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孫崎亨・広原盛明・色平哲郎達見コミュの【孫崎享のつぶやき】 随想㊶ 花(パウストフスキー)

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2021-04-05 07:433


 1991年12月ソ連が崩壊しました。社会主義経済から市場経済への移行は大混乱に落ちます。国営企業は消滅する、大量の失業者が出る、賃金は十分の一位になる、年金がほぼ存在しないような額になる、人々の暮らしは大変厳しいものになります。この時経済学者金森久雄氏が「ロシアの経済はどうなるか」をテーマにロシア国内を視察旅行します。その結論を、旧ソ連のウズベキスタンで聞いたのですが、意外な説明をされました。
 「ロシア経済は立ち直ります。この確信を持ったのはハバロフスクです。職を失った者もいる。食料も十分でない。身なりもみすぼらしい。だが驚いたのは花屋には人々が多くいる。なけなしの金で花を買っている。そして大事そうに眺めながら家路に向かう。私はその時思ったのです。“花を愛するこの国民ならきっと立ち直る”」
 私はロシア(ソ連)作家パウストフスキーを読んでいますが、彼は第一次大戦への参加、革命の中での社会の混乱を書いています(要旨)。
「ノエヴスキー庭園は園芸で有名であったが、革命のまっただ中、一つの温室だけが機能していた。庭師は今や花は葬式と儀式だけしか用はないと嘆く。でも手伝いの女性が話す。“花なしで人々はどうして生きていくの。相思相愛の人々がいたとしましょうか。自分の愛を示すのに、花より素晴らしいものがありますか。”
 庭師がアラセイトウやナデシコを切って渡してくれた。この飢えた、不安だらけのモスクワを、花を持って移動するのは気恥ずかしかった。それでいつも紙につつんで、中に花があるようには見えないようにしていた。ある時、気づかぬうちに紙がやぶれ、年配の女性が聞いてきた。“どこで、そんな魅惑のものを手に入れたのですか”。女性の車掌が“気をつけてもってなさいよ。こんなに人がいるのです。押されて花が潰れます”と警告してくれた。研磨工が“見ろ。何と感動的な”という。
 私の後ろで激しい息遣いがした。ささやきがした。静かな、すぐに意味が解らないように。私は振り返った。青白の10歳ばかりの女の子、懇願するように私を見ていた。
 少女は秘かに“ください。花をください。お願いします。花をください”とささやいた。私はナデシコをあげた。乗客のうらやましそうな、興奮した話声の中、少女は後部に下がり、急いで下車し消えていった。
 女性の車掌は厚かましいと少女に怒っていた。私は紙包みから、ナデシコを取り出し車掌にあげた。年配の女性車掌は真っ赤になって、そして、目を花に落とした。
 その時、いくつかの手が出てきた。私は紙袋の中を皆に与えた。突然、古びた電車の中に目の輝き、笑み、感嘆があふれた。そういうことはなかったことだった。瘦せこけた老人が頭を下げ、鞄を開け、大事に花を入れた。汚れた鞄の上に、涙が落ちた。私は急いで降りた。花がこの老人の多くの悲しみと幸福な時代の記憶をよみがえらせたのだろう。」
 日本人もまた花を愛でる国民でした。近くの地下鉄入り口近くの交差点に花屋がありました。私は時々横目で花を見てました。数年前この花屋は店を閉め、今はここにはワイン・バーがあります。


コメント(2)

人は、文明が発達し、産業が高度化して、物質的に豊かになると、自然を愛で花を愛でる感情が退化してしまうのでしょうか?
>>[1]

うーーん・・・・
そのような側面がありますね。
貧困の社会化というのか、物質的に暮らしに困る層も増えていますね。

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