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半蔵門かきもの倶楽部コミュの第121回 王都作 『枯れ花葬―最後の夏の青』(テーマ選択「海」「ラムネ」「麦わら帽子」)

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生成AI(ChatGPT)小説アレンジ

※〈設定追加の例〉坂本日名と祖母のミカル

 あれは11年前のこと。
 鳥取のとある海辺の小さな町に、ひとりの小柄でスレンダーな体型の女子学生が来ていた。名前は日名(ひな 当時21)。毎年夏になると、かつては県内の市街地、13年前からは東京からこの町へ来て、祖母・ミカル(当時80)の家で過ごした。

 古い、い草。陽と土がかもし出す独特のかおり。そこにミカルばあちゃんのばあちゃんらしくないと感じられる、身のこなしの軽い佇まい。
 日名は毎回思う。
「この代わり映えのしなさが、クセになる」

 今年も日名は、いつものように麦わら帽子をかぶって、ミカルの家の縁側に座っていた。手にはラムネ。ビー玉を押し込む音が、蝉の声とともに空気に弾ける。

 日名は台所へ行ってスイカを切った。切り慣れないからか、左手の人さし指を少し切ったが、ゲル入り絆創膏のおかげで痛みはほとんど感じていない。
 切ったうちの8分の1を、さらに半分にしてミカルの居る部屋へ持っていった。ミカルは喜んでそれを食べ始めた。

「今年が最後の夏かもしれんな。したら、日名、あの大きな箪笥(たんす)の一番上の段の右奥にある物を出してくれんか」

 ミカルがぽつりと呟いた。日名は頼まれたことをしながら驚いて彼女を見たが、ミカルは銀歯の増えた歯をくっきりと見せながらニカッと笑っただけだった。

      ―――

 その日の午後、日名は砂丘の近くの海へ向かった。高々と青い空、白い積乱雲、わりと穏やかな波。海岸には誰もいなくて、風だけが微(かす)かに……寂れた佇まいなドライフラワーのアンティーク調コサージュが足された麦わら帽子のつばを揺らした。

 今回の帰省ではじめて聞かせてもらえた、若き日のミカルさんが上京先で散らせてしまってくすぶり続けた、当時の感性ではぶっ飛びすぎた女教師へ届けられなかった静かな恋心。彼女から切々と「もう、捨ててくれ。頼む」と託された。

 波打ち際でラムネの瓶を砂に刺し、日名は個人輸入で買ったスニーカーサンダルを脱いで足を海に浸した。水は意外に冷たく、軽く灼(や)けた肌に心地よかった。

 そのとき、不意に風が強くなり、ゆるくかぶっていた帽子がふわりと舞い上がった。いわく付きのアイテムが足された帽子はくるくると宙を踊り、そして海の向こうへ飛んでいった。

 日名は追わなかった。ただその場に立ち尽くし、飛んでいった麦わら帽子を見送った。
 彼女は、遠い目を向けながらぼんやりと、
「あの帽子が、夏と、ミカルさんの古くて忌まわしい呪いのこもった記憶を連れていくのかもしれないな」

 夕暮れ、ミカルの家へ戻ると、縁側にもう一つのラムネ瓶が置かれていた。ひんやりと、まだ結露がにじんでいる。

 日名は瓶を手に取り、静かにビー玉を押した。ひとつの時代の名残りと季節が、透明な音を立てて終わった。

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