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コピペの部屋コミュの【不思議・心霊】首あり地蔵

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(転載元)
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/study/9405/1401772436/
ホラーテラー作品群保管庫

(まとめトピック)
なつのさんシリーズ【まとめ】
http://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=6168454&id=98776397&from=share

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でははじまり

━━

 『首あり地蔵』


53: なつのさんシリーズ「首あり地蔵」1 :2014/06/06(金) 11:30:56 ID:bXavpRb60


「なあ、お前ら『首あり地蔵』って知ってるか?」


数年前の話になる。僕らは当時大学三年生だった。
季節は夏。大学の食堂で三人、昼飯を食べていた時だ。
怪談好きなKが、雑談のふとした合間に話しだしたのが、そもそもの始まりだった。

「首あり地蔵ってお前、そりゃ普通のお地蔵様だろ」

僕の隣に座って味噌汁を飲んでいたSが、馬鹿にしたように言う。

KとSと僕。
Kはカレーの大盛りで、Sはシャケ定食で、僕は醤油ラーメン。
いつものメニュー、いつものメンバーだった。

でも確かに『首なし地蔵』だったならば、はっきりとは思い出せないが、何かの怪談話で聞いたことがあるかもしれない。
話のネタにもなるだろう。
しかし、Kは『首あり地蔵』と言ったのだ。
Sの言う通り、それは首のある普通のお地蔵様だ。

「ちげぇんだよ。あのな、その地蔵の周りには、もう五体地蔵があってな。
 『首あり地蔵』の一体以外は、全部頭がねえんだってよ」

なるほど。だから『首あり地蔵』か。
僕はその様子を想像してみた。六体の地蔵の内、一体だけにしか首が無い。

「ねえ、何でそうなってんの?」

「それがな、その一体だけ首のある地蔵が、他の地蔵の首をチョンパしたっつう話なんだよ。これが」

そう言ってKは舌を出し、スプーンで自分の首を掻っ切る仕草をした。

「でも、そんなことして、地蔵に何の得があるんだよ」

「さあ?知らねえよ。お供えモン独り占めしたかったとかじゃね?」

Kがそう答えると、Sが、ごほっごほっ、と咳をした。
それからポケットティッシュを取り出し口元を拭うと、

「……馬鹿野郎。喉につかえたじゃねーか」

「何だよ、俺のせいかよ」

不満げなKに「お前のせいだよ」とSが言う。
僕はというと、その地蔵に少し興味を抱き始めていた。

「で、Kさあ。その首あり地蔵については、他になんかないの?」

「ああ、あるぞ。なんてったって、『首あり地蔵』は人を襲う」

その瞬間、再びSが咳き込んだ。

「夜な夜な動き出してさ、人の首を刈り取って来るらしいぜ?
 『要らん首無いか……要らん首無いか』ってぶつぶつ言いながら。寺の回りを徘徊してんだとよ」

「……もうやめてくれ、今の俺は呼吸困難だ」

Sは咳き込んだせいか涙目になっていた。

「何だよS。ロマンがねーな。俺の話が信じられねーのかよ」

「何がロマンだボケ。K、お前、すぐにでもその地蔵に謝ってこい」

「それだって!」

とKが大声を出したので、
僕は驚いた拍子にむせたら、ラーメンの切れ端が鼻から出てきた。久しぶりだこんなこと。

「今日の夜、行こうぜ?確かめるんだよ、俺たちで。噂が嘘なら、何ぼでも謝ってやるからよ」

とKが言う。
Sは呆れたように天井を見上げた。また始まった、と思ってるんだろう。
Kはそういうスポットに行くことを好む、所謂肝試し好きなのだ。
今までだって、Kが発案し、僕が賛成し、Sが引っ張られる形で、そういういわく付きの場所に足を運んだことが何度もある。

「んじゃあ、今日の夜は、首あり地蔵で肝試しってことで、決まりな」

Kが強引に話を進める。
Sが救いを求めるように僕の方を見た。僕はラーメンをすすりながら、Sに向けてニンマリ笑って見せる。
Sは半笑いのまま力なく項垂れ、黙って首を横に振った。

「……というか、その地蔵近くにあるのかよ」

「おう。○○寺ってとこ」

その名前を聞いた時、うなだれていたSの首が少し上がり、眉毛がピクリと動いた。
そうしてから、隣に居た僕くらいにしか聞こえない程の声で、

「そうか。○○寺か……」

と呟いた。
僕は一体何だろうと思ったのだが、
あいにくその時は口の中一杯にラーメンが詰まっていたので、それを聞くことは出来なかった。
その後は聞くタイミングを掴めぬまま、あれよあれよと言う間に具体的な集合場所と時間が決定した。
こういうときのKの手際の良さはすさまじいものがある。但し、普段はまるで発揮されないのが痛いところだ。


54: なつのさんシリーズ「首あり地蔵」2 :2014/06/06(金) 11:31:33 ID:bXavpRb60
こうして僕らはその日、○○寺の首あり地蔵の元へと足を運ぶことになったのだ。

夜中、僕らはそれぞれ個別に、○○寺がある山のふもとで集合ということになっていた。
○○寺は僕ら住む街を一望できる小高い山のてっぺんに、展望台と隣接する形で建っている。
寺までは数百段の石段が続いており、僕は知らなかったのだが、目的の地蔵はその道中にあるそうだ。

集合時間は十一時。時間を守って来たのは僕だけだった。
十五分待って、バイトで遅れたと言うKと、寝坊したと言うSがほぼ同時にやって来た。
熱帯夜だと言う蒸し暑い夏の夜、僕らは三人は懐中電灯を片手に汗だくになりながら、地蔵があるという場所に向かった。
特に僕は日ごろの運動不足がたたってか、
前を行く二人を追いかける形で、ひーこらひーこら言いながら石段を上っていた。

山の中腹を少し過ぎた頃だっただろうか、

「おーい、早く来いよ。あったぞー」

というKの声が、大分上から響いてきた。
僕が二人に追いつくと、そこは石段の脇が休憩のためのちょっとした広場になっており、
地蔵はその広場の端に六体、横一列に並んでいた。
僕は乱れた息を整えてから、地蔵をライトで照らす。
確かに、僕の腰よりちょっと背の低い地蔵たちは、右から二番目の一体を除いて、残りは全部首が無い。

「これで、一つはっきりしたな。少なくとも、この地蔵は夜な夜な徘徊はしていない」

SがKに向けて、からかい半分の口調で言う。

「ごめーんちゃい!」

「くたばれ」

漫才コンビは今日も冴えている。

「っていうか何だ何だー。つまんねーな。夜は地蔵さん、鎌でも持ってんのかと思って期待してたのによー」

そりゃどこの死神だ、と思わず僕も突っ込みそうになった。

「でもよ、ホントに他の地蔵は首がねーんだな」

「何、K。お前ここ来たこと無かったの?」

今日の話しぶりからして、僕はKがここに何度も来たことがあるものだと思っていた。

「いんや。噂で聞いてただけ、面白そーだからさ。見に来てーなーとは思ってたけどよ。ちょっと拍子抜けだなー」


「……この地蔵はな、正式には『撫で地蔵』っつうんだよ」

ふと、Sが呟くように言った。

「なんだよ。お前この地蔵に詳しいの?」

「ん、ちょっとな。見ろ、この地蔵、頭テカってるだろ」

Sが懐中電灯の光で地蔵の頭を照らす。
そう言われれば、この地蔵の古ぼけた身体に対して、頭だけは比較的小奇麗だった。

「触ってみりゃもっと良く分かるんだけどな。
 元々願掛けしながら撫でると、その願いが叶うって言われの地蔵だから、撫でられすぎてそうなったんだ」

そうなのかと思った僕は、そっと首あり地蔵のつるつる頭を撫でてみた。
何だかボーリングの玉を撫でている感じだ。撫で心地は中々いい。

「今でも、知ってる人は知ってるんだけどな。昔はもっと有名だったらしいな。○○寺の撫で地蔵って言えばな。
 けど、そのせいなんだよ」

Kも僕もSの話を黙って聞いていた。
何だか昔話を語る様な話しぶりは、普段のSとは少しだけ違っている様な気がしたのだ。

「三十年くらい前の話らしい。六体全部の首だけが盗まれるって事件があった。綺麗に首だけ取られてたんだってよ。
 犯人は分かってない。ただの愉快犯か、それとも、撫で地蔵のご利益を独占したい輩でもいたんだろうな」

「……おいおいおい、ちょっと待てよ。じゃあ、この首は何なんだ」

Kが言う。それは僕も思った。当然の疑問だ。

「職人に頼んで、地蔵の首だけすげ替えたんだとよ」

僕は改めて地蔵を見てみた。言われてみれば、首の辺りに多少のヒビがある様にも見える。
頭だけ小奇麗なのも、人々に撫でられるだけが理由じゃないということか。

「でも、修復したっていっても、首の部分はやっぱり弱くなってたんだろうな。
 それ以降も、皆に撫でられ続けた地蔵の首は、一体ずつ取れていったんだ。二度目は寺の方も直す気が起きなかった。
 ……それにしても、まさに身を呈して民衆を救うか、地蔵の本懐だな」


55: なつのさんシリーズ「首あり地蔵」3 :2014/06/06(金) 11:32:11 ID:bXavpRb60 
そこまで聞いて、僕は少し不思議に思った。Sのこの地蔵に関する知識に対してだ。
予め予習してきたにしても、知り過ぎてはいないだろうか。隣の鈍いKだって、そう思ってたに違いない。


そんな僕らの疑問を察したらしく。Sは若干バツが悪そうに頭を掻いた。

「俺が小さい頃はな、まだ二体は残ってたんだよ。首」

とSは言った。

「実はな。五体目の首もいだのって、俺なんだ」

意外な展開と言えばそうだったかもしれない。
でもSの語り口からは、そんなに罪の告白だとか、そう言った重々しいものは感じられず、
ただ単に昔の失敗談を語っている様な、そんな口調だった。 

「昔、家族とこの寺に来た時にな、地蔵の頭撫でたんだよ。
 願いながら撫でると、その願いが叶うっていう地蔵だろ?俺はひねくれたガキだったから、撫でながら言ったんだ」

「何て言ったんだ?」

Kが訊くと、Sは肩を竦めて、

「もげろ」

「……は?」

「『もげろ!』って叫んだんだ。撫でながら。そしたら、もげた。本当に」

Sの話によると、ごり、と音がして、手前のSの方に地蔵の首が落ちてきたのだそうだ。
その時はまるで地蔵が頷いた様に見えたとSは言った。

「まあ、たまたま俺が撫でた時と、限界が重なっただけだろうけど。
 それでもあの時は本気で驚いた。これがご利益か、とか思ったよ。
 そのあと、上の寺から坊さんが来てさ。すげえ怒られたな」

と言いながらSは地蔵の前にしゃがみこみ、その頭に手を置いた。
そうしてゆっくりと地蔵の頭を撫でながら、叫ぶでもなく、呟くでもなく、全く自然にその言葉を口にした。

「こう……、『もげろ』ってな」

ぼり。

鈍い音がした。
次の瞬間には、地蔵の頭はあるべき場所に収まっていなかった。どさり、と地面に重量のある物体が落ちる音。

「うわ」

とは僕の声。
Sは手を前に差し出したままの状態で地蔵を見つめていた。

「おおう!マジでもげやがった」

Kが感嘆の声を上げる。

「とまあ……、こんなこともある」

Sはあくまで冷静を保っていた。
Kが落ちた首に近寄って

「どーなってんだ?」

とつついている。
僕はこの目の前で起きた現象をどうとらえればいいのか、イマイチ判断がつかずにいた。
今日という日の夜、S撫でられ限界を突破してしまったのか。それとも、地蔵がSの願いを聞き入れたのか。

「……帰るか」

ゆっくりとその場に立ち上がりながら、Sが唐突に呟いた。 

「え、地蔵は、どうすんのさ?」

「どうにもならん」

「え、ええー……?」

Sは本当にこのまま帰るつもりだった。
かといって僕にもどうすることもできない。
弁償の件が頭をよぎるが、

「触れただけでああだ。風が吹いただけでもげてたよ」

と、Sがこちらの心理を見透かしたような発言をする。
しかし、となれば、このまますごすごと帰る以外の選択肢が僕にはない。

帰るか。


56: なつのさんシリーズ「首あり地蔵」4 :2014/06/06(金) 11:32:53 ID:bXavpRb60
こうして首あり地蔵は、首なし地蔵になったのだった。めでたし、めでたし。


とは、いかなかった。

僕とSが戻ろうとしたとき、Kだけはまだ地蔵の首のところに居た。僕らはそれに気付かず、先に帰ろうとしていたのだが。


「……要らん首、無いか?」


声が聞こえた。
振り向くと、Kが先ほど落ちた地蔵の首を両手に抱えて、無表情で立っていた。

「え、何?」

僕が聞き返すと、Kはまた言った。

「要らん首、無いかえ?」

その時のKの様子をどう表現すればいいのか。
そんなハイレベルな冗談を言えるKではないし、それにいつものKで無いことだけは分かった。

「あったら、もらうぞ?」

「え、いや、ってか……」

「おんしの首でも、ええぞ?」

「無い」

答えたのはSだった。

「少なくとも、俺らは要らん首は持ってない」

「……ほうか」

Kが地蔵の首を地面に落した。どずん、と音がした。
その瞬間、Kの体が電気が走ったかのように、びくん、と震えた。

「……あれ……、何?んっ?え?俺、寝てた!?」

Kは先ほどの自分の言動を覚えてないのか。

「知るか。帰るぞ」

Sはそう言って、さっさと広場を抜け、階段を降りようとする。

「え、ちょっ、待てって!何?説明しろよ!」

Sの後を、慌ててKが付いていく。

僕はしばらくその場にとどまって、ぼんやりと地面に落ちた地蔵の首を見つめていた。
不思議と怖いという感情はこれっぽっちも沸いてはこなかった。
地蔵はまだ働くつもりだったのだろうか。人々の願いを叶えるために。

そう言えばさっき地蔵を撫でた時に、僕は何も願いを思い描いてなかった。
僕はふと思いいたって、地蔵の首を持ち上げた。

重い。すげー重い。

切断面を確認し、僕は地蔵の首を元通りの位置に置いた。そして撫でた。

「く、くっつけよ〜、くっつけよ〜」

そっと手を離す。首はまた落ちたりはしなかった。
そろそろと後ずさり、僕は二人を追いかけてその場を後にした。 

その後しばらく経って、

「○○寺の地蔵が、首のない地蔵が取り壊されたらしいぞ」

とKから聞かされた。
それって何体?とは聞かないことにしておいた。


  (了)

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