半蔵門かきもの倶楽部コミュの第122回文芸部王都作「ＫＡＩＩ／帰ってきたＡ子」（三題噺「Ａ子」「とあるバー」「キャンディ」）

所々抜けてるところありますがタイムアップ提出します。　作者

〈写真①〉
ＫＡＩＩ

　時は2022年の夏。
　ここは雑誌「ＫＡＩＩ」編集部。目印は黒壁にその文字の真っ白なネオンサイン。

　17時を過ぎても、壮年を過ぎている男二人、ともに編集の緑山（みどりやま）と川柳（かわやなぎ）の口は止まることを知らない……
　とくに、記事に出てくる女性の呼称をＡ子にするか他ので行くか、それがなかなか決まらなかった。

“くだらねぇ・・・早く済ませろっての”
　川柳は頭の中でグチる。

「またおなじみの「Ａ子」じゃあな。もっと、ほら、こう……何ていうか「誰」って分かりやすいやつ！あるよね？」
　なおも粘る緑山。

　しばらく沈黙……。

「う～ん、ここは一つパアッと飲もうや！ほら！」
　川柳は緑山の肩を叩（はた）きながら、連れ立って編集部のあるビルを出た。

　　　＊＊＊

　何だかんだで、来てしまった浅草。

　二人の足はとあるバー（神○バー〈写真②〉のバッタモン）の真ん前にあった。
　この店は東京のどこかにあった、ガード下の国際色、とりわけカナダ、タイ、ロシア、パレスチナからの飲んべ客が多かったときがある。コロナ禍で売り上げが大幅に落ち込み、オーバーツーリズムでいっとき息を吹き返したが、地価と原材料価の高さと人件費の高騰が重なり2024年の暮れに閉店。跡地はファンシーアンテナショップに姿を変えた。

　ともに少しばかり緊張をまといながら、入った。
　白熱灯の熱を感じる照明たちは、まだ健在だった。
　通いつめた太客たちの口からは、
「なにせ店主の頭がトンチキで」
「フンフン、で、どうトンチキ？」
「客で来た女のコ次々と店のキャストになるかい？って口説くのよ。で、その内半分くらいはそのまま入っちゃうんだけどなかなか続かなくってね」
「フンフン、で？」
「勤めてた若い店員、ボーイってのかな？佃島クンと加藤クン、いい子たちだったよ」
「いわゆるヤリチンの逆」
「それはなかなか！」
「会ってみたいでしょ」
「もちろん！」

　示し合わせたかのように注文を取りに来てしまった話題の主たち！
　一人は、いかにも爽やかな好青年。
　もう一人は、モッサリしてはいるが人当たり柔らかそうな青年。

「ゲッ…」
「来やがった

」
　彼らは、内心、引いていた。
　そのありようは、一見さんの緑山と川柳の目にも見て取れたほどはっきりしていた。

　その常連さんたちの目の前につかつかと赤いコートの女性が来る。

「キャンディ、ちゃん久々だね～」
「あ～、キャンディちゃん♡」
　彼らは口々にその名を呼んだ。

　その一部始終を見てしまった緑山と川柳は、それぞれ汗ばんだままの顔を見合わせた

〈写真③〉
「帰ってきたＡ子たち」

　2025.8.18 18:00

　千代田区のとある静かな一角に佇んでいるバー。今宵は、このバーが主役です。
　　　　　　―――
　今日はいつになく華やいでいて、普段は滅多に来れない、かつてここのマスターにとても世話になった方々の何人かが顔を出している。
「最近、マスターJOMYさんたまには来るらしいけど会えるかな？」
「今回はさすがに来るんじゃない？」
「さぁね」
　その一方で、カウンター席の向こうに新顔の中年に見える風貌で体格の良い女性がグラスを確認している。赤いエプロンがよく似合う。
「キャンディ姉さん、ディタちょうだい♪」
「あたしは翠jin！」
「オレンジジュース。なければサイダー」
「ギムレット作れる？」
「ジンをロックで」
「おぉやるぅ～!」
「カルーアあったっけ？」
「持ってきてたら500円🫲」
「そうだった！キッカリ払える☆」
「ついでに私からはメロンダイキリ差し入れね

」

　　　　　　＊＊＊

「あなたたち、どの話のＡ子か紹介して！」
　赤いエプロンの主が出しぬけに聞いた。
　い合わせるＡ子たちが次々と「この話のＡ子です☆」、とか、「あの話とまた違う話に実はかけ持ちしてました♪」、とか、中には「言わなくても良いよね……」と正体を出し渋るＡ子もいた。
　赤いエプロンの主がポロッと、
「今、自己紹だけで間が持ってる。これ凄いかも」
　この場に集まる皆がめいめいに頷いた。

　中には今は幽霊となってしまったいつかのＡ子も来ている。この人は持ち込みでヨーグリート。
　そして、この人を忘れてはならない。その名は…………みけねこさん！
　この場所でイベントの司会を長いことしていて、ここに集まる皆に存在を知られている方の一人。今回は珍しく客席の一番奥に座っていた。
　この店「PIYONO」の長い常連さんの一人・Ｂ氏と緑山氏から、
「顔だ・け見に来ましたぁ～～～」
「キャンディちゃん僕のこと覚えてる？ほら、あの……」
　みけねこさんとキャンディの二人から最奥の左隣の席かその隣の席に座るよう勧められ、
「そう言わないでここ座って♪ ね！」
　最後の「ね！」はもちろんキャンディ。

「もちろん覚えてるわ。最後に神○バーぽいお店で話したの」
　キャンディは憚らずに色っぽく投げキッス。
　みけねこさんをはじめ、居合わせてる皆、思わず苦笑いをしていた。

　Ｂ氏。彼の導きだっ、…いや、それなら他にもいるはず。
　今となっては、よくわからない。
　それで、いい。それが、ここPIYONO。

　皆で出せる限り声を張って、「JOMYさ～～～～～んっ！ありがと～～～～～～～～う!!!!」