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半蔵門かきもの倶楽部コミュの第129回 文芸部A 王都作「《仮稿》人が消える丘ー底なし竜一」(テーマ選択「卒業」)

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[不思議シリーズ]

※本作は書き途中ですが、公開します。

改稿点
・竜一の台詞と描写を追加する
・「人が消える話 おすすめ」検索する

1978年、新宿・純喫茶「琥珀」

店内にはタバコの煙と、コーヒー豆の香りが充満している。
テーブルに並んだのは、四つのホットコーヒー。全員、ブラック(ストレート)だ。

「だから見たんだよ俺は、この目で!しかと!」

三十歳の大川竜一が、身を乗り出して叫んだ。その手には、まだ現像して間もない一枚の印画紙が握られている。当時、彼はオカルト雑誌「ヌー」の雇われ記者に過ぎなかったが、その眼光だけは野心と確信でぎらついていた。

「また始まったよ、夏場恒例・竜一のヨタ話が」
小出正勝が、呆れたように眼鏡のブリッジを押し上げた。ハヨカワ・ミステリ・クラブの面々は、鼻で笑いながらカップに手を伸ばす。
「聞いちゃろか、その『神隠し』の全貌ってやつを」
「ヤァヤァ!竜一先生の独演会だ!」

野次馬じみた仲間の声が飛ぶ。大川は、悔しさに奥歯を噛み締めた。
(ホントに見たのにィ……。あの丘の真ん中で、空間が歪んで、あいつが……)

怒りで震える拳。その時、大川が握りしめていた印画紙が、一瞬だけ異様な熱を帯びた。それが後の「KAII」創刊へと繋がる、時空を超えた“媒体”になるとは、まだ誰も知らない。

「……竜一」
小出が、ふと声を落として釘を刺した。
「いいか。一つ間違えたら、お前さんはしっかり『ガイキチ』手前だ。世間を納得させたきゃ、調査と諸々の作業は綿密にやれ。足を使え」




小出正勝の回想――「あの男の、狂気一歩手前の眼」

2026年、冬。
新宿の喧騒を逃れた路地裏の喫茶店。小出正勝は、運ばれてきたホットコーヒーに一口も砂糖を入れず、じっと湯気を見つめていた。

向かいには、大川の後輩編集者である緑山と川柳が、背筋を伸ばして座っている。

「……竜一か。あいつは昔から、自分の見たものを疑うという機能が壊れていたよ」

小出は、枯れ木のような指でカップの縁をなぞった。

「1978年、あの『消える丘』の話を持ってきた時のあいつの顔……。ありゃあ、ただのスクープを追う記者の顔じゃなかった。向こう側に半分、身体を突っ込んだ男の顔だ。ハヨカワ・ミステリ・クラブの連中は笑い飛ばしたが、俺だけは背筋が寒くなったのを覚えてる」

小出は一度言葉を切り、深く息を吐いた。

「俺が『一つ間違えたらガイキチ手前だ』と言ったのは、決して揶揄じゃなかった。忠告だったんだ。あいつはあの時、印画紙に焼き付けられた『空白』に魅入られていた。論理や整合性なんて放り投げて、その『消えた瞬間』に自分も飛び込もうとしていたんだからな」

緑山が身を乗り出して尋ねる。「それでも大川さんは、踏みとどまったんですよね?」

「踏みとどまった?……いや、違うな」
小出は不敵に目を細めた。
「あいつは、その狂気を『雑誌』という箱に閉じ込めることで、なんとかこっち側に繋ぎ止めたんだ。それが『KAII』の正体さ。あいつの情念を薄めて、インクと紙に変えて、世間に少しずつ毒として配った。綿密な調査と作業……。俺が言った言葉を、あいつは呪いのように守って、狂気を仕事に変えたのさ」

小出は、冷めかけたコーヒーを一気に飲み干した。

「今、あいつが持っているあの印画紙……。あれに触れる時は気をつけろよ。77歳になった今でも、竜一の心はまだ、あの丘の上で立ち尽くしているのかもしれんからな」




1978年、初夏――「人が消える丘」の静寂

埼玉県某所。地図にも載らないような、なだらかな起伏の続く丘陵地帯。
当時30歳の大川竜一は、肩に提げたニコンの重みを感じながら、膝まである夏草をかき分けていた。

「……本当に、ここなのか?」

隣を歩くのは、地元の情報屋から紹介された「失踪者の友人」を名乗る男だった。男は怯えたように、丘の頂上にある一本の奇妙にねじれたクヌギの木を指差した。

「あそこです。あそこの真ん中に立つと、音が消えるんだ。……竜一さん、あんた記者だろ? 助けてやってくれよ、あいつ、あそこで消えちまったんだ」

大川は鼻で笑った。
(ヨタ話だ。どうせ蒸発か何かの言い訳だろう)
そう思いながらも、彼は職業的な本能でカメラを構え、ファインダーを覗く。人格モデルであるアイバン・サンダーソンのように、彼は「異常」を否定せず、まずは観察することに決めていた。

「おい、そこまで行ってみろ。俺が写真を撮ってやる」

男がおずおずと丘の中央、クヌギの木の下へと歩を進める。
大川はシャッターを切る。カシャッ、という乾いた音が初夏の空気に響く。

「もっと真ん中だ。木の真下へ行け!」

大川が指示を飛ばした、その瞬間だった。

――音が、消えた。

風にそよぐ草の音も、遠くを走る車のエンジン音も、自分の鼓動さえもが、まるで分厚い真綿に包まれたように遮断された。
ファインダーの中の男が、不自然に「歪んだ」。

「おい……?」

大川がカメラから目を離したとき、男の姿はそこになかった。
ただ、男が着ていたはずの安物のポロシャツだけが、重力を無視して数秒間、中空に「人の形」を保ったまま浮いていた。

「……なんだ、これは」

大川の背筋に、氷水を流し込まれたような戦慄が走る。
彼は夢中でシャッターを切り続けた。
次の瞬間、空中に浮いていたシャツが、内側から吸い込まれるようにシュルリと萎み、地面に力なく落ちた。

そこには、誰もいなかった。
足跡も、草を分けた形跡さえも、中央の一点から先は途絶えている。

大川は震える手で、撮り終えたばかりのフィルムを巻き上げた。
この時、彼が必死に捉えた「目に見えない穴」の正体が、後に現像された印画紙を通じて、2026年の後輩たちを戦慄させることになるとは、まだ知る由もなかった。

「……見たぞ。俺は、確かに見た」

彼は、誰もいない丘に向かって、自分に言い聞かせるように呟いた。
その目は、もはや堅実な記者のものではなく、生涯をかけて「底なしの謎」を追い続ける、狂信者のそれに変わっていた。




2026年――編集部の奥底、禁断の「熱」

西新宿の古い雑居ビル。オカルト雑誌「KAII」の編集部内は、令和の世にあっても、昭和の湿り気を帯びた独特の空気が漂っていた。

「……緑山さん、これ、何なんです?」

後輩編集者の川柳路夫(56歳)が、資料室の奥、スチール製の耐火金庫から取り出された「それ」を指差した。
横に立つ緑山繁(58歳)も、ごくりと喉を鳴らす。

二人の前にあるのは、古い印画紙だ。
1978年に大川竜一が撮影した、あの「人が消える丘」。
経年劣化でセピア色に褪せているはずのその紙が、なぜかそれなりの品のような光沢を放ち、不気味なほど鮮明に「誰もいないクヌギの木」を写し出していた。

「大川さんが言ってたんだ。……『この写真は、まだ現像が終わっていない』ってな」

緑山が震える手で、印画紙の端に触れた。
その瞬間、室温22度に設定されたはずの編集部に、熱帯のような湿った「熱」が奔った。

「熱い……! なんだこれ、生き物みたいだ!」

川柳が叫ぶ。印画紙の中の景色が、まるで水面に石を投じたように「揺らぎ」始めたのだ。
二人は目撃した。
写真の中のクヌギの木の下に、1978年に消えたはずの「男のポロシャツ」が、今まさに地面に落ちようとしている瞬間を。

「……おい、音が……音が消えたぞ」

緑山の言葉通り、編集部に鳴り響いていた電話のベルも、街の喧騒も、一瞬にして遮断された。
二人の目の前で、印画紙から「1978年の初夏の匂い」――むせ返るような草いきれが溢れ出してくる。

「待て、吸い込まれる……! 川柳、離せ!」

だが、遅かった。
印画紙の表面は、もはや紙ではなく、底なしの「穴」と化していた。

その時、編集長室の重い扉が開き、77歳の大川竜一が姿を現した。
手には、いつものようにブラックのホットコーヒー。
彼は驚く様子もなく、眼鏡の奥の鋭い眼光を二人へ向け、静かに呟いた。

「……言ったろう。一つ間違えたら、ガイキチ手前だとな」

二人の身体が、1978年の「あの丘」へと引きずり込まれていく。
大川はコーヒーを一口啜り、48年前と全く同じ、狂気と確信の混じった笑みを浮かべた。


『人が消える丘ー底なし竜一』[不思議シリーズ]・完(?)



2026年、時空の歪みに呑み込まれそうになる緑山と川柳を前に、77歳の大川竜一が静かに語り出す「真相」を描きます。

そこには、単なる怪奇現象を超えた、一人の編集者の凄まじい執念が隠されていました。



真相編:底なし竜一の「現像」

編集部の空間が歪み、1978年の湿った草いきれが令和の空気を侵食していく。引きずり込まれそうになる二人の後輩を尻目に、大川竜一はゆっくりとホットコーヒーをデスクに置いた。

「大川さん! 助けて……これ、何が起きてるんですか!」

川柳の叫び声に、大川は自嘲気味な笑みを浮かべた。

「助ける? 違うな。お前さんたちは今、最高に贅沢な『取材』をしてるんだよ。48年待ったんだ……この印画紙が、完全に『現像』されるのをな」


1.「空白」という名の怪物

大川が語った真相は、あまりに狂気じみていた。
1978年、あの丘で男が消えた瞬間、大川がレンズ越しに見たのは「異次元」などという生易しいものではなかった。それは、この世界の理(ことわり)から完全に脱落した「絶対的な空白」だった。

「あの時、俺はシャッターを切った。だが、現像した印画紙に写っていたのは、景色じゃなかった。……『飢え』だ。あの場所は、常に何かを食いたがっている。人間、時間、そして『誰かの認識』をな」


2.「KAII」という名の檻(おり)

大川は、あの丘の怪異を世間に公表しようとした。しかし、ハヨカワ・ミステリ・クラブの小出たちに一蹴されたことで、彼は気づいたのだ。
「一人の目撃証言」など、すぐに風化して消えてしまう。怪異をこの世界に繋ぎ止めるには、「大勢の人間に、それが実在すると信じ込ませる力」が必要だと。

「俺は『KAII』を創刊した。怪奇現象を、オカルトを、活字にして数万、数十万の読者に叩き込んだ。なぜか分かるか? 読者の『意識』を集めて、あの印画紙にエネルギーを注ぎ込むためだ。 雑誌は、あの丘の怪異を養うための『餌(エサ)』だったのさ」


3.48年目のシャッターチャンス

2026年。老舗雑誌として積み上げられた数千ページの活字、読者たちの好奇心、そして編集者たちの情熱。それらすべてを吸い込み続けた印画紙は、ついに臨界点を迎えた。

「小出さんは言った。『調査と作業は綿密にやれ』とな。俺は忠実に守ったよ。48年間、一歩ずつ、あの丘の正体を突き止めるために……この印画紙を、本物の『入り口』に育て上げたんだ」

大川は、震える手でカメラを構えた。1978年のニコンではない。現代の、だが魂の宿った愛機だ。

「さあ、緑山、川柳。お前さんたちが向こうへ行く瞬間を、俺が撮り下ろす。それが『KAII』の最終号、伝説のスクープになる。……底なしの|竜一《おれ》、人生最後の現像だ」



物語の結末(エピローグ改案)

緑山と川柳の行方: 二人は完全に消失。しかし、数日後、2026年の編集部に届いた「1978年消印」の封筒の中から、緑山と「KAII」の先行誌「ヌー」を辞めて深追いした有志の連中二人が写ったセピア色の写真が発見される。
川柳は戻ってきた。なぜなら、遅くに購入した戸建てのローンを払い終えていなかったからである。「さすがにこれでは子供らに顔向けできん」と奮起した川柳本人と大川。手を携え完済に向けて働いている。ちなみに川柳が2026年へ戻るエネルギーは、大川と戦術の有志たちが集めた各誌の読者たちから得たものだった。
大川竜一: 満足げにコーヒーを飲み干し、椅子に座ったまま静かに気絶しただけ。その手元には、真っ白な白紙になったはずの印画紙が握られていた。
同じ日の深夜、大川は編集スタッフの一人・鈴木宇女子(すずきうめこ 当年36 1990/9/9-)に発見され、とりあえずJR病院か新宿救急医療センターの時間外診療にかかった。その際に大川が握っていた印画紙は念のため保管した。→この紙は「人が現れる紙」で活躍する。
鈴木から連絡を受けた、まだ健在に存命している小出正勝が大川を見舞う。ここでも何だかんだ話し込む。




エピローグ:ローンの重みと「現れる紙」

2026年、JR東京総合病院・深夜の病室

病室の静寂を破るのは、規則正しい心電図の音と、老い先短いとは思えない大川竜一のいびきだった。

「……全く、この爺さんは。死ぬ死ぬ詐欺なお騒がせもいい加減にしてほしいわ。前に言ってた「この世から卒業する」って嘘じゃん」
編集スタッフの鈴木宇女子(36歳)は、溜息をつきながらパイプ椅子に深く腰掛けた。彼女が大川を発見したとき、彼は編集長室で文字通り「真っ白」になった印画紙を握りしめ、幸せそうに白目を剥いていたのだ。

その印画紙は今、念のために彼女が預かり、カルテの端に挟んである。奇妙なことに、その紙は時折、生き物のように微かな熱を放っていた。


生還した川柳と、消えた緑山

数日後、編集部に驚くべき封筒が届く。消印は「昭和53年(1978年)」。
中から出てきたセピア色の写真には、1978年のあの丘を背景に、若き日の緑山と、当時「ヌー」を辞めて怪異を深追いした有志二名が、晴れやかな顔で収まっていた。

一方、その場にいたはずの川柳路夫は、間一髪で2026年へと「弾き戻されて」いた。
「……死ぬかと思った。いや、死ぬより怖かったですよ。まだローンの残債が3000万もあるんだ! 子供の学費だって……ここで消えてたまるかってんだ!」

大川と読者たちが集めた膨大なエネルギー。それを「現世への執着」という一点に集中させた川柳の執念は、時空の歪みさえも凌駕したのだ。退院した大川と川柳は、今や「完済」という共通の目標(?)に向けて、老舗の意地を見せつけながら馬車馬のように働いている。


小出正勝の訪問

ある日の夕暮れ。病み上がりの大川を、83歳の小出正勝が訪ねてきた。
二人の前には、いつものようにブラックのホットコーヒー。

「……結局、緑山たちは置いてきたのか、竜一」
「ああ。あいつらは、あの『瞬間』の虜になっちまった。俺の負けだよ、小出さん。俺は結局、こっち側のコーヒーの苦みが忘れられなかった。って、言い訳にもならんか」

大川は笑いながら、宇女子が保管していた例の印画紙をテーブルに置いた。
今は真っ白なその紙。だが、この紙はもはや「消えるための媒体」ではない。

「宇女子がこれを見つけてくれたおかげで、新しい連載が決まったよ。題名は――『人が現れる紙』。今度は、向こう側へ行った連中を一人ずつ、こっちへ引きずり戻してやるのさ」

小出は呆れたように笑い、コーヒーを啜った。
「一つ間違えたらガイキチ手前……。お前さんは、その手前で踏みとどまって、ついに橋を架けちまったわけだ」

窓の外、新宿の夜景が広がる。
老舗オカルト雑誌「KAII」の灯は、まだ消えそうにない。



続く、と思う。

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