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二択読物[末]コミュの100万本のサヨナラ草[2]

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(「みんな、ありがとう」)

僕は今、葬式の会場にいて、隣には白装束のトロゾという老婆がめんどくさそうに寄り添っている。

自分の祭壇の横で列席者を眺めた。
19歳で死んだことがよかったか、参列者の数は多く、皆、一様に暗い面持ちだ。

キョウコは朝から慌ただしく働いていた。
悲嘆に暮れて全く役に立たない両親を気遣いながら、式を切り盛りしている。
ただの恋人なのに、目を真っ赤に腫れ上がらせて、それでも精力的に働くキョウコの姿は嬉しかった。

サークル仲間、高校時代の友人、先生。
従兄弟に祖父母、たくさんの人たちが集まってくる。

しばらくはそんな光景を嬉しく見守っていたのだけれど、少しずつ列席者の小さな所作が目立ち始めた。
欠伸をする人、足の痺れを気にする人、メールをしている人もいる。外に出れば、談笑している人までいた。

「香典持ってきた?」
「いくら包んだ?」
「オレ1000円しか入れてない」
「ええ方やで。マツイなんて何も入れんと袋だけ出したらしいもん」

そして爆笑。

少しずつ、怒りが芽生えていた頃だった。
なんだか嫌になって、裏庭に入ると、キョウコが泣いていた。
そして、その肩を親友のコウノが抱いていた。
キョウコは白いハンカチで目頭を押さえながらも、コウノに身を委ねている。

「オレが、守るよ」

コウノはキョウコの長くしなやかな髪の毛を撫でてそう呟いた。
キョウコは潤んだ目でコウノを見上げる。

3秒後、ふたりは深く熱いキスをした。

胸がカッと燃え上がるのを感じて、その場から逃げ出す。
会場では司会が陰鬱な表情で式を進めていた。

「いよいよ故人とお別れです。皆様、祭壇の蒼いお花、“サヨナラ草”を棺に入れて故人と最後のお別れをして下さい」

両親は号泣しながらサヨナラ草を棺に入れる。祖父母も、従兄弟も泣いていた。
サークルの仲間たちも、悲痛な顔でサヨナラ草を投げ入れる。しかし、後に続く人は皆、戸惑いを浮かべた表情でサヨナラ草を入れてくる。

そしてコウノに肩を抱かれたキョウコが、さっきまでコウノの背中に回していた手で、涙を流しながらサヨナラ草を投げる。その時、長くしなやかなキョウコの髪に、コウノがキスをした。

こんな所で、こんなタイミングで。

「あぁぁぁぁぁっ!」

叫びは誰にも聞こえないけれど、祭壇の蝋燭を派手に倒した。
火はすぐに祭壇の白い布に燃え移り、そのまま床に敷かれた絨毯にまで燃え広がる。

パニックが起こった。
参列者は一斉に出口へ走る。
僕が見つめると、ドアはひとりでに閉まり、逃げ場を失った人々は炎に包まれる。
髪の毛が燃える。
皮膚が、焼いたチキンのようにめくれていく。
膨張した眼球が破裂する。
香ばしい匂いを上げて、次々と人が燃えていく。

それでも怒りは収まらない。
炎は式場を焼き尽くし、隣家に延焼し、それでも留まることなく、街中を飲み込んでいく。
100万人の人たちが僕を送るサヨナラ草になって、次々と燃えていく。

「仕事増やすんじゃないよ」

トロゾは欠伸をしながら、めんどくさそうに呟く。
空はそれでも、抜けるように青かった。

ーーーFIN

過去への『満足度』を調べてみましょう。
2を選んだあなたはご自分の人生、過去に対してある程度の満足を感じているようです。
満足とは言っても、すべてが順風満帆だったわけではないでしょう。
ただ、どんな過去でも肯定できるというのは素晴らしい姿勢ではないでしょうか?
これから過去になっていく“未来”に対しても、その姿勢で突き進んでください。

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