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半蔵門かきもの倶楽部コミュの第134回文芸部A ロイヤー作 『合コンと幼馴染』 アフターストーリー『誕生日』

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    終章 『誕生日』 【ハッピーエンドルート】

 ガラス張りの窓越しに広がる東京の夜景は、まるで星を撒き散らしたように輝いていた。
 僕らは、高層のタワーに入っているホテルのメインダイニングにいた。愛華は少し緊張した面持ちをしていた。シックなネイビーのドレスが、普段より少し大人びた彼女の魅力を引き立てていた。
「ねぇ、ゆうくん。こんなに素敵なホテルレストラン、本当によかったの? なんだか落ち着かないよ」
 愛華がいたずらっぽく小首を傾げる。
「なに言ってるんだよ。今日は愛華の特別な日だろ。20歳の誕生日、おめでとう」
 僕はそう言ってシャンパングラスを掲げると、愛華も嬉しそうにグラスを合わせた。
 澄んだチリンという音が二人の間に響いた。
「ありがとう。……こうやってゆうくんとお祝いできるの、本当に夢みたい」
 前菜から始まったコース料理が進むにつれ、愛華の緊張もほぐれいつもの柔らかい雰囲気になった。
 僕らは美味しい料理に舌鼓を打ち、他愛もない思い出話や大学での出来事を語り合った。
 あの日、すれ違いの果てにようやく思いが通じ合ってから、僕たちの時間は飛ぶように過ぎていった。
 自分の気持ちから目を背けて彼女を傷つけてしまった過去。あの遠回りを二度と繰り返さないと誓った日から、僕は愛華を愛し、大切にすることだけに心を砕いてきた。
 デザート皿が運ばれてきた時、プレートのフチにはチョコレートで『Happy Birthday Aika』と描かれていた。
 愛華が「わぁ……!」と声を上げて瞳を輝かせた。
「綺麗……食べるのがもったいない」
「写真、撮ろうか」
 スマートフォンを向けると、愛華は照れくさそうに、けれど最高に幸せそうな笑顔を浮かべた。
 食事が終わると、僕はテーブル越しに愛華の手を取った。
「帰ろっか……と言いたいところだけど、今日はまだ終わりじゃないんだ」
「え?」
 愛華が不思議そうに首をかしげた。
 僕は彼女の手を取り専用のエレベーターに乗り、さらに上階にある客室フロアへと向かった。
 エレベーターを降り、重厚な絨毯が敷かれた廊下を進む。カードキーをかざして部屋の扉を開けると、そこは全面の窓から一切遮るものもなく夜景が一望できる部屋だった。
 部屋に入った瞬間、愛華は息を呑んだ。
「ちょっと、ゆうくん……! これ、どういうこと!?」
「今夜はここに泊まるんだよ。誕生日のお祝い」
「うそ……こんなすごいお部屋、高かったでしょ? 」
 愛華は目を丸くして部屋の中を見回し、やがて窓辺へと駆け寄っていった。眼下に広がる街並みを前に、感極まったように溜め息をついた。
「すごすぎるよ……まるで空に浮いてるみたい」
 僕は彼女の隣に歩み寄り、横顔を見つめた。
「愛華」
「ん?」
 彼女が振り返った瞬間、僕はポケットから小さなベルベットの箱を取り出し、愛華の目の前に示した。
「これ……」
「開けてみて」
 愛華は少し震える指先で箱の蓋を開けた。
 中に収められていたのは、シンプルだが繊細な輝きを放つリングだった。小さいダイヤも埋まっている。
 愛華の息が止まり、その瞳にみるみるうちに涙が溜まっていく。
「ゆうくん、これ……婚約指輪……?」
「うんうん、婚約は、もっとちゃんとした形で僕から申し込む。これは……エンゲーリングというより、僕の決意の証だよ。一生の愛を誓うための指輪なんだ」
 僕は愛華の手を優しく取り、指輪を箱から摘み上げた。
「あの日、僕が自分の気持ちに素直になれなくて、愛華をどれだけ傷つけたか……忘れたことはないよ。あの時、君が僕の手を掴み返してくれなかったら、今の僕はいない。もう君を不安にさせたり、寂しい思いをさせたりすることは二度としない」
 愛華の頬を、一筋の涙が伝い落ちた。
「ゆうくん……」
「僕にとって、僕の人生で一番大切な人は昔からずっと愛華だけだし、これからも愛華以外にはありえない。僕と、これからもずっと一緒にいて下さい」
 愛華の薬指に、そっと指輪を通した。サイズはあらかじめ、彼女が寝ている間にこっそり測っておいたものだ。寸分の狂いもなく、彼女の白い指にぴたりと収まった。
 愛華はその指輪を愛おしそうに見つめ、それから溢れ出す涙を堪えきれずに、僕の胸の中に飛び込んできた。
「バカ……そんなの、当たり前じゃない……っ!」
 僕のジャケットをぎゅっと掴む愛華の小さな手。その背中に手を回し、僕は力強く彼女を抱きしめ返した。髪から香る甘い香りと伝わってくる確かな温もりが、僕の胸を愛おしさで満たしていく。
「ずっと……ずっと待ってたんだから。ゆうくんがそうやって私のことだけを見てくれるのを……ずっと待ってた」
 胸元でくぐもった愛華の声が震えている。
「ごめんね、遅くなって。でも、もう絶対に離さないから」
 僕は愛華の肩を優しく押し戻し、顔を覗き込んだ。泣きじゃくってメイクが少し崩れてしまっている顔が、世界で誰よりも可愛らしく思えた。
 指先で彼女の涙を優しく拭い、唇を重ねた。
 幼稚園のあの日に交わした幼いキスとは違う。すれ違いを乗り越え、互いの愛を確かめ合った、深く、重みのあるキス。
 唇が離れると、愛華は頬を真っ赤にして、恥ずかしそうに視線を落とした。指輪がはめられた自身の薬指を愛おしそうになぞりながら、ふふっと小さく笑う。
「ねぇ、ゆうくん」
「なぁに?」
「私、今までの人生で、今日が一番幸せだよ」
「僕もだよ。でも、来年の誕生日はもっと幸せにするし、その次も、もっと幸せにする」
「ふふ、欲張りだね」
 愛華は僕の手に自分の手を重ね、指を絡ませて恋人繋ぎにした。指輪の金属の質感が、僕の手に心地よく当たる。
 窓の外では、東京の夜景が二人の未来を祝うようにどこまでも眩しく輝いていた。

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