
ｐ．１２
「偉大な人物が悲劇的な最後を遂げると怨霊になると日本人は信じてきた。
しかし、神として手厚く葬ることによって怨霊は守り神になる。
梅原氏は聖徳太子の寺、法隆寺を『太子の怨霊を鎮魂するための寺』と解釈したのである。」
ｐ．１３
『 埋もれた巨像・藤原不比等 』
上山春平著作−「神々の体系・埋もれた巨像」
＜？！＞「井上光貞、説『書記は天皇家の、天皇家による、天皇家のための書である』に真っ向から対立するものであった。」
ｐ．１４
「『『書記』の基礎は五六世紀にあった歴史資料であるが、その編纂目的は、天皇家のためと言うより、藤原家のためであり、天皇制のためというより律令制の為である。
不比等は、自らの手で作り上げた律令制を巧みに利用しながら、旧来の氏姓制度のもとでは到底太刀打ちできそうにない名門豪族達を圧倒する地位に藤原家を押し上げるための素地をつくった。』
持統女帝から軽皇子へ、元明女帝から首皇子へと、祖母から孫への権力移譲はアマテラスから孫である二二ギ尊へ権力が移譲されたエピソードを奈良時代に再現させたものである。
そしてアマテラスを支えるタカミムスビは、女帝を支えた不比等の姿そのものである、と。」
「旧豪族（物部・大伴・蘇我氏等）たちの拠り所であった「氏姓制度」は、新興豪族（藤原・中臣・紀・小野・丹比氏等）と帰化人によって合作された「律令制」の前に敗れ去った。」＜著者による上山説の要約＞
ｐ．１５
『 蒸し返された太子論 』
「『聖徳太子は存在しない』大山誠氏説」
「歴史は科学ではないし、一つの歴史認識は、一つの仮説に過ぎない。
……。だから、この手の人が思いこんでいる一つの絶対的な「正しい歴史認識」など残念ながらありえない。
……。歴史の持つロマン溢れるストーリー性を楽しんだ方が良いのではないだろうか。」＜この著者の大山氏への反論も、「根拠」不明のため省略＞
「……歴史の持つロマン溢れるストーリー性を楽しんだ方が良いのではないだろうか
ｐ．１７
『 法隆寺は誰がいつ建てたのか？ 』＜日本書紀は法隆寺（若草伽藍）の創建を、記録していないことによる。＞
ｐ．１８
「天智九年〈６７０〉に法隆寺は全焼したはずだった。
だが七七年後、天平十九年（７４７）に作られた『法隆寺伽藍縁起並流記資財帳』には全焼の件が一切記されていず、飛鳥式の現法隆寺が残っていたからややこしくなってしまった。
……、昭和十四年から始められた考古学者石田茂作氏による若草伽藍発掘によって論争に一つの答えが与えられた。
ｐ．１９
平成十六年、高温で焼け落ちたと見られる壁の残骸も発掘され、さらに火災の事実が補強された。
では、「現在ある法隆寺は、いつ建立が始まったか？」・「それが再建と言えるものか」
しかし、現法隆寺が火災後の天武時代に再建されたとしたら、なぜ天武時代の白鳳様式でなく、それより古い飛鳥様式であるのか。
そもそも「非再建」を唱えた人達はこだわったのもその点であった。現法隆寺は雲斗拱など古い建築様式でたてられている。
ｐ．２０
創建法隆寺が火災にあった時、現法隆寺はすでに建立されていたのではないか。……。つまり「ニ寺並立論」である。
創建法隆寺は、太子が用明天皇供養のために建立した寺であるが、現法隆寺は、本尊、寺で行われる法会から見て、明らかに太子とその一族供養の寺である。」
『 怨霊を恐れた藤原氏 』
「梅原氏の謎解きも……、「いつ・誰・何のために」建てられたか……解明することに向けられたのであった。」
ｐ．２１
＜藤原四卿の死＞「残された藤原氏の人々、特に……光明皇后は、一族に祟る太子の怨霊を鎮めるために法隆寺に寄進し、それがやがて「太子信仰」と結びつき、
鎮魂の寺・法隆寺を作って行った。というのが梅原氏の仮説であった。」
ｐ．２２
＜梅原＞「氏は結論づける。『法隆寺は、藤原氏によって、藤原氏のために奈良時代に完成された、太子の怨霊鎮魂の寺である』と。」
この著者は梅原猛氏の「隠された十字架」を評価し、逆に大山誠氏の著作を「主観の相異」として片づけている。
ならば、どれほどの反論が有るのかと期待すれば、然程の反論も見当たらない。
「聖徳太子に祈る」であるならば、もっと「存在証明」なりを展開して欲しかった、というのが読後感として残る。
しかし、見落とされがちな「敗者・蘇我氏、物部氏」に焦点をあてて、見落としがちな「係累・縁故関係」を掘り起こししているのは好感がもてる。
また「橘三千代・女性」にスポットを当てているのも良い。「奈良時代」を学ぶ「良書！」ですね。
よって、ここに「覚書」を残しておきたい。(ただし、「コピー厳禁！」は、マナーですよ！)
『 聖徳太子に祈る − 消された一族の女たち −１．』
《 第一章 『隠された十字架』の時代 》
ｐ．１１
『 聖徳太子怨霊説 』
「『聖徳太子は怨霊である−梅原猛氏・説』祟られたのは藤原氏である。
ｐ．１２
「偉大な人物が悲劇的な最後を遂げると怨霊になると日本人は信じてきた。
しかし、神として手厚く葬ることによって怨霊は守り神になる。
梅原氏は聖徳太子の寺、法隆寺を『太子の怨霊を鎮魂するための寺』と解釈したのである。」
ｐ．１３
『 埋もれた巨像・藤原不比等 』
上山春平著作−「神々の体系・埋もれた巨像」
＜？！＞「井上光貞、説『書記は天皇家の、天皇家による、天皇家のための書である』に真っ向から対立するものであった。」
ｐ．１４
「『『書記』の基礎は五六世紀にあった歴史資料であるが、その編纂目的は、天皇家のためと言うより、藤原家のためであり、天皇制のためというより律令制の為である。
不比等は、自らの手で作り上げた律令制を巧みに利用しながら、旧来の氏姓制度のもとでは到底太刀打ちできそうにない名門豪族達を圧倒する地位に藤原家を押し上げるための素地をつくった。』
持統女帝から軽皇子へ、元明女帝から首皇子へと、祖母から孫への権力移譲はアマテラスから孫である二二ギ尊へ権力が移譲されたエピソードを奈良時代に再現させたものである。
そしてアマテラスを支えるタカミムスビは、女帝を支えた不比等の姿そのものである、と。」
「旧豪族（物部・大伴・蘇我氏等）たちの拠り所であった「氏姓制度」は、新興豪族（藤原・中臣・紀・小野・丹比氏等）と帰化人によって合作された「律令制」の前に敗れ去った。」＜著者による上山説の要約＞
ｐ．１５
『 蒸し返された太子論 』
「『聖徳太子は存在しない』大山誠氏説」
「歴史は科学ではないし、一つの歴史認識は、一つの仮説に過ぎない。
……。だから、この手の人が思いこんでいる一つの絶対的な「正しい歴史認識」など残念ながらありえない。
……。歴史の持つロマン溢れるストーリー性を楽しんだ方が良いのではないだろうか。」＜この著者の大山氏への反論も、「根拠」不明のため省略＞
「……歴史の持つロマン溢れるストーリー性を楽しんだ方が良いのではないだろうか
ｐ．１７
『 法隆寺は誰がいつ建てたのか？ 』＜日本書紀は法隆寺（若草伽藍）の創建を、記録していないことによる。＞
ｐ．１８
「天智九年〈６７０〉に法隆寺は全焼したはずだった。
だが七七年後、天平十九年（７４７）に作られた『法隆寺伽藍縁起並流記資財帳』には全焼の件が一切記されていず、飛鳥式の現法隆寺が残っていたからややこしくなってしまった。
……、昭和十四年から始められた考古学者石田茂作氏による若草伽藍発掘によって論争に一つの答えが与えられた。
ｐ．１９
平成十六年、高温で焼け落ちたと見られる壁の残骸も発掘され、さらに火災の事実が補強された。
では、「現在ある法隆寺は、いつ建立が始まったか？」・「それが再建と言えるものか」
しかし、現法隆寺が火災後の天武時代に再建されたとしたら、なぜ天武時代の白鳳様式でなく、それより古い飛鳥様式であるのか。
そもそも「非再建」を唱えた人達はこだわったのもその点であった。現法隆寺は雲斗拱など古い建築様式でたてられている。
ｐ．２０
創建法隆寺が火災にあった時、現法隆寺はすでに建立されていたのではないか。……。つまり「ニ寺並立論」である。
創建法隆寺は、太子が用明天皇供養のために建立した寺であるが、現法隆寺は、本尊、寺で行われる法会から見て、明らかに太子とその一族供養の寺である。」
『 怨霊を恐れた藤原氏 』
「梅原氏の謎解きも……、「いつ・誰・何のために」建てられたか……解明することに向けられたのであった。」
ｐ．２１
＜藤原四卿の死＞「残された藤原氏の人々、特に……光明皇后は、一族に祟る太子の怨霊を鎮めるために法隆寺に寄進し、それがやがて「太子信仰」と結びつき、
鎮魂の寺・法隆寺を作って行った。というのが梅原氏の仮説であった。」
ｐ．２２
＜梅原＞「氏は結論づける。『法隆寺は、藤原氏によって、藤原氏のために奈良時代に完成された、太子の怨霊鎮魂の寺である』と。」
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『 太子怨霊説への疑問の芽生え 』
ｐ．２３
「梅原氏も『法隆寺にさす橘三千代の影』として、あくまでも不比等の後ろに控えた橘三千代を表現した。
だが、影どころか、『橘夫人厨子・西円堂・伝法堂』と彼女名義の伝世品が法隆寺には多く残されている。
さらには、彼女が仕えた三人の女帝、持統・元明・元正、彼女が養育した聖武天皇、その皇后となった娘、安宿媛（光明皇后）、孫娘の称徳天皇たちは、法隆寺の歴史と深く関わっていたのである。」
ｐ．２４
『 謎の尼僧と橘三千代 』
「『天平四年(７３２)の五月二十二日に、父母の菩提を弔うため弥勒の面に瑜伽論を書写する』と奥書が記され、写経主の名は『昭浄尼』という尼僧である。
養老五年に（７２１)に出家し『昭浄尼』と同じく尼僧になっていた三千代。
当時、現法隆寺は、……官寺の扱いを受けていた。その中心伽藍に写経奉納を許された昭浄尼という女性、かなり身分の高い尼僧であったことは間違いない。」
ｐ．２５
「関わったのは不比等ではなく、妻の橘三千代ではなかったか。」
ｐ．２７
《 第ニ章 法隆寺を完成させた女 》
『 最初の出家者は尼僧だった 』
「仏教と女性、日本の仏教はその始まりから女性達の姿が見られる。」
ｐ．２８
「『書記』敏達天皇十三年（５８４)秋九月、蘇我馬子は播磨国にいた元僧であった恵便を師として、司馬達等女嶋を出家させ、彼女は善信尼と名を改めた。
さらに善信尼の弟子二人漢人夜菩女豊女は善蔵尼、錦織壺女石女は名を恵善尼と改めて同じく出家したのである。
善信尼は法隆寺金堂本釈迦三尊像の制作者、止利の叔母にあたる。
彼女は当時わずか十一歳。偶然とはいえ、敏達三年(５７４)生まれの太子と同年齢でもあった。」
「善信尼を始めとする五人の尼僧たちは仏法を学ぶために百済に渡ることができ、三年間仏教を学び帰国、善信尼十七歳は、始めての尼寺桜井寺を建立している。」
「日本の仏教が女性による出家者、尼僧によって始まったことは、その後六世紀の終わりから八世紀にかけての女帝達の出現、その活躍にも影響を与えていったのではないだろか。」
ｐ．２９
「天皇として始めて仏教受容の態度を表明した用明天皇、その志を継ぎ事実上仏教を受け入れ奨励したのは用明の実妹第三十二代推古天皇、二人の父は欽明、母は蘇我氏女堅塩媛である。
推古……二年（５９４)二月一日に摂政の聖徳太子と大臣蘇我馬子に詔して仏教の興隆を命じている。
＜推古＞ 十四年七月には太子が推古のために「勝鬘経」を講義したことが『書記』に記録されている。
正式には『勝鬘獅子吼一乗大方便方広経』という大乗仏教初期の重要な経典である。
ｐ．３０
「仏教学者の中村哲氏によると『勝鬘とは優れた花輪、美しい花輪という意味で、これは国王の妃の名である。
勝鬘夫人という妃が仏教の教えを解くのを横で釈尊が聞いていて「その通りだ、その通りだ』といって承認されたという筋書きである。
これも仏典として、いや、世界の宗教史上においても珍しいことであり、在家の女性が教えを説いたものが経典として伝えられるということは、歴史的事実であったかどうかは判らないにしても驚くべきことである』
「しかし、国王妃とはいえ世俗の女人である勝鬘夫人、彼女の説法、その論理は釈尊の称賛を得て夫人はそのままで仏になる、ということを示したのが「勝鬘経」であった。」
「勝鬘夫人はそのまま、美しく知的であった推古女帝に重なる。太子は女帝のために「勝鬘経」を選んだのであろう。」
つづく
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聖徳太子に祈る − 消された一族の女たち − �◆（涜俣媚卉�・新人物往来社
（「コピー厳禁！」これは、マナーですよ！ 勉強にもならないよ！)
ｐ．３１
『 推古女帝の継承者・持統天皇 』
「＜日本書紀・賛辞＞だが「母親の徳有り」と母親としては最大限称えている。姉の子供、甥大津皇子を殺してまでもして願った息子＜草壁皇子＞の即位、
さらには孫を天皇に就かせるための努力は、まさに母の鏡である。」
「持統は、法隆寺に最初に寄進した天皇として、その名が『資材帳』に記されている。
持統天皇七年（６９３)に経台・繍帳を、翌八年には「金光明経」を納めている。」
ｐ．３３
「天智天皇九年に全焼した創建法隆寺＜若草伽藍＞、しかし、ニ三年後の持統七年には、現法隆寺の金堂は存在していたようである。それをどのように解釈すべきなのか。」
『 母娘女帝時代に現法隆寺は完成した 』
「第四十三代元明天皇は、幼名を阿閉内親王、持統と同じく天智が父、母は蘇我倉山田石川麻呂女、持統にとっては異母妹である。
同時に、持統の息子の草壁皇子の妻となっていたので、持統にとっては嫁でもある。」
「……、どちらかといえば内気な目立たない女性であったようだ。
だからこそ、側近である藤原不比等や橘三千代が彼女を支え、活躍できたのである。
実際、この目立たない女帝の時代に「奈良遷都」・「律令制の確立」・「『書記』の編纂」、そして現法隆寺建築の再開など、大きな事業が始まり、そして完成している。」
『七大寺年表』に「和銅元年 詔 作法隆寺」と記録され、元明の詔によって法隆寺が造られ始めたと記録されている。
『資材帳』にも、和銅四年(７１１）に五重塔内四仏土、中門四力士像が完成安置されたと、こちらも明確に記録されている。」
ｐ．３４
★「霊亀元年（７１５)六月十三日『続日本紀』に法隆寺で設斉（法会と食事）を行ったと、法隆寺の名が始めて登場してくる。」
「そして同、霊亀元年九月、元明は譲位し太上天皇となり、元正天皇が誕生している。
第四十四代元正天皇は、元明と草壁の間の娘・氷高内親王、文武の姉にあたり、独身のまま天皇になった始めての女性である。
早世した弟・文武の息子、首皇子は十五歳になっていたが、幼すぎて皇位を継ぐには早すぎる。
五十五歳になっていた元明は疲れ切っていた。吉備内親王（妹？）は長屋王に嫁いでいた。天皇になるのは彼女しかいなかったのである。」
「養老二年（７１８) 法隆寺西円堂にて、本尊薬師像の開眼法要が行われた。」
「養老四年（７２０）『日本書紀』が完成、それを見届けた不比等が亡くなる。」
「養老五年（７２１) 後を追うかのように元明は崩御する。彼女の遺品二十ニ点は、元正によって法隆寺に納められる。
「養老六年(７２２) 天武以来、停止されていた法隆寺に対する食封(封戸)が再開されている。」＜←？＞
「このように、元明・元正母子女帝の時代に法隆寺の伽藍は完成、しかも官寺として認められることになったのである。
ｐ．３５
それらの記録に関する限り、現法隆寺完成と最も関わりの深い女帝はなんと言っても元明であり、彼女もまた蘇我氏の血を引く女帝であった。」
「その女帝に特に重要され「橘」の名を与えられた橘三千代、彼女が最も活躍したのも元明の時代であった。」
『 キャリアウーマン 橘三千代 』
「天武の時代に後宮に入り、持統・文武・元明に仕えた橘三千代、彼女はどのような女性であったのか。」
「『書記』天武天皇二年(６７３)五月一日、……（略）又、婦女は、夫有ると夫無き、及長幼を問ふこと無く、進士（つか)へむと欲ふ者は、聴(ゆる)せ。其の考選せむとことは官人の例に准へ。』
「橘三千代はこの時代、女官として後宮に入ったと考えられる。＜推測＞ そして、次の持統の時代から律令制と共に「女官制度」も整えられ、その中で彼女は活躍していったのである。」
「日本の女官制度は日本独特の制度であると言える。」
「日本の後宮は女性中心の社会である。
ｐ．３６
中国・朝鮮半島の後宮では、男性機能を失った男性である「宦官」を後宮に入れ、女性達を支配していた。中国・朝鮮半島から多くの文化を入れたが、このシステムだけは決して入れず、日本の後宮は女性だけで機能させていた。それは江戸時代の大奥まで一貫していた。」
「大陸では戦乱が多く女性は略奪の対象になるので、人目につく処に出ない。必然的に女性の能力を活かす場は少ない。さらに儒教の影響もあって、女性の地位は日本に比べ圧倒的に低かったようだ。」
『 推古女帝の継承者・持統天皇 』
「＜日本書紀・賛辞＞だが「母親の徳有り」と母親としては最大限称えている。姉の子供、甥大津皇子を殺してまでもして願った息子＜草壁皇子＞の即位、
さらには孫を天皇に就かせるための努力は、まさに母の鏡である。」
「持統は、法隆寺に最初に寄進した天皇として、その名が『資材帳』に記されている。
持統天皇七年（６９３)に経台・繍帳を、翌八年には「金光明経」を納めている。」
ｐ．３３
「天智天皇九年に全焼した創建法隆寺＜若草伽藍＞、しかし、ニ三年後の持統七年には、現法隆寺の金堂は存在していたようである。それをどのように解釈すべきなのか。」
『 母娘女帝時代に現法隆寺は完成した 』
「第四十三代元明天皇は、幼名を阿閉内親王、持統と同じく天智が父、母は蘇我倉山田石川麻呂女、持統にとっては異母妹である。
同時に、持統の息子の草壁皇子の妻となっていたので、持統にとっては嫁でもある。」
「……、どちらかといえば内気な目立たない女性であったようだ。
だからこそ、側近である藤原不比等や橘三千代が彼女を支え、活躍できたのである。
実際、この目立たない女帝の時代に「奈良遷都」・「律令制の確立」・「『書記』の編纂」、そして現法隆寺建築の再開など、大きな事業が始まり、そして完成している。」
『七大寺年表』に「和銅元年 詔 作法隆寺」と記録され、元明の詔によって法隆寺が造られ始めたと記録されている。
『資材帳』にも、和銅四年(７１１）に五重塔内四仏土、中門四力士像が完成安置されたと、こちらも明確に記録されている。」
ｐ．３４
★「霊亀元年（７１５)六月十三日『続日本紀』に法隆寺で設斉（法会と食事）を行ったと、法隆寺の名が始めて登場してくる。」
「そして同、霊亀元年九月、元明は譲位し太上天皇となり、元正天皇が誕生している。
第四十四代元正天皇は、元明と草壁の間の娘・氷高内親王、文武の姉にあたり、独身のまま天皇になった始めての女性である。
早世した弟・文武の息子、首皇子は十五歳になっていたが、幼すぎて皇位を継ぐには早すぎる。
五十五歳になっていた元明は疲れ切っていた。吉備内親王（妹？）は長屋王に嫁いでいた。天皇になるのは彼女しかいなかったのである。」
「養老二年（７１８) 法隆寺西円堂にて、本尊薬師像の開眼法要が行われた。」
「養老四年（７２０）『日本書紀』が完成、それを見届けた不比等が亡くなる。」
「養老五年（７２１) 後を追うかのように元明は崩御する。彼女の遺品二十ニ点は、元正によって法隆寺に納められる。
「養老六年(７２２) 天武以来、停止されていた法隆寺に対する食封(封戸)が再開されている。」＜←？＞
「このように、元明・元正母子女帝の時代に法隆寺の伽藍は完成、しかも官寺として認められることになったのである。
ｐ．３５
それらの記録に関する限り、現法隆寺完成と最も関わりの深い女帝はなんと言っても元明であり、彼女もまた蘇我氏の血を引く女帝であった。」
「その女帝に特に重要され「橘」の名を与えられた橘三千代、彼女が最も活躍したのも元明の時代であった。」
『 キャリアウーマン 橘三千代 』
「天武の時代に後宮に入り、持統・文武・元明に仕えた橘三千代、彼女はどのような女性であったのか。」
「『書記』天武天皇二年(６７３)五月一日、……（略）又、婦女は、夫有ると夫無き、及長幼を問ふこと無く、進士（つか)へむと欲ふ者は、聴(ゆる)せ。其の考選せむとことは官人の例に准へ。』
「橘三千代はこの時代、女官として後宮に入ったと考えられる。＜推測＞ そして、次の持統の時代から律令制と共に「女官制度」も整えられ、その中で彼女は活躍していったのである。」
「日本の女官制度は日本独特の制度であると言える。」
「日本の後宮は女性中心の社会である。
ｐ．３６
中国・朝鮮半島の後宮では、男性機能を失った男性である「宦官」を後宮に入れ、女性達を支配していた。中国・朝鮮半島から多くの文化を入れたが、このシステムだけは決して入れず、日本の後宮は女性だけで機能させていた。それは江戸時代の大奥まで一貫していた。」
「大陸では戦乱が多く女性は略奪の対象になるので、人目につく処に出ない。必然的に女性の能力を活かす場は少ない。さらに儒教の影響もあって、女性の地位は日本に比べ圧倒的に低かったようだ。」
ｐ．３７
「彼女が亡くなった当時の官位は三位、現在でいえば大臣クラスの地位であった。」
「「橘夫人厨子」、西円堂、伝法堂は、法隆寺における彼女の形見である。そして経典、道具類の数々と娘光明皇后は、三千代の死後、その遺品を多数法隆寺に納めている。」
「その後を継いで夢殿を中心とする東院伽藍を建立したのも、三千代の孫、称徳(考兼）天皇である。」
『 天平の尼僧・昭浄尼 』
＜ 著者は橘三千代を昭浄尼と推測する。＞
「道昭の教え、遺言に従ったかのように、持統が天皇として、続いて文武・元明・元正の天皇たちがいずれも火葬に付された。」
「三千代と道昭との間にも、ある人物を通して縁が存在した。三千代が建立したと伝わる法隆寺西円堂の由来である。
堂内の本尊・薬師如来の開眼供養は道昭の弟子名僧行基によって養老二年に行われたと伝わっている。」＜伝文か…＞
「天平四年の翌年＜五年＞一月十日、橘三千代は亡くなっている。」
「道昭がもたらした『瑜伽師地論』は奈良時代後盛んに写経されている。……。「五月一日経」である。
『正倉院文書』によれば光明皇后によって天平十二年（７４０)五月一日に発願され、１０人の写経生が翌年の春にかけ完成、最終的には７０００巻余りになっていたという。
その中に『瑜伽師地論』全１００巻もあり、その第六十九巻が残っている。
『 皇后藤原氏光明子奉為
尊考贈正一位太政大臣府君
尊妣贈従一位橘氏太夫人敬写 』
、
ｐ．４０
『 県犬養氏から橘氏へ 』
「氏は天皇から頂いた物……、姓は氏族の地位や家柄を示す……。
宿禰は、天武朝の「八色の姓」における、上から真人・朝臣・宿禰・連と続く三番目である。」
「三千代の父は県犬養東人、だが『日本書紀』にその名は見えない。だが従兄弟にあたる県犬養連大伴が「壬申の乱」で天武側につき貢献、「連」から一階級上がり「宿禰」を授かったのである。」
ｐ．４０
「三千代は、天武・持統・文武・元明・元正・聖武と実に六代にわたる天皇の時代に活躍した。」
「彼女は後宮に入る前に美努王という人物と結婚している。
美努王は、系図にあるように敏達天皇、難波皇子、大俣王、、栗隈王、そして美努王、天皇の四代目孫にあたる皇族であった。
二人の間に、天武天皇十三年（６８４)生まれの長男葛城王（後の橘諸兄）次男佐為王（橘佐為）、長女牟漏女王とニ男一女を得ている。
しかし、美努王と離婚、不比等と再婚し大宝元年（７０１に、安宿媛（光明皇后）を出産している。
葛城王と安宿媛の年齢差は十七歳、末っ子を出産した時は四十歳近い年齢だったと推測できる。」
「大宝元年＜７０１＞には不比等の娘、宮子（加茂氏女が母）が、文武との間の唯一人の息子、首皇子（聖武天皇）を生んでいる。
この同年生まれの安宿媛と首皇子は叔母と甥との関係になるが、やがて結婚し、天皇家、藤原氏、橘氏の時代が始まるのである。」
「大宝二年（７０２)持統が崩御、しかし孫の文武も四年後の慶雲四年(７０６)、二十五歳の若さで崩御する。
母である阿閉皇女は、持統と同じく孫のため、中継天皇として即位する。それを支えたのが橘三千代であった。」
ｐ．４２
「和銅元年（７０８）十一月元明即位を祝う宴で、三千代は元明から直々「橘」を浮かべた酒盃と共に「橘氏」を授かる。」＜出典？！＞
「橘の果実は人々に好まれ……。」＜出典？！＞
「……、三千代は橘氏の祖となり、以後、県犬養橘宿禰三千代と名乗る。」
「養老元年(７１７)正月七日、従四位上から従三位に昇進。」
「養老五年(７２１)正月五日、従三位から正三位に昇進。この位はまさに大臣級。」
「養老五年(７２１)五月十九日、三千代は出家入道し、食封・資人(支給される給料と使用人)を辞退している。しかし、元正女帝は詔を出され許可しなかった。」
元明太上天皇が病に倒れ、治癒祈願のために三千代は出家したのである。」
「神亀四年(７２７)十二月十日、三千代は一族でありながら無姓であった県犬養五百依・県犬養安麻呂・県犬養小山守・県犬養大麻呂等に三千代と祖先を同じくする子孫である故、同じく宿禰の姓をたまわりたいと申し出て、天皇からその願いは許されている。」
ｐ．４３
「天平五年(７３３)正月十一日『内命婦で正三位の県犬養橘宿禰三千代が薨じた』……。
同、『十二月二十八日、天皇は一品の舎人親王、大納言・正三位の藤原朝臣武智麻呂、式部卿・従三位の藤原朝臣宇合、
大蔵卿・従三位の鈴鹿王、右大弁・正四位下の大伴宿禰道足等の重臣たちを三千代の邸に遣わし、詔をのべさせ、三千代に従一位の位を贈っている。」
「彼女が亡くなった当時の官位は三位、現在でいえば大臣クラスの地位であった。」
「「橘夫人厨子」、西円堂、伝法堂は、法隆寺における彼女の形見である。そして経典、道具類の数々と娘光明皇后は、三千代の死後、その遺品を多数法隆寺に納めている。」
「その後を継いで夢殿を中心とする東院伽藍を建立したのも、三千代の孫、称徳(考兼）天皇である。」
『 天平の尼僧・昭浄尼 』
＜ 著者は橘三千代を昭浄尼と推測する。＞
「道昭の教え、遺言に従ったかのように、持統が天皇として、続いて文武・元明・元正の天皇たちがいずれも火葬に付された。」
「三千代と道昭との間にも、ある人物を通して縁が存在した。三千代が建立したと伝わる法隆寺西円堂の由来である。
堂内の本尊・薬師如来の開眼供養は道昭の弟子名僧行基によって養老二年に行われたと伝わっている。」＜伝文か…＞
「天平四年の翌年＜五年＞一月十日、橘三千代は亡くなっている。」
「道昭がもたらした『瑜伽師地論』は奈良時代後盛んに写経されている。……。「五月一日経」である。
『正倉院文書』によれば光明皇后によって天平十二年（７４０)五月一日に発願され、１０人の写経生が翌年の春にかけ完成、最終的には７０００巻余りになっていたという。
その中に『瑜伽師地論』全１００巻もあり、その第六十九巻が残っている。
『 皇后藤原氏光明子奉為
尊考贈正一位太政大臣府君
尊妣贈従一位橘氏太夫人敬写 』
、
ｐ．４０
『 県犬養氏から橘氏へ 』
「氏は天皇から頂いた物……、姓は氏族の地位や家柄を示す……。
宿禰は、天武朝の「八色の姓」における、上から真人・朝臣・宿禰・連と続く三番目である。」
「三千代の父は県犬養東人、だが『日本書紀』にその名は見えない。だが従兄弟にあたる県犬養連大伴が「壬申の乱」で天武側につき貢献、「連」から一階級上がり「宿禰」を授かったのである。」
ｐ．４０
「三千代は、天武・持統・文武・元明・元正・聖武と実に六代にわたる天皇の時代に活躍した。」
「彼女は後宮に入る前に美努王という人物と結婚している。
美努王は、系図にあるように敏達天皇、難波皇子、大俣王、、栗隈王、そして美努王、天皇の四代目孫にあたる皇族であった。
二人の間に、天武天皇十三年（６８４)生まれの長男葛城王（後の橘諸兄）次男佐為王（橘佐為）、長女牟漏女王とニ男一女を得ている。
しかし、美努王と離婚、不比等と再婚し大宝元年（７０１に、安宿媛（光明皇后）を出産している。
葛城王と安宿媛の年齢差は十七歳、末っ子を出産した時は四十歳近い年齢だったと推測できる。」
「大宝元年＜７０１＞には不比等の娘、宮子（加茂氏女が母）が、文武との間の唯一人の息子、首皇子（聖武天皇）を生んでいる。
この同年生まれの安宿媛と首皇子は叔母と甥との関係になるが、やがて結婚し、天皇家、藤原氏、橘氏の時代が始まるのである。」
「大宝二年（７０２)持統が崩御、しかし孫の文武も四年後の慶雲四年(７０６)、二十五歳の若さで崩御する。
母である阿閉皇女は、持統と同じく孫のため、中継天皇として即位する。それを支えたのが橘三千代であった。」
ｐ．４２
「和銅元年（７０８）十一月元明即位を祝う宴で、三千代は元明から直々「橘」を浮かべた酒盃と共に「橘氏」を授かる。」＜出典？！＞
「橘の果実は人々に好まれ……。」＜出典？！＞
「……、三千代は橘氏の祖となり、以後、県犬養橘宿禰三千代と名乗る。」
「養老元年(７１７)正月七日、従四位上から従三位に昇進。」
「養老五年(７２１)正月五日、従三位から正三位に昇進。この位はまさに大臣級。」
「養老五年(７２１)五月十九日、三千代は出家入道し、食封・資人(支給される給料と使用人)を辞退している。しかし、元正女帝は詔を出され許可しなかった。」
元明太上天皇が病に倒れ、治癒祈願のために三千代は出家したのである。」
「神亀四年(７２７)十二月十日、三千代は一族でありながら無姓であった県犬養五百依・県犬養安麻呂・県犬養小山守・県犬養大麻呂等に三千代と祖先を同じくする子孫である故、同じく宿禰の姓をたまわりたいと申し出て、天皇からその願いは許されている。」
ｐ．４３
「天平五年(７３３)正月十一日『内命婦で正三位の県犬養橘宿禰三千代が薨じた』……。
同、『十二月二十八日、天皇は一品の舎人親王、大納言・正三位の藤原朝臣武智麻呂、式部卿・従三位の藤原朝臣宇合、
大蔵卿・従三位の鈴鹿王、右大弁・正四位下の大伴宿禰道足等の重臣たちを三千代の邸に遣わし、詔をのべさせ、三千代に従一位の位を贈っている。」
「従一位の上は正一位しかないので、臣下の女性に対しては最高の待遇である。使者となったのは政権の中枢にいた者たち、食封・資人も収公せず、そのまま与えている。」
「ここに聖武天皇の三千代に対する思いの深さが感じられる。三千代は聖武にとってただの臣下ではなく、実の母のような存在だったのだ。」
『 女帝に信頼された理由 』
「養老四年に夫である不比等が病に倒れ、そして亡くなっても三千代は出家しなかった。だが上司である元明が病につくとその回復を祈り出家している。」
ｐ．４４
「彼女の実家、県犬養家は氏姓制度のもとではむしろ下位にあたる家柄であった。
にも拘らず、最初の夫・美努王は四世とはいえれっきとした皇族であり、彼女所生の子供たちの扱われ方を見ても、三千代が正妻であった可能性が高い。
しかも、その夫と判れ、彼女が再婚した相手は、最高権力者であった。」
「……、残るは当然母方の血筋……、可能性として女帝達と同じ蘇我氏……。
「……、いずれ天皇になる幼児を預けるとしたら、他人より身内の方が安心できる。」
ｐ．４７
《 第三章 秘めたる絆・蘇我氏 》
『 橘の由来 』
「三千代と太子を結ぶ最初の絆は、なんと言っても「橘」である。
「『橘寺は法隆寺の根本の末寺なり』鎌倉時代、法隆寺僧顕真は『聖徳太子伝私記亦古今目録抄』の中で述べていた。」
「橘寺は、中宮寺・葛城寺・池後寺〈法起寺〉と共に太子創建の四つの尼寺の一つとして『資材帳』に記載されている。そして太子誕生の地とも言われ伝承を多く持つ寺である。」
ｐ．４８
「伽藍配置は創建法隆寺と同じ四天王寺式、礎石の刳り抜き型も創建法隆寺と類似もしているので、法隆寺・四天王寺と同時代に建立された可能性が強く……。」
「天武天皇九年（６８０)『書記』に『橘寺の尼坊が焼けた』と……。」
「「橘」は太子というより、太子の父、用明天皇のものだからである。天皇になる以前は橘皇子と呼ばれ、そして和風諡号は橘豊日天皇で、いずれも「橘」を持っている。」
「橘寺のある場所は、もと橘宮、橘皇子が住んでいた宮であり、現在も字名は橘である。」
「『書記・垂仁記』は帰化系三宅氏の祖・田道間守が、常世国から持ってきた橘にまつわるエピソード……。」
『 蘇我氏と仏教と橘 』
ｐ．５０
「飛鳥の地に最初に入り、住んだのは三宅氏など渡来系の人々ではあった。……、本格的に開発・発展させたのは蘇我馬子であったと思う。」
「馬子の時代、蘇我氏の血を引く始めての天皇になったのが橘皇子・用明で在る。」
「用明は「仏教受容」を宣言する。……、用明は天皇として始めて仏教信者になったのである。」
ｐ．５１
「推古天皇十一年、飛鳥から離れた斑鳩に宮を作った太子は、その地に創建法隆寺を、父所縁の地飛鳥に橘寺を建立したのは当然の事であった。」＜出典？！＞
「蘇我氏初の天皇、釈迦に帰依することを始めて宣言した天皇の持つ諱「橘」を三千代は受け継いだ。」
「蘇我系の天皇達の特徴は、用明から始まって三千代の孫称徳まで、いずれも仏教の守護者であったことである。」
ｐ．５２
「太子と三千代を結ぶ絆は「橘」であり、「仏教」である。そしてその後ろに見え隠れするのは「蘇我氏」という滅んでいった一族であった。」
『蘇我氏の故郷・葛城』
「三千代と法隆寺、太子を結ぶ絆は、蘇我氏ではないか。」
「しかし蘇我氏の歴史は『書記』においては物部氏などと同じく、敗者の歴史として葬り去られたものも多い。……。」
「……、蘇我氏の本貫地は葛城である。」
「『記紀』に書かれた書大天皇神武が大和入り当時は「高尾張」と呼ばれ、二代綏晴、三代安寧、五代考昭、六代考安は、いずれもこの地に宮を置いている。」
「神武の宮は……橿原神宮に指定されているが、これは明治時代に建立されたもの……。むしろこの地こそ大和朝廷発症の地ではないだろうか。」＜著者主張＞
ｐ．５３
「大陸や朝鮮半島から渡って来た人たちが、河内から大和に入った後、最初に定住した地がまた葛城である。応神朝、帰化人秦氏がこの地……。」
「かつて鳥越憲三郎氏は初代神武から九代開化までの天皇を「葛城王朝」と名付けた。……。」
「推古天皇三十二年(６２４)十月一日条に蘇我馬子が、葛城の地が蘇我氏の本貫地……。」
「皇極天皇元年条に、蘇我大臣蝦夷と入鹿親子が、祖廟を葛城高宮に造営したことが記されている。」
「蘇我氏女を母に持つ持統天皇も、持統天皇六年一月に、高宮の地に行幸している。」
「『古事記』によれば蘇我氏の祖は竹内宿禰である。
御所市にある葛城地方最大の前方後円墳・宮山古墳（別名、室大墓…）は竹内宿禰の墓、あるいは息子の鬘義襲津彦の墓では＜ないか＞といわれている。」
ｐ．５４
『 橘三千代と葛城を結ぶもの 』
「『続日本紀』天平八年（７３６）十一月十一日、父方の美努王に属し皇族であった二人＜葛城王・佐為王＞は皇族を降り、母の「橘氏」を名乗りたいと天皇に申し出たのである。
その上奏文の中で母三千代を竹内宿禰にかさね、忠臣として称えている。」
「八代孝元天皇の曾孫であった竹内宿禰は、十二代景行から、成務・仲哀・応神・仁徳と五代の天皇に仕え、……。葛城・蘇我・巨勢等九氏の始祖である。」
「……、彼女は六人の天皇の身近に生きたことになる。」
「蘇我氏女を母に持つ持統天皇も、持統天皇六年一月に、高宮の地に行幸している。」
「葛城王の葛城は、当然その地名によっている。長女の牟漏女王の牟漏（室）とは、竹内宿禰の墓（室大墓）がある地名（現御所市字室はかつての葛城郡室郷）に拠ったと思われる。」
「皇族の子供たちの名は、一般に養育された土地か、養育者に因んでつけられたと言われている。」
ｐ．５５
★「さらにもう一人の娘、安宿媛（光明皇后)が皇后に立てられた時、その正当化に使われたのが仁徳の皇后、磐乃媛立后のいきさつであった。
臣下の媛でも皇后になれる前例を作った磐乃媛、彼女の父は葛城襲津彦、祖父は竹内宿禰である。
これら三千代と葛城との因縁から、不明である三千代の母は、葛城出身の女性であったことが推測できる。」
「三千代のもう一人の息子、佐為王の佐為は、佐為連、物部氏一族に因んでつけられた名前である。」
佐為氏の本拠地は、六県＜葛城・磯城・十市・山辺・高市・添＞の一つ磯城郡、伊香色男命を遠祖とする由緒ある一族である。」
「このように三人の子供が共に由緒ある名、二人が蘇我氏系統、一人が物部氏系統から命名されていたのである。
そして末娘は、竹内宿禰の威光を借りて皇后にまでなっている。」
『 葛城が結ぶ聖徳太子と天武天皇 』
「用明天皇の妃の一人、葛城直氏の女広子なる女性がいる。天皇との間に生まれたのが当麻皇子（麻呂子皇子）、太子の異母弟にあたる。」
ｐ．５６
★「入鹿との争いで太子一族の血統は途絶えたが、母方に葛城氏を持った当麻皇子の子孫のみが生き残った。」
「壬申の乱（６７２)では天武側についた当麻皇子の孫・国見は皇族籍を降り「八色の姓」の第一位・真人を天武より授かり、以降、当麻氏を名乗るようになった。」
「朱鳥元年(６８８)、天武が崩御、その殯の儀式で誄を述べたのは当麻国見とその息子智徳であった。
★ 三千代が乳母として養育した軽皇子(文武天皇)、皇子が立太子すると「東宮大傳」(皇太子の舎人)に国見は専任された。三千代と国見は側近中の側近であった。」
「誄とは、葬儀で弔辞を述べることであるから、国見・智徳親子の当麻氏の人々が天武・持統・文武と続く天皇家といかに密接な関係にあったかが推察される。」
「歴史家の大和岩雄氏は……、天武の父親を推測……、天武は天智の娘を四人……、気を使う……。皇極のもう一人の息子、★ 漢皇子こそ、天武ではなかったかというのが、大和氏の主張である。」
ｐ．５７
「漢皇子の父は、皇極の最初の夫・高向王という人物で、用明の孫にあたる。となれば天武と当麻氏は、用明を通じて血の繋がりがあったことになる。
当然、天武と太子も、用明を通じて血の繋がりがあったことになる。」
「太子建立の七ヶ寺の一つに葛城尼寺がある……、『上宮聖徳法王帝説』によると、太子はこの寺を葛城氏に与えたという。」
「……、香芝市の尼寺廃寺、……、葛城尼寺の可能性……。」
「広瀬神社については、社家を務めるのは伊香色男命を祖とする物部一族・曾禰氏である。……、法隆寺の法会に姿を現している。」
「神だけではなく仏教を手厚く保護した天武の姿は、兄・天智とは全く違う。……。」
「大陸や朝鮮半島から渡って来た人たちが、河内から大和に入った後、最初に定住した地がまた葛城である。応神朝、帰化人秦氏がこの地……。」
「かつて鳥越憲三郎氏は初代神武から九代開化までの天皇を「葛城王朝」と名付けた。……。」
「推古天皇三十二年(６２４)十月一日条に蘇我馬子が、葛城の地が蘇我氏の本貫地……。」
「皇極天皇元年条に、蘇我大臣蝦夷と入鹿親子が、祖廟を葛城高宮に造営したことが記されている。」
「蘇我氏女を母に持つ持統天皇も、持統天皇六年一月に、高宮の地に行幸している。」
「『古事記』によれば蘇我氏の祖は竹内宿禰である。
御所市にある葛城地方最大の前方後円墳・宮山古墳（別名、室大墓…）は竹内宿禰の墓、あるいは息子の鬘義襲津彦の墓では＜ないか＞といわれている。」
ｐ．５４
『 橘三千代と葛城を結ぶもの 』
「『続日本紀』天平八年（７３６）十一月十一日、父方の美努王に属し皇族であった二人＜葛城王・佐為王＞は皇族を降り、母の「橘氏」を名乗りたいと天皇に申し出たのである。
その上奏文の中で母三千代を竹内宿禰にかさね、忠臣として称えている。」
「八代孝元天皇の曾孫であった竹内宿禰は、十二代景行から、成務・仲哀・応神・仁徳と五代の天皇に仕え、……。葛城・蘇我・巨勢等九氏の始祖である。」
「……、彼女は六人の天皇の身近に生きたことになる。」
「蘇我氏女を母に持つ持統天皇も、持統天皇六年一月に、高宮の地に行幸している。」
「葛城王の葛城は、当然その地名によっている。長女の牟漏女王の牟漏（室）とは、竹内宿禰の墓（室大墓）がある地名（現御所市字室はかつての葛城郡室郷）に拠ったと思われる。」
「皇族の子供たちの名は、一般に養育された土地か、養育者に因んでつけられたと言われている。」
ｐ．５５
★「さらにもう一人の娘、安宿媛（光明皇后)が皇后に立てられた時、その正当化に使われたのが仁徳の皇后、磐乃媛立后のいきさつであった。
臣下の媛でも皇后になれる前例を作った磐乃媛、彼女の父は葛城襲津彦、祖父は竹内宿禰である。
これら三千代と葛城との因縁から、不明である三千代の母は、葛城出身の女性であったことが推測できる。」
「三千代のもう一人の息子、佐為王の佐為は、佐為連、物部氏一族に因んでつけられた名前である。」
佐為氏の本拠地は、六県＜葛城・磯城・十市・山辺・高市・添＞の一つ磯城郡、伊香色男命を遠祖とする由緒ある一族である。」
「このように三人の子供が共に由緒ある名、二人が蘇我氏系統、一人が物部氏系統から命名されていたのである。
そして末娘は、竹内宿禰の威光を借りて皇后にまでなっている。」
『 葛城が結ぶ聖徳太子と天武天皇 』
「用明天皇の妃の一人、葛城直氏の女広子なる女性がいる。天皇との間に生まれたのが当麻皇子（麻呂子皇子）、太子の異母弟にあたる。」
ｐ．５６
★「入鹿との争いで太子一族の血統は途絶えたが、母方に葛城氏を持った当麻皇子の子孫のみが生き残った。」
「壬申の乱（６７２)では天武側についた当麻皇子の孫・国見は皇族籍を降り「八色の姓」の第一位・真人を天武より授かり、以降、当麻氏を名乗るようになった。」
「朱鳥元年(６８８)、天武が崩御、その殯の儀式で誄を述べたのは当麻国見とその息子智徳であった。
★ 三千代が乳母として養育した軽皇子(文武天皇)、皇子が立太子すると「東宮大傳」(皇太子の舎人)に国見は専任された。三千代と国見は側近中の側近であった。」
「誄とは、葬儀で弔辞を述べることであるから、国見・智徳親子の当麻氏の人々が天武・持統・文武と続く天皇家といかに密接な関係にあったかが推察される。」
「歴史家の大和岩雄氏は……、天武の父親を推測……、天武は天智の娘を四人……、気を使う……。皇極のもう一人の息子、★ 漢皇子こそ、天武ではなかったかというのが、大和氏の主張である。」
ｐ．５７
「漢皇子の父は、皇極の最初の夫・高向王という人物で、用明の孫にあたる。となれば天武と当麻氏は、用明を通じて血の繋がりがあったことになる。
当然、天武と太子も、用明を通じて血の繋がりがあったことになる。」
「太子建立の七ヶ寺の一つに葛城尼寺がある……、『上宮聖徳法王帝説』によると、太子はこの寺を葛城氏に与えたという。」
「……、香芝市の尼寺廃寺、……、葛城尼寺の可能性……。」
「広瀬神社については、社家を務めるのは伊香色男命を祖とする物部一族・曾禰氏である。……、法隆寺の法会に姿を現している。」
「神だけではなく仏教を手厚く保護した天武の姿は、兄・天智とは全く違う。……。」
ｐ．５８
『 秘めたる絆・蘇我氏 』
「その天武朝で後宮に入った三千代、彼女の最初の仕事は天武と持統の孫、文武（軽皇子)の乳母であった。」
「身辺警護に選んだのは、安心できる同族の当麻氏であった。」
ｐ．５９
「皇極天皇二年(６４３)十一月一日。
蘇我入鹿は巨瀬徳太古を遣わして斑鳩にいた太子一族を襲わせる。
一族は、斑鳩を逃れ生駒山に隠れるが、見つかってしまう。
入鹿は、蘇我系高向国押に太子一族を捕えるように命じるが、国押は「私の任務は天皇の宮を守る……。」と、太子一族討伐を断ったという。」
「……、若狭の高向は、太子の曽祖父継体天皇が育った所……。」
「……、三重県の伊勢市御園町高向に、高向大社……。……そのすぐ東の伊勢市黒瀬町に橘神社がある。……橘諸兄を祭神としている。」
「……、大社を作ったのは蘇我氏ではなく、物部氏の一族、伊香色男命を祖とする曾禰氏、曾禰連處昭という人物であった。」
ｐ．６０
「「高向大社宝殿棟札記」によると天平三年(７３１)一月十八日に處昭がスサノオを始めとする七神を祀ったという。三千代が生存していた時代である。」
『 太子の供養をする女性 』
「天平八年(７５３)二月二十二日、光明皇后・牟漏女王・円方女王と、三人の女性たちが金堂釈迦三尊像に白銅鏡等を寄進したことが『資材帳』に記録されている。
当日は太子のご命日。講師となったのは、唐から戻った奈良時代の名僧の一人・道慈である。彼は行信を始めとする僧尼三百人余を率いて、法隆寺において始めて法華経を講じ、太子供養の法会を行ったのである。」
「では、太子命日に現れた女性たちは、太子とどのような関わりが会ったのだろう。」
「……、牟漏の夫は藤原房前……。……円方女王、彼女は長屋王の娘であった。」
ｐ．６２
「神亀六年(７２９)二月に起きた「長屋王」事件は、奈良時代最大の悲劇といってよい。」
「……、その一族の生き残った娘の一人が円方女王である。」
「彼女の名は『万葉集・続日本紀』そして近年長屋王邸跡で発掘された木簡の中に、姉妹である智努女王と共に「円方若翁・智努若翁」と記され、長屋王娘として存在が確かめられた女性であった。」
「長屋王には、藤原氏・阿部氏・そして石川氏（蘇我氏）出身の三人の夫人がいた。」
「そして娘たちのうち、円方・智努女王姉妹の母が不明なのである。」
「長屋王の母・御名部皇女、その母・姪娘は蘇我氏である。長屋王自身、蘇我氏の血を受け継いでいる。」
ｐ．６３
「長屋王事件で夫妻と共に亡くなったのは、吉備の子供だけであるが、吉備の母元明は御名部皇女の妹、蘇我氏姪娘の娘である。」
「桑田王も石川氏を母としていたとすると、蘇我系男子が全て亡くなったことになる。」
「歴史作家の永井路子氏は、当時の権力者藤原四兄弟が抹殺したかったのは、長屋王自身ではなく、妻の吉備内親王の子供たちではなかったかと主張されている。
★ ……。祖母・元明は亡くなった四人の男子を皇位継承者としての扱いをしていた。」＜？！＞
「同じ長屋王の男子でありながら、藤原氏女の三人の男子には何の咎もなかった。」
★「直系親族が絶え、供養してくれる人が無くなった太子、その命日に訪れた三千代の二人の娘と長屋王の娘、彼女達三人を結ぶ絆、それは蘇我氏の血をおいて＜他に＞考えられないのである。」
『 法隆寺に姿を見せた物部氏 』
「天平十一年(７３９）光明皇后と称徳によって斑鳩宮の地に上宮王院〈東院伽藍）、もう一つの法隆寺が建立された。
三人の女性によって金堂で行われた法会の導師であった行信の勧め……。」
ｐ．６４
「天平宝宇年間に上程された『東院資材帳』には、法会時寄進した人々とその品目が記載されている。」
行信僧都奉納 上宮王法華経義疏四巻
古様錫杖一枝
斑竹厨子一基
金塗銅花瓶一□
五綴鉢一□
鍮石香炉一具
法隆寺僧延豊寄進 新様錫杖一枝
法隆寺法師臨照寄進 五副画像霊山浄土一舗
法隆寺賢広寄進 金墨写心経
法隆寺法延寄進 法華経一部七巻
経櫃一基
法隆寺僧忠褘寄進 五香数珠
法隆寺僧玄馥寄進 白銅小多羅一□
藤氏皇后寄進 経巻七百七拾九巻
経櫃二合
曾禰□□連寄進 ニ副画像補陀洛山浄土一舗
『 秘めたる絆・蘇我氏 』
「その天武朝で後宮に入った三千代、彼女の最初の仕事は天武と持統の孫、文武（軽皇子)の乳母であった。」
「身辺警護に選んだのは、安心できる同族の当麻氏であった。」
ｐ．５９
「皇極天皇二年(６４３)十一月一日。
蘇我入鹿は巨瀬徳太古を遣わして斑鳩にいた太子一族を襲わせる。
一族は、斑鳩を逃れ生駒山に隠れるが、見つかってしまう。
入鹿は、蘇我系高向国押に太子一族を捕えるように命じるが、国押は「私の任務は天皇の宮を守る……。」と、太子一族討伐を断ったという。」
「……、若狭の高向は、太子の曽祖父継体天皇が育った所……。」
「……、三重県の伊勢市御園町高向に、高向大社……。……そのすぐ東の伊勢市黒瀬町に橘神社がある。……橘諸兄を祭神としている。」
「……、大社を作ったのは蘇我氏ではなく、物部氏の一族、伊香色男命を祖とする曾禰氏、曾禰連處昭という人物であった。」
ｐ．６０
「「高向大社宝殿棟札記」によると天平三年(７３１)一月十八日に處昭がスサノオを始めとする七神を祀ったという。三千代が生存していた時代である。」
『 太子の供養をする女性 』
「天平八年(７５３)二月二十二日、光明皇后・牟漏女王・円方女王と、三人の女性たちが金堂釈迦三尊像に白銅鏡等を寄進したことが『資材帳』に記録されている。
当日は太子のご命日。講師となったのは、唐から戻った奈良時代の名僧の一人・道慈である。彼は行信を始めとする僧尼三百人余を率いて、法隆寺において始めて法華経を講じ、太子供養の法会を行ったのである。」
「では、太子命日に現れた女性たちは、太子とどのような関わりが会ったのだろう。」
「……、牟漏の夫は藤原房前……。……円方女王、彼女は長屋王の娘であった。」
ｐ．６２
「神亀六年(７２９)二月に起きた「長屋王」事件は、奈良時代最大の悲劇といってよい。」
「……、その一族の生き残った娘の一人が円方女王である。」
「彼女の名は『万葉集・続日本紀』そして近年長屋王邸跡で発掘された木簡の中に、姉妹である智努女王と共に「円方若翁・智努若翁」と記され、長屋王娘として存在が確かめられた女性であった。」
「長屋王には、藤原氏・阿部氏・そして石川氏（蘇我氏）出身の三人の夫人がいた。」
「そして娘たちのうち、円方・智努女王姉妹の母が不明なのである。」
「長屋王の母・御名部皇女、その母・姪娘は蘇我氏である。長屋王自身、蘇我氏の血を受け継いでいる。」
ｐ．６３
「長屋王事件で夫妻と共に亡くなったのは、吉備の子供だけであるが、吉備の母元明は御名部皇女の妹、蘇我氏姪娘の娘である。」
「桑田王も石川氏を母としていたとすると、蘇我系男子が全て亡くなったことになる。」
「歴史作家の永井路子氏は、当時の権力者藤原四兄弟が抹殺したかったのは、長屋王自身ではなく、妻の吉備内親王の子供たちではなかったかと主張されている。
★ ……。祖母・元明は亡くなった四人の男子を皇位継承者としての扱いをしていた。」＜？！＞
「同じ長屋王の男子でありながら、藤原氏女の三人の男子には何の咎もなかった。」
★「直系親族が絶え、供養してくれる人が無くなった太子、その命日に訪れた三千代の二人の娘と長屋王の娘、彼女達三人を結ぶ絆、それは蘇我氏の血をおいて＜他に＞考えられないのである。」
『 法隆寺に姿を見せた物部氏 』
「天平十一年(７３９）光明皇后と称徳によって斑鳩宮の地に上宮王院〈東院伽藍）、もう一つの法隆寺が建立された。
三人の女性によって金堂で行われた法会の導師であった行信の勧め……。」
ｐ．６４
「天平宝宇年間に上程された『東院資材帳』には、法会時寄進した人々とその品目が記載されている。」
行信僧都奉納 上宮王法華経義疏四巻
古様錫杖一枝
斑竹厨子一基
金塗銅花瓶一□
五綴鉢一□
鍮石香炉一具
法隆寺僧延豊寄進 新様錫杖一枝
法隆寺法師臨照寄進 五副画像霊山浄土一舗
法隆寺賢広寄進 金墨写心経
法隆寺法延寄進 法華経一部七巻
経櫃一基
法隆寺僧忠褘寄進 五香数珠
法隆寺僧玄馥寄進 白銅小多羅一□
藤氏皇后寄進 経巻七百七拾九巻
経櫃二合
曾禰□□連寄進 ニ副画像補陀洛山浄土一舗
ｐ．６５
橘夫人寄進 瓦葺講堂一間
大般若経六百巻
大宝積経百廿巻
薬師経拾九巻
経櫃一合
櫃座ニ具
案机一足
韓櫃三合
「最後の橘夫人を、聖武天皇夫人で、三千代の孫にあたる古那可智とする説もあるが、……娘が寄進したと見る……。」
「……、行信は、元興寺の僧であったとする記録もある……。
同じく官寺であった薬師寺・興福寺・大安寺の僧が姿を見せていないのは、この法会が、国家的なものでなく、太子に関わる人々の法会であることを重ねて証明している。」
ｐ．６６
「三千代の次男・佐為王を養育した佐為氏、曾禰氏は同じ伊香色男命を祖とする物部氏である。」
それにしても法隆寺何故物部氏なのだろうか。」
「法隆寺は母方に蘇我氏を持つ女性たちによって、支えられた寺であると、私は再三述べてきた。
いずれにしても法隆寺には、蘇我氏によって滅ぼされた、物部氏の姿もあったのだ。」
ｐ．６７
《 第四章 敗れし者の後継者たち 》
『 敗れし一族、物部氏 』
「物部氏は『書記』神代記に現れる饒早日命を祖におく、古代史上最大の豪族であった。
しかしこの一族が隆盛を誇っていた時代の歴史が『書記』にどこまで描かれていたかは疑問である。……。
物部氏の一族に穂積氏がいる。
この一族が遠祖とする鬱色雄命、その妹鬱色謎命は第八代考元天皇の皇后となり、第九代開化天皇の母である。
その開化の皇后伊香色謎命も同じく物部氏出身、第十代崇神天皇の母である。
大連伊香色雄命（穂積・曾禰・佐為・猪奈部氏遠祖)は、皇后の兄弟である。」
ｐ．６８
「鬱色雄命と伊香色雄命の場合「色雄」「醜男」とする場合もあって、「しこ」が「醜」であることを示唆している。＜蔑視的命名＞
「物部氏中興の祖、伊香色雄命は、大阪や滋賀県に多くの伝承を残し、……一族の英雄……。
その妹で皇后であった伊香色謎命も一族にとっては誇るべき女性であった。彼女は「御肇国天皇」と呼ばれた十代崇神天皇の生母である。
実在が認められている最初の天皇の母、その名を由来とする「色謎」と、黄泉の鬼女「醜女」とを同音に読ませるようになった裏には、★『書記』編纂者たちの、没落した一族への悪意を感じられる。」
ｐ．６９
★「……、養老六年(７２２)、穂積老という人物が元正天皇を批判し、斬刑に処せられることになった……。皇太子(聖武)のとりなしで佐渡島に……、二年前に上程された『書記』の記述が関係していたのではないだろうか。」
「穂積氏は鬱色謎命・伊香色雄命と二人の皇后を出し、十代崇神天皇の時代に隆盛を迎えた。しかし、継体朝には朝鮮諸国との関係の中で賄賂事件を起こして失脚する。
そして持統・元明女帝の祖父・蘇我倉山田麻呂の殺害などに手を汚したことが『書記』に記されている。」
ｐ．７０
『 物部氏の後継者・蘇我氏 』
「奈良時代、物部氏同様に、蘇我氏もかつての面影を無くしていた。」
「女性に対して「石」・「磐」とかは明らかに失礼である。……。
普通、……に表された貴人達の名は諡号が使われていたはずである。……、仏教に帰依した彼女に、仏教に因んだ諡号「三千代」を与えたのだと思う。
……、滅ぼされた一族を援護する者が『書記』編纂者の中にいなかったのでは、としか思えない。」
ｐ．７１
「物部氏と蘇我氏、没落した二つの家族の歴史は『書記』によれば、孝元天皇の時代から関わりが始まっていた。
先に述べた孝元天皇と結婚した鬱色謎命の時代、孝元の曾孫〈古事記では孫〉にあたるのが、蘇我氏が祖と仰ぐ武内宿禰である。
そして欽明天皇の時代、大連物部御輿と大臣蘇我稲目とは対立しつつも、互いの娘・大媛と息子・馬子を結婚させている。
しかし、次の敏達・用明天皇の時代、良家の対立は明らかになってくる。
ついに用明天皇二年（５８７）秋七月に大臣蘇我馬子は、義兄にあたる大連物部弓削守屋を滅ぼし、全面的に勝利する。
……、皇位継承に絡んだ権力闘争、さらにいえば財産（★領地）を巡る骨肉の争いでもあったのではないか。」
「大媛は、蘇我氏勝利の後、実家・物部氏の氏神を祀る石上神宮の祭主におさまったという。
ｐ．７１〜７２
石上神宮は物部氏の武器貯蔵庫でもあったので、その所有者は馬子へ受け継がれたのか、彼は「武倉大臣」とも呼ばれたという。
橘夫人寄進 瓦葺講堂一間
大般若経六百巻
大宝積経百廿巻
薬師経拾九巻
経櫃一合
櫃座ニ具
案机一足
韓櫃三合
「最後の橘夫人を、聖武天皇夫人で、三千代の孫にあたる古那可智とする説もあるが、……娘が寄進したと見る……。」
「……、行信は、元興寺の僧であったとする記録もある……。
同じく官寺であった薬師寺・興福寺・大安寺の僧が姿を見せていないのは、この法会が、国家的なものでなく、太子に関わる人々の法会であることを重ねて証明している。」
ｐ．６６
「三千代の次男・佐為王を養育した佐為氏、曾禰氏は同じ伊香色男命を祖とする物部氏である。」
それにしても法隆寺何故物部氏なのだろうか。」
「法隆寺は母方に蘇我氏を持つ女性たちによって、支えられた寺であると、私は再三述べてきた。
いずれにしても法隆寺には、蘇我氏によって滅ぼされた、物部氏の姿もあったのだ。」
ｐ．６７
《 第四章 敗れし者の後継者たち 》
『 敗れし一族、物部氏 』
「物部氏は『書記』神代記に現れる饒早日命を祖におく、古代史上最大の豪族であった。
しかしこの一族が隆盛を誇っていた時代の歴史が『書記』にどこまで描かれていたかは疑問である。……。
物部氏の一族に穂積氏がいる。
この一族が遠祖とする鬱色雄命、その妹鬱色謎命は第八代考元天皇の皇后となり、第九代開化天皇の母である。
その開化の皇后伊香色謎命も同じく物部氏出身、第十代崇神天皇の母である。
大連伊香色雄命（穂積・曾禰・佐為・猪奈部氏遠祖)は、皇后の兄弟である。」
ｐ．６８
「鬱色雄命と伊香色雄命の場合「色雄」「醜男」とする場合もあって、「しこ」が「醜」であることを示唆している。＜蔑視的命名＞
「物部氏中興の祖、伊香色雄命は、大阪や滋賀県に多くの伝承を残し、……一族の英雄……。
その妹で皇后であった伊香色謎命も一族にとっては誇るべき女性であった。彼女は「御肇国天皇」と呼ばれた十代崇神天皇の生母である。
実在が認められている最初の天皇の母、その名を由来とする「色謎」と、黄泉の鬼女「醜女」とを同音に読ませるようになった裏には、★『書記』編纂者たちの、没落した一族への悪意を感じられる。」
ｐ．６９
★「……、養老六年(７２２)、穂積老という人物が元正天皇を批判し、斬刑に処せられることになった……。皇太子(聖武)のとりなしで佐渡島に……、二年前に上程された『書記』の記述が関係していたのではないだろうか。」
「穂積氏は鬱色謎命・伊香色雄命と二人の皇后を出し、十代崇神天皇の時代に隆盛を迎えた。しかし、継体朝には朝鮮諸国との関係の中で賄賂事件を起こして失脚する。
そして持統・元明女帝の祖父・蘇我倉山田麻呂の殺害などに手を汚したことが『書記』に記されている。」
ｐ．７０
『 物部氏の後継者・蘇我氏 』
「奈良時代、物部氏同様に、蘇我氏もかつての面影を無くしていた。」
「女性に対して「石」・「磐」とかは明らかに失礼である。……。
普通、……に表された貴人達の名は諡号が使われていたはずである。……、仏教に帰依した彼女に、仏教に因んだ諡号「三千代」を与えたのだと思う。
……、滅ぼされた一族を援護する者が『書記』編纂者の中にいなかったのでは、としか思えない。」
ｐ．７１
「物部氏と蘇我氏、没落した二つの家族の歴史は『書記』によれば、孝元天皇の時代から関わりが始まっていた。
先に述べた孝元天皇と結婚した鬱色謎命の時代、孝元の曾孫〈古事記では孫〉にあたるのが、蘇我氏が祖と仰ぐ武内宿禰である。
そして欽明天皇の時代、大連物部御輿と大臣蘇我稲目とは対立しつつも、互いの娘・大媛と息子・馬子を結婚させている。
しかし、次の敏達・用明天皇の時代、良家の対立は明らかになってくる。
ついに用明天皇二年（５８７）秋七月に大臣蘇我馬子は、義兄にあたる大連物部弓削守屋を滅ぼし、全面的に勝利する。
……、皇位継承に絡んだ権力闘争、さらにいえば財産（★領地）を巡る骨肉の争いでもあったのではないか。」
「大媛は、蘇我氏勝利の後、実家・物部氏の氏神を祀る石上神宮の祭主におさまったという。
ｐ．７１〜７２
石上神宮は物部氏の武器貯蔵庫でもあったので、その所有者は馬子へ受け継がれたのか、彼は「武倉大臣」とも呼ばれたという。
ｐ．７２
その他＜後？＞、物部家財産の多くは大媛所有になったのであろうか。
後に孫・入鹿が「物部大臣」と呼ばたのは、彼が文字通り物部氏本家の相続人にも成った証拠ではないかと思う。」
「曽我蝦夷・入鹿親子が天皇家に自らをなぞらえ、数々の行動をとった裏には、母方も父方も辿れば間違いなく天皇家に至る血筋であったからだ。
★ そしてもう一人、物部氏と蘇我氏の血を受け継いだ人物が聖徳太子であった。」
『 物部氏の後継者・聖徳太子 』
「物部氏の祖、二ギハヤヒ命は、『書記』によれば天神として、神武より先に降り、大和に入ったとされる人物である。
「『饒早日命、天磐船に乗りて太虚を翔行、是の郷を睨みて降りたまふに至りて、故、因りて目けて「虚空見つ日本の国」と日ひき』とあり、天の磐船に乗り、空の上から大和を眺めた二ギハヤ命は、地上に降りた後、大和を日本と言った、という意味であるが、空から全体を見たという意味は、彼が大和を支配したという意味に他ならないと思う。」
「にも拘らず、なぜか天皇家に大和を差し出し、降伏してしまうのである。」
ｐ．７３
「そのあたり『書記』には不可思議な記述が多々あるが、物部氏祖二ギハヤヒ命の存在もその一つである。だが、どう誤魔化しても彼が日本建国時における偉大な人物であったことは間違いない。」
「太子は、二ギハヤヒ命後継者としての自覚を持っていたのではないか。」
「『書記』用明元年に磐余池辺双槻宮の近く、「上宮（上殿）」を用明が太子に与えた記事が載っている。
この上宮は現在の桜井市上之宮、先年発掘によって六世紀末の四面庇を持った住居や敷石遺構などが見つかり、ほぼ太子の「上宮」跡に間違いないとされている。」
「近く、鳥見山もあり、桜井茶臼山古墳は二ギハヤヒ命の墓と、こちらも地元に伝わっている。」
ｐ．７４
『 斑鳩の上宮 』
「『書記』推古天皇九年（６０１）春二月、太子は斑鳩に宮建立を始める。
この宮を東院伽藍にあった斑鳩宮ではなく、斑鳩町字上宮＜かみや＞にある飽波葦垣宮である、と前々から主張されているのが、高田良信氏である。」
「法隆寺に伝わる記録・『法隆寺安居功徳講表白』によると、太子が最初に建てたのは葦垣宮であり、斑鳩宮と葦垣宮は別のものである、最後に薨じられた場所も葦垣宮であったとしている。
……、斑鳩町上宮、ＪＲ法隆寺駅に近い。
桜井「上宮＜かみのみや＞」から斑鳩に移っても太子の地は「上宮＜かみのみや＞」と呼ばれ、それが「神屋」と重なり、「上宮＜かみや＞」となったようである。」
……、太子一族は「上宮王家＜じょうぐうおうけ＞」太子の別名は「上宮皇子＜じょうぐうおうじ＞」である。
……。夢殿がある東院伽藍も、寺では「上宮王院＜じょうぐうおういん＞」と呼んでいる。」
「上宮王院の地にあった斑鳩宮は、大和川の水運を利用するために造られたとの説が有るが、大和川からはもちろん富雄川からもはなれている。
しかし葦垣宮跡はすぐ横を富雄川が流れている。
ｐ．７５
宮から逆に富雄川を遡り水源に向かうと先の奈良市北大和・登美地方である。途中に坂門（坂戸）・安堵・（阿都・阿刀）・新家・額田部・矢田・夜摩（山辺）など、物部氏所縁の地名も残っていて、この一帯に物部一族の人々が住んでいたことを証明している。」
「富雄川沿いの大和郡山市、矢田丘陵の麓にある二ギハヤヒ命を祀る「矢田坐久志玉比古神社」は平安時代に編纂された「延喜式」にも載る古社である。ここから北大和にかけて二ギハヤヒ命を祀る「登美神社」が数社残っている。」
「斑鳩町から富雄川を下り、大和川と合流する、斑鳩の南、曾禰氏が社家を務める広瀬神社がある一帯もかつて物部氏の領地であった。」
「広瀬一帯、川合町から広陵町には、馬見古墳群など古墳時代前期の前方後円墳も数多く残り、飛鳥時代以前、すでに開発されていたことも示している。
そして仏教時代、太子が斑鳩宮に住むようになってから建立された、太子開基の寺（片岡寺・定林寺・長林寺）が残っている。」＜根拠？＞
「物部氏滅亡後、太子がこれらの地域も受け継いだのであったようだ。
ｐ．７６
「……、さらなる証拠が「藤ノ木古墳」の存在である。
法隆寺には、この古墳が崇峻天皇のものであるという記録が残されていた。
★ 先年発見された二人の男性の遺骸、その身分の高さを思わせる、冠や馬具等副葬品の豪華さ、反面、その埋葬方法の以上さである。自然死には見えず、事故死、あるいは殺されたのではないか。
となると、この二人を、蘇我氏によって殺害された穴穂部皇子と崇峻天皇という同母兄弟であると考えるのは、無理のあるすいそくではない。」
「太子の母穴穂部間人皇后、その弟穴穂部皇子が物部氏によって養育されたのは、母である小姉君が物部氏女である可能性が高いからである。」
「穴穂部皇子は物部守屋の後押しで皇位を狙ったが、馬子によって殺され、弟・崇峻も、馬子との対立によって暗殺された天皇である。」
★「二人の弟を蘇我氏に殺された穴穂部間人皇后は葦垣宮に近い地に住み、後に建立されたのが中宮寺前身である。」
★「太子は二人の叔父を、物部氏所縁の地に埋葬、供養した。それが「藤ノ木古墳」ではなかったか。」
ｐ．７７
『 太子の後継者・上宮大娘姫王 』
「上宮大娘姫王＜かみつみやおおいらつめひめのおう＞は、太子と菩岐々美郎女＜ほききみのいらつめ＞（膳部夫人）との間に生まれた長女である。」
「太子の妻には、蘇我氏の女・刀自古郎女、推古の孫・位奈部橘王、などかいたが、太子が最も愛したのが、…… 菩岐々美郎女であると言われている。」
「私は、現法隆寺の建立は長女・上宮大娘姫王によって始められたと推測……、その理由は……、姫王が父・上宮太子の名を相続したことにある。
それから『書記』に記録された姫王と蘇我入鹿の争いに見られるように、斑鳩一帯を含めかなりの領地を、姫王が相続したのではないかと思えるからだ。」
「もともと父親にとって娘は可愛い……。……。太子も父・用明天皇に愛されたと『書記』が書いているが、その父のために太子は創建法隆寺を建立した。
同じく姫王が、愛する父・太子の死後、ほどなくして太子供養のために、現法隆寺建設を始めたのではなかったか。」
「上宮大娘姫王の別名は春米女王である。春米氏は物部氏の一族であり、母方・膳部氏も物部氏と近い一族であった。
太子のものとなっていた物部氏所領が彼女に譲られたのは、その点においても当然であった。」
ｐ．７８
「皇極天皇元年の終わりに、曽我蝦夷・入鹿、親子は葛城の高宮に祖廟を造るために、上宮家の領地と部民を無断で使ったのである。
……皇族のみに許された「八佾＜やつら＞の舞」を舞わせたという。
それに断固抗議したのは、太子の長男山背大兄王ではなく、姫王であった。
『書記』は、……『蘇我臣、国政を専しいままにして……』……、自分達を王であると勘違いしている蘇我親子のおごりを、厳しく断罪している。」
「一方、蘇我入鹿、祖母が物部氏「物部大臣」とも呼ばれた彼もまた物部氏の後継者としての自負があった。」
「太子一族が滅ぼされた原因は、姫王と入鹿との争いから始まったのである。
この翌年、入鹿は姫王と山背大兄王をはじめとする太子一族を襲い、全員を斑鳩宮にて自害させてしまう。
姫王の死によって、現法隆寺の完成は遠のいたが、金堂だけは……。……、完成にはさらなる時間を必要とすることとなったのである。」
ｐ．７９
『 物部氏鎮魂の寺 』
「現法隆寺を、「物部守屋の鎮魂の寺」である、と言ったのは美術史家・上原和氏である。氏の著書『斑鳩の白い道の上に』……。
……、「法隆寺七不思議」の一つに出てきた謎の「伏蔵」……、『……、私は法隆寺にある三伏蔵に、物部守屋の甲冑や剣が隠されている、とする古伝承も、あながち荒唐無稽のことと思えなくなる。……。』
法隆寺には……、金堂内の北東の角（鬼門）、経蔵内、そして大湯屋表門前に石で蓋をし、その地下に何かが納められている。
『古今目録抄』は、守屋の首を切った刀を納めたという伝承を残している。」
ｐ．８０
「物部一族・曾禰氏を名のる人物は、天平十一年の太子の法会に三千代の娘や孫と名を連ねていた。
太子の妃の一人、橘の名を持つ位奈部（猪名部）橘姫王の養い親位奈部氏は、佐為氏、曾禰氏と同じ伊香色雄命を祖とするも物部一族である。
太子の供養をすることは、物部氏の供養であり、蘇我氏の供養でもあったのではないか。」
『 消された蘇我氏の寺・その一 』
「大阪府羽曳野市に、野中寺＜やじゅうじ＞という寺がある。今日、歴史関係の書には、「渡来人船氏の氏寺」、船王後が創建した船氏の氏寺、と記されている。
『当時の創建は蘇我大臣といい聖徳太子建立の四十六院の一つとも称するところから、叡福寺の「上の太子」、将軍寺の「下の太子」に対し、「中の太子」と俗称されている。……。
……『日本霊異喜記』には野中堂……。……正倉院文書によれば当郷は百済系渡来氏族船史のちの船連の本貫であったから、……。（略）』＜境内、案内書の写し＞
ｐ．８１
「船氏は、蘇我稲目が大臣になった第二十八代宣化天皇の時代から、蘇我氏配下のもと活躍を始めた帰化人一族であった。名が表す如く、大和と河内を往来する川による運送、船運の事務職についていた。
だが、蘇我氏滅亡後、船氏一族は生き残るためにその主人を変えなければならなかった。
……。かつて太子と馬子が編纂した『天皇記・国記』が焼却されようとした時、船恵尺は、火中より『国記』を取りだし、中大兄皇子に奉ったという。」
★「恵尺は王後の息子であり、その恵尺の息子が★道昭であった。」★
ｐ．８２
＜書記・船氏祖先記＞「……『書記』に、文人の家系・船一族が絡んでいたことは間違いない。
持統朝から天武朝にかけて、道昭という名僧を生んだ船氏は、史から連へ氏姓をあげ、新たな主人藤原氏や橘氏のもと、活躍を始める。」
ｐ．８３
『 消された蘇我氏の寺・その一 』
「王辰爾＜おうしんに＞とよく間違われる王仁という人物も『書記』に出てくる帰化人の祖の一人である。
応神朝に百済より渡来、皇子＜聖徳太子＞の師となり名を挙げ、その子孫は河内に居住していたので西文＜かわちのあや＞（西漢）氏と名乗った。」
ｐ．８４
『 橘三千代と帰化人僧侶 』
「その文＜氏＞一族出身、『聖徳太子伝暦』で、太子の生まれ変わりと言われたのが行基である。
ｐ．８５
……道昭に師事……。薬師寺伝によれば初代別当が道昭、二代目を行基とするなど、薬師寺とも縁が深い。
……。その後、蘇我氏の葛城高宮寺に移り具足戒を受け、葛城山でも修行、しかし和銅年間になって、今度は平城京の周辺に姿を現わし布教活動、遷都の使役に苦しむ民衆への救済を行っていた……。
……、★ 養老二年（７１８）に、三千代が法隆寺の一角に建立した西円堂、その本尊・薬師如来像の開眼供養を行っている。★……三千代とつながった。＜？！＞
天平五年（７３３）、三千代が亡くなると、その翌★天平六年に行基は久米田寺を建立、大壇越になったのは橘諸兄であった。
母の供養のための寺、その導師は行基でなければならなかった。」＜？！「行基と律令国家 吉田靖男 芳川弘文館 ｐ．２２４ 参照 ＞
ｐ．８６
『 三度消された蘇我氏 』
「日本に仏教を入れることを主張、実行した蘇我氏、日本初めての寺、飛鳥寺（法興寺）を建立したのは蘇我馬子である。
……。行基が具足戒を受けた高宮寺、＜葛上郡高宮郷＞ 現在廃寺跡が御所市にあるが、この一帯は蘇我氏本貫の地である。」
「八世紀初め『書記』編纂時に、蘇我氏の多くの事績が記録から抹殺されたのと同様に、寺伝も変えられたのではないだろうか。」
「野中寺や西琳寺に伝わる蘇我氏創建伝承は、決して無視すべきではないと思う。」
「飛鳥に残る遺跡の数々、飛鳥寺・嶋宮跡・石舞台は蘇我氏に関わるものである。」
ｐ．８８
「「大化の改新」によって一度目、『書記』編纂時に二度目、そして戦後、帰化人説＜高松塚古墳壁画・蘇我氏渡来人説＞によって、蘇我氏は三度消されることになったのである。」
『 置き去りにされた都・明日香 』
「……、飛鳥板葺宮での入鹿暗殺、孝徳天皇の時代、都は難波へと移った。孝徳が崩じると女帝斉明（皇極）が再び即位すると宮は飛鳥に戻って来る。
彼女は母方祖父が推古の同母弟・桜井皇子、つまり蘇我系である。しかし、女帝が崩じると、息子の天智は再び明日香を出て近江に遷都、ようやく飛鳥へ戻ってきたのはもう一人の息子、
★＜？！＞どうやら蘇我氏の血を引く天武の時代、その元年（６７２）のことであった。＜壬申乱の終焉＞
★ 飛鳥ー難波―飛鳥ー近江ー飛鳥、天武はその時、蘇我馬子の別宅跡の嶋宮に入っている。
そして翌年、飛鳥淨御原宮で即位すると終生、飛鳥を離れることがなかった。」
「……、草壁皇子の住居は、父と同じ嶋宮であった。……、そこに本拠を置いた天武・草壁親子＜鵜野賛良・持統＞は、蘇我本宗家滅亡後、自分たちこそ蘇我氏の後継者であると主張しているように見える。」＜そういう見方も出来る。＞
ｐ．８９
「馬子の墓といわれる、現在も剥き出しになったままの「石舞台」の石室、墓を暴くということが何を意味するかを考えた時、あの無残な姿は、奈良時代『書記』の編纂者によって更に増幅された「蘇我氏悪人説」の結果ではないだろうか。」
「日本で最初に建立された飛鳥寺にしても、廃寺同様の時代が長く続き、止利仏師作の飛鳥大仏は、鎌倉後期に創建時の寺が落雷によって全焼すると、なんと江戸時代、仮堂ができるまで六〇〇年余り、露天に晒されていたという。」
『 贖罪意識が生みだした歴史 』＜関心外のため省略す＞
＜ 『古代朝日関係史・金錫享』『日本の中の朝鮮文化・金達寿』＞
『 蘇我氏帰化人説の誕生 』＜関心外のため省略す＞
＜ 「蘇我氏帰化人説」−門脇禎二・松本清張 ＞
ｐ．９５
《 第五章 埋もれた勝者 》
『 鎌足は不比等の父ではない 』
「……、不比等。……、上山春平氏は「埋もれた巨像」と命名した。」
ｐ．９５〜９６
「だが一方、上山氏は『記紀』における鎌足及び中臣氏に関する記述を、不比等による、父鎌足を偉大に見せる粉飾と見ている。息子が出世したから父親、実家中臣氏を持ち上げたことになる。」
ｐ．９６
「中大兄皇子との出会いから始まって、「大化の改新」、入鹿暗殺の場では皇子を助けるでもなく物陰に隠れていただけである。
その後、唐との関係で日本が危機に陥った「白村江の戦い」に至る過程で、参謀であったはずの彼が具体的に行動した証拠はない。」
★★「鎌足の功績が、不比等による粉飾であるなら、中臣という高くなかった家柄の息子が、これほどまでに女帝達の信頼を得た真の理由は何であったのか。」★★
★★「他の名門氏族の人々は、なぜこの事態に異を唱えなかったのか。」★★
「まだこの時代、氏族制度の残滓は残り、家柄による人間評価が無くなったとは思えない。……。彼が生まれつき持っていた血筋、それが名門氏族を黙らせたのではなかったか。」
『 天智が不比等の父である 』
★「不比等は、平安時代に書かれた『大鏡』で言われているように、天智の実子であったと思う。
ｐ．９６〜９７
となれば、彼は持統や元明にとって異母兄弟になる。彼女達が不比等をかくも重用した第一の理由は、自分たちと同じ天智の子であったからではないか。」
ｐ．９７
★「しかし第二の理由は、不比等が鎌足の息子であるという立場を決して崩さなかった点にあったと思う。不比等は、身の程を知っていたのである。」
「彼の実父であった天智は、猜疑心強く異母兄弟・古人大兄皇子、従兄弟・有馬皇子、そして甥である臣下・蘇我倉山田石川麻呂一族を殺している。」
「彼の姉・持統も、最愛の一人息子のため、甥・大津皇子を、謀反を理由に自殺に追い込んだ。」
★「その異母姉のもと、不比等は鎌足の息子である自分に徹することから人生を始めた。そして異母妹である元明が即位してもその姿勢は崩さなかった。」
「だが、誰もが知っていた。不比等は天皇の息子であるということを。」＜←？！＞★
「「藤原氏」は不比等から始まった、不比等の氏名であった。平安時代、皇籍を降りた皇子が天皇から「源氏」を賜ったように。」
＜ 天智落胤説の証拠 ＞
「� 愼�氏家伝』の中で、肝心の「不比等伝」が失われている。
��不比等は淡海公と呼ばれた。「淡海帝」と呼ばれたのは天智天皇である。
�Ｅ敬陲了�代、不比等は不遇であった。
�て８教�と藤原氏に関わる問題点。
�ァ惱餤�』に見られる藤原氏賜姓の混乱。
�Χ淑〇�建立の謎。
�Ы嫺�大社の主祭神の謎。
�─愧歇菠�語』で、不比等がモデルと言われる人物は車持皇子で、皇族になっている。
『 天智の息子である証明 』
「＜� 愼�氏家伝』の中で、肝心の「不比等伝」が… ＞ 未だ書写された記録は、もちろん、影も形も無い。
人間は一番大事なものは無くさない。
ｐ．９９
ということは、都合の悪いことがあったので、故意に消去されたとしか思えない。」
「『定恵伝』の主人公、定恵にも孝徳天皇の息子であるという説がある。……。
定恵は天智時代、中臣氏の嫡男であるにも関わらず唐に送られる。孝徳の皇子・有馬を葬り去っていた天智にとって、定恵も目触りであった。……。」
★「同じ境遇の定恵の死、不比等は終生、天智の実子であることをおくびにも出さず、中臣鎌足の次男として、その人生を終えたのである。」
「だが、孫の仲麻呂は権勢欲、自己顕示欲が強かった。……。……、藤原氏の血とは皇族であるという事実を匂わすようなことを『不比等伝』に表したのではないか。」
「馬子の墓といわれる、現在も剥き出しになったままの「石舞台」の石室、墓を暴くということが何を意味するかを考えた時、あの無残な姿は、奈良時代『書記』の編纂者によって更に増幅された「蘇我氏悪人説」の結果ではないだろうか。」
「日本で最初に建立された飛鳥寺にしても、廃寺同様の時代が長く続き、止利仏師作の飛鳥大仏は、鎌倉後期に創建時の寺が落雷によって全焼すると、なんと江戸時代、仮堂ができるまで六〇〇年余り、露天に晒されていたという。」
『 贖罪意識が生みだした歴史 』＜関心外のため省略す＞
＜ 『古代朝日関係史・金錫享』『日本の中の朝鮮文化・金達寿』＞
『 蘇我氏帰化人説の誕生 』＜関心外のため省略す＞
＜ 「蘇我氏帰化人説」−門脇禎二・松本清張 ＞
ｐ．９５
《 第五章 埋もれた勝者 》
『 鎌足は不比等の父ではない 』
「……、不比等。……、上山春平氏は「埋もれた巨像」と命名した。」
ｐ．９５〜９６
「だが一方、上山氏は『記紀』における鎌足及び中臣氏に関する記述を、不比等による、父鎌足を偉大に見せる粉飾と見ている。息子が出世したから父親、実家中臣氏を持ち上げたことになる。」
ｐ．９６
「中大兄皇子との出会いから始まって、「大化の改新」、入鹿暗殺の場では皇子を助けるでもなく物陰に隠れていただけである。
その後、唐との関係で日本が危機に陥った「白村江の戦い」に至る過程で、参謀であったはずの彼が具体的に行動した証拠はない。」
★★「鎌足の功績が、不比等による粉飾であるなら、中臣という高くなかった家柄の息子が、これほどまでに女帝達の信頼を得た真の理由は何であったのか。」★★
★★「他の名門氏族の人々は、なぜこの事態に異を唱えなかったのか。」★★
「まだこの時代、氏族制度の残滓は残り、家柄による人間評価が無くなったとは思えない。……。彼が生まれつき持っていた血筋、それが名門氏族を黙らせたのではなかったか。」
『 天智が不比等の父である 』
★「不比等は、平安時代に書かれた『大鏡』で言われているように、天智の実子であったと思う。
ｐ．９６〜９７
となれば、彼は持統や元明にとって異母兄弟になる。彼女達が不比等をかくも重用した第一の理由は、自分たちと同じ天智の子であったからではないか。」
ｐ．９７
★「しかし第二の理由は、不比等が鎌足の息子であるという立場を決して崩さなかった点にあったと思う。不比等は、身の程を知っていたのである。」
「彼の実父であった天智は、猜疑心強く異母兄弟・古人大兄皇子、従兄弟・有馬皇子、そして甥である臣下・蘇我倉山田石川麻呂一族を殺している。」
「彼の姉・持統も、最愛の一人息子のため、甥・大津皇子を、謀反を理由に自殺に追い込んだ。」
★「その異母姉のもと、不比等は鎌足の息子である自分に徹することから人生を始めた。そして異母妹である元明が即位してもその姿勢は崩さなかった。」
「だが、誰もが知っていた。不比等は天皇の息子であるということを。」＜←？！＞★
「「藤原氏」は不比等から始まった、不比等の氏名であった。平安時代、皇籍を降りた皇子が天皇から「源氏」を賜ったように。」
＜ 天智落胤説の証拠 ＞
「� 愼�氏家伝』の中で、肝心の「不比等伝」が失われている。
��不比等は淡海公と呼ばれた。「淡海帝」と呼ばれたのは天智天皇である。
�Ｅ敬陲了�代、不比等は不遇であった。
�て８教�と藤原氏に関わる問題点。
�ァ惱餤�』に見られる藤原氏賜姓の混乱。
�Χ淑〇�建立の謎。
�Ы嫺�大社の主祭神の謎。
�─愧歇菠�語』で、不比等がモデルと言われる人物は車持皇子で、皇族になっている。
『 天智の息子である証明 』
「＜� 愼�氏家伝』の中で、肝心の「不比等伝」が… ＞ 未だ書写された記録は、もちろん、影も形も無い。
人間は一番大事なものは無くさない。
ｐ．９９
ということは、都合の悪いことがあったので、故意に消去されたとしか思えない。」
「『定恵伝』の主人公、定恵にも孝徳天皇の息子であるという説がある。……。
定恵は天智時代、中臣氏の嫡男であるにも関わらず唐に送られる。孝徳の皇子・有馬を葬り去っていた天智にとって、定恵も目触りであった。……。」
★「同じ境遇の定恵の死、不比等は終生、天智の実子であることをおくびにも出さず、中臣鎌足の次男として、その人生を終えたのである。」
「だが、孫の仲麻呂は権勢欲、自己顕示欲が強かった。……。……、藤原氏の血とは皇族であるという事実を匂わすようなことを『不比等伝』に表したのではないか。」
「その淡海帝の初出は『懐風藻』である。……、因みに『万葉集』に不比等の歌はない。」
ｐ．１００
『 天武時代の不比等 』
「天武時代、不比等はじっと身を潜めていた。」
「天智天皇八年（６６９）……、中臣鎌足は大織冠の位と「藤原」を賜る。二日後、鎌足は亡くなる。＜天智＞
だが、天智天皇八年（６７１)、右大臣になった一族の中臣金は「藤原」を名乗っていない。＜大友＞
そして天武朝になると、同族の中臣大嶋が出てくるが、こちらも「藤原」を名乗っていない。」＜天武＞
ｐ．１０１
「天武天皇十三年、（６８４）、……大三輪君をはじめとする五ニ氏に姓を与え「朝臣」としたが、その中に、「中臣」はあるが「藤原」は無い。」＜？！「書記」当時原本なのかどうか。後年、「別人転記」の可能性有り？！＞
「ところが、持統朝になると不比等と同族の大嶋と臣麻呂の二人については、時には「藤原」、時には「中臣」、果ては「藤原」まで現れ『書記』は混乱している。
ただ、不比等のみ、一度として「中臣史（不比等）」を名乗ることはなかった。」
『 藤原京時代に藤原氏になった 』
「文武天皇二年（６９８）……、『藤原朝臣賜はりし姓は、その子不比等をして承けむべし。ただし意美麻呂らは、神事に供れるに縁りて、旧姓に復すべし』……、……不思議である。」
「中臣氏に藤原氏が与えられたのが、実は、持統時代の後半「藤原京」遷都時であって、ここにきて改めて不比等一族にのみと限定したのではないか。」＜その根拠は？＞
ｐ．１０２
「持統四年（６９０）……。この地に藤の木が多く「藤井が原」と呼ばれていたそうである。」
「持統五年（６９１）……、墓記を提出させられた名門一八氏族の中に「藤原」があって、「中臣」は消えていた。」
『 興福寺と春日大社はいつできたか 』
「興福寺創建時について「和銅三年説」、「七年説」そして不比等の死後の「養老四年説」がある。」＜平城京・開発の指揮所では？！＞
「最も確実な記録は「養老四年説」で『続日本紀』に、養老四年（７２０）十月「造興福寺仏殿司」が設置されたと記録され、興福寺建立は始まった。」
「同年八月に亡くなった不比等のために、元明太上天皇と元正天皇母娘が発願したという。
★★ 臣下のために前天皇と現天皇が寺を造立するとは、異例の事である。不比等は彼女達にとって単なる臣下ではなく、兄でもあり叔父でもあったからだ。」★★
ｐ．１０２〜１０３
「養老五年（７２１）八月三日、北円堂が完成、……、一周忌が盛大に行われたという。」
ｐ．１０３
★「中臣鎌足の息子に、ここまで手厚い扱いをする理由があるだろうか。不比等が皇族であったから、興福寺は当初から官寺扱いになったのである。」★
「春日大社についても……。最も確実なのは神護慶雲年間、不比等の孫たちの時代、東国鹿島から主祭神・武甕槌命を将来した時であると言われている。
中臣氏の祖先は天児屋命であるのに、主祭神はタケミカヅチ命になってしまった。
★ タケミカヅチ命は勝者・天津神系のヒーローである。
しかしこの偉大な神の子が、『書記』には一切記されていないのに、突然ここにきて、藤原氏の祖神となった。」★
「物部一族の書『先代旧事本紀』には、同名のタケミカヅチ命が一族の者としてその名を記している。」＜古史古伝のひとつ、偽書＞
★ 「天皇家と最も密接な関係にあった物部氏につながるタケミカヅチ命を主祭神と祀る藤原氏、明らかにかつての名門・物部氏一族であると主張している。」
ｐ．１０４
『 人々は知っていた不比等の出自 』
「平安時代に書かれた『竹取物語』には、かぐや姫に求婚する五人の男達か出てくる。大伴御行、阿部御主人、石上麻呂足、石作皇子、車持皇子である。
いずれも実在した人物をモデルにしたとされるが、二人の皇子のうち、石作皇子は多冶比嶋（宣化天皇の子孫）、車持皇子は不比等がモデルであると言われている。」
……、不比等をなぜ皇子にする必要があったのか。……、不比等の出自を暗示していたのではないか。
不比等の実母は車持氏女であり、天智の側室の一人であった。」
「しかし賢い彼はその出自を一切出すこと無く、「埋もれた巨像」に徹したのである。
その傍らにいたのが橘三千代である。
ｐ．１０４〜１０５
二人が再婚したのは、持統朝の終わり頃、この頃から二人の活躍が顕著になるが、持統・元明・元正天皇が二人を重用した後ろには、真の血筋、三千代の蘇我氏、不比等の天智天皇という、周囲をも黙らせる確固たるものがあったからである。」
ｐ．１０５
「……、元明は皇后でも無かったので、初めてのケースあり、異例の即位である。」
「……「不改常典」……」
ｐ．１０６
『 乗っ取られた寺の謎を解く 』
「元明・元正女帝時代以降、飛鳥寺・大官大寺・薬師寺・川原寺（弘福寺）の官寺四大寺の中で、川原寺に代わって、いつの間にか興福寺がその地位、四大寺の一つになっていたことである。
……興福寺創建の記録が至極あいまいであること、一方で興福寺に関して強く皇室との関わりを示していることも不思議なことであった。
寺伝では、中臣鎌足と結びつけ、川原寺との関わりは一切説明がないが、それは何故だろうか。
……『弘福寺（川原寺）領田畑流記帳』……寺の財産目録＜寺領＞……大倭・河内・山背・尾張・近江・美濃・讃岐……
＜梅原猛＞『……この時、川原寺に対して多大の田畠が寄付され、それと引き換えに、藤原氏が……。その名の買収によって実は四大寺の一つの権利を買収したのではないか』
ｐ．１０８
『 祖母の寺・川原寺 』
「現在、明日香村字川原……弘福寺……、皇極天皇の川原宮の跡地に建立された寺である。
発掘された瓦が、天智の寺、近江の崇福寺と同じことから、天智が母、皇極のために建立したことが定説となっている。
後に……天武の時代、弘福寺という正式名がつけられたが、……。」
「ところが、この飛鳥四大官寺は、平城京に遷都されると元興寺・大安寺・薬師寺・興福寺となったのである。」
ｐ．１０９
「興福寺は、やがて同じく皇極を祖母とする元明、曾孫・元正よって金堂・北円堂が建立され、玄孫・聖武よって東金堂が、孫・光明皇后によって五重塔・西金堂が建立され、華麗な寺へと変身していったのである。」
ｐ．１１０
「その傍らにあって、彼を助け最後の妻となった橘三千代、二人を結びつけたものは何であったか。
やはり蘇我氏という血ではなかったか。
不比等の三人の息子、武智麻呂、房前、宇合の母も蘇我氏である。
蘇我氏の血を受け継いだ女帝たちの下、不比等が権力の座を守っていくためには、最後の妻もまた蘇我氏でなければならなかった。」
ｐ．１１１
《 第六章 橘三千代の娘・孫・玄孫 》
『 穏やかな阿修羅像 』
＜興福寺阿修羅像＞「この像は、光明皇后が、三千代を供養するために造立した像の一つであった。」
ｐ．１１３
『 法隆寺の阿修羅像 』
ｐ．１１４
「伝法堂の阿弥陀三尊像、西円堂の杖六薬師如来坐像、いずれも三千代所縁の像が法隆寺には残っている。」
ｐ．１１５
「……、偶然とはいえ、法隆寺・興福寺に残された仏像群は「橘三千代の形見」ばかりであった。」
『 樟葉の瓦と土器 』
「……、母・三千代を失ってから、光明皇后は病に臥し、夫・聖武天皇を心配させている。だがそのような中、母の供養の準備を始めることによって、彼女は徐々に回復していったのであろう。」
「その法会において使用された土器類は、河内国交野郡の「樟葉瓦窯」で焼かせた物であったという。
樟葉は、聖徳太子の曾祖父・継体天皇が即位した樟葉宮があったところである。」
＜樟葉東遺跡＞「その中にあった素弁八葉軒丸瓦、それは四天王寺と創建法隆寺で発掘された瓦と同じものであった。」
ｐ．１１６
「奈良時代、平城京近くに良い窯場がなかったわけではないのに、母三千代の供養のためには、法隆寺所縁の樟葉瓦窯の土器でなければならなかった。」
『 三千代の玄孫・蘇我氏の皇后 』
ｐ．１１７
「平安時代に編纂された『新撰姓氏録』によれば、河内の氏族のうち、その氏族名数の三分の一は帰化系の人々であったという。
とはいえ、物部・蘇我氏の存在が消されたわけではない。」
ｐ．１１９
『 光明皇后と聖武天皇 』
「法華寺は総国分尼寺、正式には金光明四天王護国之寺、法華滅罪之寺、法華経による女人済度のための寺、女性のための寺であった。
……、その東北隅にあった写経道場で、彼女は父母供養の『瑜伽師地論』の写経を行った。」
ｐ．１２０
＜天平四年＞「同年四月二十二日、……、聖武が法隆寺に釈迦如来、十大弟子、薬師像の絵画、刺繍絵を納めた記録が『資材帳』に見える。……太子の月命日……。」
＜万葉集＞ 『 太政大臣藤原家の県犬養命婦、天皇に奉る一首
天雲をほろに踏みあだし鳴る神も
今日にまさりて恐けめやも 』
ｐ．１２１
「太子と聖武を結んだ絆は橘三千代であった。」
『 三千代の孫・最後の女帝 』
「聖武天皇と光明皇后の一人娘、称徳（考謙)天皇は、……、そして「女帝の時代」の最後を飾る女帝である。」
『 三千代の孫・最後の女帝 』
「聖武天皇と光明皇后の一人娘、称徳（考謙)天皇は、……、そして「女帝の時代」の最後を飾る女帝である。」
ｐ．１２２
「彼女が誕生したのは、祖母三千代が現法隆寺の傍らに西円堂を建立した養老二年（７１８)である。
……。彼女は将来の天皇という、大きな責任を背負わされたのである。
二年後に、祖父・不比等は亡くなるが、祖母・三千代は、天平五年(７３３)に亡くなるので、称徳が十一歳になるまで生きていたことになる。
彼女が三歳の頃、三千代は出家、五十歳を超えたばかりであろうか。後に章徳も天平宝宇六年(７６２)四十五歳の時に、法基尼と名乗り、出家している。」
「天平十年〈７３８)ニ十一歳になった彼女は、女性として初めて皇太子となり、次期天皇を約束されることとなった。直後に彼女は法隆寺に姿を現わしている。
行信が中心になって進められた夢殿建設、太子一族の彼岸の跡地、上宮法院建立に協力したのは、皇太子阿部内親王であった。」
ｐ．１２３
「彼女が即位するのはその九年後、天平勝宝元年〈７４９)七月二日、三十二歳の時である。
この九年間、父・聖武は東大寺建立に全力を尽くす。……。」
「称徳が即位する二か月前の五月、法隆寺には墾田地一〇〇町を始め、稲・朝布・真綿などが多数納められている。
平城京の五大寺、大安寺・薬師寺・元興寺・興福寺・東大寺に次ぎ、弘福寺や四天王寺、崇福寺より多い。」
『 藤原仲麻呂との対立 』
「仲麻呂は、不比等の長男・武智麻呂の次男、叔母・光明皇后に特に気に入られ、兄・豊成を押しのけ権力の座についた。
天皇とは名ばかりの称徳、実権を握っていたのは母と従兄弟・仲麻呂、称徳と仲麻呂とが、うまくいくはずはなかった。」
ｐ．１２４
「……、太上天皇と彼女の事績を称え、奉ったのが「宝字称徳考謙皇帝」の尊号である。
普通、天皇は崩御後に諡号されるが、中国（唐）の風習を好んだ中麻呂によって、生前に贈られたのであるが、この気遣いにも関わらず、仲麻呂と称徳の対立は鮮明になってくる。」
「天平宝字四年（７６０)、仲麻呂は太政大臣にあたる位を中国風に改め「太師」となる。」
「祖父・不比等は、臣下の最高位・左大臣になることすら固辞し右大臣のまま終わった。
父・武智麻呂は左大臣になったが、太政大臣という皇族並みの位は望まなかった。＜それ以前に疫病死＞
だが、叔母に愛され、天皇の後見となった仲麻呂の奢りは頂点に達していたようである。
つづく
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聖徳太子に祈る − 消された一族の女たち − �� 米陀黎子著・新人物往来社
（「コピー厳禁！」これは、マナーですよ！ 勉強にもならないよ！)
『 道鏡との出会いと仏教 』
「天平宝字五年(７６１)十月末から称徳は、淳仁と共に保良宮に滞在していた。そこで彼女は病に倒れ、当時看病禅師であった道鏡によって助けられたという。
ｐ．１２５
「天平宝字六年六月三日、淳仁は五位以上の官人を朝堂に集めて、称徳の言い分を「宣命体」にして伝えるという複雑な詔であった。＜略＞。その直後、彼女は祖母と同じ出家の道を選んだ。」
「だが、太上天皇の地位を捨てること無く、権力をもう一度自分の手に戻し、淳仁に対してだけでなく、その横にいた仲麻呂に対しても宣戦布告したのである。」
「宣命の中で、称徳が怒っている「言ってはいけないこと」「してはいけないこと」とは、保良宮滞在中の、称徳と道鏡の関係について、淳仁と仲麻呂が、批判あるいは忠告したのではないかというのが、今日でも多くの人の見かたである。」
「『水鏡』『古事談』などに、二人の関係は男と女の関係として面白おかしく、時には下品に書かれたが、二人とも出家者として最後まで破門されていない。」
ｐ．１２６
「「太政大臣禅師」という、僧として初めての位を称徳は作り道鏡に与えたが、あくまでも「禅師」としての名称は残している。
道鏡は宗教界の最高権威者であり、称徳にとって宗教上のアドバイザーであった。
『続日本紀』によっても、政治的事柄に道鏡が口を出した記録はない。」
☆「男と女の感情はあったと思う。それを示しているのが、吉祥天と毘沙門天の夫婦神を、仏の守護神として称徳が崇拝点である。」☆
「天平宝字八年(７６４)九月、称徳は反逆者・仲麻呂〈恵美押勝と改名)を討伐するために、物部・蘇我戦争時に活躍した聖徳太子の故事に倣い、「金堂四天王像」を造立祈願した。
その像を収める為の寺が西大寺であった。道鏡が称徳のためにプロデュースした初めての、そして最後の寺であった。」
ｐ．１２７
『 太子に倣う・四天王への祈願 』
「西大寺に最初に建立されたのが……、安置のための四王堂（四王院）であった。」
「宝亀十一年（７８０）。に記録された『西大寺資財流記帳』によると堂内には、本尊が置かれる須弥壇中央に、八角五重の宝塔、その左右に乾漆造の火頭菩薩像がニ躯が、それらを守る須弥壇四隅に「四天王像」が配置されていた。」
そのほか壇上周囲に、塑像の最勝太子像・将了知大将軍・八臂那羅延天像・菩提樹神善女天像・吉祥天女像・大弁財天女像が七躯具として、それらの従者を合わせると、計四十三躯の像が四王堂内を飾っていたそうである。」
「これらの諸像は「金光明最勝王経」に登場してくる像であるが、仏教世界観を象徴する須弥山を守護する四天王像、……、これら四天王像だけが金堂仏であった。」
「父が建立した東大寺、母が建立した法華尼寺に対抗するかの如く、西大寺と西隆尼寺の規模はそれらを超えていたという。」
ｐ．１２８
『 法隆寺最古の年行事「吉祥悔過会」』
「現在、法隆寺の「吉祥悔過会」は、正月八日から十四日までの七日間、金堂と講堂で行われている。
ｐ．１２９
……「修正会」とも……。
神護慶雲以来、変わることなく「金光明最勝王経」を唱え、吉祥天と毘沙門天に、過去の罪過を悔いそして国家鎮護と人々の安穏を願っている。
この法会は、肝腎の西大寺では、現在行われていないのである。
ｐ．１３０
★「五十二歳、称徳の死は突然であり、謎に包まれたままであった。」
『 鏡のある薬師堂 』
「称徳と道鏡二人の願いを込めた創建された西大寺には、金堂が二つあった。薬師堂と弥勒堂である。
ｐ．１３１
……多数の像が坐していた。それはまさしく祖母の名に因む、仏教宇宙観「三千世界」の再現である。」
「例えば薬師堂内に、本尊薬師三尊像を中央須弥壇に、その周囲に、十一面観音像ニ躯、馬頭観音像一躯、得大勢像（大勢至菩薩)一躯、不空羂索観音像一躯、孔雀明王像ニ躯、摩逓摩由璃菩薩像(孔雀明王の梵名)一躯、梵天像一躯、帝釈天像一躯、羅漢像三躯、四天王像四躯、観音菩薩像一躯の計二十一躯の仏像があったという。」
★「そして西大寺薬師堂の特色は、それら堂内の諸像、本尊薬師三尊像の台座に五六面、後背に七ニ面、両脇侍の各々の台座に三八面、挙身光に七ニ面、堂内全体に三四四面もの鏡が用いられていたことである。」＜出典？！＞
「この手法は道鏡の名前が、発想の根拠になったのか定かではないが、鏡によって反射される光によって堂内はより荘厳なものになっていたという。」
「……、「峰の薬師堂」こと法隆寺西円堂こそは、いまも「鏡の御堂」、「鏡の薬師堂」である。
……、病気治癒を願うために古来女性たちによって鏡が奉納されるようになった。……、現在でも、ざっとニ〇〇〇枚以上になるとか。」
ｐ．１３２
『 夫婦の神・吉祥天と毘沙門天 』
「天平神護二年（７６６)十月、法華寺の東北隅建立された海龍王寺毘沙門天像より、舎利が見つかった。
それを法華寺に安置し、その慶事に合わせるかのように聖徳太子にのみ許されたといってもいい「法王」という称号を道鏡に与えるのである。
太子を守った四天王のひとり多聞天、その多聞天の別名が毘沙門天である。
災いを象徴する三鬼を火によって降伏させる仮面姿の毘沙門天は、道鏡を太子と同等の地位にまで引き上げた天でもあった。
その毘沙門天の妻が、金堂「吉祥天悔過会」の主人公の吉祥天である。」
ｐ．１３３
「……、聖徳と称徳が同じ響きを持ったのは偶然だったのであろうか。」
ｐ．１３５
《 第七章 『隠された十字架』の終わり 》
『 死者供養の八角円堂 』
「 ……、夢殿は太子が瞑想に耽っていた場所として教えられてきた。
八角円堂は、墓であった。」
ｐ．１３６
「……、八角形は「八葉蓮華」を擬している点から、仏教が古墳の形体に影響を与えたものだという。
……、舒明陵、天武・持統陵、天智陵、そして飛鳥にある草壁皇子陵と伝わる束明神塚、文武天皇陵と伝わる中尾山古墳は、いずれも八角墳である。」
「夢殿が聖徳太子の墓を意味すること、そして祀られている救世観音像、こちらも太子像であることは、法隆寺に残された多くの記録が証明していた。」
その像を収める為の寺が西大寺であった。道鏡が称徳のためにプロデュースした初めての、そして最後の寺であった。」
ｐ．１２７
『 太子に倣う・四天王への祈願 』
「西大寺に最初に建立されたのが……、安置のための四王堂（四王院）であった。」
「宝亀十一年（７８０）。に記録された『西大寺資財流記帳』によると堂内には、本尊が置かれる須弥壇中央に、八角五重の宝塔、その左右に乾漆造の火頭菩薩像がニ躯が、それらを守る須弥壇四隅に「四天王像」が配置されていた。」
そのほか壇上周囲に、塑像の最勝太子像・将了知大将軍・八臂那羅延天像・菩提樹神善女天像・吉祥天女像・大弁財天女像が七躯具として、それらの従者を合わせると、計四十三躯の像が四王堂内を飾っていたそうである。」
「これらの諸像は「金光明最勝王経」に登場してくる像であるが、仏教世界観を象徴する須弥山を守護する四天王像、……、これら四天王像だけが金堂仏であった。」
「父が建立した東大寺、母が建立した法華尼寺に対抗するかの如く、西大寺と西隆尼寺の規模はそれらを超えていたという。」
ｐ．１２８
『 法隆寺最古の年行事「吉祥悔過会」』
「現在、法隆寺の「吉祥悔過会」は、正月八日から十四日までの七日間、金堂と講堂で行われている。
ｐ．１２９
……「修正会」とも……。
神護慶雲以来、変わることなく「金光明最勝王経」を唱え、吉祥天と毘沙門天に、過去の罪過を悔いそして国家鎮護と人々の安穏を願っている。
この法会は、肝腎の西大寺では、現在行われていないのである。
ｐ．１３０
★「五十二歳、称徳の死は突然であり、謎に包まれたままであった。」
『 鏡のある薬師堂 』
「称徳と道鏡二人の願いを込めた創建された西大寺には、金堂が二つあった。薬師堂と弥勒堂である。
ｐ．１３１
……多数の像が坐していた。それはまさしく祖母の名に因む、仏教宇宙観「三千世界」の再現である。」
「例えば薬師堂内に、本尊薬師三尊像を中央須弥壇に、その周囲に、十一面観音像ニ躯、馬頭観音像一躯、得大勢像（大勢至菩薩)一躯、不空羂索観音像一躯、孔雀明王像ニ躯、摩逓摩由璃菩薩像(孔雀明王の梵名)一躯、梵天像一躯、帝釈天像一躯、羅漢像三躯、四天王像四躯、観音菩薩像一躯の計二十一躯の仏像があったという。」
★「そして西大寺薬師堂の特色は、それら堂内の諸像、本尊薬師三尊像の台座に五六面、後背に七ニ面、両脇侍の各々の台座に三八面、挙身光に七ニ面、堂内全体に三四四面もの鏡が用いられていたことである。」＜出典？！＞
「この手法は道鏡の名前が、発想の根拠になったのか定かではないが、鏡によって反射される光によって堂内はより荘厳なものになっていたという。」
「……、「峰の薬師堂」こと法隆寺西円堂こそは、いまも「鏡の御堂」、「鏡の薬師堂」である。
……、病気治癒を願うために古来女性たちによって鏡が奉納されるようになった。……、現在でも、ざっとニ〇〇〇枚以上になるとか。」
ｐ．１３２
『 夫婦の神・吉祥天と毘沙門天 』
「天平神護二年（７６６)十月、法華寺の東北隅建立された海龍王寺毘沙門天像より、舎利が見つかった。
それを法華寺に安置し、その慶事に合わせるかのように聖徳太子にのみ許されたといってもいい「法王」という称号を道鏡に与えるのである。
太子を守った四天王のひとり多聞天、その多聞天の別名が毘沙門天である。
災いを象徴する三鬼を火によって降伏させる仮面姿の毘沙門天は、道鏡を太子と同等の地位にまで引き上げた天でもあった。
その毘沙門天の妻が、金堂「吉祥天悔過会」の主人公の吉祥天である。」
ｐ．１３３
「……、聖徳と称徳が同じ響きを持ったのは偶然だったのであろうか。」
ｐ．１３５
《 第七章 『隠された十字架』の終わり 》
『 死者供養の八角円堂 』
「 ……、夢殿は太子が瞑想に耽っていた場所として教えられてきた。
八角円堂は、墓であった。」
ｐ．１３６
「……、八角形は「八葉蓮華」を擬している点から、仏教が古墳の形体に影響を与えたものだという。
……、舒明陵、天武・持統陵、天智陵、そして飛鳥にある草壁皇子陵と伝わる束明神塚、文武天皇陵と伝わる中尾山古墳は、いずれも八角墳である。」
「夢殿が聖徳太子の墓を意味すること、そして祀られている救世観音像、こちらも太子像であることは、法隆寺に残された多くの記録が証明していた。」
「「霊」という概念は、仏教には無い。
釈迦によって始まった仏教は、「悟り」を求め、寺は「修行」の場であり、「死者供養」の場ではない。
それが中国から朝鮮半島を経て、日本にやって来た時、「祖霊」を大事にする日本人の心は仏教に生かされた。私たちは亡くなった人を仏ともいう。」
「「太子信仰」とは、日本仏教の祖である太子を、わが祖先と慕う日本人の祖先信仰、祖霊信仰の一つである。
ｐ．１３７
「私は、聖徳太子こそ「祖霊信仰」を日本仏教と融合させた人物だと思っている。」＜？！意味深長＞
ｐ．１３８
『 救世観音像に対する誤解 』
＜略・梅原猛氏への疑問と反論＞
ｐ．１４０
『 聖霊会は太子信仰と共に始まった 』
「確かに、お寺で「聖霊会」とは、不思議である。だが、たびたび言うように、これぞ「日本仏教」である。
「聖霊会」の儀式を行っている時の法隆寺は、寺でなく神社であり、太子の霊が輿に乗って運ばれる行列は、お神輿担ぎと同じである。
だがあくまでも「死者供養」であって「怨霊鎮め」ではない。」
★「なぜなら「聖霊会」という言葉が記録に現れるのは、奈良時代から遥か下がって十一世紀後半からのことだったからである。」
ｐ．１４１
『 西円堂の隠された意味 』
ｐ．１４２
＜隠された十字架に対して＞「「不比等黒幕説」をいくら主張しても、法隆寺の中に、不比等については影さえもない。
法隆寺に伝世する三千代名義のものは、実質も三千代のものであった。」＜？！根拠＞
ｐ．１４３〜１４６ ＜要約＞
『 西円堂供養の意味 』
（１)創建法隆寺(若草伽藍ゾーン）用明天皇供養のため、太子が建立した
（２)現法隆寺（西院伽藍ゾーン）太子供養のため、＜著者＞太子の長女、上宮大娘姫王とする
（３)西院伽藍の外（西円堂を含む）＜著者＞西円堂は、……三千代の私堂であった 現法隆寺完成と西円堂建立は同時代
西円堂は用明こそが考えられる 用明の橘は、三千代の氏名 三千代の祖先達の、供養堂とも考えられる
西円堂の薬師さまは「峰の薬師」−庶民信仰・鏡の奉納
（４)夢殿（上宮王院・東院伽藍ゾーン）太子一族のため、光明皇后・称徳天皇・行信らによって、天平十年以降
『 薬師信仰から阿弥陀信仰へ 』
「……、養老二年に現薬師寺が西の京に移築されている。その本尊「薬師三尊像」は、持統が創建した元薬師寺にあったものか（白鳳仏）、養老二年以後、現薬師寺のために造立されたものか（天平仏）、未だ決着がついていない。
ｐ．１４７
「……三千代ゆかりの建物……。伝法堂である。
……簡素な「切妻様式」の屋根は、この建物が元々住居であったことを示している。
ｐ．１４９
「法華寺の中門の南側には、阿弥陀三尊像を本尊とする阿弥陀浄土院という寺も建立された。
光明皇后によって天平宝字年間に建立が始まったが、その中に八角円堂があった。
皇后が亡くなると、称徳は一周忌法会をこの八角円堂で行ったという。」
「現世の苦しみを癒してくれるのは「薬師信仰」である。まだを若かりし頃、三千代が帰依した仏は薬師であり、彼女は西円堂を建立し、現世の安穏を祈った。
ｐ．１５０
だが、死を意識しはじめた晩年、彼女の心を癒したのは、阿弥陀仏・阿弥陀浄土の世界を描く「阿弥陀信仰」であった。
……。三千代・光明・称徳、祖母・娘・孫娘の三代の絆は、仏の世界を通じて常に結ばれていたのである。」
『 現法隆寺完成・蘇我氏の女 』
「飛鳥時代、蘇我氏の保護の下、日本で最初の出家者となった善信尼。
やがて聖徳太子と蘇我馬子によって、法隆寺・飛鳥寺・四天王寺は建立された。
二人の間に存在した蘇我氏出身の初の女帝・推古。
白鳳から奈良時代、持統・元明・元正と三人の蘇我氏の血を引く女帝たちは、仏教を守り伝えた。
その傍らにいた橘三千代、その娘と孫、光明皇后や称徳女帝によって、さらに多くの寺院が建立され、仏像や仏画も作られた。」
「……、この中にただ一人臣下であり、皇族でもなかった橘三千代……。
ｐ．１５１
だが生前彼女が関わったのは法隆寺だけである。彼女の形見の多くは法隆寺に今も多く残されている。
西円堂建立によって、薬師に現世の幸せを、伝法堂の阿弥陀に来世の幸せを祈った橘三千代、彼女にとって法隆寺は三千世界そのものであった。」
「……、養老四年、不比等が亡くなると四人の息子たちが権力の座についた。彼らにとって皇族・長屋王は目障りな存在だった。
神亀六年（天平元年）二月十二日、長屋王・吉備内親王、その四人の男子たちは事実上殺された。」
「元明は即位した折、孫達を親王扱いにし、皇位継承者として、皇太子（聖武）に次ぐ地位に引き上げていた。
★ 彼らの謀反を恐れるあまり取った聖武の選択（彼が長屋王一族に死を命じた）を、三千代はどのような思いで見つめていたのか。」＜？！独断＞
ｐ．１５２
「人の世の醜さ、儚さ、しかし、あの世、仏の世界を想う時、三千代の耳には「世間虚仮・唯仏是真」……。……という太子の言葉が切に響いていたのではないか。」
『 上宮大娘姫王から橘三千代へ 』
「では、誰が、何時、建て始めたのだろうか。」
「……、太子死後、推古天皇三十年（６２２）から、さほど離れない早い段階に建立が始まったと思っている。」
「……、上宮大娘姫王（春米女王）である。」
ｐ．１５３
「…… 藤原氏や源氏等の貴族が、長女に財産の多くを相続させているように、飛鳥時代、すでに娘に相続させる慣習があったのではないか。」
「しかし完成を前に、蘇我入鹿との対立から……、姫王は夫や子供や孫たちと共に斑鳩宮で自刃してしまう。＜焼亡！＞
だが、少なくとも同時代、金堂は完成しそんざいしていたはずである。」＜推測＞
★★★「現法隆寺のための『流記資財帳』に初めて載る寄進者・巨瀬徳太古★の大化四年（６４８)の記録は、用明のための創建法隆寺ではなく、姫王が建立を始めた、現法隆寺であったのは当然である。
だが、現法隆寺の工事はますます遅れていた。そんな時、天智天皇九年＜６７０＞、太子が建立した創建法隆寺も全焼してしまう。
ｐ．１５４
ようやく安定した天武・持統の時代をへて、蘇我氏の血を引く元明・元正女帝のもと、橘三千代の助力によって、現法隆寺・西院伽藍は完成したのである。」
「三千代は伽藍を見守るかのように、聖円堂を建立した。
三千代の死後、孫・称徳天皇によって東院伽藍が完成、現在の姿になったのである。」
「太子の中に色濃く流れていた「蘇我氏の血」、そして「物部氏の影」、それを受け継いだ女帝たち、そして橘三千代と娘と孫の祈りの寺が法隆寺であった。」
★「蘇我氏、日本に仏教を入れ初めての寺を建立した一族、しかし『書記』に記された蘇我氏の姿は「悪」そのものである。
そして蘇我氏に滅ぼされ、反仏教派の烙印を押された物部氏の姿も哀れである。
太子を供養し、現法隆寺を完成させることこそ、蘇我氏の血を引く女性、橘三千代の大きな願いである。そのために彼女は祈ったのに違いない。」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
さて、私の「書き出し・覚書」は、以上で終わる。
もう一つの「法隆寺論」であり、もう一つの「女生と仏教」であると、いえるだろうか。
「鏡のある薬師堂」・「最後の女帝」・「吉祥天と毘沙門天」と続く一連の論稿は「当時女性」の在り方と、その中を逞しく生きた女性の軌跡として、見直すべきものだろう。
もし、「飛鳥・天平時代」に興味があるなら、是非とも「通読したい」一書だと思う。
ただし、あくまで「私的、書き出し」なので、ブログを見る「他者」を意識していない。そこは割り切って欲しい。
ではでは
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