サクラ大戦 de PBWコミュのサクラ大戦PBW　第０話リプレイ

「人生はエンターテインメント！　そうは思わないかい？」
　紐育のリトルリップ・シアターの支配人室で、オーナーのマイケル・サニーサイドは両手を広げて語りかけた。
「そう！　ここは娯楽の殿堂、リトルリップ・シアター！　だが、それだけじゃない。この大紐育を霊的に守る、紐育華撃団の本拠地でもあるんだ！　君達は霊的な資質を認められ、新設される紐育華撃団・森組（もりぐみ）のメンバーとしてスカウトされた、精鋭中の精鋭だ。スターに乗ることはできないが、代わりにそれぞれに神器を一つずつ支給しよう」
　神器とは、霊的資質がある者が使うと魔を倒す力を引きだすことができる武器や防具の名前である。
　形状は使用者によって異なり、効果もまたそれぞれ。
　森組とは、守組であり、コンクリートジャングル・紐育を守るという意味が込められた新設部隊だ。
　スターを出す程ではない敵を倒したり、霊的トラブルを解決したりすることが仕事となる。
「君達は、普段はそれぞれ仕事や学業に励んでくれたまえ。場合によっては、リトルリップ・シアターの舞台に立つこともできる。だが、指示があった時には最優先で解決に当たってもらう。無論、相応の報酬も約束しよう。いいね？」
　サニーサイドはにんまりと笑うと、手を差し出した。
「ではまず、自己紹介からしてもらおうか」

　サニーサイドが差し出した手を一瞥して、長身の女が会釈した。
　白い肌を彩るロイヤルパープルの髪に、同色の目。ミスユニバースにエントリーできそうなほど整った目鼻立ちをしているが、手に持った巨大な黒古木の杖と、えもいえぬ迫力がただものではない感を醸し出していた。
　女は杖で軽く床を突くと、おごそかに言った。
「ワシはセルヴァ。魔女じゃ。エンターテイメントなどに興味は無いが、暫しお主らと組む事になった。くれぐれもワシの足を引っ張るでないぞ？」
　にっこりとイイ笑顔でほほ笑むセルヴァに、サニーサイドは胡散臭い笑みで返した。
「いやぁ、セルヴァ。来てくれて本当に嬉しいよ。連日スカウトに行った甲斐があったというものだ！」
「いい加減、面倒だったのでな」
　仕事が星組とバッティングした時のことを思い出したのか、セルヴァは肩をすくめた。
　魔女の隣には、人外生物がいた。
　正確には、人外生物の着ぐるみを着た人物だ。
　ゴジラをモチーフにしたような着ぐるみは、中の人が長身なのか見上げるほどでかい。
　百七十二センチの身長に合わせた縮尺のため、巨大怪獣と言っていいほどの威圧感がある。
　ゴジラは短い腕を組むと、くぐもった声で言い捨てた。
「木村光。僕のことはシグナルと呼んでくれたまえ。ちゃっちゃとたくさん敵を倒して稼ぎたいので、僕の邪魔だけはしないでくれよ｣
　それ以上のことを言う気配はない。年齢や性別はおろか素顔さえ分からない光に、サニーサイドは補足した。
「彼は日本人でね。普段は着ぐるみショーの悪役役者をしているんだ。今日はバイトの帰りに寄ってくれたんだが、普段着は違う……と思うよ。うん。多分。彼はなかなかトリッキーな人物と能力だが、仲良くやってくれたまえ」
「まあ、日本の方なのね？」
　ゴジラの隣で、小柄な女性が嬉しそうにほほ笑んだ。
「私は、挿頭　結芽(かざし　ゆめ)。日本出身よ。表向きは軽業師をやってるわ。特技は……そうね、偵察とか変装とか、かしら。あとは、まあ、スキルについては、おいおいわかるでしょってことで。それと、この子は相棒のカヤ。これから、よろしくね」
　結芽が礼をすると、結芽の肩に止まっていたカラスが、挨拶するように一声鳴いた。
　青い目をして首に青い勾玉のネックレスをしたカラスは、周囲をーー主に隣と隣の隣を警戒するように睨んだ。
　そんなカヤを安心させるように、結芽はカヤの頭を軽くなでた。
　黒いストレートヘアが肩口まで伸び、黒い瞳には人懐こそうな光が浮かんでいる。
　サニーサイドは明らかにワクワクしたように、オーバーアクション気味に口笛を吹いた。
「なんと！　彼女はニンジャなんだ！　分かるかい、ニンジャだよ！　クノイチなんだよ！　ジャパニーズニンジャが仲間になってくれるとは、アメージングの極地だ！　やっぱり、水の上を走ったりガマガエルを召喚したりできるのかい？」
「サニーさんは、忍者に対して夢を見ているのね」
　にこやかにほほ笑む結芽の首元には、緋色の勾玉が揺れていた。
　優しそうな雰囲気の結芽に安心したように、亜麻色の髪の乙女が口を開いた。
「こんにちは！　ええと、まずは自己紹介……という事なので言わせてもらうわね。私の名前はシルエラ・ムンドゥス。スペイン出身よ。今はまだまだだけど、将来はダンサーとして一流になってみせるわ。応援してね！」
　にっこりと笑ったシルエラに、場の空気が一気に和らいだ。
　シルエラは亜麻色の髪で青い目の少女だ。といっても、背はそれなりに高く結芽よりも頭半分は高い。
　結芽は首を小さく傾げると、シルエラに問いかけた。
「シルエラさんは、ダンサーになりたいの？」
「うん！　そのためにリトルリップ・シアターに入ったんだもの」
「紐育にはたくさん劇場があるのに、どうしてここに？」
「私が大ファンで憧れの女優さんがいるからなの。ちょーっとミーハーな理由だけど、それも立派な原動力よね。プチミントさんにはなかなかお目にかかれないけど、彼女と同じ舞台に立つのが今の目標なの♪ 」
　ワクワクが止まらない！　という様子のシルエラは、少しだけ苦笑いをこぼした。
「まあまだ舞台だけで食べていけるわけではないので、普段はお屋敷でメイドをして働いてるわ。雇い主も応援してくれてるから兼業もできてるし、ますます期待に応えて頑張らないとね！ 」
「シルエラさんは、前向きなのね」
「もちろん！　公園のフリーマーケットで……」
　言いかけたシルエラの言葉を遮るように、支配人室のドアがノックされた。
「あら。みんな揃ってるのね。丁度いいわ」
　ドアを開けて現れたのは、ラチェット・アルタイル。紐育華撃団の副司令だ。
　ラチェットはサニーの隣に立つと、連れてきた人物を手短に紹介した。
「はじめまして。私はラチェット・アルタイル。紐育華撃団の副司令よ。よろしくね。彼が、あなたたちの隊長を務める辰木・檜希（たつき・ひのき）。指令は檜希から直接行くことになるわ」
「よろしくです〜辰木・檜希です。檜希って呼んでください。国籍は一応日本なのかな？　同郷の人が多くて、嬉しい限りですね〜。一応僕が森組の隊長ってことになるけど、まあ気楽に頑張ろうよ」
　檜希はのほほんと一礼した。中肉中背で、よく見たら美男子に分類される。
　性別は男。目は細く、開いているのか閉じているのか分からない。左目には片眼鏡をしている。
　柔和な雰囲気を漂わせ、捉えどころや掴みどころがない。
　ラチェットは手に持ったファイルを檜希に手渡した。
「早速だけど、初任務よ。詳細は、檜希にはさっき説明したから、頼むわね」
「了解しました〜ラチェットさん。ま、できる限りは頑張ってみるよ」
　ぽりぽりと頬をかく檜希に、サニーサイドは高らかに宣言した。
「イッツ、ショウターイム！　さあ、君たちの初任務だ！　頑張ってくれたまえ！」
　サニーサイドは高らかに両手を広げた。