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私小説を書いてみました。コミュの眼下にて会話。

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引越し先のアパートの、一軒はさんだ向かいに、大きなマンションがある。
階層を数えたことはないが、恐らく15階くらいはあるんじゃなかろうか。
まだ寝室のカーテンを買いそろえていないため、毎晩窓から差し込むそのマンションのライトがまぶしくて、いつもふとんをかぶって寝ている。
でも当分カーテンを買う予定はない。もともとあまりカーテンってものがすきではないのだ。
カーテンに限らず、屋内と野外、ウチとソトをさえぎるものがあまり好きではない。
ガラス窓はよいのだ。視界がさえぎられなければ視識を向こう側に持っていけるから。
とりわけ、古臭い模様のついた曇りガラスが気に入っている。
それは丁度、重い鈍器をたたきつけたときに広がる蜘蛛の巣状のひびわれにも似ていて、事実をさえぎり、印象だけを透過する。
見たくないものを隠して。

夕刻、新宿駅前の京王デパートで買ってきたルピシアのジャスミン茶を淹れて呑んだ。
ペットボトルで売っているそれより苦味が強い。
噛んだキズのある舌先に少し染みた。
日曜の午前四時を回ったとき、眠気はないのだけどいい加減起きているのが面倒になって電気を消した。
今日も向かいから光が差し込む。

その一瞬、窓の外の照明の前を何かが通過したように、光が弱まって、また元に戻った。

ドン。

バスドラムを打ち込むような音。
茉莉花の酸の強い苦味が、まるで違うはずの鉄の、血の味を一瞬連想させたが。
別にあまり興味を惹かれなかったので、フトンをかぶって寝た。




■■■ ■■■ ■■■ ■■■ ■■■ ■■■

致死量の睡眠薬を手に入れられるほどのお金は持ってない。
それ以外の薬を分けてくれそうなツテはない。
躊躇い傷は学校でバレるのが嫌で手首でなく肘の裏にある。
結局注射ですら真っ青になってしまうようなあたしがちゃんとそこに刃を打ち込めるはずもなくてさ。

ナニゲナくつけていたテレビで、中学生がトンネルの地面に寝ていて、うっかりクルマに轢かれて死んでしまったとかいう事件を見た。
うっかり死ねるのはいいなぁ。
痛いとかつらいとか満足に思い患う間も無く死んだんだろうから、多分一番幸せな死に方だったんだと思うんですが。
そういえば、クルマの前に身を投げ出して死ぬほどの勇気もやっぱりないなぁ。
多分運転手さんとかに色々メイワクかけるしね。

そう考えると、今更ないないづくしの自分を実感してちょっと笑けてくるのだ。

学校でいじめられたことは多分理由じゃない。
新しいパパにクチで言いたくないようなことをされかけて、実のママにクチもきいてもらえなくなって。

もともと頭も良くないし、ウチではまともに勉強もできず、教えてくれるようなトモダチもいないから成績はもちろん悪くて。
そしたら学校の先生もメンドクサイものとかを見るような目でこちらを見るのね。
丁度、図工の時間に描いた失敗の絵を見るような、メンドクサイとしか分類のしようのない表情。

ゴメンね、先生。あたしも辛いんだ、実は。

だからせめてあんまりメイワクかけないように、勉強できないこと以外の苦労はかけないように努力するよ。

つまりそれはなにもしないってことなんだけどね。それくらいしか、できない。



結局今日は、定期圏内の、学校のひとつ手前の駅から、五分くらい歩いた先にあるマンションの屋上から「歩いて」みることにした。
多分行動としては、クスリを呑むとか手首を切るとかより数倍カンタン。
ただ、一歩、二歩前に踏み出すだけ。
小学生くらいの頃、押入れから歩いてみようとしたことがある。
右足が下に落ちる前に左足、左足が落ちる前に右足を踏み出せば、理論上は飛ぶことができるはずだ。

なんてしょうもない理論リクツに支えられて、足首からおかしな落ちかたをして捻挫とかしちゃって。
あの当時は前のパパも生きていて、ママも優しかったから、看病されるのが少し嬉しかった。
今思えば看病されることができる自分ってのが誇らしかったのかもしれないね。よくわからん。

12月の夜は寒い。
もう終わりなんだからと、ピクニックにでも行くような重装備、近くにあったセブンイレブンでほっとゆずと大きなパックのおでんを買う。
お小遣いはあと1200円ともう少し残っていたけど、もういいかな。
こっちでなんにもしていないあたしは多分天国にはいけないだろうから。
「地獄の沙汰も金次第」らしいので、いちおうねんのため。

オートロックのマンションなんだけど、前にそこいらを探し回っていたら、たまたま新聞屋さんが手持ちの勇敢を自動ドアの下に差し込んで、なんともなく扉が開いているのを見たのでそれを学習した。
マンションの屋上は、ちょっとした庭園になっていて、高い金網の向こう側に肥料用らしき砂袋が一杯積んである。
あれは強い風とか起きたら落ちてしまう。ちょっと危険だと思う。
ちなみに肝心のプランターの中身は花を植えていたのだろうけど、この季節だとどれもこれも葉っぱか土だけだ。

決心が鈍らないうちに金網を越える。
13階という高さの割りに、思っていたほどの風は吹いていない。

ただ、地面は遠かった。
箱庭じみてはいるのだけど、小さい、という印象はあんまりなくて、どこかテレビで見ている遠くの風景を思わせるのだ。
見下ろすと、マンションの前にクルマが一台通れるかどうかという狭くくねった一本道がある。
いちおう都心ということもあってアスファルトに舗装されてはいるけれど、坂道っぽくてちょっと歩きづらい。
そういえば、今朝下見に来ていた時に、マンションの手前の、丁度道がくねって坂になっているあたりで、若い男の人と会った。
若いといっても、あたしから見たらダイブ上で、多分20台半ばとか後半とかそんなもんだろう。
土曜の朝だからか、もともとなのか、少し無精ひげを生やして眠そうな顔をしていた。
分厚い黒のパーカーに、スソの擦り切れたカーゴパンツを着て。
ちょっと好みだなぁとか。
むしろ自分にオトコノヒトに対する好みなんてもんが存在したことにびっくりだ。
向こうがぼんやりしていたので、割と無遠慮にその姿をおっかけていたら、案の定こっちに気づかれた。
しまった、ガン見してるのに気づかれた!!!
と、顔を真っ赤にして(いたと思う)目を逸らしたのだけど。

そのあとにちょっと会話した。こんなかんじの。


「そこ、あぶないよ」

とあたしの足元を指差した。

観ると、あと2,3センチといったトコロに、おっきな犬のフンが落ちていた。

「うわわわうわあ。すみませんすみません、申し訳ありません」

慌ててなんだかわからないものに謝っている私があんまり面白かったのか、彼は少し頬を引きつらせるようなヘンな笑い方をした。

「このへん飼い犬多くないんだけどね、俺もはじめてみたよ」

と、そのおっきなアレをしげしげと眺めている。
ちょっとヘンな人だなぁとそのとき思った。

「そいえば、ここのマンションの方?」

「あ、いえ、ちょっと(飛び降り自殺に丁度いい)マンションの下見に。」

「あら、見た目女子高生くらいに見えたけど実は社会人のかた?」

「(そう思うよなー)えー、や、じょ、女子大生です。来年の春から」

「ほー、このへんだと女子医大とかかな。
 実は俺も最近このへん、ってかここの向かいのアパートに越してきたモノです。
 綿貫と申します。
 ここ気に入ったらご近所っすね」

「あ、そ、そっすね。あたしは辻先と申します。辻先日見。
 辻の先にお日様を見る、で、つじさきひみ」

「お、こりゃご丁寧に」

首だけでお辞儀をした。器用なひとだ。

「んじゃ、機会があったらまた」

コンビニのあるほうに、のっしのっしと歩いていった。
小柄で細いんだけど、歩き方はのっしのっし。



ああ、忘れてた、と唐突に思った。
自殺する前に、そういえば生まれてこの方、あたしは恋ってヤツをしてなかったなぁとか。
なんでこのタイミングで今更、とも思ったけど。


どうせ死ぬんだったらその前に一度。

散々、フェンスの外側で考えた挙句、決める。

「ゴメンなさい!」

がし。うぉぉぉぉぉ。えい!!!

マンションの照明に照らされながら、5キロいりの米袋みたいな肥料の袋が、眼前の道に音も無く落下していった。

ドン。

とちょっと聞こえたような気がした。遠くてわからないけど。

結局、今日は飛び降りるのをやめにした。
怖気づいたんではないと思うのだけど。


■■■ ■■■ ■■■ ■■■ ■■■ ■■■

米と水が切れてたのを思い出して、日曜の早朝7時頃にもそもそとおきだした。
引っ越してからなんか妙に早起き体質に変わってしまったらしく、睡眠時間が足りなくても6時台に起きる。
玄関前の坂を下りる。
そういや、昨日手前のマンションで会った女の子可愛かったナァ。
でも多分ちょっとなんかワケアリっぽかったなぁ。
そんなことをかなりぼんやりと考えながら歩いていると、道を挟んだ向かいのマンションの手前、玄関の脇にくだんの女の子が。

おや。寝てますね。

「おーいこら」

無用心な。食べるぞ俺、ロリコンだし。

「・・・・あ、綿貫はん、おあようございます」

「おはようご・・・ってなにしてんのキミ、こんなとこで」

ぴし、と額を軽くはたく。

「あーいや、待ってたんですけど、寝ちゃいました、へへへー」

へへーじゃない。マジで食うぞ。朝飯前に。

「待ってたって、誰をだ」

「綿貫さん」

俺すか。
何の用事があってか知らないけど、こんな女の子を寒空の下で待たせてたというだけで少々の罪悪感は感じる。

都合よくそばにあった自販機でほっとゆずを買い、ペットボトルのフタをあける。
ぼんやりしている辻先嬢のクチにくっつけてやると、美味しそうに喉を鳴らして呑んでいた。
熱くないのか?

「ありがとうございました」

「どういたしまして(飲むのはええ)」

「やー、助かりましたよほんと。
 凍えるかと思いました。
 よくあたしがほっとゆず好きだって知ってましたね」

「ええまぁ(他に選択肢が無かっただけだけどね)。
 で、このクソ寒い12月の早朝に女子高生が、オッサンになんの御用ですか?」

「あ、えーと」

暫く考え込む。
そのしぐさを見る限りでは本気で理由を忘れていたようにしか思えなかったのだが。
しかし唐突にこのコはとんでもないことを言い出した。

「そうそう。えと、好きです、あたしと付き合ってください」

うわぁ。

「・・・・あーっと。俺ら昨日初対面だよね。道端でちょこっとの」
「はい」
「人違いでなく?」
「はい」
「キミ女子高生だよね」
「はい」
「ホントに俺のことが好きなの?」
「はい」

ま、コトの真偽はともかく、理由は問うまい。
聞いても多分理解できないし。

ま、いいか。

「んと、俺、あんまりカネもってないよ」
「別にお小遣いくれとか言ってないです」
「(それもそうか)最近仕事忙しいから、あんまりかまってやれるかわからんよ?」
「耐えるのは得意です」
「(なんだそりゃ)オッサンだから若い感性についてけるかわからんし」
「それもなんとか」
「(フォローしろよ)あと、言ってしまうとエッチ好きだよ。
 エッチも出来ないようなお子様と付き合う元気はないワケですが」

コレはさすがに効いたかな。
まー、ナニが目的かわからんけど、ここまでデリカシーの無いセリフが飛んでくればいい加減諦めるだろう。
半分、というか7割がた本音もまざってるし。

「・・・・はい、エッチ、頑張ります」
「・・・頑張るんだ」

参ったなぁ。
一体初対面の俺はこのコに何をしたんだ?
たんなるご近所の挨拶程度のことしかしてない気がするんだけど。

個人的な話し、実は興味がないわけではない。
女子高生と付き合うーってのは、学生時代なんの色香もなかった自分としては結構大きめのドリームだ。
見た目で言ってしまえば少し地味目で暗めってトコも含めてドストライクと言えよう。
ロリコンだしな俺。

「ホントのトシはいくつ?」
「え、あ・・・・16です」
「あ、やっぱり。来年から大学生ってのはウソだったのね」
「・・・・・・いつからバレてたんですか?」
「や、なんとなく。なんかキミちょっと頭悪そうだし。医大はムリだろまず」
「ひでえ・・・・」

ま、頭悪いコがキライってわけでもないんだけどな。

「あんまり深く考えても仕方ないし」

実際仮にこのコがよからぬことを考えてたとしても、こんなコにだまされるようなら俺も終わりだ。
もともと恋愛は勢いと感情にのっかってってのが身上ではあるしな。
コレはコレで面白い。
出逢って二日ってのも最短記録、付き合った相手としても最年少記録。
なかなかレアといえばレアだ。

「んじゃまぁ、とりあえずオトモダチから」
「・・・え、ホントですか!?」
「今更ウソついてもしゃーないしょ。
 一ヶ月くらいはお試しでね。
 どーしてもムリだと判断したら一ヵ月後にお断りします。
 そちらもムリだと思ったら遠慮なく」
「はい!ありがとうございます!!」
「いーい返事だー。でもちょっと違うね」

きょとんとしている辻先さんに右手を差し出し。

「では、これからよろしくおねがいします」
「あ、はい、こちらこそよろしく」
 
小さい手だなぁ。

「んじゃ、そこだし、とりあえずウチに来てお茶でも飲んできますか。
 すっとばしちゃったけどお互いのプロフィール紹介と参りましょう」

「はい。えと、その・・・・・えっちは?」
「しねえよさすがに!未成年相手に俺もそこまで鬼畜じゃねえ」

今度、区の条例を読み直しておこう。
  




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