安倍首相はこれまで、世界各国の首脳の中で最もトランプ米大統領と親しいと言われてきた。だが最近、日本の対米貿易黒字を減らせとトランプが無茶な圧力をかけ続けた結果、2人の関係が悪化している。トランプは今春以来、鉄鋼アルミなどで日本の対米輸出品に懲罰的な高関税をかけつつ、安倍に、米国からの輸入増の目標額を設定して天然ガスや兵器、牛肉や自動車を買えと要求したが、安倍は拒否してきた。安倍は最近、トランプを名指ししない形でトランプの関税戦略を批判するようになっている。 (Trump Card: Japan’s Abe Bets on Trade in Bid for New Term) (Japan's Abe Pledges to Defend Free Trade After Trump Warning)
トランプは為替を円高ドル安にしたがっているが、安倍はそれにも不満を表明した。7月の日米首脳会談で、米国からの輸入を増やさない日本に苛立ったトランプが安倍に「おれは真珠湾攻撃を忘れてないからな!!」と言い放ったと、最近報じられた。 (Japan's Abe Says He Told Trump It's Dangerous to Play With FX) (‘I remember Pearl Harbor’: Inside Trump’s hot-and-cold relationship with Japan’s prime minister)
安倍は9月12日、ロシアのウラジオストクでの東方経済フォーラムに参加し、そのかたわらで中国の習近平主席と会談し、日中が協力してトランプの懲罰関税戦略に対応していくことを決めた。10月には訪中も決めた。日本がやりたがっていた日米vs中国でなく、中国を有利にする日中vs米国の構図になっている。中国と組んで米国と戦うことを宣言した安倍は、ネトウヨ的に言うと「反米主義のアカ、売国奴」そのものだ(笑)。 (Japan and China Find Common Ground in Trump’s Tariffs as Leaders Meet)
その後、9月15日に、トランプは中国に対して追加の懲罰関税をかける方針を内定した。それを受けて中国は、10月に予定されていた米国との貿易交渉を中止することを検討し始めた。また中国はトランプへの報復として、中国から米国への、自動車部品や戦略物資的な原料、中国で組み立てられているアップルのiフォンなど、米国企業が本気で困窮するような重要製品の対米輸出の制限も検討している。米中は、本格的な貿易戦争になりつつある。トランプは貿易戦争の激化を望んでおり、今の傾向はしばらく変わらない。 (China Weighs Skipping Trade Talks After U.S. Tariff Threat) (Trump To Proceed With $200BN More In China Tariffs Despite Talks; Stocks, Yuan Tumble)
安倍の日本を困らせているトランプの覇権放棄策は、貿易戦争だけでない。米朝和解の策略も、米国が日韓を従えて北と恒久対立する軍産好みの冷戦構造を破壊し、在韓・在日米軍の撤退につながるので、永遠の対米従属を国是としてきた官僚機構が支配する日本にとって大きな脅威だ。安倍はトランプに、北が完全核廃棄するまで米韓軍事演習を続けてほしいと何度も要請したが、トランプは6月の米朝会談後に米韓演習の中止を宣言し、その後、北が核廃棄を進めていないのに米韓演習の中止状態を維持している。 (意外にしぶとい米朝和解) (Pyongyang Aims to Connect Railways of North, South Korea)
このトランプの策により、朝鮮半島の緊張緩和状態が維持され、文在寅の韓国は、どんどん北との和解を進めている。先日、南北分界線(国境)近くの開城工業団地内に、南北が常時連絡をとれる連絡事務所を開設することが決まり、南北の和解はしだいに恒久的な体制になりつつある。南北は、列車の直通運転もやりたがっている。これまで韓国だけが公式に希望していたが、最近は北も公式に直通運転の希望を表明している。9月18−20日の平壌での南北首脳会談でも、新たな和解策が何か出てきそうだ。 (Despite US Opposition, Joint Liaison Office Opens On Shared Korean Border) (韓国は米国の制止を乗り越えて北に列車を走らせるか)
北の金正恩は、トランプとの再会談を希望しており、トランプも再会談すると言っている。いま行われている南北による和解の恒久化が一段落したら、米朝が再会談し、北が20年までに核廃絶するとの約束と引き換えに、朝鮮戦争の終戦宣言や、在韓米軍縮小撤退の話が出てくるかもしれない。トランプはすでに6月の米朝会談後、在韓米軍の撤退が自分の目標だと宣言している。今の朝鮮半島和解の流れは、トランプの覇権放棄策に沿っている。 (White House Coordinating Second Trump-Kim Meeting After North Korean Leader Sends "Very Positive Letter")
▼安倍は今後しだいに堂々と対米自立をやりだすかも?
朝鮮半島が平和になると、在日米軍の任務も終わる。半島和平後、米国が、中国やロシアを仮想敵として在日米軍を継続駐留させる可能性は多分ゼロだ。米国は国際相対的に国力が低下しており、他の大国との敵対策を放棄する方向だ。安倍政権は、米政権がトランプになった昨年から、中国やロシアとの関係改善につとめている(対露はもっと前から)。北朝鮮が敵でなくなっても中露を仮想敵として在日米軍が残る可能性があるのなら、日本は中露に接近しない。北が敵でなくなったら在日米軍や日米同盟が終わりになるので、安倍の日本は中露に接近している。 (中国包囲網はもう不可能) (Japan is worried about its alliance with America)
安倍は、金正恩とも会いたがっている。今のところ正恩は安倍と会わないそぶりだが、資金がほしいので、南北や米朝の和解が一段落したら安倍と会うだろう。半島の和解が進むほど日本の不利が深まり、北に有利になるので、正恩は対日和解を後回しにしている。すでに、日本は外交的にみじめな失敗状態にある。 (Japan and North Korea held secret meeting as Shinzo Abe 'loses trust' in Donald Trump)
マスコミなど日本の言論界の権威筋が、現実を国民に伝えたくない官僚機構の傘下にあるので、今の外交の失敗状態や、在日米軍の撤収が近そうであることが、日本ではほとんど考察されていない。現実の日本は、トランプによって、貿易と安保の両面で、いやいやながらの対米自立に追い込まれている。安倍は、トランプと喧嘩したくない。だが安倍が、トランプから喧嘩を売られた状態で、親しくしたいと思っている習近平やプーチンに会うと「一緒に、暴虐なトランプと戦おう」と扇動され、中露と親しくしたい安倍がそれに対して作り笑いしながら曖昧な感じで「いいね」と言うと「日本は、中国やロシアと一緒にトランプの貿易戦争に対抗すると(力強く)表明した」という報道になる。 (中国と和解して日豪亜を進める安倍の日本) (Japan, South Korea keep wary eye on Trump’s war with China)