孫崎亨・広原盛明・色平哲郎達見コミュの【孫崎享のつぶやき】絵画と政治⑦　バンクシー「花束を投げる男」

【孫崎享のつぶやき】
絵画と政治⑦　バンクシー「花束を投げる男」
2022-01-31 08:283

バンクシ－は正体不明とされる路上芸術家である。最も英国の新聞等は正体を追い、ほぼ人物は特定されている。世界各地のストリート、壁、および都市の橋梁に絵を描いている。落書き（グラフィティ）を芸術に引き上げたと言っていい。

　最初の大掛かりな絵は、１９９９年テディ・ベアが3人の機動隊隊員に向けて火炎瓶を投げている絵「マイルド・マイルド・ウェスト」である。当時、荒廃した倉庫でパーティなどが開催されており、警察が97/98年の忘年・新年パーティを攻撃したことを契機としている。反権力と言っていい。この絵は２００９年赤いペンキをかけたれ他が修復されている。

ブリストルにはバンクシ－の別の作品「Well Hung Lover」がある。男が右腕で窓枠をつかんでぶらさがり、左腕で性器を隠している男を描いたものである。窓にはスーツ姿の男性が不倫相手を探す姿、下着姿の女性が描かれている。

　彼の代表的作品を見てみよう。
・「風船と少女」、（Girl with Balloon）、傍に「常に希望あり（There is always hope」の記述。）
・「最初に成功しなかったら空爆を呼べ（If At First You Don't Succeed, Call An Airstrike）、イラク、アフガニスタン戦争への反対の意思表示。ガスマスク、血のとばしり。
・「貴方の夢を追え、（Follow Your Dreams）」、この絵は2010年ボストンで描かれた。「「貴方の夢を追え」の落書きの上に、赤い文字で「キャンセルされた」とある。描かれた地域は低所得者地域である。「アメリカン・ドローム」の終焉を描いている。
・I 私は地球温暖化を信じない（Don't Believe In Global Warming）, 2005」、ロンドンの運河付近で描かれる。「私は地球温暖化を信じない」の文字が水に沈んでる。
・「ナパーム、2004」、中央には、南越軍のナパーム弾攻撃を受けて、全裸で逃げる少女の写真を置く。そして両脇にはミッキーマウスとマクドナルドのキャラクターを配す。アメリカの商業主義と攻撃的な軍事政策を退避させる。

　バンクシ－の描くものには、権力の横暴に対する怒りがある。怒りを背景としながら、怒りに対抗するに「平和的手段を」と呼びかけた絵に「花束を投げる男」がある、

　「怒り、花を投げる男（Rage, the Flower Thrower）は2003年パレスチナで描かれ、今日もパレスチナにある。男はスカーフで顔を包み、帽子のひさしを後ろにやり、自己の正体を隠しつつ、怒りの中で物を投げようとしている。描かれた場所パレスチナで通常起こるように、それは火炎瓶か石ころでいいはずだ。だが投げようとしているのは花束だ。画面中央の男は白黒で描かれている。だが、花だけが鮮やかな色彩を持っている。花束であることを強調した。　バンクシーがパレスチナで描いた絵には「Armored　dove」がある。平和の象徴である鳩がオリーヴの枝をくわえ、羽を広げている。だが鳩は防弾チョッキを身につけている。よく見ると、胸には照準が合わせられている。「平和」の言葉だけでは解決しないことも熟知している。

　「落書き」を政治的表現の場にしたバンクシーは新しい抗議の手段を見つけた。
かって火炎瓶を投げていた。しかしそれが花束になっている。