孫崎亨・広原盛明・色平哲郎達見コミュの助言-若い世代へ④、「IQよりEQ.」「外務省は理学部ではない。工学部だ」

【孫崎享のつぶやき】
助言-若い世代へ④、「IQよりEQ.」「外務省は理学部ではない。工学部だ」
2016-02-09 07:227

私が外務省で課長になる直前時代、局の審議官に呼ばれた。

「君は外務省を誤解している。外務省は理学部でない。理詰めで正しいことを主張すればいいと言うものではない。どう動かすかの工学部だ」

　外務省の先輩に加瀬俊一がいる。日米開戦当時のアメリカ担当課長、兼外務次官の要職にあった。語学の才能が高く、松岡洋右外相や吉田茂首相が米国の雑誌『フォーリン・アフェアーズ』誌に寄稿した際のゴーストライターが加瀬俊一と言われている。大変な才子である。彼の著作を読んでいた時、次の記述に出くわした。

「初めて外務省に行くことが決まった際、母は“これから毎日外務省の門をくぐる時、今日一日、貴方のあった全ての人が会ってよかったと思えるように努めなさい。そして一日が終わって門を出る時、貴方にあった全ての人が貴方にあってよかったと思えるように努めたか省りみなさい”と自分に言った」　この文章私が外務省を終えた後読んで、その時「もっと早く読んでいれば」と思ったものである。

　１９９６年ダニエル・ゴールマン著『EQ~こころの知能指数』が日本で翻訳された。もともとは１９９５年出版された『Emotional Intelligence: Why It Can Matter More Than IQ』、EQ（こころの知能指数）は何故IQより重要かという本である。

　彼は次のように記述している。

「人生を成功に導く要因の内、IQ（知能指数）が関係するのは多く見積もってもせいぜい２０％どまりであろう」「資質や学歴がだいたい同じでチャンスにも同じように恵まれた人たちが異なる運命をつかみとる結果になるのはなぜか。IQではうまく説明できない。」「ハーバード大学から数ブロック離れたスラムで育った４５０人の追跡調査が行われた。ここでもIQは仕事や人生全般の成功とはほとんど関係ないことが明らかになった。人生に大きな差をつけたのは、IQより子供のころに挫折を克服する能力や感情をコントロールする能力や他人との協調する能力があるかどうかだった」。

　そしてダニエル・ゴールマンはEQの５つの分野を紹介した。自分自身の情動を知る。（２）感情を制御する、（３）自分を動機付ける、（他人の感情を認識する、（５）人間関係をうまく処理する。

　そして次のように記述している。「人によって分野ごとに得意・不得意がある。自分の不安をコントロールするのはうまくても他人を慰めるのはうまくないという人も入るだろう。脳は驚異的な順応力を持ち、つねに学習している。EQのかなりの部分は脳が学修した習慣や反応であり、正しい方向で努力すれば矯正し向上させることが出来る」

　訳者、土屋京子氏は「学生時代に成績優秀だった同級生の顔を思い出して欲しい。彼らは例外なく社会に出て活躍しているであろうか」を問い、EQの重要性を説き、「EQは“情動の自己認識”や“自制”のような自分自身に対する理解から始まって、他人に対する理解すなわち“共感”へと発達していく。そして“共感”は人格的知性・社会的知性という究極のEQを可能にする」と説明している。