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半蔵門かきもの倶楽部コミュの第46回 まめや作「そらいろなみだ」

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ずっと昔の昔、昔の遠い昔、そらいろテングは生まれました。
人間が布きれを身に着けるようになった日を、大きな鉄の塊が空を飛んだ日を、町中が炎に包まれた日を、全部、そらいろテングは知っています。
青い青い、空の色。真っ青なこの澄んだ体の青色、お空の方に伸びた立派なお鼻、右手には葉っぱを幾枚も紡いで作った大きな扇子。
そらいろテングは今日も生きています。
そらいろテングには、お母さんもお父さんもいません。誰も、いません。けれど、寂しくなんてありません。そらいろテングは、孤高のテングです。孤高のテングは、とても強いのです。とっても強いので、そらいろテングの中に涙はありません。
お空が青くなったら、扇子をひらり、ひとっ飛び。
いちにちが始まります。
立派なお鼻がぴくぴくと震えました。行くべきところに着いたようです。そらいろテングは扇子をとじて、お空から降りていきます。
お庭に大きな柿の木があるお家には、ひとりのおばあさんがいます。
ご飯、ねぎのお味噌汁、人参の漬物、卵焼き、お昼ご飯を食べています。つやつやの卵焼きをお箸で切って、ひとくち、おばあさんが食べました。
あぁ、とおばあさんは思いました。
「しょっぱい」おばあさんは言いました。
そして、小さく息を吐きだすと、箸を置きました。おばあさんの目から、涙がこぼれていきます。
おばあさんは、お砂糖とお塩を間違えてしまったのです。一昨日もしょっぱい卵焼きを作ってしまったばかりでした。
どうしてかしら、とおばあさんは思います。いつの間にこんなにおばあさんになったのかしら。スーパーのレジでは、小銭入れからすぐに小銭を取り出せなくて、一円玉ばかりが溜まっていきます。二合しか炊いていないご飯が、気がつくと炊飯器の中で乾いています。いつの間に、とおばあさんは思います。
あぁ。
一昨日は出なかった涙が、ぽろぽろとこぼれていきます。
そらいろテングは、お鼻をぐんっと伸ばして、おばあさんの涙を吸い取ります。
おばあさんがどうして泣いているのか、そらいろテングにはわかりません。
そらいろテングはおばあさんよりもとても長く生きていますが、生まれたときのまま、まだまだ生きていくからです。
ずず、ずず、ずずずず、ずず。おばあさんの涙は、真っ直ぐにそらいろテングのお鼻に吸い込まれていきます。
扇子をひらり、ひとっ飛び。
動物園のサル山の前に、ひとりの男の子がいます。
右手はお母さんの手をしっかりと握って、左手は柵格子を掴んで、サルたちを見ています。顔を真っ赤にした子ザルが、真っ赤な顔のお母さんサルの背中にしがみついています。お母さんサルはそのまま、ひょいひょいと土で固められた山を駆け巡ります。
あぁ、と男の子は思いました。
お猿さんは、お母さんにおんぶをしてもらったり、お母さんに抱きついたりしても良いのです。「お猿さんになりたいな」と男の子は思いました。
男の子の目から、涙がこぼれました。お母さんに見つからないように、前を向いたまま、ぽろりぽろり涙はこぼれていきます。
男の子だから強い子になってね。お母さんは言っています。男の子には、お父さんがいません。お父さんがいなくても、強くて立派な男の子にならないといけません。おんぶや抱っこは赤ちゃんがしてもらうことだと知っています。けれど、時々、ほんの時々、ちょっとだけです。お母さんにぎゅっとしてほしいなと思うのです。
あぁ。
小さな目から涙が、ぽろぽろとこぼれていきます。
そらいろテングは、お鼻をぐんっと伸ばして、男の子の涙を吸い取ります。
男の子がどうして泣いているのか、そらいろテングにはわかりません。
そらいろテングはお母さんもお父さんもいませんが、とっても強いのです。孤高のテングのまま、まだまだ生きていくからです。
ずず、ずず、ずずずず、ずず。男の子の涙は、真っ直ぐにそらいろテングのお鼻に吸い込まれていきます。
お空の青が終わるころ、扇子をひらり、ひとっ飛び。
いちにちが終わります。
大きな大きな湖が広がっています。
ずんずんずん。ずん。ずん。ずんずんずん。そらいろテングがお鼻を振ります。ずんずん。お鼻から、おばあさんの涙が、男の子の涙が、飛び出します。湖の中に溶けてひとつの湖になります。
なみだの湖です。
ずっと昔の昔、昔の遠い昔、ひとしずくだった湖が丸く、大きくなり、空へと続く湖になりました。
遠い空からとても大きな風が届いて、なみだの湖がぐらりと揺れました。いくつかのひとしずくが揺れて、そらいろテングに降りかかります。
そらいろテングのお鼻が震えました。
湖のひとしずくたちは、しょっぱくて、甘くて、冷たくて、苦くて、柔らかくて、すっぱくて、熱くて、朗らかな味がしました。
そらいろテングは、あぁ、と思いました。
おばあさんの涙の味が、男の子の涙の味が、ずず、ずずずずず、そらいろテングが吸い上げた、たくさんの涙の味がしました。
そらいろテングは、孤高のテングです。とても強いのです。遠い遠い昔からとっても強いまま、まだまだ、とっても強く生きていくのです。
そらいろテングから、ひとしずくの涙が飛び出しました。
しょっぱくて、甘くて、冷たくて、苦くて、柔らかくて、すっぱくて、熱くて、朗らかで、愛おしい味がしました。
そらいろテングの涙でした。
どこかの誰かといつかの誰かと、たくさんの誰かに包まれた、そらいろの涙でした。
そらいろの涙は、愛おしい味がしました。
愛しくて、愛おしい、そらいろの味がしました。

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