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孫崎亨・広原盛明・色平哲郎達見コミュの【色平哲郎氏のご紹介】 『困窮から抜け出せないシステム』 ジョセフ・E・スティグリッツ:前半

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【前半】
歴史には、世界じゅうの人々が立ち上がり、”何かがまちがっている”と叫び、変革を求める瞬間が存在する。1848年と1968年は、まさにそういう激動の年だった。どちらも大きな動乱が新時代の幕開けを記した。おそらく2011年という年も、のちのち歴史的瞬間のひとつとみなされるだろう。

北アフリカ沿岸の小さな国、チュニジアで始まった若者たちの蜂起は、近隣のエジプトに飛び火したあと、中東のほかの国々へ広がっていった。
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話を聞いてわかったのは、不平不満の種は国ごとに異なり、特に中東の政治的不満は欧米と一線を画しているものの、すべてに共通するテーマがあるという点だ。
世界各国の人々は同じ認識を共有していた。政治と経済制度は多様な欠陥をかかえており、両制度は基本的に不平等を内包している、と。

何かがまちがっているという抗議者たちの認識は正しい。政治・経済制度のあるべき姿ーーわたしたちが学校で教わった姿ーーと、実際の姿とのギャップは、無視できないほど大きくなってしまった。世界各国の政府は、高止まりした失業率などの重大な経済問題に取り組んでこなかった。少数者の強欲によって公平という普遍的価値観が踏みにじられる状況は、どんな美辞麗句でも言いつくろえるものではなく、人々は不公平を裏切りと感じるようになっていった。
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バラク・オバマ大統領は、「あなたに信じてもらえるチェンジ」を約束したが、就任後に打ち出された経済政策は、大多数のアメリカ人の目から見ると、ほとんど代わり映えがしないものだったのだ。

それでも、アメリカなどの若い抗議者たちには希望のきざしがあった。彼らの運動には、父母や祖父母や教師が加わっていた。彼らは革命主義者でも無政府主義者でもなく、”システム”の転覆を謀っていたわけでもない。政府が国民に対する義務を思い出しさえすれば、選挙を通じた政治プロセスは機能する”可能性がある”と、彼らはまだ信じていた。抗議者たちが街頭に出ていったのは、”システム”の変化をうながすためだった。
・・・
アメリカでは「ウォール街を占拠せよ」という連呼が、そのまま抗議行動の名称となった。大勢の人々が家と仕事を失う一方で、銀行家たちが巨額のボーナスを手にする、という不公平な現状が彼らの怒りをつのらせていた。

しかし、すぐさまアメリカの抗議者たちは、攻撃対象をウォール街からアメリカ社会全般の不平等に広げた。運動のスローガンは「99パーセント」に変わった。
これは、〈ヴァ二ティ・フェア〉誌(2011年5月号)に掲載されたわたしの論説、「1パーセントの1パーセントによる1パーセントのための政治」にちなんでいた。
わたしがこの論説の中でとりあげたのは、アメリカ国内で法外なまでに広がっていく不平等と、少数の富裕層に不釣り合いなほど大きな発言権を与えていると見られる政治制度だ。

世界では3つのテーマが共鳴している。
第1は、市場が本来の機能を果たさず、あきらかに効率性と安定性を欠いている点。
第2は、政治制度が市場の失敗を是正してこなかった点。
第3は、政治・経済制度が基本的に不公正である点だ。
本書は主として、アメリカと先進工業諸国のおける行き過ぎた不平等を論じつつ、3つのテーマがどれほど密接に結びついているかを説明していく。不平等は政治制度の失敗の原因でもあり結果でもある。不平等は経済制度の安定性をそこね、不安定性は平等性をそこね、この悪循環がわたしたちの生活を地盤沈下させていく。
悪循環から抜け出せる唯一の方法は、これから説明する各政策を協調的に実行することだ。

不平等に焦点をあてる前に、舞台背景を理解すべく、経済制度の幅広い欠陥を説明しておこう。

【市場の機能不全】
市場はあきらかに、自由市場主義者たちが主張するような機能を果たしてこなかった。自律的に安定するはずの市場は、先の世界金融危機が示すとおり、
きわめて不安定になって破滅的な結果をもたらしうる。じっさい、銀行家たちがのめり込んできた無謀な賭けは、政府の介入がなければ金融業界と経済全体を崩壊させかねなかった。”システム”をくわしく検証してみると、このような事態が偶然に起こったのではないことがわかる。銀行家たちは”システム”から、無謀な賭けに出るインセンティブを与えられていたのだ。

市場の長所は、効率性の高さだとみなされているが、あきらかに市場は効率的ではない。最も基本的な経済原則ーー効率的な経済に必須の原則ーーは、需要と供給がひとしくなることだ。しかし、わたしたちの世界では、膨大なニーズが満たされないまま放置されている。人々を貧困から脱出させるための投資ニーズ、アフリカなどの途上諸国の発展をうながすための投資ニーズ、地球温暖化にそなえて世界経済を改善するための投資ニーズ・・・。同時に、わたしたちは莫大な資源を有効活用できていない。現在の労働者と生産設備は、まったく使われていないか、100パーセントの力を出していないかのどちらかだ。失業は、市場に充分な雇用創出能力がないことのあかしだが、それは市場の最悪の失敗であり、効率性の最大の敵であり、不平等の主要な原因である。
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アメリカ国内では、数百万人の人々が家を失っている。
空き家も多ければホームレスも多い、というのがアメリカの実態なのだ。
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GDPは成長したものの、大多数の国民は生活水準の低下を味わわされたのだ。
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【グローバル化のつけ】

本書が論じるのは、大多数のアメリカ人にとって経済制度が機能を果たさない理由と、今日のような水準まで不平等が進行した理由と、これらの事態からもたらされる影響だ。不平等はわたしたちに高い代償を支払わせる。経済制度の安定性と効率性が低下し、経済成長が阻害され、民主主義が危機にさらされるのだ。
しかし、これだけでは終わらない。大多数の国民にとって経済制度が機能を果たさず、政治制度が金銭的利益で動くとみなされてしまえば、民主主義と市場経済に対する信頼も、世界に対するアメリカの影響力も傷を負うこととなるだろう。アメリカがもうチャンスの国ではなくなり、誇るべき法の支配と司法制度が金銭的利益に蹂躙されてきた、という現実が浸透していくにつれ、アメリカ人のアイデンティティさえもが脅かされるかもしれない。

一部の国における”ウォール街を占拠せよ”運動は、反グローバル化運動と緊密な連携をとってきた。たしかに両者には共通点がある。何かがまちがっているという信念と、修正は不可能ではないという信念だ。ここで問題なのは、グローバル化そのものの善悪ではない。世界各国の政府がグローバル化をうまく運営できず、
特定の集団だけに利益を与えていることだ。世界じゅうの人民と国家と経済が緊密に結ばれたのは進歩と呼んでいいが、この接続性の向上には、繁栄をうながす効果もあれば、貪欲と悲嘆をばらまく効果もある。

市場経済についても同じことが言える。市場は強大な力を持つ一方、道徳的にふるまう性質はそなわっておらず、どのように管理運営するかはわたしたちの決断次第だ。本領を発揮したときの市場は、生産性と生活水準の向上に中心的な役割を果たす。じっさい過去200年間の向上ぶりは、それ以前の2000年間とは比べものにならない。しかし、生産性と生活水準の向上には、各国の政府も大きな役割を果たしてきており、この事実を自由市場主義者のほとんどは認識できていない。

市場の負の面としては、富を一局に集中させうることや、環境コストを社会全体に転嫁しうることや、労働者を搾取しうることが挙げられる。だから、大多数の国民にまちがいなく利益を行きわたらせたい場合は、市場を制御して調整しなければならず、公平な分配を継続させるには、制御と調整を繰り返し行なっていく必要がある。アメリカは革新主義時代に市場介入を始め、米国史上初の競争法を成立させた。ニューディール政策の時代には、社会保障法と雇用法と最低賃金法を可決させた。”ウォール街を占拠せよ”運動のメッセージは、そして世界じゅうの抗議者たちのメッセージは、市場の制御と調整をふたたび実行せよと訴えている。
彼らの要求を聞き入れなければ、深刻な結果がもたらされるだろう。一般市民の声がきちんと反映される民主主義国家では、市民の暮らし向きが年々悪化するような制度は続いていかない。
つまり、開放的なグローバル市場は、少なくとも現行の形では持続不可能なのだ。いずれは政治か経済のどちらかが、ツケを払わされることになるだろう。

コメント(1)


クヴァーグルさん

厚く感謝申し上げます。

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