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コピペの部屋コミュの【不思議・心霊】吊る這う轢かれる

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(転載元)
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/study/9405/1401772436/
ホラーテラー作品群保管庫

(まとめトピック)
なつのさんシリーズ【まとめ】
http://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=6168454&id=98776397&from=share

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でははじまり

━━

 『吊る這う轢かれる』


58: なつのさんシリーズ「吊る這う轢かれる」1 :2014/06/06(金) 12:02:19 ID:bXavpRb60
それは蛙とコオロギの鳴き声が響く、夏もおわりかけたある夜の出来事だった。

「……この家だってよ。出るって有名な家」

僕とKはその二階建ての一軒家を、周りをぐるりと囲む塀の外から眺めていた。
風は存外に冷たく、そういう季節はもう過ぎたのだと感じる。
なのに、僕らはまた肝試しに来てしまっていた。
僕とKとS、いつものメンバーだ。

発案者はKだ。奴のオカルト熱は季節に関係なく、いつでも夏真っ盛りらしい。

「二階あたりに女の霊が出るって噂。今はー……見えねえけどな。窓に映るらしいぜ」

Kの言葉に、僕は二階の窓を懐中電灯で照らした。
Sはというと、道の脇に停めた車から出てこず、運転席側の窓から右肩と頭だけを出して、つまらなそうに家を眺めていた。

「おいS、出てこいよ。なに一人だけ車乗ってんだよおめーはよ」

とKが言う。
Sは大きなあくびで返す。

「……さみーんだよ。それに、誰がここまでずっと運転してきたと思ってんだ。……俺は寝るぞ」

Sはそう言って、車の中に引っ込み窓を閉めてしまった。

「Tシャツ一枚で来た奴がわりーんだよ」

と Kが、かかか、と笑う。
でも確かに今日の夜は存外冷える。
おそらく朝から曇っていたことが原因だと思うが……。お天気おねいさんは何と言っていただろうか。

そんなことを考えながら、僕はもう一度窓を見上げた。

ちなみに、僕とKがいる位置とSが乗る車の間には、この家の門がある。門は内側に開いていた。
でも、今日は不法侵入はしない。外から眺めるだけだ。理由は、ここがそういうスポットだから。

「噂じゃ女……っていうかここの家の娘な、事故で下半身が動かなくなったんだってよ。
 それから女はショックで段々頭がおかしくなって、そのせいで両親はその女を、自宅にずっと閉じ込めてたんだと。
 ビョーキ家族だな」

と隣でKが言う。
いつもならここらでSの鋭いツッコミが入るのだが、上がTシャツ一枚の人間にとっては、この寒さは多少分が悪い。

「で、事件は起きるわけだ。その女が夜、寝ている両親の首をナイフで掻っ切って、自分も自殺したんだな」

「……自殺?」

と問い返しながら、僕は何だか周りがさっきよりも寒くなった気がした。背筋がぞわぞわする。

「首吊りだってよ。首つり自殺。こう、ロープにぶら下がって、ぶらんぶらん揺れてたんだと」

Kが舌をべろんと出し、身体を揺らす。
しかし、僕はその時Kの話に違和感を覚えた。
女は両親を殺して首吊り自殺をした。けれど、その女は確か……。

「……でもさ、それって、おかしくないか?」

「あ、何が?」

「足も動かないのに、どうやって首吊るんだよ」

「どうやってって。そりゃお前……」

とKが何か言おうとしていたその口が止まる。

ぞわり

と冷たいものが僕の首筋を撫でた。
それはまるで、大きなつららを直接背中に当てられた様な感覚だった。足から頭まで、全身に鳥肌が立つのが分かった。

僕とKはほぼ同時に二階の窓を見上げた。
二階の一室の窓が徐々に開いていた。ゆっくり、音も無く。

隙間に女の顔が見えた。

髪がぼさぼさ。大きく見開いた目が、僕ら二人を見据えていた。
窓は開く。隙間が広がり、その首にロープが見えたその時、女は一気に窓の僅かな隙間から外へと身を乗り出した。
女が頭から落ちる。途中で、その首に巻いてあったロープが落下を食い止めた。
がくんと女の身体が上下に反転し、二階の窓を支点に振り子運動を始める。

ぶらん、ぶらん。

枯木のように細い足。その手にはナイフらしきものが握られている。一つ、二つ、三つ。
その身体が痙攣した。
ナイフが手から落ちる。その手が宙を掻く。音は何も無い。

その内、女の両手がだらりと下に垂れさがった。口が開き、真っ赤な舌がその中に覗いていた。
死んだのか、死んでいるのか。しかし女の目だけは、未だこちらをぎょろりと見据えていた。

僕の口から何か悲鳴のようなものが出ようとしていた。
と、僕の首筋に冷たいものが当たった。


59: なつのさんシリーズ「吊る這う轢かれる」2 :2014/06/06(金) 12:03:26 ID:bXavpRb60

「ふひゃっ」

僕はついに悲鳴を上げて、実際飛び上がった。
雨だった。
しかし、雨のおかげで一瞬だけだが気がそれた。
それから、はっとしてまた二階を見上げたが、そこにはもう何も無かった。
首を吊った女の姿も、窓も、閉まったままだった。

「……ああやって、首を吊ったんだとよ」

隣を見るとKは笑っていたが、無理をしている笑いだと一目で分かる。でもその時は僕も同じ笑いを返していたに違いない。
なるほど、確かにあの方法なら足が不自由でも首が吊れる。
すごいものを見たな。と僕がKに言おうとした時、

――どさり――

僕とKはまた、ほぼ同時に反応した。
何かが落ちた。塀の向こう側。それから、

ズル、ズル

と布が擦れる音。
先程見た首吊りには音は無かった。しかし、今度は音だけがある。

僕とK、それとSが乗る車の間にある門。門は開いていたのだが、そこから手が出てきた。

さっきの女の手だ。ナイフを握っている。もう片方の腕も出てきた。
次いで頭。首にはロープ。白い服。見開いた眼。垂れた舌は地面を舐める。


僕はSに助けを求めようとした。しかし声が出ない。身体が動かない。金縛り。Kも同じらしかった。

どうしよう。
こっちにゆっくり這い寄って来る。足は動いてない。手だけで地面をずるずると。

怖い。それに近い。怖い近いこわい近っ。
這い寄る女と僕らの距離はもう二メートルも離れてなかった。

あ、もう駄目かも。

本気でそう思う。

突然、光に目が眩んだ。
エンジン音とブレーキ音。
気がつくと、僕らが乗ってきた車が目の前にあった。金縛りが解け、身体が動く。
身体は動いたが、僕はしばらくその場を動けなかった。
ウィームと運転席側の窓が開き、Sの眠たそうな声が聞こえる。

「……おいお前ら、もういいだろ。雨が降ってきたから帰ろうぜ」

僕とKは顔を見合わせた。
おそるおそる車の下を覗くが、そこには何もいない。

「こいつ……」

Kが呟く。

「……轢きやがった」

「あん?ああ、そういや妙な手ごたえがあったな。でかいカエルでもつぶしたか?」

僕は何も言えないでいた。KもSをまじまじ見つめるだけだった。
そんな僕らにSは怪訝そうな顔を見せ、

「どうしたお前ら。なんかあったか?……ま、何を見ても聞いてもだ。そりゃ幻覚に幻聴だ。ほら、乗れ。もう帰るぞ」

僕とKはもう一度顔を見合わせ、お互い何も言わずに車に乗り込んだ。
それは蛙とコオロギの鳴き声が響く、夏も終わりかけたある夜の出来事だった。


  (了)

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