孫崎亨・広原盛明・色平哲郎達見コミュの【孫崎享のつぶやき】日米開戦直前の動き①

【孫崎享のつぶやき】
日米開戦直前の動き①：開戦を主張する東条陸将と、交渉継続を主張する近衛と対立。１０月12日午後2時荻外荘五相会議。ここでとりあえず妥協成立。１４日夜鈴木が近衛の辞任を迫る東条の意向を伝達。１５日近衛辞任を決定。何が起こったかを一連で示します、
2021-12-10 07:3610

日米開戦を大筋決める９月６日の御前会議前は1941年10月、日米開戦に向けて、緊迫した動きがでてきます。
「荻外荘五相会議」が緊張の頂点です。
日米開戦の直前、１０月12日午後，2時、この荻外荘で極めて重要な会議が開催され、近衛首相、豊田外相、東條陸相、及川海相、鈴木企画院総裁が出席しました。「荻外荘五相会議」です。

　ここが、日本が戦争に行くか行かないかを決める最後議論が行われた場面です。
　このここで何が論じられたか、重要なので事項別に整理します。
　矢部貞治 (著)『近衛文麿下』に記述を見てみたいと思います。

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・東條陸相「日米交渉で駐留問題は絶対に譲れない。米側に屈服する心算なら別である。そうでないなら交渉の見込みはない」
・及川海相「今や戦争を決意するか、外交交渉を続けるかの關頭にきた。交渉でいくなら、戦争準備を放棄して交渉一本でいくべきだ。但しそれは、交渉に見込みのある場合のことである。2，3か月やって、途中で変更というのでは困る。何年間は戦争をやらぬ心算でやらねばならぬ。何れも総理の裁断に俟つ」
・豊田外相「交渉は相手のあることだから、絶対に確信ありとは言えない」
・陸、海相「相当期間引っ張られてから、どうもこれじゃいかんということで、さあ、これから戦争だと言われても困る。いまここで決めて貰いたい。」
・首相「いずれをとってもリスクがある。いずれがリスクがより大きいかの問題だ。今日ここで決めよというなら、自分は交渉継続ということに決する」
・陸相「外相は確信がないのではないか。海相の言い分では統帥部を納得させることは出来ない。確信がある旨を聴きたい」
・首相「双方を比較した上で、自分は交渉を選ぶ」
・陸相「それは総理の主観的な意見に過ぎない。それでは統帥部を説得できぬ。」
・海相「同感である」
・陸相「総理がその様に早急な結論を出されるのは困る。外相の意見を求める。」
・外相「それは条件次第だ。今日の最難点は駐留問題だと思うが、この点で、陸軍が、従来の主張を一歩も譲らないということなら、交渉の見込みはない。」
・陸相「駐留問題だけは、陸軍の生命であって絶対に譲れない」
・首相「この際は名を捨てて実をとり、形式は米国の言う様にして、実質において、駐兵と同じ結果を得ればよいではないか。とにかく自分はあくまで外交交渉を選ぶ。それにも拘わらず戦争をやるというなら、自分は責任を負えない」
・陸相「9月6日の御前会議で、対外交渉に見込みがなければ、開戦を決意すると決定したではないか。この会議には、総理も出席されたのだから、責任を取れぬということは理解できぬ」
・首相「交渉の方に大いなる確信があるに拘らず、確信のない方の途を行けというなら、責任を取れないというものだ。御前会議の決定は、外交交渉に見込みのない場合のことだ。今は見込みがないのではなく、むしろより大なる確信があるのだ。
鈴木企画院総裁「作戦の諸準備を打ち切ると決定した場合、果たして軍部内を押さえることが出来るのか」
陸、海相「決定したとなれば、充分抑えられる」
この様な烈しい議論の上、陸相の提案で一つの申し合わせ（書面ではない）がなされた。
富田は鈴木がその場で文案を書いたらしいし、鈴木が提議したものかと思うと述べている。
東條供述書および木戸日記によると、その申し合わせは
日米交渉においては（イ）駐留問題及びこれを中心とする諸政策を変更せざること、（ロ）支那事変の成果に動揺を与えざるを以て、外交を収め得ることに関し、略々統帥部の所望する時期までに確信を得ること
右確信の上に外交妥協方針に臨む
右決定を以て進む間は、作戦上の諸準備は之を打ち切ること
右に関し外相としての能否を研究することというのであった。

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烈しい応酬でした。
しかし、一応、妥協が成立しました。
したがって、１０月１２日の段階では、近衛内閣は閣内不一致で追い込まれたという状況ではないのです。
しかし、１０月１４日閣議直前に近衛首相東条会談が行われます。
同１４日夜、企画院総裁鈴木貞一が近衛を訪れ、近衛が辞任するようにうという東条の伝言を伝えます。
１５日近衛は辞職の決意をします。
何故こうした激しい動きが起こったのか、それが私のテーマでした。