聖武天皇『天平宣言』 （私の仮説 �顱ァ�
【天平十七年】(７４５)『八月二十三日 盧遮那大佛鋳像の工を大和國に移す。天皇・皇后等その工を援け給ふ。』
天皇は朱雀門にて民衆に呼びかける。臣官を通さず、直接民衆に語りかける必要があることに気付いていた。親衛隊が両脇に控え警護に当たる。左右に臣下・百官が畏まる。南に伸びる道の前列を学僧たちが占める。行基衆がそれに続く。それだけで千人を越える。道の前に臣官の都の住人が占め、列の後はその日奈良に来た京外の人々が占める。木津からの聖武天皇の行列は、帰還を喜ぶ人々に伝わり出迎えの用意がなされていた。朱雀大路は大群衆で満ちている。二万人は軽く越えているだろう。それは延々と羅城門まで続く勢いである。
天皇は行列の最後尾を見届けると軽く咳払いをする。親衛隊長が両手を挙げると、それが合図となったのか呼びかけずとも皆が静粛にする。天皇は朱雀門の上に仁王立ちになる。
「みんな良く聞くが良い」
天皇が直接、民衆に語りかける。ありえないことだ。息をするのも控えられる。
聖武天皇は雄雄しく民衆に語りかける。
「人々よ！大御宝たちよ！その子供達よ。聞くが良い！私の真心を、今ここに、みんなに語ろう。心して聞いて欲しい。！」天皇は始めは大声を挙げ皆を睥睨し、後に声を和らげ歌うように語り始める。人々は聖武天皇の人となりを始めて目にする者もいる。人々を見まわす天皇の目は、人々の一人一人を見回すほどに、人々の呼吸の音さえも静寂さを取り戻し、小鳥の声が聞こえるほどにやがて静かなものとなる。
当時の民衆は「天皇の顔」など知りはしない。およそ役人や兵士、朝廷に連なる者でなければ「天皇という立場の者」のことなんか気にもしていない。頭が良くて「権力者の頂点」と理解するだろうか。
「私は神と仏の子供であり、ここに集うそなた達も神と仏の子供である。そのことには何の違いも無い！。このことにみんなは気付いておられるだろうか？」
人々は驚く。これは「天子さまの言葉で有るのか？」動揺の声と尋ねあう声が人々の口からひそひそと漏れてくる。
「ここにある私はみなさんを見つめるために目が二つあり、みなさんの声を聞くために耳は二つある。鼻も一つで穴が二つあるのは芳しい匂いが好きであり、ここで息をしてこれを止めると大変なことになる。」人々から笑いが漏れる。少し間を置き「みなさんと話すために口は一つだけあり、ここで水を飲み食事をいただく。知恵を授かり考えるために頭は一つあり、心も一つである。私に二つ心はない。ただ、みなさんと同じく戸惑い、迷うことが心を幾つもあるようにみんなに見せてしまう。」ここまで一気に話し込んだ天皇は二たびみんなを睥睨する。遠くまで声が届くように威圧し私事を止めるのだ゛。そしてさらに語る。
「私は仕事をするために２本の手が有る。歩くために２本の足があり、それを支える胴体が一つ有る。もし仮に剣でこの腹を切るならばみんなと同じ赤い血がほとばしり臓物がこぼれるだろう。私の容姿とみんなの容姿は、身につけているものが違うだけだ。そうではないのか？！」
人々は相槌を打ちながらも「自分達とは違う」とまだ考えている。衛兵もいる。天皇の言葉がそれ以上のことを続けて話すようでなければ呼応する声など挙げられない。
「みなさん。真実を見て欲しい。考えて欲しい！ここにある私を見て欲しい！」天皇は声を一段大きくした。
「私が天子・天皇と言われるのは社会的な立場でしかない。私もあなたたちと同じく父と母とをもち、祖父祖母を戴くものなのだ。そして祖先たちはこの国を作ってきた。私はその仕事をしているだけにすぎない。もっと上代を遡り、神代の世界を見渡せば、みんな同じ神の子であり仏の教えを戴く者に過ぎない。およそ神代の世にあればみんな同じ神の子なのだ。」穏やかに思慮深く語る天皇の言葉に説得力がみなぎる。
「何か違いはあるか！？」ここで一段と声の大きくなった時、人々の口から『そうだそうだ！』相槌の声が挙がり始める。
衛兵や臣下たちはこのことへの対応に為す術を知らない。「まさか天子さまが…」こんなことを言い出すとは考えもしていなかった。しかし今、天皇は家臣たちの一人一人を睥睨している。人々の声を封じる臣下達に一声も出させてはならない。貴族には選民意識が有るのだ。
一頻り人々の声が溢れた後天皇はその声を諌めるため両手を大きく上げ、ゆっくりと降ろしていく。
およそ指揮者の棒にに従うごとく人々の声は抑えられる。
「私は、聖徳太子を深く尊敬している。その聖徳太子様は、世間虚仮唯仏是真と言われた。
この御世は私の治める時代である。わたしはこの世間をも真実の世としてみたい。
私はみなさんに約束しよう。
私はここに真如の世界を実現しよう。
私とみんなが力をあわせてここに仏の世界を荘厳に顕現してみよう。」
天皇の思索と思いが堰を切ってほとばしる。
「およそ自分のことは自分でする。みんなのことはみんなでする。足りないところを助け合う。難儀の時を助け合う。およそみんなで一人の誰かを助ければ、みんながみんなを助け合えれば、この世に何の難儀のあることか？そうではないのか？！」
熱に浮かされたような天皇の言葉に人々は感染する。
「およそ人の世であるならば人を助けるのも謗るのも人であろう。家族も社会も人々みんなで支えあうものだろう。そうではないのか？」
天皇の熱が人々に伝わる、移る。人々は始めてであろう天皇の言葉に染まる。
「およそ人の世であるならば法があり律令があり、指導者がいて皆を指揮指導する。役人とはその一部であり貴族はこれに連なっている。しかし貴族もその始めをたどれば民草の一人にしかすぎぬ。私もそうで有る。」
この時、『賤しき者も同じか？！』、およそ金切り声が群集の群れから発せられた。
「そうとも。賤しき者も同じだ。およそ神代の時代にあってはみんな同じく神の子である。」
天皇は；冷静に噛み締めるように、目の前に神々を見るように、神の声のように優しく群集に向かい自信をもってこれに答える。
「神代にて信じる神は、人々により時代時代に違っていても、その根をたどれば母なる神、父なる神に至るのだ。仏の教えはそれを知らぬ神々であっても遥か天と地に及ぶのだ。」
人々は絶句した。
天子と賎民が同じ神の子仏の教えを戴く者とは誰も考えたりしなかった。身分制度は世襲制であり、貴族と賎民が同じとは誰一人考えたりしなかった。
市井の人々にはその現実が事実としてあるからだ。
人々より異論の声も上がる。
しかし天皇はその人々を睥睨する。
「私を見よ！貴族を見よ！臣下・衛士を見よ！賎民を見よ！奴隷を見よ！そしてその顔を見よ！血の色を見よ！容姿をよく見てみよ！いかなる違いが有るのか？！」
天皇の形相はスサノオのごとくある。声は雷をもち、
「真如の世界にあっては人は神の子であり仏の心を戴くのだ！！」
このことの先に、言葉の先に天皇の現実行動としての「放賎」が先にあった。馬飼・雑戸は平民となった。奴婢は放免された。婦女子の妻妾は禁じられた。大赦もあった。
人々はその意味を始めて知った。天皇より直接に真意を聞かされたのだ。疑う余地は無かった。
天皇は満身の力をこめて大きな声で語る。
「全ての人々が仏の心を戴く真如の世界をここ奈良の地に作ろう。大きな大きな毘盧遮那仏をここに作ろう。
およそこの国の全ての人々の力を合わせてこの地に創り上げよう。心ある人々よ。今日ここに来れなかった者たちに伝えよ！菩薩としてこの地に馳せ参じ、結集せよ！と。」
言い放ったのち天皇の顔はスサノオの顔より、静かに血の気が引き、今は如来の顔の如くあり、誰かがその顔を仰ぎ合掌した。誰もが手を合わせ始めた。誰一人息を呑んでいて声を発することができなかった。ただ合掌して壇上を去る天皇の後姿を見送ったのだった。
天皇が壇上を去って後しばらくしてから行基衆の一段より「万歳！」の声が連呼された。皆がそれに唱和して手を天に突き上げる。
コンコン・チキチキ・ドンドンと鳴り物が鳴り始めた。数人の者たちが踊り始めた。何の形も無い乱舞が起きた。
それが見る間に大勢のものたちに感染しだした。が、踊りの輪になったかと思うとそれが渦を巻き始めた。もう天皇も衛兵もいない。いるのは「民衆」だけである。はじめ市井の人々は行基衆を眺めるだけだった。しかし彼らの狂喜の意味が理解できる者たちから、喜び勇んで踊りの渦に飛び込んだ。大きな渦が巻き始める。先頭の者たちか渦から飛び出して前進しはじめた。朱雀大路を踊りながら南へ下り始めた。
群衆は三条大路にてまた大きな渦になり、巻き始め、人々を吸収して東の山を目指し始めた。
三条大路は狂喜し乱舞する民衆の行進が起きている。誰に遠慮も必要なかった。
『法の光が輝くぞ！真如の世界を創ろうぞ！南無釈迦牟尼仏！南無毘盧遮那仏！』
『そうじゃ、そうじゃ、仏の世の中、菩薩の世の中じゃ！』
大きな声が連呼される。みんなが唱和する。いま人々は解放され、夢の世界に遊ぶ。
人々が三々五々と散り始めたその後に、家路を目指し、各家庭にたどり着いた時、初めて人々の話し合う声がしたのだった。人々は帰路に天皇の言葉を反芻していた、一言一句を反芻し、記憶に留めようと努力していたのだった。
天皇の天平宣言は無事に終わった。天平の世は天子より平らかになるという意味なのだろう。
天皇の言葉が、それぞれに今を生きる意味となり、糧となり始めた。
『彷徨五年の終わり』（振り子外交）
平城京に天皇が戻り都は活気付く。天皇が五年間もの間も都に不在である。遷都が繰り返された。このことは民衆に謎であり不安である。 これは聖武天皇の彷徨五年と云われる。
聖武天皇の彷徨五年は新たな、聖武政治展開の可能性を洞察するのに要した時間であろう。また、外郭的な諸条件の充足であった。布石を打たれた時間なのだろう。大仏建立の、皆が平城京の近くを望んだ。望んだのだから京の者達は「金を出す」だろう。言ったことの責任は皆が取るだろう。
藤原・橘・諸豪族の政治能力とその均衡、総力の利用である。聖武天皇はこの時期、自己の政治能力の見極めを行っていた。およそ国威発揚の国家事業であり、総力戦の陣形の獲得無くしてこの事業は意味が無い。皆の賛同を得ることは大切なことであり、このことに成功する必要があった。
大仏建立は平和の総力戦でもある。平城京七坊大路は巨大大仏の、シルクロードの東の終着駅であり、金色に輝く大仏の誕生の発信は、終着駅より、始発駅への日本文化の質的飛躍である。
○『五月十八日 天皇、松林苑に幸し給ひ、倍臣に穀を給ふ。』
天皇の天平宣言より先に貴族達の不安は徐々に高鳴りつつある。選民意識は無差別を望みはしない。努力は報われる。望みは叶う。既得権は命を賭けて守らねばならない。
「自分達は選ばれた者たちであり、その能力と資質と財力を備えている。善人である。何故に悪者の貧者や奴隷たちと同じであるのか。その真意を天皇に問いたい。その機会を天皇自らが与えた。
○『六月一日 伊勢大神宮に幣帛を捧ぐ。』
（これを描いたのは ↓ たぶんこの頃）
(Ｃ)２００８ Ｆｕｕｔａｒｏｕ Ａｓｈｉｈａｒａ．
【天平十七年】(７４５)『八月二十三日 盧遮那大佛鋳像の工を大和國に移す。天皇・皇后等その工を援け給ふ。』
天皇は朱雀門にて民衆に呼びかける。臣官を通さず、直接民衆に語りかける必要があることに気付いていた。親衛隊が両脇に控え警護に当たる。左右に臣下・百官が畏まる。南に伸びる道の前列を学僧たちが占める。行基衆がそれに続く。それだけで千人を越える。道の前に臣官の都の住人が占め、列の後はその日奈良に来た京外の人々が占める。木津からの聖武天皇の行列は、帰還を喜ぶ人々に伝わり出迎えの用意がなされていた。朱雀大路は大群衆で満ちている。二万人は軽く越えているだろう。それは延々と羅城門まで続く勢いである。
天皇は行列の最後尾を見届けると軽く咳払いをする。親衛隊長が両手を挙げると、それが合図となったのか呼びかけずとも皆が静粛にする。天皇は朱雀門の上に仁王立ちになる。
「みんな良く聞くが良い」
天皇が直接、民衆に語りかける。ありえないことだ。息をするのも控えられる。
聖武天皇は雄雄しく民衆に語りかける。
「人々よ！大御宝たちよ！その子供達よ。聞くが良い！私の真心を、今ここに、みんなに語ろう。心して聞いて欲しい。！」天皇は始めは大声を挙げ皆を睥睨し、後に声を和らげ歌うように語り始める。人々は聖武天皇の人となりを始めて目にする者もいる。人々を見まわす天皇の目は、人々の一人一人を見回すほどに、人々の呼吸の音さえも静寂さを取り戻し、小鳥の声が聞こえるほどにやがて静かなものとなる。
当時の民衆は「天皇の顔」など知りはしない。およそ役人や兵士、朝廷に連なる者でなければ「天皇という立場の者」のことなんか気にもしていない。頭が良くて「権力者の頂点」と理解するだろうか。
「私は神と仏の子供であり、ここに集うそなた達も神と仏の子供である。そのことには何の違いも無い！。このことにみんなは気付いておられるだろうか？」
人々は驚く。これは「天子さまの言葉で有るのか？」動揺の声と尋ねあう声が人々の口からひそひそと漏れてくる。
「ここにある私はみなさんを見つめるために目が二つあり、みなさんの声を聞くために耳は二つある。鼻も一つで穴が二つあるのは芳しい匂いが好きであり、ここで息をしてこれを止めると大変なことになる。」人々から笑いが漏れる。少し間を置き「みなさんと話すために口は一つだけあり、ここで水を飲み食事をいただく。知恵を授かり考えるために頭は一つあり、心も一つである。私に二つ心はない。ただ、みなさんと同じく戸惑い、迷うことが心を幾つもあるようにみんなに見せてしまう。」ここまで一気に話し込んだ天皇は二たびみんなを睥睨する。遠くまで声が届くように威圧し私事を止めるのだ゛。そしてさらに語る。
「私は仕事をするために２本の手が有る。歩くために２本の足があり、それを支える胴体が一つ有る。もし仮に剣でこの腹を切るならばみんなと同じ赤い血がほとばしり臓物がこぼれるだろう。私の容姿とみんなの容姿は、身につけているものが違うだけだ。そうではないのか？！」
人々は相槌を打ちながらも「自分達とは違う」とまだ考えている。衛兵もいる。天皇の言葉がそれ以上のことを続けて話すようでなければ呼応する声など挙げられない。
「みなさん。真実を見て欲しい。考えて欲しい！ここにある私を見て欲しい！」天皇は声を一段大きくした。
「私が天子・天皇と言われるのは社会的な立場でしかない。私もあなたたちと同じく父と母とをもち、祖父祖母を戴くものなのだ。そして祖先たちはこの国を作ってきた。私はその仕事をしているだけにすぎない。もっと上代を遡り、神代の世界を見渡せば、みんな同じ神の子であり仏の教えを戴く者に過ぎない。およそ神代の世にあればみんな同じ神の子なのだ。」穏やかに思慮深く語る天皇の言葉に説得力がみなぎる。
「何か違いはあるか！？」ここで一段と声の大きくなった時、人々の口から『そうだそうだ！』相槌の声が挙がり始める。
衛兵や臣下たちはこのことへの対応に為す術を知らない。「まさか天子さまが…」こんなことを言い出すとは考えもしていなかった。しかし今、天皇は家臣たちの一人一人を睥睨している。人々の声を封じる臣下達に一声も出させてはならない。貴族には選民意識が有るのだ。
一頻り人々の声が溢れた後天皇はその声を諌めるため両手を大きく上げ、ゆっくりと降ろしていく。
およそ指揮者の棒にに従うごとく人々の声は抑えられる。
「私は、聖徳太子を深く尊敬している。その聖徳太子様は、世間虚仮唯仏是真と言われた。
この御世は私の治める時代である。わたしはこの世間をも真実の世としてみたい。
私はみなさんに約束しよう。
私はここに真如の世界を実現しよう。
私とみんなが力をあわせてここに仏の世界を荘厳に顕現してみよう。」
天皇の思索と思いが堰を切ってほとばしる。
「およそ自分のことは自分でする。みんなのことはみんなでする。足りないところを助け合う。難儀の時を助け合う。およそみんなで一人の誰かを助ければ、みんながみんなを助け合えれば、この世に何の難儀のあることか？そうではないのか？！」
熱に浮かされたような天皇の言葉に人々は感染する。
「およそ人の世であるならば人を助けるのも謗るのも人であろう。家族も社会も人々みんなで支えあうものだろう。そうではないのか？」
天皇の熱が人々に伝わる、移る。人々は始めてであろう天皇の言葉に染まる。
「およそ人の世であるならば法があり律令があり、指導者がいて皆を指揮指導する。役人とはその一部であり貴族はこれに連なっている。しかし貴族もその始めをたどれば民草の一人にしかすぎぬ。私もそうで有る。」
この時、『賤しき者も同じか？！』、およそ金切り声が群集の群れから発せられた。
「そうとも。賤しき者も同じだ。およそ神代の時代にあってはみんな同じく神の子である。」
天皇は；冷静に噛み締めるように、目の前に神々を見るように、神の声のように優しく群集に向かい自信をもってこれに答える。
「神代にて信じる神は、人々により時代時代に違っていても、その根をたどれば母なる神、父なる神に至るのだ。仏の教えはそれを知らぬ神々であっても遥か天と地に及ぶのだ。」
人々は絶句した。
天子と賎民が同じ神の子仏の教えを戴く者とは誰も考えたりしなかった。身分制度は世襲制であり、貴族と賎民が同じとは誰一人考えたりしなかった。
市井の人々にはその現実が事実としてあるからだ。
人々より異論の声も上がる。
しかし天皇はその人々を睥睨する。
「私を見よ！貴族を見よ！臣下・衛士を見よ！賎民を見よ！奴隷を見よ！そしてその顔を見よ！血の色を見よ！容姿をよく見てみよ！いかなる違いが有るのか？！」
天皇の形相はスサノオのごとくある。声は雷をもち、
「真如の世界にあっては人は神の子であり仏の心を戴くのだ！！」
このことの先に、言葉の先に天皇の現実行動としての「放賎」が先にあった。馬飼・雑戸は平民となった。奴婢は放免された。婦女子の妻妾は禁じられた。大赦もあった。
人々はその意味を始めて知った。天皇より直接に真意を聞かされたのだ。疑う余地は無かった。
天皇は満身の力をこめて大きな声で語る。
「全ての人々が仏の心を戴く真如の世界をここ奈良の地に作ろう。大きな大きな毘盧遮那仏をここに作ろう。
およそこの国の全ての人々の力を合わせてこの地に創り上げよう。心ある人々よ。今日ここに来れなかった者たちに伝えよ！菩薩としてこの地に馳せ参じ、結集せよ！と。」
言い放ったのち天皇の顔はスサノオの顔より、静かに血の気が引き、今は如来の顔の如くあり、誰かがその顔を仰ぎ合掌した。誰もが手を合わせ始めた。誰一人息を呑んでいて声を発することができなかった。ただ合掌して壇上を去る天皇の後姿を見送ったのだった。
天皇が壇上を去って後しばらくしてから行基衆の一段より「万歳！」の声が連呼された。皆がそれに唱和して手を天に突き上げる。
コンコン・チキチキ・ドンドンと鳴り物が鳴り始めた。数人の者たちが踊り始めた。何の形も無い乱舞が起きた。
それが見る間に大勢のものたちに感染しだした。が、踊りの輪になったかと思うとそれが渦を巻き始めた。もう天皇も衛兵もいない。いるのは「民衆」だけである。はじめ市井の人々は行基衆を眺めるだけだった。しかし彼らの狂喜の意味が理解できる者たちから、喜び勇んで踊りの渦に飛び込んだ。大きな渦が巻き始める。先頭の者たちか渦から飛び出して前進しはじめた。朱雀大路を踊りながら南へ下り始めた。
群衆は三条大路にてまた大きな渦になり、巻き始め、人々を吸収して東の山を目指し始めた。
三条大路は狂喜し乱舞する民衆の行進が起きている。誰に遠慮も必要なかった。
『法の光が輝くぞ！真如の世界を創ろうぞ！南無釈迦牟尼仏！南無毘盧遮那仏！』
『そうじゃ、そうじゃ、仏の世の中、菩薩の世の中じゃ！』
大きな声が連呼される。みんなが唱和する。いま人々は解放され、夢の世界に遊ぶ。
人々が三々五々と散り始めたその後に、家路を目指し、各家庭にたどり着いた時、初めて人々の話し合う声がしたのだった。人々は帰路に天皇の言葉を反芻していた、一言一句を反芻し、記憶に留めようと努力していたのだった。
天皇の天平宣言は無事に終わった。天平の世は天子より平らかになるという意味なのだろう。
天皇の言葉が、それぞれに今を生きる意味となり、糧となり始めた。
『彷徨五年の終わり』（振り子外交）
平城京に天皇が戻り都は活気付く。天皇が五年間もの間も都に不在である。遷都が繰り返された。このことは民衆に謎であり不安である。 これは聖武天皇の彷徨五年と云われる。
聖武天皇の彷徨五年は新たな、聖武政治展開の可能性を洞察するのに要した時間であろう。また、外郭的な諸条件の充足であった。布石を打たれた時間なのだろう。大仏建立の、皆が平城京の近くを望んだ。望んだのだから京の者達は「金を出す」だろう。言ったことの責任は皆が取るだろう。
藤原・橘・諸豪族の政治能力とその均衡、総力の利用である。聖武天皇はこの時期、自己の政治能力の見極めを行っていた。およそ国威発揚の国家事業であり、総力戦の陣形の獲得無くしてこの事業は意味が無い。皆の賛同を得ることは大切なことであり、このことに成功する必要があった。
大仏建立は平和の総力戦でもある。平城京七坊大路は巨大大仏の、シルクロードの東の終着駅であり、金色に輝く大仏の誕生の発信は、終着駅より、始発駅への日本文化の質的飛躍である。
○『五月十八日 天皇、松林苑に幸し給ひ、倍臣に穀を給ふ。』
天皇の天平宣言より先に貴族達の不安は徐々に高鳴りつつある。選民意識は無差別を望みはしない。努力は報われる。望みは叶う。既得権は命を賭けて守らねばならない。
「自分達は選ばれた者たちであり、その能力と資質と財力を備えている。善人である。何故に悪者の貧者や奴隷たちと同じであるのか。その真意を天皇に問いたい。その機会を天皇自らが与えた。
○『六月一日 伊勢大神宮に幣帛を捧ぐ。』
（これを描いたのは ↓ たぶんこの頃）
(Ｃ)２００８ Ｆｕｕｔａｒｏｕ Ａｓｈｉｈａｒａ．
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コメント(19)
行基・良弁・佐伯今毛人
期日は定かでない。奈良ー東山、北の裾野、山の手の長く伸びた指（現・若草山の北の尾根筋。東大寺境内）に僧二人と役人と山伏一人が何やらと話している。
僧は行基と良弁。山伏は金剛丸（架空人物・ガードマン）、役人は佐伯今毛人（さえき の いまえみし）である。大仏と大仏殿の「寺地」の決定に来たのである。金剛丸も山伏姿が板につく。未だに二本差しではあるが手に持つのは槍に使えそうな長い錫杖である。
「行基さま、今はまだ樹々が覆うておりますが、この尾根は粘土を多く含んでおります。でっかい大仏、また大屋根を支えるにはこの尾根に勝るものはありますまい」
「なるほど……、いかにも……」
「和尚様、も少し上に登れば平城の都も一望できます。逆を言えば都より丸見えでございます」
四人は再び歩き出す。今毛人（いまえみし）の馬は麓に待たせてある。
「この山も既に柴や薪の入り合いの狩場となり、白い土が見えておりましょう」
「いかにも……」
「陽も登れば月も登る。その姿は麗しい」
「ここを指図堂になされませ。ここよりは大仏建立の様子が一望できますので（後に「天地院」）。
「あい、わかった。御頼みもうす」
「それで寺地の開墾と掘削はいつより始めましょうか」
「皆が待ちきれんと申す。明日より始めましょう。兵糧をお願い申し上げる。まずは百人で始めましょうか」
行基も新たな試みに胸が高ぶっていた。
「金剛丸よ。では北山に待たせてある若者たちに伝えてくれるか」
「合点でさ。皆、喜びますよ。で、和尚さまは……」
「毛人殿と都に戻る。首様にも知らせておかぬとな。
若草山は、平城京を建設の時に一合目を雑木による燃料資源提供の山としてまず禿山となった。二合目・三合目が禿山となったのは大仏建立による燃料エネルギーの提供からだろうか。諸説入り乱れる。現在は芝生が頭皮を装う。奈良公園の鹿達は「フンころがし」と共にこの頭皮を養っている。
さすがに平城京には日本各地より人々が集う。ただし京内ではなく塀の外の外京となる。専ら寺地を開く為だから平城京の東であり現東大寺の北側・東側となる。ここに行基衆達は結集する。平城京の北側は聖地であるためこのようになる。
そして天皇の呼びかけに呼応して参集した若者や民衆は、民衆そのものは平城京の南側、興福寺・春日大社・元興寺・の南西方向となり「ならまち」界隈に結集することとなる。東大寺への徒歩圏内となる。なお各寺院は臨時寺子屋の相も示しただろう。
そしてたぶん、もっぱら「縦穴式住居」に近い掘っ立て小屋が多く林立したであろう。
聖武天皇の呼びかけに誠心誠意呼応した人々もいれば、訳もわからずに誰かに付いて来た者もいただろうし、何かの理由で故郷を追われた者がここに紛れ込んでも不思議はない。都の人口は倍増したし、のちに周辺に集落も建設されたろう。それを補完するための社会的なシステムも形成されてゆく。
行基の「布施屋」は先駆的実験であり成功していた。行基衆と言わず、行基の知恵が知れ渡っていた。
大輪の花が咲き誇るために大地に深く張る根も、支える茎も、枝葉も必要で、それは自然発生と、人々の英知が整合性を保ち、自律的に機能してゆくのだろう。
指導者も社会も健全である時、「一点、北極星を目指し、衆星はこれに従う。」のだ。
平城京は「元は”古奈良湖”の北の端、清流・佐保川が流れ井戸を掘れば水が出る。
さすがに平城京には日本各地より人々が集う。ただし京内ではなく塀の外の外京となる。専ら寺地を開く為だから平城京の東であり現東大寺の北側・東側となる。ここに行基衆達は結集する。平城京の北側は聖地であるためこのようになる。
そして天皇の呼びかけに呼応して参集した若者や民衆は、民衆そのものは平城京の南側、興福寺・春日大社・元興寺・の南西方向となり「ならまち」界隈に結集することとなる。東大寺への徒歩圏内となる。なお各寺院は臨時寺子屋の相も示しただろう。
そしてたぶん、もっぱら「縦穴式住居」に近い掘っ立て小屋が多く林立したであろう。
聖武天皇の呼びかけに誠心誠意呼応した人々もいれば、訳もわからずに誰かに付いて来た者もいただろうし、何かの理由で故郷を追われた者がここに紛れ込んでも不思議はない。都の人口は倍増したし、のちに周辺に集落も建設されたろう。それを補完するための社会的なシステムも形成されてゆく。
行基の「布施屋」は先駆的実験であり成功していた。行基衆と言わず、行基の知恵が知れ渡っていた。
大輪の花が咲き誇るために大地に深く張る根も、支える茎も、枝葉も必要で、それは自然発生と、人々の英知が整合性を保ち、自律的に機能してゆくのだろう。
指導者も社会も健全である時、「一点、北極星を目指し、衆星はこれに従う。」のだ。
平城京は「元は”古奈良湖”の北の端、清流・佐保川が流れ井戸を掘れば水が出る。
『 市原王・佐伯今毛人 』
市原王は天智天皇の後裔である。皇后宮職徒舎人から後に写経司長官となる。
佐伯今毛人は佐伯宿弥人足の子で、平城左京に生まれ育つ人である。天平十年（７３８）頃は舎人監舎人であった。生粋の奈良っ子であり、人望もあった。天平十五年(７４３)の信楽京の大仏建立頃より、これに参加してゆく。聖武天皇の良き理解者であったのだろう。彼も三法を敬うひとであり、
勉強家であり努力を惜しまなかったようだ。
六月初旬、市原王と佐伯今毛人は馬に乗り、大仏殿の寺地を見学にやってきた。当然その前に寺地の選定がある。そのことは仲麻呂の手配であった。平城京より二条通りを真東に御笠山方向に進んできた。
そこには金鐘寺の良辨が二人の到着を待っていた。彼らは初対面だった。しかし二人は僧形の良辨にすぐに気付き挨拶を交わした。
「私は市原王と申します。この者は佐伯今毛人と申すものです」
二人は僧に対し恭しく礼をする。
「私は向こうに見える山房、金鐘寺の良辨と申します。お二人の到着を待っておりました。」彼も合掌し、礼を返す。
「それでは良辨さま。今日、我らがここに来た意味をご存知なのですね。」
「はい。承知しておりまする。お二人のことは仲麻呂さまより知らせを受けております。さっそく案内して進ぜましょう。まず我らが立つこの開けた土地を見て下さいませ。そして位置を覚えてください。そしてお二人が馬に乗り目指された御笠山ですが、すこし北の方向をご覧下さい。」
彼らは二条通りよりまっすぐ御笠山を目指してきた。今三人の立つところより少し離れたところに
東西に伸びる小高くなった尾根が露頭している。良辨はそれを見ろと言うのだ。
「あの東西に伸びた禿山のことですかな。」佐伯今毛人がいぶかしげに問う。
「そうです。三笠山の右手の尾根です。いま私達は左手の山の手の上にいるのです。」
良辨は澱みなく答える。
「私はあの尾根を切り崩し、毘盧遮那仏と金堂を作れば良いと考えております。」
良辨は答える。
市原王は文官らしく良辨の答えを静かに聞き、次の言葉を待つ。しかし佐伯今毛人には少し判らないところがあったのでそれを良辨に問う。
「やや、あの尾根を切り崩し寺地を開くのですか。手前の開けたところではないのですか。」
佐伯今毛人は聖武天皇のことを思う時、大仏建立を大きくしたかった。
「さよう、山の尾根を切り崩すのです。手前の開けたところには資材を集め、その東に人夫達の集落を作ります。」
「ほほう。良辨さまはいろいろと考えておいでのようですね。是非とも私たちに忌憚なく意見していただければ幸いです。」市原王は聞く耳を持つ人なのだ。
「では、あちらにまいりましょう。」良辨は歩いていこうとした。その時、佐伯今毛人が自分の馬を良辨に進めた。
「いえ、それには及びません。私は沙門の者ですので。」
三人は馬を引き、徒歩で禿山を目指した。
始めは遠くに見えたところだが、歩いて見ればすぐにふもとに着いた。
禿山が見る目に錯覚を与えたようだ。
「どうぞ、この土を見てください。」良辨が足元の土を見る。
二人も誘われて地面を見る。薄い黄色の土である。少し粘土質を含むのか、地肌は硬そうである。
佐伯今毛人は小石を見つけて地肌を擦ってみた。すると地肌はじりじりとこすれて白久黄色い粉末を産む。市原王もそれを見て、
「佐伯今毛人よ、あの山肌はどうであろうか。」と言うと、心得たとばかりに佐伯今毛人は山肌に駈けて行き同じ行為をしてみた。
「市原王さま。ここも同じでございます」と返答する。してやったりと良辨が頷く。
「しかし、市原王さま。ここを切り開くとなれば手ごわそうで日数が嵩むでしょうな。」
「佐伯今毛人よ。それは案ずるに及ばない。良辨さまにはきっと良い考えがおありなのだ。そうでございましょう？。」
「少々の知恵がございます。また行基さまに授けていただいた大きな知恵もございますれば、三笠山にて披露いたしましょう。どうぞお二人とも三笠山の一合目まで私目にお付き合いくだされませ。」
三人は胸をわくわくさせながら若草山の天辺を目指した。
途中の話題は聖武天皇の天平宣言であり理想世界の現実化の可否であった。もっぱら佐伯今毛人が良辨に問う、宗教問答のようでもあった。市原王は慎重な沈思黙考の人なのか二人の問答を心地よく聞いていた。佐伯今毛人が問うことは市原王の問いでもあった。この人はただ雄弁さに少し欠けていたようだ。
市原王は天智天皇の後裔である。皇后宮職徒舎人から後に写経司長官となる。
佐伯今毛人は佐伯宿弥人足の子で、平城左京に生まれ育つ人である。天平十年（７３８）頃は舎人監舎人であった。生粋の奈良っ子であり、人望もあった。天平十五年(７４３)の信楽京の大仏建立頃より、これに参加してゆく。聖武天皇の良き理解者であったのだろう。彼も三法を敬うひとであり、
勉強家であり努力を惜しまなかったようだ。
六月初旬、市原王と佐伯今毛人は馬に乗り、大仏殿の寺地を見学にやってきた。当然その前に寺地の選定がある。そのことは仲麻呂の手配であった。平城京より二条通りを真東に御笠山方向に進んできた。
そこには金鐘寺の良辨が二人の到着を待っていた。彼らは初対面だった。しかし二人は僧形の良辨にすぐに気付き挨拶を交わした。
「私は市原王と申します。この者は佐伯今毛人と申すものです」
二人は僧に対し恭しく礼をする。
「私は向こうに見える山房、金鐘寺の良辨と申します。お二人の到着を待っておりました。」彼も合掌し、礼を返す。
「それでは良辨さま。今日、我らがここに来た意味をご存知なのですね。」
「はい。承知しておりまする。お二人のことは仲麻呂さまより知らせを受けております。さっそく案内して進ぜましょう。まず我らが立つこの開けた土地を見て下さいませ。そして位置を覚えてください。そしてお二人が馬に乗り目指された御笠山ですが、すこし北の方向をご覧下さい。」
彼らは二条通りよりまっすぐ御笠山を目指してきた。今三人の立つところより少し離れたところに
東西に伸びる小高くなった尾根が露頭している。良辨はそれを見ろと言うのだ。
「あの東西に伸びた禿山のことですかな。」佐伯今毛人がいぶかしげに問う。
「そうです。三笠山の右手の尾根です。いま私達は左手の山の手の上にいるのです。」
良辨は澱みなく答える。
「私はあの尾根を切り崩し、毘盧遮那仏と金堂を作れば良いと考えております。」
良辨は答える。
市原王は文官らしく良辨の答えを静かに聞き、次の言葉を待つ。しかし佐伯今毛人には少し判らないところがあったのでそれを良辨に問う。
「やや、あの尾根を切り崩し寺地を開くのですか。手前の開けたところではないのですか。」
佐伯今毛人は聖武天皇のことを思う時、大仏建立を大きくしたかった。
「さよう、山の尾根を切り崩すのです。手前の開けたところには資材を集め、その東に人夫達の集落を作ります。」
「ほほう。良辨さまはいろいろと考えておいでのようですね。是非とも私たちに忌憚なく意見していただければ幸いです。」市原王は聞く耳を持つ人なのだ。
「では、あちらにまいりましょう。」良辨は歩いていこうとした。その時、佐伯今毛人が自分の馬を良辨に進めた。
「いえ、それには及びません。私は沙門の者ですので。」
三人は馬を引き、徒歩で禿山を目指した。
始めは遠くに見えたところだが、歩いて見ればすぐにふもとに着いた。
禿山が見る目に錯覚を与えたようだ。
「どうぞ、この土を見てください。」良辨が足元の土を見る。
二人も誘われて地面を見る。薄い黄色の土である。少し粘土質を含むのか、地肌は硬そうである。
佐伯今毛人は小石を見つけて地肌を擦ってみた。すると地肌はじりじりとこすれて白久黄色い粉末を産む。市原王もそれを見て、
「佐伯今毛人よ、あの山肌はどうであろうか。」と言うと、心得たとばかりに佐伯今毛人は山肌に駈けて行き同じ行為をしてみた。
「市原王さま。ここも同じでございます」と返答する。してやったりと良辨が頷く。
「しかし、市原王さま。ここを切り開くとなれば手ごわそうで日数が嵩むでしょうな。」
「佐伯今毛人よ。それは案ずるに及ばない。良辨さまにはきっと良い考えがおありなのだ。そうでございましょう？。」
「少々の知恵がございます。また行基さまに授けていただいた大きな知恵もございますれば、三笠山にて披露いたしましょう。どうぞお二人とも三笠山の一合目まで私目にお付き合いくだされませ。」
三人は胸をわくわくさせながら若草山の天辺を目指した。
途中の話題は聖武天皇の天平宣言であり理想世界の現実化の可否であった。もっぱら佐伯今毛人が良辨に問う、宗教問答のようでもあった。市原王は慎重な沈思黙考の人なのか二人の問答を心地よく聞いていた。佐伯今毛人が問うことは市原王の問いでもあった。この人はただ雄弁さに少し欠けていたようだ。
佐伯今毛人は現場の人である。疑問のあるのは仕事に差し支える。よって疑問は極力少なくする。
逆を言えば何でも知っていたいし、知るために人に教えを請うことにためらいがない。また自分の知ることを後進に知らせるのは楽しみでもある人なのだろう。彼が舎人監であることは、その人柄を皆が認めるからであった。
三人は一時の後に三笠山の一合目の頂上に着いた。天平人であるから三人共に健脚であった。
三人は平城京を一望し、さっき三人のであった位置を確認する。良辨が口火を切る。
「さっき私たちの立ったところは、あの山の手の尾根であります」
見れば禿山の尾根が右手に見え、それは平城京に手を伸ばすようである。二人はさっきの立ち位置を確認しようとするが、正確な位置が見えない。
「少し判りづらいでしょう。では、手前の大きな木が見えるでしょう。そして向こうの小さな山が見えるでしょう。それと山の尾根を交差するところが私たちの立ち位置です。どうでしょうか。」
「なるほど、山の手の四分の一位の位置ですな。」
市原王が相槌を打つ。佐伯今毛人も合点がいった。
「山を切り崩したら土が出ます。ここからは見えないのですが、その土で北の谷を埋めます。さすれば寺地はまた広くなります。そしてあの山の手の東の上に行基さまの指揮所として天地院を構えます。」
「さよう。その行基さまの知恵とは。何でござりましょう。早く私たちにも教えてくだされ。」
佐伯今毛人は行基を見知っている。信楽京では彼の指揮に従っていた。
「今毛人よ。そう、あわてずに言葉を待て。物に順序があるように、話にも順序がある。」
市原王も熱くなる自分を諌める。これは佐伯今毛人よりも、自分に向けた言葉である。
三人は陽の落ちそうになる時間まで三笠山一合目の頂上で歓談していた。少し肌寒くもある。
陽の落ちるのにまかせて三人は山を下った。
逆を言えば何でも知っていたいし、知るために人に教えを請うことにためらいがない。また自分の知ることを後進に知らせるのは楽しみでもある人なのだろう。彼が舎人監であることは、その人柄を皆が認めるからであった。
三人は一時の後に三笠山の一合目の頂上に着いた。天平人であるから三人共に健脚であった。
三人は平城京を一望し、さっき三人のであった位置を確認する。良辨が口火を切る。
「さっき私たちの立ったところは、あの山の手の尾根であります」
見れば禿山の尾根が右手に見え、それは平城京に手を伸ばすようである。二人はさっきの立ち位置を確認しようとするが、正確な位置が見えない。
「少し判りづらいでしょう。では、手前の大きな木が見えるでしょう。そして向こうの小さな山が見えるでしょう。それと山の尾根を交差するところが私たちの立ち位置です。どうでしょうか。」
「なるほど、山の手の四分の一位の位置ですな。」
市原王が相槌を打つ。佐伯今毛人も合点がいった。
「山を切り崩したら土が出ます。ここからは見えないのですが、その土で北の谷を埋めます。さすれば寺地はまた広くなります。そしてあの山の手の東の上に行基さまの指揮所として天地院を構えます。」
「さよう。その行基さまの知恵とは。何でござりましょう。早く私たちにも教えてくだされ。」
佐伯今毛人は行基を見知っている。信楽京では彼の指揮に従っていた。
「今毛人よ。そう、あわてずに言葉を待て。物に順序があるように、話にも順序がある。」
市原王も熱くなる自分を諌める。これは佐伯今毛人よりも、自分に向けた言葉である。
三人は陽の落ちそうになる時間まで三笠山一合目の頂上で歓談していた。少し肌寒くもある。
陽の落ちるのにまかせて三人は山を下った。
『 大仏殿の規模 』
話しは少し遡る。
佐伯今毛人が市原王に呼ばれ部屋に入ると、そこには藤原仲麻呂が同席していた。佐伯今毛人は京内にて藤原仲麻呂を見かけることが会っても話したことはなかった。富貴を極めた藤原氏と市井の一役人とでは立場が自ずと違った。
「ただいま戻りました。」佐伯今毛人は市原王に挨拶する。
「ごくろうであった」市原王は立ち上がり佐伯今毛人の労をねぎらう。
「仲麻呂殿、これが先に話していた佐伯今毛人です。我等へのご用向きを伺いましょう。」
藤原仲麻呂も立ち上がり会釈する。
「じつはお二人にご相談したいことがありこちらに参りました。他でもない聖武天皇の大仏造顕についてです。もうお二人の計画は進みつつあるのでしょうが、その規模と大きさについて知っておられることを私にも教えてほしいのです。」仲麻呂は静かに語り出す。そして言葉を継いだ。
「私も紫香楽宮は何度か訪れました。また甲賀寺の盧遮那大佛の現場も訪れました。そして私は感じたのです。そして直感したのです。これは、紫香楽京で行われていることは天皇の意志に及んでいない、と。」
仲麻呂のその言葉を聞き二人はハッとなり顔を見合わせた。それは市原王も感じ佐伯今毛人感じていたことでもあった。それを仲麻呂に指摘されるとは二人とも思っても見なかった。
「お二人はご存知でしょう。紫香楽にては天皇も盧遮那大佛も歓迎されていなかった。むしろ追い払われた。事実、そうであったでしょう。」
そのとおりだった。市原王も佐伯今毛人も二の句が継げない。
二人のその顔を見るでなく仲麻呂は静かに語り継ぐ。
「私は聖武天皇の言われる蓮華蔵世界や荘厳世界が、盧遮那大佛の造顕により天皇の言われるごとくに、すぐにそうなるとは考えてはいません。しかしこの国の総力を挙げて盧遮那大佛造顕をやり遂げることには大賛成です。何故ならそこが大学となり日本中の若者たちがここで多くのことを学ぶでしょうから。このことは次の世代へと受け継がれて、未来にきっとこの国を素晴らしいものにするでしょう。しかしそれにはもっともっと大きな時間がかかるのでしょうね。私はそう考えています。」仲麻呂は息を継ぐ。そして静かに二人の顔を見比べ言葉を継ぐ。
「お二人へのご相談とは、是非『天皇の意志を貫徹する壮大なもの』を計画していただきたい。そのことにこの仲麻呂は力を惜しみますまい。」
静かな仲麻呂の顔がここに来て朱を帯びる。
「今、三笠山の北方の山の手でお二人は仕事をしておられます。ここは奈良、平城京です。私たちのご先祖と一門がお二人の仕事の後押しを致しましょう。どうぞ後世に名を残す壮大な仕事を計画なされませ。そしてやり遂げることです。」
「なんですと、もっと壮大にしろ、ということはまだこれ以上に規模を大きくせよということですか。」
佐伯今毛人の顔は真っ赤になっている。
「天皇は『僧尼、一万人』と申しておられる。一度に一万人に教えを授ける」
市原王は部屋の一隅を見つめていた。部屋の一隅には大仏殿の模型があった。それは紫香楽の大仏殿の模型であった。その様式は河内の知識寺を摸したものだった。
「その通りです。金堂の規模がそれでは僧尼一万人の収容は無理でしょう。」
仲麻呂は静かである、が、思ったことは言う。
「そうだな……。大仏殿に、あわせて一万人の収容などと……、そんな途方もない大きな伽藍をつくるなどと……。」
市原王が独り言のように言葉を継いだ。
「はは。ものの例えで申したまで。お二人に申し上げます。聖武天皇の詔を良く思い出し、吟味していただきたい。」
しばしの沈黙が横たわる。市原王がつぶやく。
『国銅を尽くして象を溶かし、大山をきりて以て堂を構へ……。』
市原王が反芻するように思い出しつぶやく。
「その通りであります。この事業はこの国を挙げてすることです。この国の全ての人がこの事業に参加してこそ成し遂げられる大事業なのです。だからもっと壮大なものを、しかし現実に完成するものを、それを、お二人に検討して頂きたい。」
仲麻呂は笑顔である。市原王も佐伯今毛人も途方にくれている。
その面持ちがあまりに真剣で、してやったりの笑みが仲麻呂からこぼれた。
「申し上げます。是非とも『天皇の意志を貫徹する壮大なもの』を計画し完成していただきたい。この私も尽力いたします。なにとぞよろしくお願い申し上げます」
仲麻呂は二人に丁寧に礼をして、静かに部屋を去っていった。
部屋に残された市原王も佐伯今毛人自分自身を取り戻すのに少し時間を要した。二人は「壮大なもの」の中で溺れていた。仲麻呂の言葉を吟味していた。
話しは少し遡る。
佐伯今毛人が市原王に呼ばれ部屋に入ると、そこには藤原仲麻呂が同席していた。佐伯今毛人は京内にて藤原仲麻呂を見かけることが会っても話したことはなかった。富貴を極めた藤原氏と市井の一役人とでは立場が自ずと違った。
「ただいま戻りました。」佐伯今毛人は市原王に挨拶する。
「ごくろうであった」市原王は立ち上がり佐伯今毛人の労をねぎらう。
「仲麻呂殿、これが先に話していた佐伯今毛人です。我等へのご用向きを伺いましょう。」
藤原仲麻呂も立ち上がり会釈する。
「じつはお二人にご相談したいことがありこちらに参りました。他でもない聖武天皇の大仏造顕についてです。もうお二人の計画は進みつつあるのでしょうが、その規模と大きさについて知っておられることを私にも教えてほしいのです。」仲麻呂は静かに語り出す。そして言葉を継いだ。
「私も紫香楽宮は何度か訪れました。また甲賀寺の盧遮那大佛の現場も訪れました。そして私は感じたのです。そして直感したのです。これは、紫香楽京で行われていることは天皇の意志に及んでいない、と。」
仲麻呂のその言葉を聞き二人はハッとなり顔を見合わせた。それは市原王も感じ佐伯今毛人感じていたことでもあった。それを仲麻呂に指摘されるとは二人とも思っても見なかった。
「お二人はご存知でしょう。紫香楽にては天皇も盧遮那大佛も歓迎されていなかった。むしろ追い払われた。事実、そうであったでしょう。」
そのとおりだった。市原王も佐伯今毛人も二の句が継げない。
二人のその顔を見るでなく仲麻呂は静かに語り継ぐ。
「私は聖武天皇の言われる蓮華蔵世界や荘厳世界が、盧遮那大佛の造顕により天皇の言われるごとくに、すぐにそうなるとは考えてはいません。しかしこの国の総力を挙げて盧遮那大佛造顕をやり遂げることには大賛成です。何故ならそこが大学となり日本中の若者たちがここで多くのことを学ぶでしょうから。このことは次の世代へと受け継がれて、未来にきっとこの国を素晴らしいものにするでしょう。しかしそれにはもっともっと大きな時間がかかるのでしょうね。私はそう考えています。」仲麻呂は息を継ぐ。そして静かに二人の顔を見比べ言葉を継ぐ。
「お二人へのご相談とは、是非『天皇の意志を貫徹する壮大なもの』を計画していただきたい。そのことにこの仲麻呂は力を惜しみますまい。」
静かな仲麻呂の顔がここに来て朱を帯びる。
「今、三笠山の北方の山の手でお二人は仕事をしておられます。ここは奈良、平城京です。私たちのご先祖と一門がお二人の仕事の後押しを致しましょう。どうぞ後世に名を残す壮大な仕事を計画なされませ。そしてやり遂げることです。」
「なんですと、もっと壮大にしろ、ということはまだこれ以上に規模を大きくせよということですか。」
佐伯今毛人の顔は真っ赤になっている。
「天皇は『僧尼、一万人』と申しておられる。一度に一万人に教えを授ける」
市原王は部屋の一隅を見つめていた。部屋の一隅には大仏殿の模型があった。それは紫香楽の大仏殿の模型であった。その様式は河内の知識寺を摸したものだった。
「その通りです。金堂の規模がそれでは僧尼一万人の収容は無理でしょう。」
仲麻呂は静かである、が、思ったことは言う。
「そうだな……。大仏殿に、あわせて一万人の収容などと……、そんな途方もない大きな伽藍をつくるなどと……。」
市原王が独り言のように言葉を継いだ。
「はは。ものの例えで申したまで。お二人に申し上げます。聖武天皇の詔を良く思い出し、吟味していただきたい。」
しばしの沈黙が横たわる。市原王がつぶやく。
『国銅を尽くして象を溶かし、大山をきりて以て堂を構へ……。』
市原王が反芻するように思い出しつぶやく。
「その通りであります。この事業はこの国を挙げてすることです。この国の全ての人がこの事業に参加してこそ成し遂げられる大事業なのです。だからもっと壮大なものを、しかし現実に完成するものを、それを、お二人に検討して頂きたい。」
仲麻呂は笑顔である。市原王も佐伯今毛人も途方にくれている。
その面持ちがあまりに真剣で、してやったりの笑みが仲麻呂からこぼれた。
「申し上げます。是非とも『天皇の意志を貫徹する壮大なもの』を計画し完成していただきたい。この私も尽力いたします。なにとぞよろしくお願い申し上げます」
仲麻呂は二人に丁寧に礼をして、静かに部屋を去っていった。
部屋に残された市原王も佐伯今毛人自分自身を取り戻すのに少し時間を要した。二人は「壮大なもの」の中で溺れていた。仲麻呂の言葉を吟味していた。
「無茶なことを言う……。」
市原王がつぶやくように言う。
「無茶なことですな……。しかし、無茶なことですかな」
佐伯今毛人が反芻するように言う。そして言葉を継ぐ。
「しかし壮大なものに挑戦するのは、男子の本懐ではありますな…。」
と、佐伯今毛人。
「うむ。それはそうであるのだが……。」
市原王は半信半疑である。
「やってやれなくもない、そうは思われませんか。」
と、佐伯今毛人。
「言うは安いが、できるかな。なにか知恵でもあるのか。」
市原王が問い返す。
「いえ。私に知恵などないのですが…。ただ、二人で話するよりも、それなりに人を集めて知恵をだしあってみて再検討するのが宜しいかと考えます。」
佐伯今毛人は話を振り替えた。
「そうだな。我々には荷が勝ちすぎる。他の者にも発言させるが良いな。発言した分について責任を担当してもらおう。そうして、任務分担するのが良いだろうな。」
と、市原王も責任転嫁を暗に含める。話しが大きすぎて自信が無いのだ。
「そうですな。人が多くなれば荷も少なくなる道理。それは使えますな。」
佐伯今毛人も気が付いた。
「うむ。人柱とは、言い得て妙であるな。」
と、市原王は先の事を考える。
「ま、どれだけ出てくるのかしっかりと見とどけましょう。」
佐伯今毛人も話が見えるので受流すことにした。
二人は大仏殿の模型を見つめた。それは紫香楽の大仏殿の時に造ったものである。
後日「大仏建立拡大委員会」が早朝より開催された。そこには新たな大仏殿の設計図と模型があった。そこでは市原王が基調報告を行い、国（中）君麻呂が毘盧遮那佛金銅造の最大値を言い、佐伯今毛人が大仏殿の最大規模を発表した。むろん模型は話の中心にある。
しかし非難轟々の嵐が起こる。要旨は、
「そんなのできっこないだろう！」
「大仏建立による困窮する財政事情はどう解決するのか！」
この二点が反論要旨である。
その時、沈黙していた仲麻呂が手を挙げ、皆に静粛を求め立ち上がった。そしてここぞとばかり勇猛に語り出した。
「みなさん。よく考えていただきたい。日ノ本の国はどのような国でありましょうか。聖徳太子の外交努力により日ノ本は朝鮮・中国に負けぬ劣らぬ国とはなりました。文明も明らかになりました。しかしこの日ノ本でさえ東国・北国にてはまだまだ支配の及ばぬところではありますまいか。
いつになれば日ノ本は統一国家になるのでしょうか。そして遥か海の彼方にある国々は、その王たちは、東海のこの島国日ノ本を知ることはあるでしょうか。どう見ておるのでしょうか。
帝様のお考えは『大仏建立』を全世界に発信することであります。遥か海の彼方にまだまだ我々の知らない国が在るのですぞ。それは貴方達がこの日ノ本の主人公であることを世界中に知らしめる機会であります。
そのために『偉大な事業』を行うのです。それは並大抵のことでは世間より、また世界より嘲笑を買うことになるでしょう。実行するならば「壮大なる事」をやってみようではありませんか。
稀有壮大なことに諸豪族が力を合わせてみんなで挑戦するのです。これができれば、このことを朝鮮や中国はどのように見て感じるでありましょうか。これはこの国の太平を世界に知らしめることになるのです。 そのことは「戦火を交える」以上の政治外交ではありますまいか。
その稀有壮大を実現し、大仏建立を顕現して、世界中の諸王・王族達をこの日ノ本にお客様として招待しようではありませんか。そして世界を相手に交易を始めようではありませんか。
そのことは世界中の富をこの日ノ本に招くことに等しい。そう考えればいかがでしょうか。
日ノ本の国もみなさんも、世界の諸国の王達と並び、対等に交易を行うのです。大仏の建立により世界中の耳目をここに集中するのです。如何なものでしょうか。」
『絹・シルクロード』
「稀有壮大なる事に国を挙げて挑戦する」このことのメリットを簡潔に語ったのだ。世界中の富を集めるは大言であったとしても、実際にコマーシャルが世界中に届けばそれはある程度は可能であっただろうと私は考える。その証拠は「正倉院宝物」である。
東海の小さな島国の日ノ本の国の在るのを世界中に知らしめて、各国と対等に交易する。そんなことが本当にできるのか。臣官達は半信半疑だ。
仲麻呂の発言の後小休止がとられた。
仲麻呂の発言を巡り小休止の間に各々が誰彼となく意見交換をした。この時間が状況を切り開き始めた。
昼を過ぎてからこのことのを巡る様々な質疑があった。
質問要旨を突き詰めれば
「建築費用はどのようにして拠出するのか。誰がいくらだすのか。」
是が大きな争点となる。
このことには仲麻呂だけでなく、藤原氏が多くのものを提示した。天皇の関心を取り込むためである。平城京からの天皇の乖離はあらゆる意味で都合が悪い。今では「安積親王」の暗殺の実行犯は藤原氏であることを、言わずもがな誰もが周知していた。藤原氏は汚名挽回する必要があったのだ。仲麻呂のリップサービスはこのことが背景であろう。このことには光明皇后の意志もあるだろう。しかし仲麻呂自身にとっては「聖武天皇の意志を実現する」のが本望であった。
仲麻呂は優秀な青年貴族なのだ。いやもう中年か、壮年か。だったら壮年の気概が大胆な発言と果敢な行動を裏打ちするのだ。青年の気概は壮年の仲麻呂に溢れてある。ただ今は３９歳、参議兼左京大夫、兼近江守であり、仕事盛りである。
『「仲麻呂」は南家武智麻呂の二男であり、生年は(７０６)頃。豊成の弟である。政界登場は天平六年(７３４)正月十七日の従五位下の叙爵である。後(７４１)に民部卿、(７４３)参議兼左京大夫、(７４５)兼近江守である。』
（平凡社「大百科事典」 藤原仲麻呂 抜粋 岸俊夫）
藤原氏が多くのものを提示し始めると、諸王達も多くの額を示し始めた。彼らも天皇の関心を取り込むためである。天皇の決意のほどは皆が知る。しかし「いかほどのものか」と疑うところがあった。
しかし藤原氏の入れ込みようを見るとただならぬものがあり、「交易」という観点を含めれば「算盤の合うこと」なのかもしれない。今ここで乗り遅れると損をする。そんな雰囲気が会議場にただよい始めたのだ。
めでたく、その日の夕刻には「稀有壮大な大仏建立」の建設が意思統一された。
「稀有壮大なる事に国を挙げて挑戦する」このことのメリットを簡潔に語ったのだ。世界中の富を集めるは大言であったとしても、実際にコマーシャルが世界中に届けばそれはある程度は可能であっただろうと私は考える。その証拠は「正倉院宝物」である。
東海の小さな島国の日ノ本の国の在るのを世界中に知らしめて、各国と対等に交易する。そんなことが本当にできるのか。臣官達は半信半疑だ。
仲麻呂の発言の後小休止がとられた。
仲麻呂の発言を巡り小休止の間に各々が誰彼となく意見交換をした。この時間が状況を切り開き始めた。
昼を過ぎてからこのことのを巡る様々な質疑があった。
質問要旨を突き詰めれば
「建築費用はどのようにして拠出するのか。誰がいくらだすのか。」
是が大きな争点となる。
このことには仲麻呂だけでなく、藤原氏が多くのものを提示した。天皇の関心を取り込むためである。平城京からの天皇の乖離はあらゆる意味で都合が悪い。今では「安積親王」の暗殺の実行犯は藤原氏であることを、言わずもがな誰もが周知していた。藤原氏は汚名挽回する必要があったのだ。仲麻呂のリップサービスはこのことが背景であろう。このことには光明皇后の意志もあるだろう。しかし仲麻呂自身にとっては「聖武天皇の意志を実現する」のが本望であった。
仲麻呂は優秀な青年貴族なのだ。いやもう中年か、壮年か。だったら壮年の気概が大胆な発言と果敢な行動を裏打ちするのだ。青年の気概は壮年の仲麻呂に溢れてある。ただ今は３９歳、参議兼左京大夫、兼近江守であり、仕事盛りである。
『「仲麻呂」は南家武智麻呂の二男であり、生年は(７０６)頃。豊成の弟である。政界登場は天平六年(７３４)正月十七日の従五位下の叙爵である。後(７４１)に民部卿、(７４３)参議兼左京大夫、(７４５)兼近江守である。』
（平凡社「大百科事典」 藤原仲麻呂 抜粋 岸俊夫）
藤原氏が多くのものを提示し始めると、諸王達も多くの額を示し始めた。彼らも天皇の関心を取り込むためである。天皇の決意のほどは皆が知る。しかし「いかほどのものか」と疑うところがあった。
しかし藤原氏の入れ込みようを見るとただならぬものがあり、「交易」という観点を含めれば「算盤の合うこと」なのかもしれない。今ここで乗り遅れると損をする。そんな雰囲気が会議場にただよい始めたのだ。
めでたく、その日の夕刻には「稀有壮大な大仏建立」の建設が意思統一された。
『寺地選定』の決まったその夜、行基は今毛人の館に泊まり、夜食を得て、翌朝に二人で平城京の内裏を訪れた。
「帝様、行基でございます」
「今毛人です」
「おう、よく来た。どうだ決まったか」
「はい、東山の北の尾根に決めました」
「そうか、こちらより見えるか」
「はい、東に廻れば見えましょう」
皇后も話を聞き及び内裏より表に出て来た。
「お坊様、ご機嫌いかがか」
「はい、丈夫にしております。皇后さまもお健やかに」
「ありがとう。私も丈夫にしております」
「おいおい、挨拶は置いて早く教えてくれ」
今毛人が内裏の東に先回りしている。見えるかどうか確認したのだろう。
「ここでは塀が邪魔して見えません。回り廊下に上がれば見えると思います」
「そうか、そういうことだ。ささ、上がろう」
天皇と皇后、そして行基が廊下を廻る。今毛人が後について来た。
その位置よりは東山（若草山）が一望できた。
「あの東山の北の尾根がよろしいと思われます」
「あの禿山の北……」
「左様に、まだ樹々や柴の残る処にございます。禿山の左側にございます」
「あの黒っぽくこんもりと突き出た処か」
「左様でございます。まもなく若者達で柴や樹々の伐採が始まります。土地が拓けばここよりも人々の姿の見えるやもしれませぬ」
「それは良い。ここよりはいつも陽を仰ぎ、月も楽しんでおる。そうか、大屋根も出来るのだな」
「はい、将来は大きな屋根の見える事でございましょう。大仏が中に鎮座致します」
「そうか、それは良い。まさに大仏の世の中となる。素晴しい事じゃ儂は嬉しいぞ。この喜びを何としようか……」
「善政に努め為され。それが帝様のお仕事」
「今毛人、お前もするのか」
「私も働きます。任せてください」
「判った、宜しく頼むぞ」
二人は内裏を去った。行基は今毛人より昨日の馬をもらい、東山の現場を目指した。今毛人は工事の段取りを考える。
(Ｃ)２０１９ Ｆｕｕｔａｒｏｕ Ａｓｈｉｈａｒａ．
「帝様、行基でございます」
「今毛人です」
「おう、よく来た。どうだ決まったか」
「はい、東山の北の尾根に決めました」
「そうか、こちらより見えるか」
「はい、東に廻れば見えましょう」
皇后も話を聞き及び内裏より表に出て来た。
「お坊様、ご機嫌いかがか」
「はい、丈夫にしております。皇后さまもお健やかに」
「ありがとう。私も丈夫にしております」
「おいおい、挨拶は置いて早く教えてくれ」
今毛人が内裏の東に先回りしている。見えるかどうか確認したのだろう。
「ここでは塀が邪魔して見えません。回り廊下に上がれば見えると思います」
「そうか、そういうことだ。ささ、上がろう」
天皇と皇后、そして行基が廊下を廻る。今毛人が後について来た。
その位置よりは東山（若草山）が一望できた。
「あの東山の北の尾根がよろしいと思われます」
「あの禿山の北……」
「左様に、まだ樹々や柴の残る処にございます。禿山の左側にございます」
「あの黒っぽくこんもりと突き出た処か」
「左様でございます。まもなく若者達で柴や樹々の伐採が始まります。土地が拓けばここよりも人々の姿の見えるやもしれませぬ」
「それは良い。ここよりはいつも陽を仰ぎ、月も楽しんでおる。そうか、大屋根も出来るのだな」
「はい、将来は大きな屋根の見える事でございましょう。大仏が中に鎮座致します」
「そうか、それは良い。まさに大仏の世の中となる。素晴しい事じゃ儂は嬉しいぞ。この喜びを何としようか……」
「善政に努め為され。それが帝様のお仕事」
「今毛人、お前もするのか」
「私も働きます。任せてください」
「判った、宜しく頼むぞ」
二人は内裏を去った。行基は今毛人より昨日の馬をもらい、東山の現場を目指した。今毛人は工事の段取りを考える。
(Ｃ)２０１９ Ｆｕｕｔａｒｏｕ Ａｓｈｉｈａｒａ．
「よいしょよいしょ！」の掛け声は「良い事をしよう」の名残だろうか。この掛け声は日本人の歴史のいつの頃に生まれたのだろうか。人よりして働けば、汗も血も涙も流れ出て掛け声も、やがて唄も生まれるだろう。
大仏建立の「寺地」に大勢の若者や人々が一斉に作業を始めている。先ずは小さな樹木を鉈や斧で刈り、そして木々を倒し始める。「木を切る」のでは株が残る。木々の根を掘り、木々の上方に縄を掛けては大勢で引き倒すのである。
三日目ともなれば白く黄色い地肌も遠くより見えるようにもなる。実際、その様子を飽かずに見ている人がいるから困ったものだ。聖武天皇である。物見の為の台座をつくり、そこより胡麻粒のような人々の動きと土地の開ける様子を飽かずに見ているのである。
そこに皇后も時折り姿を現す。こちらは天皇の様子が気になるのである。以前に「毒殺」されようとし、まだ「ぶす」の毒気が抜けないのである。大気は澄んでいるが、但し陽が高く上った後の事である。平城京が拓けていても、他は樹木が覆っている。土地が開かれればやがてその姿も樹木の下に、そして次は足場の木組が姿を現す。
それから一週間くらいの後に四大寺を中心に、僧尼４００人が早朝「金堂予定地」に駆り出された。その地には櫓が組まれ「縄張り」がしてあった。午前中はその中の雑木が切られ、根を切られ、草が抜かれた。昼過ぎにそこはきれいな禿山となる。
そして基壇の想定箇所と、櫓の組まれてある俳壇の想定箇所をして「１００ー１００ー１００ー１００人」の正方形に僧尼らは整列させられた。櫓には良辨がその上に立った。
「みなさま、早朝よりお集まりいただき、ご苦労様にございます。みなさまの立ち位置に、ありがたくも聖武天皇御発願の毘盧遮那仏と金堂の建設を目論んでございます。つきましてはみなさまのご協力をもうしばらく宜しくお願い申し上げます。」
次に市原王が櫓の上に立つ。
「今、私の立ち位置が、ありがたくもご俳壇の位置となり、私の後ろには大きな大きな毘盧遮那仏がおわします。金堂の規模と大きさを測るために実際のところが見等もつかぬのでみなさまの力添えをお願い申し上げたしだいです。今ここにみなさまの大きな大きな金堂が建設されます。みなさまのお力添えでこの地は広く僧形の地となりましたが、（会場より笑い）今のみなさまが立つ形では金堂の形が長方形に立に長くなります。よってまず一番後ろの百人にお願いいたします。左右に五十人づつ前列まで移動ください」
僧尼１００人が前後左右に分かれ前列に出て左右に連なる。「縄張り」かそれに合わせて移動する。
「次に一番後ろの列に並ぶ方々、同じく前に出て、整列してください。」
『石でもならべろ』
誰かが他に聞こえるように言う。失笑が起こる。でも整列している。想定値と実際値には誤差のあるものである。
僧尼１００人が左右に分かれ前列に出て左右に連なる。「縄張り」かそれに合わせて移動する。
何度か繰り返された。その度ごとに「縄張り」がそれに合わせて移動した。
整列のすむ頃に、座らさられ「縄張り」の位置が決められ、杭が打ち込まれた。
櫓にはまた良辨がそこに立った
「ありがとうございました。金堂の大きさの見当がつきました。ご協力感謝いたします。今後も毘盧遮那仏の像顕と金堂の建設には是非ともみなさまの力添えをお願い申し上げます。」
僧尼４００人に対して櫓の上ではあるが深々と礼をした。
僧尼４００人が各々の寺に帰るため立ち去ろうとする。
「おい、後ろを見てみろ！」
誰か言う。
それは先程まで立っていた、禿山と張られた縄張りであった。およそ縄張りの内に金堂は立つ。
「嘘だろ。そんな大きな建物が建つはずがない。」
誰か言う。
蟻の行列に似た、僧の行列に混乱が起きる。みなが寺地に引き返しその禿山と縄張りとを見る。
いや、そこに在りもしない金堂を見出そうとする。
「でかいな。」
「本当に建てば、でかいな。」
誰かして会話が起きる。
「そりゃ、天子さまの建てる寺だからな。」
「でも、本当に建てられるのかな」
「それの疑問も大きいな。」
「うん本当に大きくござる。」
僧尼４００人が各々の東の大きな寺をそこに見つけた。
２０１８ ９／５／３１（手直し）
「よいしょよいしょ！」の掛け声は「良い事をしよう」の名残だろうか。この掛け声は日本人の歴史のいつの頃に生まれたのだろうか。人よりして働けば、汗も血も涙も流れ出て掛け声も、やがて唄も生まれるだろう。
大仏建立の「寺地」に大勢の若者や人々が一斉に作業を始めている。先ずは小さな樹木を鉈や斧で刈り、そして木々を倒し始める。「木を切る」のでは株が残る。木々の根を掘り、木々の上方に縄を掛けては大勢で引き倒すのである。
三日目ともなれば白く黄色い地肌も遠くより見えるようにもなる。実際、その様子を飽かずに見ている人がいるから困ったものだ。聖武天皇である。物見の為の台座をつくり、そこより胡麻粒のような人々の動きと土地の開ける様子を飽かずに見ているのである。
そこに皇后も時折り姿を現す。こちらは天皇の様子が気になるのである。以前に「毒殺」されようとし、まだ「ぶす」の毒気が抜けないのである。大気は澄んでいるが、但し陽が高く上った後の事である。平城京が拓けていても、他は樹木が覆っている。土地が開かれればやがてその姿も樹木の下に、そして次は足場の木組が姿を現す。
それから一週間くらいの後に四大寺を中心に、僧尼４００人が早朝「金堂予定地」に駆り出された。その地には櫓が組まれ「縄張り」がしてあった。午前中はその中の雑木が切られ、根を切られ、草が抜かれた。昼過ぎにそこはきれいな禿山となる。
そして基壇の想定箇所と、櫓の組まれてある俳壇の想定箇所をして「１００ー１００ー１００ー１００人」の正方形に僧尼らは整列させられた。櫓には良辨がその上に立った。
「みなさま、早朝よりお集まりいただき、ご苦労様にございます。みなさまの立ち位置に、ありがたくも聖武天皇御発願の毘盧遮那仏と金堂の建設を目論んでございます。つきましてはみなさまのご協力をもうしばらく宜しくお願い申し上げます。」
次に市原王が櫓の上に立つ。
「今、私の立ち位置が、ありがたくもご俳壇の位置となり、私の後ろには大きな大きな毘盧遮那仏がおわします。金堂の規模と大きさを測るために実際のところが見等もつかぬのでみなさまの力添えをお願い申し上げたしだいです。今ここにみなさまの大きな大きな金堂が建設されます。みなさまのお力添えでこの地は広く僧形の地となりましたが、（会場より笑い）今のみなさまが立つ形では金堂の形が長方形に立に長くなります。よってまず一番後ろの百人にお願いいたします。左右に五十人づつ前列まで移動ください」
僧尼１００人が前後左右に分かれ前列に出て左右に連なる。「縄張り」かそれに合わせて移動する。
「次に一番後ろの列に並ぶ方々、同じく前に出て、整列してください。」
『石でもならべろ』
誰かが他に聞こえるように言う。失笑が起こる。でも整列している。想定値と実際値には誤差のあるものである。
僧尼１００人が左右に分かれ前列に出て左右に連なる。「縄張り」かそれに合わせて移動する。
何度か繰り返された。その度ごとに「縄張り」がそれに合わせて移動した。
整列のすむ頃に、座らさられ「縄張り」の位置が決められ、杭が打ち込まれた。
櫓にはまた良辨がそこに立った
「ありがとうございました。金堂の大きさの見当がつきました。ご協力感謝いたします。今後も毘盧遮那仏の像顕と金堂の建設には是非ともみなさまの力添えをお願い申し上げます。」
僧尼４００人に対して櫓の上ではあるが深々と礼をした。
僧尼４００人が各々の寺に帰るため立ち去ろうとする。
「おい、後ろを見てみろ！」
誰か言う。
それは先程まで立っていた、禿山と張られた縄張りであった。およそ縄張りの内に金堂は立つ。
「嘘だろ。そんな大きな建物が建つはずがない。」
誰か言う。
蟻の行列に似た、僧の行列に混乱が起きる。みなが寺地に引き返しその禿山と縄張りとを見る。
いや、そこに在りもしない金堂を見出そうとする。
「でかいな。」
「本当に建てば、でかいな。」
誰かして会話が起きる。
「そりゃ、天子さまの建てる寺だからな。」
「でも、本当に建てられるのかな」
「それの疑問も大きいな。」
「うん本当に大きくござる。」
僧尼４００人が各々の東の大きな寺をそこに見つけた。
(Ｃ)２０１２ Ｆｕｕｔａｒｏｕ Ａｓｈｉｈａｒａ．
「よいしょよいしょ！」の掛け声は「良い事をしよう」の名残だろうか。この掛け声は日本人の歴史のいつの頃に生まれたのだろうか。人よりして働けば、汗も血も涙も流れ出て掛け声も、やがて唄も生まれるだろう。
大仏建立の「寺地」に大勢の若者や人々が一斉に作業を始めている。先ずは小さな樹木を鉈や斧で刈り、そして木々を倒し始める。「木を切る」のでは株が残る。木々の根を掘り、木々の上方に縄を掛けては大勢で引き倒すのである。
三日目ともなれば白く黄色い地肌も遠くより見えるようにもなる。実際、その様子を飽かずに見ている人がいるから困ったものだ。聖武天皇である。物見の為の台座をつくり、そこより胡麻粒のような人々の動きと土地の開ける様子を飽かずに見ているのである。
そこに皇后も時折り姿を現す。こちらは天皇の様子が気になるのである。以前に「毒殺」されようとし、まだ「ぶす」の毒気が抜けないのである。大気は澄んでいるが、但し陽が高く上った後の事である。平城京が拓けていても、他は樹木が覆っている。土地が開かれればやがてその姿も樹木の下に、そして次は足場の木組が姿を現す。
それから一週間くらいの後に四大寺を中心に、僧尼４００人が早朝「金堂予定地」に駆り出された。その地には櫓が組まれ「縄張り」がしてあった。午前中はその中の雑木が切られ、根を切られ、草が抜かれた。昼過ぎにそこはきれいな禿山となる。
そして基壇の想定箇所と、櫓の組まれてある俳壇の想定箇所をして「１００ー１００ー１００ー１００人」の正方形に僧尼らは整列させられた。櫓には良辨がその上に立った。
「みなさま、早朝よりお集まりいただき、ご苦労様にございます。みなさまの立ち位置に、ありがたくも聖武天皇御発願の毘盧遮那仏と金堂の建設を目論んでございます。つきましてはみなさまのご協力をもうしばらく宜しくお願い申し上げます。」
次に市原王が櫓の上に立つ。
「今、私の立ち位置が、ありがたくもご俳壇の位置となり、私の後ろには大きな大きな毘盧遮那仏がおわします。金堂の規模と大きさを測るために実際のところが見等もつかぬのでみなさまの力添えをお願い申し上げたしだいです。今ここにみなさまの大きな大きな金堂が建設されます。みなさまのお力添えでこの地は広く僧形の地となりましたが、（会場より笑い）今のみなさまが立つ形では金堂の形が長方形に立に長くなります。よってまず一番後ろの百人にお願いいたします。左右に五十人づつ前列まで移動ください」
僧尼１００人が前後左右に分かれ前列に出て左右に連なる。「縄張り」かそれに合わせて移動する。
「次に一番後ろの列に並ぶ方々、同じく前に出て、整列してください。」
『石でもならべろ』
誰かが他に聞こえるように言う。失笑が起こる。でも整列している。想定値と実際値には誤差のあるものである。
僧尼１００人が左右に分かれ前列に出て左右に連なる。「縄張り」かそれに合わせて移動する。
何度か繰り返された。その度ごとに「縄張り」がそれに合わせて移動した。
整列のすむ頃に、座らさられ「縄張り」の位置が決められ、杭が打ち込まれた。
櫓にはまた良辨がそこに立った
「ありがとうございました。金堂の大きさの見当がつきました。ご協力感謝いたします。今後も毘盧遮那仏の像顕と金堂の建設には是非ともみなさまの力添えをお願い申し上げます。」
僧尼４００人に対して櫓の上ではあるが深々と礼をした。
僧尼４００人が各々の寺に帰るため立ち去ろうとする。
「おい、後ろを見てみろ！」
誰か言う。
それは先程まで立っていた、禿山と張られた縄張りであった。およそ縄張りの内に金堂は立つ。
「嘘だろ。そんな大きな建物が建つはずがない。」
誰か言う。
蟻の行列に似た、僧の行列に混乱が起きる。みなが寺地に引き返しその禿山と縄張りとを見る。
いや、そこに在りもしない金堂を見出そうとする。
「でかいな。」
「本当に建てば、でかいな。」
誰かして会話が起きる。
「そりゃ、天子さまの建てる寺だからな。」
「でも、本当に建てられるのかな」
「それの疑問も大きいな。」
「うん本当に大きくござる。」
僧尼４００人が各々の東の大きな寺をそこに見つけた。
(Ｃ)２０１２ Ｆｕｕｔａｒｏｕ Ａｓｈｉｈａｒａ．
２０１８ ９／５／３１（手直し）
それは「大きなみやげ話」でもあった。
「縄張り」は実測値に変更された。
当初のものではやはり小さかった。
机上理論値は現実値に変更された。
櫓の上に良辨・市原王・国（中）君麻呂（くになか の きみまろ）・佐伯今毛人が立ち、金堂予定地を見下ろす。
「大きくござるな」
「はい、大きくごさる。」
「本当に大きくござるな」
「いや、男子の本懐でござる。本当に建てて見せ申す」
「ここより新しい国造りが始まるのですね」
「左様、仏の国にござる荘厳世界の国造りにござる。
「その為に身命は惜しみますまい」
各々に臍を噛み、誓った。
遠くで誰にも知られぬ所から、仲麻呂は一部始終を見ていた。その表情は険しかった。
しかし、その険しい仲麻呂の表情を、これも遠くから行基が捉えていた。
夕刻、「金堂予定地」から誰もが引き上げた後、仲麻呂はその地に立っていた。行基は通りがかった風をよそおい仲麻呂に声をかける。
「仲麻呂殿ではござらぬか」
有名人である。
「これは、行基さま…、では、ござりますか。」
「さよう。行基であります。」
こちらも有名人である。
二人は互いに見知ってはいたが会話は初めてだった。
あそこに聖武天皇の御発願の大毘盧遮那仏と伽藍の金堂が建ちもうす。」
行基は感慨深げに仲麻呂に語る。
「聞き及んでおります。しかしそれにしてもでかい。大きい。」
と、仲麻呂。
「左様。おおきいのです。一万人がここに入り申す。それは貴方の言われたことと聞きますが…。」
「その通りです。しかし私は天皇の言われたこと、皇后の言われたことを皆に申したまで。私見を述べたのではございません。」仲麻呂
「そうですな。天皇も皇后も言っておいででした。私もそう聞いておりました。けれども信楽ではそれが叶いませんでした。ここに立ちそれが出来るような気がしてまいりました。」
二人は互いに顔を見る。言ってはみたもののお互いに不安があるのだ。
お互いにそれを見てとる
「私は先ほど材木知識を集めては号令をかけてきたところでございます。今より天地院に帰ります。」
「金堂予定地」から東の三笠山を見上げる。行基のために良辨がここに庵を建てたことは仲麻呂も聞き及んでいる。平城京の建設に伴ない今は一合目が禿山となっている。材木・雑木が資源や燃料としたためだ。
「もし宜しければ、桜の花の湯を一服をさしあげたい。話してみたいこともございます。」
二人は連れ立って天地院を目指した。選定した寺地の上方になる。
天地院にては一人の子僧が二人を迎えた。まず湯が薦められた。
「桜の花の香りがするでしょう。」
「実に寧楽の香りですな。して、私に話とはどのようなことでしょう。」
行基は天皇と皇后に教えた梵網経の一節を彼にも語った。
物わかりの良い仲麻呂脳には水か染み込むように収まる。
夜も明ける頃、仲麻呂が天地院より出てきた。とうとう一夜を語り明かした。仲麻呂は満足だった。
それは天皇皇后には語っていない華厳経であった。先人の知恵を戴いたと、仲麻呂には大収穫だ。
お互いの役割分担もできた。それは仲麻呂にして可能なこと。また行基にしても可能なことであった。
二人はそれぞれに仏の道を歩んでいる。
(Ｃ)２０１２ Ｆｕｕｔａｒｏｕ Ａｓｈｉｈａｒａ．
「無遮大會」
【天平十七年】(７４５)
★○『八月十五日 大安殿に無遮大會（むしゃだいえ）を設く。』★
≪大安殿＝内裏・朝堂院≫
「無遮大會」は、僧俗貴賎の区別なく供養布施する法会である。この日に大仏造顕を平城の地に定めたらしい。僧俗貴賎の区別なく供養布施するのは「稀有壮大な大仏建立」をここで発表し、このことに結集する善男善女より寄進を募ることもでもある。一大決起集会であろう。これを内裏に設けた。
このことの意味は深い。
★○『八月二十三日 盧遮那大佛鋳像の工を大和國に移す。天皇・皇后等その工を援け給ふ。』★
この日聖武天皇自身が盧遮那大佛顕現のため金堂予定地に赴き、袖に土を入れ運ばれたと云う。その日その場にいた官人達は各々の方法で天皇の後に続いた。およそその場にいた者達全員がこのことに参加した。市井の人々はそれを遠くから見ていた。衛士達が警護していたので気安く近寄れなかったのだった。
天皇は市井の人々にも参加して欲しかった。衛士の隊長を呼びつけ耳打ちした。
「皆のもの、聞くが良い。いま天子さまよりお言葉を頂戴した。盧遮那大佛顕現に結縁したいものは貴賎を問わず、身分の区別無く、欲しいままにこれを赦す。とのお言葉である。大佛顕現に結縁したいものはここに参集することをゆるす。皆のもの、ここに集まるが良い。」
衛士隊長の言うことである。市井の人々の警戒心は解かれた。
人の群れはぞろぞろと集まり、手に手に土を持ち土を運び始めた。まず京内の人々が前に出た。若い者がいた。女も子供も年寄りも集まった。そして先の一群が一通り終わろうとした頃に優婆塞の一群が到着しこれに続いた。次に京外から来たのであろうか。そこには身なりの極端に汚れた者もいた。その子供も年寄りも男も女も汚れていた。その数は多かった。皆が先の者のしたように手で土を運ぶ。
天皇はその姿を見て思わず感涙した。それに気付いたのは皇后だけである。皇后は知らぬふりをした。
金堂予定地の南から北へ土を運び、通り抜けるように道が敷かれていたので人々はその順路を通り帰路につくのであるが、「貧しき人々の群れ」のあとを追い、衛士達が一人一人そのあとをつけて彼らの住む集落を隊長に報告した。
その夜＜天狗・仙人＞が出現して、各集落に＜食物・もち＞が配られた。
この日「東大寺建設本部」の＜体制＞が発表される。
『造東大寺司』(建設本部)
後にこの時代には官の建てる「官大寺」には律令により造寺司が設置される。大仏造顕にあたっては「造東大寺司」がそれになる。
長官 市原王
次官 佐伯今毛人
大仏師(技官) 従四位下 国（中）君麻呂 （元百済国人）(彫刻・塑像・鋳造技術の総監督)
大鋳師(技官) 従五位下 高市真国 （元大和国人） (鋳造の主任技術者)
従五位下 高市真麻呂 従五位下 柿本男玉 (鋳造技術者)
大工 従五位下 猪名部百世 （元伊賀国人）(大仏殿建設の主任技術者)
小工 従五位下 益田縄手 （元和泉国人）(大仏殿建設副主任技術者)
造仏所 大仏の原型を作る所
鋳所 仏像の鋳造する所
木工所 建築所
造瓦所 屋根瓦を作る所
伊賀山作所 原木伐採と製材
画工(絵師) 仏工(仏師) 鋳工(鋳物師) 鉄工(鍛冶師) 銅工 木工 土工 陶工 瓦工
ろくろ工 金箔工 (この時代に「石工」はいない（？）ことに注意要)
鋳所 役夫 ５１４，９０２名
木工所役夫 １，６６５，０７１名 (延べ人数である)
この後に信楽京より平城京への物資の輸送が本格的に始まった。主を失った信楽京は無法地帯の様相を呈していた。放火による山火事と窃盗の横行に衛士達は防戦の一方である。しかしここにきて撤退作戦に困難な支障は起さなかったようである。数々の放火行為の首謀者の正体はつかめないものの、信楽京建設の中止にその首謀者は納得したようである。しかしここが良質の陶土を産出することは違いない。「造瓦司」はこの地で活動を続けることになる。『話がついた』成果であるだろう。無理難題の十を要求して、一つを掴む方法論である。
【天平十七年】(７４５)
★○『八月十五日 大安殿に無遮大會（むしゃだいえ）を設く。』★
≪大安殿＝内裏・朝堂院≫
「無遮大會」は、僧俗貴賎の区別なく供養布施する法会である。この日に大仏造顕を平城の地に定めたらしい。僧俗貴賎の区別なく供養布施するのは「稀有壮大な大仏建立」をここで発表し、このことに結集する善男善女より寄進を募ることもでもある。一大決起集会であろう。これを内裏に設けた。
このことの意味は深い。
★○『八月二十三日 盧遮那大佛鋳像の工を大和國に移す。天皇・皇后等その工を援け給ふ。』★
この日聖武天皇自身が盧遮那大佛顕現のため金堂予定地に赴き、袖に土を入れ運ばれたと云う。その日その場にいた官人達は各々の方法で天皇の後に続いた。およそその場にいた者達全員がこのことに参加した。市井の人々はそれを遠くから見ていた。衛士達が警護していたので気安く近寄れなかったのだった。
天皇は市井の人々にも参加して欲しかった。衛士の隊長を呼びつけ耳打ちした。
「皆のもの、聞くが良い。いま天子さまよりお言葉を頂戴した。盧遮那大佛顕現に結縁したいものは貴賎を問わず、身分の区別無く、欲しいままにこれを赦す。とのお言葉である。大佛顕現に結縁したいものはここに参集することをゆるす。皆のもの、ここに集まるが良い。」
衛士隊長の言うことである。市井の人々の警戒心は解かれた。
人の群れはぞろぞろと集まり、手に手に土を持ち土を運び始めた。まず京内の人々が前に出た。若い者がいた。女も子供も年寄りも集まった。そして先の一群が一通り終わろうとした頃に優婆塞の一群が到着しこれに続いた。次に京外から来たのであろうか。そこには身なりの極端に汚れた者もいた。その子供も年寄りも男も女も汚れていた。その数は多かった。皆が先の者のしたように手で土を運ぶ。
天皇はその姿を見て思わず感涙した。それに気付いたのは皇后だけである。皇后は知らぬふりをした。
金堂予定地の南から北へ土を運び、通り抜けるように道が敷かれていたので人々はその順路を通り帰路につくのであるが、「貧しき人々の群れ」のあとを追い、衛士達が一人一人そのあとをつけて彼らの住む集落を隊長に報告した。
その夜＜天狗・仙人＞が出現して、各集落に＜食物・もち＞が配られた。
この日「東大寺建設本部」の＜体制＞が発表される。
『造東大寺司』(建設本部)
後にこの時代には官の建てる「官大寺」には律令により造寺司が設置される。大仏造顕にあたっては「造東大寺司」がそれになる。
長官 市原王
次官 佐伯今毛人
大仏師(技官) 従四位下 国（中）君麻呂 （元百済国人）(彫刻・塑像・鋳造技術の総監督)
大鋳師(技官) 従五位下 高市真国 （元大和国人） (鋳造の主任技術者)
従五位下 高市真麻呂 従五位下 柿本男玉 (鋳造技術者)
大工 従五位下 猪名部百世 （元伊賀国人）(大仏殿建設の主任技術者)
小工 従五位下 益田縄手 （元和泉国人）(大仏殿建設副主任技術者)
造仏所 大仏の原型を作る所
鋳所 仏像の鋳造する所
木工所 建築所
造瓦所 屋根瓦を作る所
伊賀山作所 原木伐採と製材
画工(絵師) 仏工(仏師) 鋳工(鋳物師) 鉄工(鍛冶師) 銅工 木工 土工 陶工 瓦工
ろくろ工 金箔工 (この時代に「石工」はいない（？）ことに注意要)
鋳所 役夫 ５１４，９０２名
木工所役夫 １，６６５，０７１名 (延べ人数である)
この後に信楽京より平城京への物資の輸送が本格的に始まった。主を失った信楽京は無法地帯の様相を呈していた。放火による山火事と窃盗の横行に衛士達は防戦の一方である。しかしここにきて撤退作戦に困難な支障は起さなかったようである。数々の放火行為の首謀者の正体はつかめないものの、信楽京建設の中止にその首謀者は納得したようである。しかしここが良質の陶土を産出することは違いない。「造瓦司」はこの地で活動を続けることになる。『話がついた』成果であるだろう。無理難題の十を要求して、一つを掴む方法論である。
『大仏殿勧進和讃』
「よいしょよいしょ！」の掛け声は「良い事をしよう」の名残だろうか。この掛け声は日本人の歴史のいつの頃に生まれたのだろうか。人よりして働けば、汗も血も涙も流れ出て掛け声も、唄も生まれるだろう。時を隔ててもこの頃の様子を窺い知る資料がある。
明治一六年(１８８３)全国大勧進の許可が出た。明治一八年には近畿地方に大洪水の被害があった。しかし(明治の大修理)は、大仏殿の存続に必要である。当時の金額にして約五十余万円であるが
物価は約（ ）倍であるから現在の金額にすれば（ ）億円位であろう。本山や個人の資産で間に合う筈も無い。まして明治時代は廃仏毀釈や神仏分離令の中、時の政府の庇護もあてにできなければ全国にて「浄財を募る」ことしか方法が無い。一山の僧侶と信徒総代等が集まって相談して全国に募金を募った。この時「大仏殿勧進和讃」も婦女子等によって詠われた。ご詠歌のように節を廻しながら歌うのだろうか。今はそのメロディーは知る由もない。しかし詩を見れば「感動と共感」がここに生まれたことは確かだろう。婦女子らの歌に感涙し喜捨する者達があとを絶たなかったとの話である。
(真如の月・菩提の花・法の光、とあるものの「詩の形式」として？？韻律が合わない？！)(もし「詠い」が、残るなら「テープ・ＣＤ」に残すべきだ。)
《 大仏殿勧進和讃 》
「真如の月」
仰盧遮那(そもそもるしゃな)の尊容(みすがた)は
天平十五の秋の月
千百余年(せんひゃくよねん)の其(そ)のむかし
行基良弁婆羅門(ぎょうきろうべんばらもん)の
聖武帝(しょうむみかど)の御本願(ごほんがん)
末世(まつせ)の衆生(しゅうじょう)を救(すく)はんと
「菩提の花」
夫(そ)れ三界(さんがい)の大導師(だいどうし)
法(のり)の大場繕(おおにわ つくろ)ふはは
釈迦牟尼佛(しゃかむにぶつ)のおわします
無量(むりょう)の功徳(くどく)を積重(つみかさ)ね
年(とし)の歴(よ)ること多(おお)ければ
霜のごとくに消へはてて
五濁悪世(ごじょく あくせ)の能化主(のうけしゅ)ほ
弥陀(みだ)の光明(ひかり)につつまれつ
ならの古都(みやこ)の大殿(おおとの)も
肌(はだえ)に宿(やど)るを如何(いかに)せん
風に暴され雨にぬれ
浄(きよ)き財(たから)を募(つの)りてぞ
隙(ひま)より洩れて御佛(みほとけ)の
恒河(こうが)の真砂(まさご)も及(およ)びなき
茲(ここ)に我(われ)らは諸人(もろびと)の
無始(むし)より造(つく)りし罪咎(つみとが)は
菩提(ぼだい)の花(はな)の芳(かん)ばしく
共(とも)に浄土(じょうど)に往生(おうじょう)せん
願ハ以ニ 此功徳ヲ一
普ク及シニ 一切於ニ一
我レ等ト与ニ衆生一
皆共ニ成ニ佛道一
南無阿弥陀佛。
南無釈迦牟尼佛
敬白
四聖心をおなじゆし
海士(あま)が汐(しお)を汲(く)む
海(うみ)の涯(はて)
杣(そま)が木(き)をきる深山路(みやまじ)や
民(たみ)の佛性(こころを)つどいつつ
隈(くま)なく勧進(かんじん)し玉(たま)ひて
何(いず)れの国(くに)にも比類(たぐい)なし
造立(ぞうりつ)し玉(たま)ふほとけにて
尊(たか)き卑(いやし)きおしなべて
これや此土(このど)の本尊(ほんぞん)と
悉(たちま)ち障(さわ)りの雲晴(くもは)れて
共敬礼拝(くぎょうらいはい)する人(ひと)は
真如(しんにょ)の月(つき)影浄(かげきよ)く
今(いま)を去(さ)ること数(かぞ)ふれば
無為(むい)の都(みやこ)に往生(おうじょう)せん
「よいしょよいしょ！」の掛け声は「良い事をしよう」の名残だろうか。この掛け声は日本人の歴史のいつの頃に生まれたのだろうか。人よりして働けば、汗も血も涙も流れ出て掛け声も、唄も生まれるだろう。時を隔ててもこの頃の様子を窺い知る資料がある。
明治一六年(１８８３)全国大勧進の許可が出た。明治一八年には近畿地方に大洪水の被害があった。しかし(明治の大修理)は、大仏殿の存続に必要である。当時の金額にして約五十余万円であるが
物価は約（ ）倍であるから現在の金額にすれば（ ）億円位であろう。本山や個人の資産で間に合う筈も無い。まして明治時代は廃仏毀釈や神仏分離令の中、時の政府の庇護もあてにできなければ全国にて「浄財を募る」ことしか方法が無い。一山の僧侶と信徒総代等が集まって相談して全国に募金を募った。この時「大仏殿勧進和讃」も婦女子等によって詠われた。ご詠歌のように節を廻しながら歌うのだろうか。今はそのメロディーは知る由もない。しかし詩を見れば「感動と共感」がここに生まれたことは確かだろう。婦女子らの歌に感涙し喜捨する者達があとを絶たなかったとの話である。
(真如の月・菩提の花・法の光、とあるものの「詩の形式」として？？韻律が合わない？！)(もし「詠い」が、残るなら「テープ・ＣＤ」に残すべきだ。)
《 大仏殿勧進和讃 》
「真如の月」
仰盧遮那(そもそもるしゃな)の尊容(みすがた)は
天平十五の秋の月
千百余年(せんひゃくよねん)の其(そ)のむかし
行基良弁婆羅門(ぎょうきろうべんばらもん)の
聖武帝(しょうむみかど)の御本願(ごほんがん)
末世(まつせ)の衆生(しゅうじょう)を救(すく)はんと
「菩提の花」
夫(そ)れ三界(さんがい)の大導師(だいどうし)
法(のり)の大場繕(おおにわ つくろ)ふはは
釈迦牟尼佛(しゃかむにぶつ)のおわします
無量(むりょう)の功徳(くどく)を積重(つみかさ)ね
年(とし)の歴(よ)ること多(おお)ければ
霜のごとくに消へはてて
五濁悪世(ごじょく あくせ)の能化主(のうけしゅ)ほ
弥陀(みだ)の光明(ひかり)につつまれつ
ならの古都(みやこ)の大殿(おおとの)も
肌(はだえ)に宿(やど)るを如何(いかに)せん
風に暴され雨にぬれ
浄(きよ)き財(たから)を募(つの)りてぞ
隙(ひま)より洩れて御佛(みほとけ)の
恒河(こうが)の真砂(まさご)も及(およ)びなき
茲(ここ)に我(われ)らは諸人(もろびと)の
無始(むし)より造(つく)りし罪咎(つみとが)は
菩提(ぼだい)の花(はな)の芳(かん)ばしく
共(とも)に浄土(じょうど)に往生(おうじょう)せん
願ハ以ニ 此功徳ヲ一
普ク及シニ 一切於ニ一
我レ等ト与ニ衆生一
皆共ニ成ニ佛道一
南無阿弥陀佛。
南無釈迦牟尼佛
敬白
四聖心をおなじゆし
海士(あま)が汐(しお)を汲(く)む
海(うみ)の涯(はて)
杣(そま)が木(き)をきる深山路(みやまじ)や
民(たみ)の佛性(こころを)つどいつつ
隈(くま)なく勧進(かんじん)し玉(たま)ひて
何(いず)れの国(くに)にも比類(たぐい)なし
造立(ぞうりつ)し玉(たま)ふほとけにて
尊(たか)き卑(いやし)きおしなべて
これや此土(このど)の本尊(ほんぞん)と
悉(たちま)ち障(さわ)りの雲晴(くもは)れて
共敬礼拝(くぎょうらいはい)する人(ひと)は
真如(しんにょ)の月(つき)影浄(かげきよ)く
今(いま)を去(さ)ること数(かぞ)ふれば
無為(むい)の都(みやこ)に往生(おうじょう)せん
法(のり)の光(ひかり)
四聖(しせい)の本地(ほんじ)を尋(たず)ぬれば
釈迦牟尼佛(しゃかむにぶつ)の御前(みまえ)にて
南閻浮提天竺(なんえんぶだいてんじく)の
弥勒慈尊(みろくじそん)の大士達(だいしたち)
契(ちぎ)りやいとどあさからず
普賢文殊観世音(ふげんもんじゅかんぜおん)
跡(あと)を此土(このど)に垂(た)れ玉(たま)ふ
娑婆(しゃば)の苦患(くげん)を愍(あわれ)みて
東のはてや陸奥(みちのく)の
互(たがい)に姿(すがた)をやつしつつ
最(いと)も尊(とうと)き御佛(みほとけ)の
此時始(このときはじ)めて日(ひ)の本(もと)の
法(のり)の光(ひかり)の麗(うるわ)しく
山(やま)に黄金(こがね)の花咲(はなさ)きて
六(むつ)の闇路(やみじ)をとこしえに
尊容(すがた)を茲(ここ)に粧(よそお)いて
十方世界多(じっぽうせかいおお)き中(なか)
我等(われら)か迷(まよ)ふ鳥羽玉(ぬばたま)の
鷲(わし)の御山(みやま)の法(のり)の場(にわ)
照(て)らし玉(たま)ふぞ尊(たっ)とけれ
(東大寺辞典Ｐ２９２〜２９３ 平岡定海 東京堂出版)
四聖(しせい)の本地(ほんじ)を尋(たず)ぬれば
釈迦牟尼佛(しゃかむにぶつ)の御前(みまえ)にて
南閻浮提天竺(なんえんぶだいてんじく)の
弥勒慈尊(みろくじそん)の大士達(だいしたち)
契(ちぎ)りやいとどあさからず
普賢文殊観世音(ふげんもんじゅかんぜおん)
跡(あと)を此土(このど)に垂(た)れ玉(たま)ふ
娑婆(しゃば)の苦患(くげん)を愍(あわれ)みて
東のはてや陸奥(みちのく)の
互(たがい)に姿(すがた)をやつしつつ
最(いと)も尊(とうと)き御佛(みほとけ)の
此時始(このときはじ)めて日(ひ)の本(もと)の
法(のり)の光(ひかり)の麗(うるわ)しく
山(やま)に黄金(こがね)の花咲(はなさ)きて
六(むつ)の闇路(やみじ)をとこしえに
尊容(すがた)を茲(ここ)に粧(よそお)いて
十方世界多(じっぽうせかいおお)き中(なか)
我等(われら)か迷(まよ)ふ鳥羽玉(ぬばたま)の
鷲(わし)の御山(みやま)の法(のり)の場(にわ)
照(て)らし玉(たま)ふぞ尊(たっ)とけれ
(東大寺辞典Ｐ２９２〜２９３ 平岡定海 東京堂出版)
『北極星と周星』
三笠山（若草山）は、平城京を建設の時に一合目を雑木による燃料資源提供の山としてまず禿山となった。二合目・三合目が禿山となったのは大仏建立による燃料エネルギーの提供からだろうか。諸説入り乱れる。現在は芝生が頭皮を装う。奈良公園の鹿達は「フンころがし」と共にこの頭皮を養っている。
平城京に日本各地より人々が集う。ただし京内ではなく塀の外の外京となる。専ら寺地を開く為だから平城京の東であり現東大寺の北側となる。ここに行基衆達は結集する。平城京の北側は聖地であるためこのようになる。
そして天皇の呼びかけに呼応して参集した若者や民衆は、民衆そのものは平城京の南側、興福寺・春日大社・元興寺・の南西方向となり「ならまち」界隈に結集することとなる。東大寺への徒歩圏内となる。なお各寺院は臨時寺子屋の相も示しただろう。
そしてたぶん、もっぱら「縦穴式住居」に近い掘っ立て小屋が多く林立したであろう。
聖武天皇の呼びかけに誠心誠意呼応した人々もいれば、訳もわからずに誰かに着いて来た者もいただろうし、何かの理由で故郷を追われた者がここに紛れ込んでも不思議はない。都の人口は倍増したし、のちに周辺に集落も建設されたろう。それを補完するための社会的なシステムも形成されてゆく。
行基の「布施屋」は先駆的実験であり成功していた。行基衆と言わず、行基の知恵が知れ渡っていた。
大輪の花が咲き誇るために大地に深く張る根も、支える茎も、枝葉も必要で、それは自然発生と、人々の英知が整合性を保ち、自律的に機能してゆくのだろう。
指導者も社会も健全である時、「一点、北極星を目指し、衆星はこれに従う。」ものなのだ。
三笠山（若草山）は、平城京を建設の時に一合目を雑木による燃料資源提供の山としてまず禿山となった。二合目・三合目が禿山となったのは大仏建立による燃料エネルギーの提供からだろうか。諸説入り乱れる。現在は芝生が頭皮を装う。奈良公園の鹿達は「フンころがし」と共にこの頭皮を養っている。
平城京に日本各地より人々が集う。ただし京内ではなく塀の外の外京となる。専ら寺地を開く為だから平城京の東であり現東大寺の北側となる。ここに行基衆達は結集する。平城京の北側は聖地であるためこのようになる。
そして天皇の呼びかけに呼応して参集した若者や民衆は、民衆そのものは平城京の南側、興福寺・春日大社・元興寺・の南西方向となり「ならまち」界隈に結集することとなる。東大寺への徒歩圏内となる。なお各寺院は臨時寺子屋の相も示しただろう。
そしてたぶん、もっぱら「縦穴式住居」に近い掘っ立て小屋が多く林立したであろう。
聖武天皇の呼びかけに誠心誠意呼応した人々もいれば、訳もわからずに誰かに着いて来た者もいただろうし、何かの理由で故郷を追われた者がここに紛れ込んでも不思議はない。都の人口は倍増したし、のちに周辺に集落も建設されたろう。それを補完するための社会的なシステムも形成されてゆく。
行基の「布施屋」は先駆的実験であり成功していた。行基衆と言わず、行基の知恵が知れ渡っていた。
大輪の花が咲き誇るために大地に深く張る根も、支える茎も、枝葉も必要で、それは自然発生と、人々の英知が整合性を保ち、自律的に機能してゆくのだろう。
指導者も社会も健全である時、「一点、北極星を目指し、衆星はこれに従う。」ものなのだ。
『大仏殿碑文』
大仏殿碑文は障子銘文とも呼ばれ、聖武天皇の大仏造顕の詔を掲げ、大仏および大仏殿の尺寸を詳細に述べている。見てみたい。
（前略）金銅盧遮那仏像一躰。結跏趺坐。高五丈三尺五寸。面長一丈六寸（ヵ尺）。広九尺五寸。完
髻（もとどり）高三尺。眉長五尺四寸五分。目長三尺九寸。自御鼻前径二尺九寸四分。高一尺六寸。人中長八寸五分。口長三尺七寸。頤（おとがい）長一尺六寸。耳長八尺五寸。頸（くび）長二尺六寸五分。肩長二丈八尺七寸。≪ ≫一丈八尺。腹長一丈三尺。臂(ひじ)長一丈九尺。肘至腕長一丈五尺。掌長五尺六寸。中指長五尺。脛(すね)長二丈三尺八寸五分。膝(ひざ)前径三丈九尺。膝厚七尺。
足下一丈二尺。螺形九百六十六箇。高各一尺。径各六寸。銅座高一丈。径六丈八尺。上周廿一丈四尺。
基周廿三丈九尺。石座高八尺。上周廿四丈七尺。基周廿九丈五尺。
用熟銅七十三万九千五百六十斤。白鐻一万二千六百千（ヵ十）八斤。錬金一万四百丗六両。水銀五万八千六百廿両。炭一万六千六百五十六斛(こく)。円光一基。高十一丈四尺。広九丈六尺。挾待菩薩像二躰。並≪ ≫高各三丈。面長六尺広五尺。口長一尺一（二ィ）寸。耳長五尺九寸。眉長五（三ィ）尺九寸。目長二尺二寸。鼻下径一尺八寸。鏽観自在菩薩像二銿。高各五丈四尺。広各三丈八尺四寸。四天王像四柱高各四丈。各下在（ィ本無）鬼形一躰。各臥長二丈八尺高三尺捻
大佛殿一宇。二重十一間。高十二丈（五ィ）六尺。東西長廿九丈。広十七丈。基砌（みぎり）高七尺。東西砌長丗二丈七尺。南北砌長廿丈六尺。柱八十四枝。殿戸十六間。天蓋三千百
廿二蓋。歩廊一廻。戸廿間。東西径五十四丈六尺。南北径六十五丈。塔二基並七重。東塔高廿三丈八寸。西塔高廿三丈六尺七寸。露盤高各八丈八尺二寸。用熟銅七万五千五百二斤五両。白鐻四百九斤十両。錬金一千五百十両二分。鐘一口。高一丈三尺六寸。口径九尺一寸三分。口厚八寸。用熟銅。五万二千六百八十斤。白鐻二千三百斤。
≪ ≫内、入力不能
「東大寺要録」筒井英俊 校訂 国書刊行会 ｐ３４
大仏殿碑文は障子銘文とも呼ばれ、聖武天皇の大仏造顕の詔を掲げ、大仏および大仏殿の尺寸を詳細に述べている。見てみたい。
（前略）金銅盧遮那仏像一躰。結跏趺坐。高五丈三尺五寸。面長一丈六寸（ヵ尺）。広九尺五寸。完
髻（もとどり）高三尺。眉長五尺四寸五分。目長三尺九寸。自御鼻前径二尺九寸四分。高一尺六寸。人中長八寸五分。口長三尺七寸。頤（おとがい）長一尺六寸。耳長八尺五寸。頸（くび）長二尺六寸五分。肩長二丈八尺七寸。≪ ≫一丈八尺。腹長一丈三尺。臂(ひじ)長一丈九尺。肘至腕長一丈五尺。掌長五尺六寸。中指長五尺。脛(すね)長二丈三尺八寸五分。膝(ひざ)前径三丈九尺。膝厚七尺。
足下一丈二尺。螺形九百六十六箇。高各一尺。径各六寸。銅座高一丈。径六丈八尺。上周廿一丈四尺。
基周廿三丈九尺。石座高八尺。上周廿四丈七尺。基周廿九丈五尺。
用熟銅七十三万九千五百六十斤。白鐻一万二千六百千（ヵ十）八斤。錬金一万四百丗六両。水銀五万八千六百廿両。炭一万六千六百五十六斛(こく)。円光一基。高十一丈四尺。広九丈六尺。挾待菩薩像二躰。並≪ ≫高各三丈。面長六尺広五尺。口長一尺一（二ィ）寸。耳長五尺九寸。眉長五（三ィ）尺九寸。目長二尺二寸。鼻下径一尺八寸。鏽観自在菩薩像二銿。高各五丈四尺。広各三丈八尺四寸。四天王像四柱高各四丈。各下在（ィ本無）鬼形一躰。各臥長二丈八尺高三尺捻
大佛殿一宇。二重十一間。高十二丈（五ィ）六尺。東西長廿九丈。広十七丈。基砌（みぎり）高七尺。東西砌長丗二丈七尺。南北砌長廿丈六尺。柱八十四枝。殿戸十六間。天蓋三千百
廿二蓋。歩廊一廻。戸廿間。東西径五十四丈六尺。南北径六十五丈。塔二基並七重。東塔高廿三丈八寸。西塔高廿三丈六尺七寸。露盤高各八丈八尺二寸。用熟銅七万五千五百二斤五両。白鐻四百九斤十両。錬金一千五百十両二分。鐘一口。高一丈三尺六寸。口径九尺一寸三分。口厚八寸。用熟銅。五万二千六百八十斤。白鐻二千三百斤。
≪ ≫内、入力不能
「東大寺要録」筒井英俊 校訂 国書刊行会 ｐ３４
以上の構造物と、用いた資材が示されている。当時の「奈良尺・天平尺」などで記述されたものである。（１尺＝０．２９６４ の説あり）
これを現在のメートル方に換算すると天平大仏の寸法は、
身長・座高 １４．８６８ｍ
顔の長さ ３．２１２ｍ
膝の高さ（左） ２．５８４ｍ
肩の張り ９．８４７ｍ
耳の長さ ２．６９６ｍ
唇の長さ １．１２１ｍ
掌の長さ（左） ３．０１４ｍ
掌の長さ（右） ２．９９６ｍ
中指の長さ（左） １．３３０ｍ
中指の長さ（右） １．１１０ｍ
螺髪の高さ ０．２５４ｍ
螺髪の幅 ０．２３０ｍ
本体重量 約２５０ｔ
鋳物の厚さ 約５．５ｃｍ
蓮華座の高さ ？？？
「大仏建立物語 神戸淳吉 Ｐ７７」
他の資料では（出典の調査必要）
大仏殿・金堂・伽藍
大仏殿の高さ ４７ｍ
幅 ８６ｍ
奥行き ５０ｍ
柱・本数 ８４本 １．５ｍ 幅 ３０ｍ 長さ 継ぎ足し有無？
東西塔 ２基 高さ１００ｍ
東大寺様式 三面僧坊・写経所
大仏殿 標高１００ｍ位 位置 現、奈良市雑司町
「奈良盆地に残る地名」
地方より集った人々は「出自を明らか」にしたいし「方言で話すー仲間意識・ご近所さん」の、ことより「地名」を残したのだろう。
美濃庄・丹後庄・伊豆・上総・丹波市・稲葉・筑紫・備前・三河・石見・但馬・武蔵・伊予戸・豊前・大隈・吉備・飛騨・薩摩・土佐の名前の残るのはこれらの地より人々が奈良の地を訪れ定着したと云う。
これを現在のメートル方に換算すると天平大仏の寸法は、
身長・座高 １４．８６８ｍ
顔の長さ ３．２１２ｍ
膝の高さ（左） ２．５８４ｍ
肩の張り ９．８４７ｍ
耳の長さ ２．６９６ｍ
唇の長さ １．１２１ｍ
掌の長さ（左） ３．０１４ｍ
掌の長さ（右） ２．９９６ｍ
中指の長さ（左） １．３３０ｍ
中指の長さ（右） １．１１０ｍ
螺髪の高さ ０．２５４ｍ
螺髪の幅 ０．２３０ｍ
本体重量 約２５０ｔ
鋳物の厚さ 約５．５ｃｍ
蓮華座の高さ ？？？
「大仏建立物語 神戸淳吉 Ｐ７７」
他の資料では（出典の調査必要）
大仏殿・金堂・伽藍
大仏殿の高さ ４７ｍ
幅 ８６ｍ
奥行き ５０ｍ
柱・本数 ８４本 １．５ｍ 幅 ３０ｍ 長さ 継ぎ足し有無？
東西塔 ２基 高さ１００ｍ
東大寺様式 三面僧坊・写経所
大仏殿 標高１００ｍ位 位置 現、奈良市雑司町
「奈良盆地に残る地名」
地方より集った人々は「出自を明らか」にしたいし「方言で話すー仲間意識・ご近所さん」の、ことより「地名」を残したのだろう。
美濃庄・丹後庄・伊豆・上総・丹波市・稲葉・筑紫・備前・三河・石見・但馬・武蔵・伊予戸・豊前・大隈・吉備・飛騨・薩摩・土佐の名前の残るのはこれらの地より人々が奈良の地を訪れ定着したと云う。
『大仏殿建立・略年表』』
平城京から東を望めば花山の懐にカムナビの山・御嵩山と高円山、三重に重なった若草山を望むことが出来る。
これらの山々から朝陽や月が昇る時、又、西の生駒山に日の落ちる時、人々は手を合わさずにはいられないのも事実である。
奈良には信仰の磁場としての力がある。それは人々の労働投下、沁み込んだ血と汗と涙と骨である。
≪大仏殿建立・略年表≫
「古記録」を、ざっと見ておこう。
【天平十七年】(７４５)『八月二十三日 盧遮那大佛鋳像の工を大和國に移す。
天皇・皇后等その工を援け給ふ。』
≪寺地の掘削作業を始める≫ ≪石組み基壇（須弥壇）を組み上げる≫
【天平十八年】(７４６)『十月六日 天皇・皇后等金鐘寺に幸し給ひ、燃燈供養を修し給ふ。』
≪塑像が完成する≫ ≪鋳型をとる≫ ≪塑像を削り取る≫ ≪溶鉱炉にて熟銅を作る≫
【天平十九年】(７４７)『九月二十九日 是日より盧遮那大佛像を鋳始めんとす。』
≪鋳造の開始≫ ≪鋳型・土手・築山・鋳込み×８≫≪死傷者がでる≫
【天平勝宝元年】(７４９)『十月二十四日 東大寺に盧遮那大佛像の鋳像成る。』
≪胴体ができた≫ ≪胴体と腕手を鋳継ぎするが失敗する≫ ≪死傷者がでる≫
『十二月十八日 八幡大神入京す。梨原宮に新殿を建て悔過す。』
≪神職団とたたら衆胴体と腕手を鋳継ぎする≫このことが困難だった？
『十二月 是月 東大寺盧遮那大佛像の羅髪を鋳始む。』
≪羅髪を鋳始める≫
【天平勝宝二年】（７５０）『二月二十二日 天皇・聖武太上天皇・光明皇太后等、東大寺に行幸し、封戸合わせて五千戸・奴婢二百人を施入し給ふ。』
≪大仏殿の大屋根を組み上げる・人手不足補完の２００人≫ このことは趣旨と違う！
『十二月九日 造東大寺司長官に位階を進む。』
≪大仏殿の大屋根ができた≫ ≪死傷者がでる≫
【天平勝宝三年】 (７５１)『一月十四日 孝謙天皇、東大寺に行幸し、木工寮長�丹詆�國麿に位階を昇進せしめ給ふ。』
≪大仏殿の大屋根に瓦を載せた≫ ≪死傷者がでる≫
大仏殿は天平の耐震構造建築物である。地震があれば瓦は滑り落ちるように作られている。
【天平勝宝四年】(７５２)
『二月十六日 東大寺盧遮那大佛像の銅蓮座を鋳始む。』
≪蓮華座を鋳始む≫
『三月十四日 この日より盧遮那大佛像に塗金を始む。』
≪塗金を始む。≫ ≪死傷者がでる≫
『閏三月 この頃、盧遮那大佛像の後背を造り始む。』
『四月九日 盧遮那大佛像成り、天皇・聖武太上天皇・光明皇太后等東大寺に行幸され、開眼供養を行ひ給う。』
平城京から東を望めば花山の懐にカムナビの山・御嵩山と高円山、三重に重なった若草山を望むことが出来る。
これらの山々から朝陽や月が昇る時、又、西の生駒山に日の落ちる時、人々は手を合わさずにはいられないのも事実である。
奈良には信仰の磁場としての力がある。それは人々の労働投下、沁み込んだ血と汗と涙と骨である。
≪大仏殿建立・略年表≫
「古記録」を、ざっと見ておこう。
【天平十七年】(７４５)『八月二十三日 盧遮那大佛鋳像の工を大和國に移す。
天皇・皇后等その工を援け給ふ。』
≪寺地の掘削作業を始める≫ ≪石組み基壇（須弥壇）を組み上げる≫
【天平十八年】(７４６)『十月六日 天皇・皇后等金鐘寺に幸し給ひ、燃燈供養を修し給ふ。』
≪塑像が完成する≫ ≪鋳型をとる≫ ≪塑像を削り取る≫ ≪溶鉱炉にて熟銅を作る≫
【天平十九年】(７４７)『九月二十九日 是日より盧遮那大佛像を鋳始めんとす。』
≪鋳造の開始≫ ≪鋳型・土手・築山・鋳込み×８≫≪死傷者がでる≫
【天平勝宝元年】(７４９)『十月二十四日 東大寺に盧遮那大佛像の鋳像成る。』
≪胴体ができた≫ ≪胴体と腕手を鋳継ぎするが失敗する≫ ≪死傷者がでる≫
『十二月十八日 八幡大神入京す。梨原宮に新殿を建て悔過す。』
≪神職団とたたら衆胴体と腕手を鋳継ぎする≫このことが困難だった？
『十二月 是月 東大寺盧遮那大佛像の羅髪を鋳始む。』
≪羅髪を鋳始める≫
【天平勝宝二年】（７５０）『二月二十二日 天皇・聖武太上天皇・光明皇太后等、東大寺に行幸し、封戸合わせて五千戸・奴婢二百人を施入し給ふ。』
≪大仏殿の大屋根を組み上げる・人手不足補完の２００人≫ このことは趣旨と違う！
『十二月九日 造東大寺司長官に位階を進む。』
≪大仏殿の大屋根ができた≫ ≪死傷者がでる≫
【天平勝宝三年】 (７５１)『一月十四日 孝謙天皇、東大寺に行幸し、木工寮長�丹詆�國麿に位階を昇進せしめ給ふ。』
≪大仏殿の大屋根に瓦を載せた≫ ≪死傷者がでる≫
大仏殿は天平の耐震構造建築物である。地震があれば瓦は滑り落ちるように作られている。
【天平勝宝四年】(７５２)
『二月十六日 東大寺盧遮那大佛像の銅蓮座を鋳始む。』
≪蓮華座を鋳始む≫
『三月十四日 この日より盧遮那大佛像に塗金を始む。』
≪塗金を始む。≫ ≪死傷者がでる≫
『閏三月 この頃、盧遮那大佛像の後背を造り始む。』
『四月九日 盧遮那大佛像成り、天皇・聖武太上天皇・光明皇太后等東大寺に行幸され、開眼供養を行ひ給う。』
≪ 建立 ≫
「仮説」
大仏立像には諸説ある。「蓮華座が先か・後から付け足した」とか。ここで私は「私ならこうする」と思う方法で大仏を建立して見たい。
「大仏殿が先か・大仏が先か」
これは「同時進行」である、としたい。大仏の「塑像が雨で崩れる」なんてことはあってはならない、と思うからだ。
また「体調の優れない天皇は、先を急ぐー完成を見たい」とも思うのだ。よって「仮屋根」を作る暇があるなら本物を作ると思うのだ。そして「信楽京の材木も流用できる」と思うからだ。
「基礎工事」
大仏殿・金銅の寺地は切り開かれる。出きるだけ凹凸を無くし水平に地盤を仕上げる必要がある。金堂建設の「地盤改良」がまず行われる。重量物が鎮座するのだから地盤を「固く、均一」に仕上げる必要がある。ピサの斜塔や「大仏が反り返る」では困るのだ。
「礎石」となる石は「笠置」より取った。ここは景観からして巨石の宝庫である。大阪城の築城にもここの石が重宝された。但し「割栗石」に砕いて「土に打ち込み―地面を固める」のである。
そして蓮華座・仏像本体の石組みを行う。「骨柱」もこの時に立てる、とする。「天皇に先に大仏を見せたい」が判らないわけではないが「蓮華の花に載らない仏ーみっともない」と思う。また「下から上に作り上げてゆくー重量物」である。事実「お金を頂戴」の腕は一度落ちたらしい。
大仏殿の建立はその若草山の東西に延びる「山の手の指」に当たる土を取り除いた赤土で谷を埋め整地し、そして尾根の南面・北面を大仏殿の幅に合わせて切り崩す。西面・東面をこの時に削り取る必要はまだない。
まず大柱四本を台地を利用して立ち上げる。起重機の無い時代である。また「足場工法」もこの時台にはあると思う。「滑車」だってあるだろう。どこぞのお寺で梵鐘でなく「滑車に、お念珠」というのを見た。車輪があるなら滑車だってある。その証拠がないだけだ。
そして鎌倉時代の地獄絵図には「のこぎり引き」だって出ている。「鋸・のこぎり」の歴史考証も、もっと古いかもしれない。「丸太一本・板一枚」ではモッタイナイ、能率も悪い。
そして大屋根を乗せる「大柱四本」をまず立てた。この時に柱を立てる礎石も埋めておく。（柱の太さは転害門の柱を想定する。天害門は天平期の建築のものである）
四本の柱に梁が組み合わされれば強固な櫓が組まれたことになる。これをして残りの８０本の柱は次々と立ち上げていく。大仏殿は「山のようである・林のようである」などと言われたらしい。
大仏殿の天蓋の最高は４７ｍもある。いかに幹の太さ１．５ｍ以上があったとして５０ｍ近い「通し柱」は存在しないだろう。（なお柱の先は幹に比べて細くなる。）
ならば二本に割る、分けて考える。その意味で継ぎ足す必要がある。梁を利用して上乗せしたのだろうことは想像できる。そこには巧みな木組みがあるのだろう。この時に強固な櫓や柱組みのあることは利点だと考える。後に土を掘り出せば良い。
その四本の柱の上に梁をかけ天蓋としての仮屋根を先行して組み上げた。これは仮屋根とする。
その中心に大仏の基礎を石組みして、堅固にして、大仏の塑像を形成しただろう。大仏の塑像の形成に、風雨を避けるため「仮屋根」は先に必要なのだと私は考える。
しかし鋳造作業時に仮屋根には炎が舞い上がり、燃えて落ちてくる可能性が高いので一時的にこれを撤去する。炉釜は大仏の周囲をびっしりと取り囲む。
この頃には基壇部以外に大仏殿の他の構造の本体の方がしっかりしと組みあがっている。そこに柱をもたれさせておけば良い。仮屋根もそこの上部に積み上げれば良い。
大屋根は鋳造が完成してから後に本格的に組み上げたと考える。この時大屋根は凄まじい重量であるので「転害門の柱」を想定しても柱の本数が林立することになる。実際先の「大仏殿碑文」には「柱八十四枝」とある。天蓋三千百廿二蓋は大きな瓦の枚数である。この重量は梁の重さも含めて凄まじいものであるだろう。柱の幅が１．５ｍとしても大仏殿の全体から見ればひ弱な柱に見えるのだろう。
毘盧遮那仏を取り囲む先の柱も戻し、天蓋としての大屋根を継ぎ足していく。
「なぜこんな「まとろっこしい」方法なのか？」
天平の大仏殿の容積は現大仏殿の約１．５倍と云われる。およそ現大仏殿の回廊部の八割を占める面積だろうか。高さも現状のものよりも少し高くなるのだろうか。現大仏殿を見ながら約１．５倍の大きさを想像すれば良い。「山のようである」は適切な表現であると思う。
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