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西岡の図書館(基礎医学)コミュの日沼頼夫(著)「新ウィルス物語/日本人の起源を探る」(中公新書・1986年)

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 1980年6月5日、東京・築地の国立がん・センターで或る研究会議があった。外では初夏の爽やかな風が流れていたが、そのコンファレンスルームには、ぎっしりと人がつまっていた。研究会議のテーマは、或る白血病の臨床と病理であった。各地の大学、病院、研究所から新しい研究成果の発表と、これに関する討論が熱っぽくつづいた。座長は、花岡正男教授(京大ウィルス研究所)である。この或る白血病というのは、「成人T細胞白血病」のことである。英語でAdult T-cell Leukemiaというので、研究仲間ではこの頭文字の略語ATLで通じている。
 私は同僚の花岡教授からこのATLの話を聞いていた。その会議の少し前、私が京大ウィルス研究所に転任してきて間もなくの頃である。彼の話というのはこうである。「2、3年前から、日本で新しい白血病が見つかって問題になっている。これがATLだ。日本以外の外国ではまったく知られていないらしい。大人がかかる性の悪い白血病で、発病すると、2年以内に殆ど死んでしまう。奇妙なことに、この患者は九州や四国の南部の生れの人が断然多い。鹿児島大学や長崎大学の大学病院にはこのATLの患者がいつでも何人も入院している。昔からあったものと思うが、これを特別のタイプの白血病だと言い出したのは、この京大病院第一内科の高月清博士(現、熊本大学教授)だ。」
 そういえば、どこかで聞いたことがあるな、と思った。しかしATLといわれてすぐにピンとはこなかった。ましてやこれがその後、私の研究を大きく転換させることになるとは・・・。


(日沼頼夫(著)「新ウィルス物語/日本人の起源を探る」(中公新書・1986年)2〜3ページ)
https://www.amazon.co.jp/%E6%96%B0%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9%E7%89%A9%E8%AA%9E%E2%80%95%E6%97%A5%E6%9C%AC%E4%BA%BA%E3%81%AE%E8%B5%B7%E6%BA%90%E3%82%92%E6%8E%A2%E3%82%8B-%E4%B8%AD%E5%85%AC%E6%96%B0%E6%9B%B8-789-%E6%97%A5%E6%B2%BC-%E9%A0%BC%E5%A4%AB/dp/4121007891/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1518500453&sr=8-1&keywords=%E6%96%B0%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%AB%E3%82%B9%E7%89%A9%E8%AA%9E


日沼頼夫(ひぬま・よりお) 大正14年(1925年)、秋田県に生まれる。1950年、東北大学医学部卒業。1960年、東北大学医学部助教授。1968年、東北大学歯学部教授。1980年、京都大学ウィルス研究所教授。1980年、高松宮妃癌研究基金学術賞受賞。1982年、野口英世記念医学賞受賞。1983年、武田医学賞受賞。1984年、高松宮妃癌研究基金賞受賞。ベーリング・北里賞受賞。1985年、ハマー賞受賞(1986年出版の本書末尾の著者略歴全文)

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 花岡教授の話は続いた。「ところで、われわれATLをやっているものは、これは何かウィルスで起こるんではないか、と思っている。あなたは人間の癌ウィルスの専門だから、ひとつこのATLのウィルスをやってみないか」というわけである。そこで国立がんセンターでのATL研究会議へ私を招待することになり、私がこれに応じたのである。言いかえると、私にATLというのはどんなものかを教えるために招待してくれたわけである。
 まる1日の会議は終わった。座長は皆の前で最後に私の意見を求めた。「どうだ。このATLの病因に、ウィルスの可能性があるか」と。私は或る感動にとらわれていた。初めてATLとは何かというのを知ったのである。私は答えた。「フィフティ・フィフティだ。」しかし私はこの時に、この幻のウィルスを追うことを決心していた。

(日沼頼夫(著)「新ウィルス物語/日本人の起源を探る」(中公新書・1986年)4〜5ページ)
https://www.amazon.co.jp/%E6%96%B0%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9%E7%89%A9%E8%AA%9E%E2%80%95%E6%97%A5%E6%9C%AC%E4%BA%BA%E3%81%AE%E8%B5%B7%E6%BA%90%E3%82%92%E6%8E%A2%E3%82%8B-%E4%B8%AD%E5%85%AC%E6%96%B0%E6%9B%B8-789-%E6%97%A5%E6%B2%BC-%E9%A0%BC%E5%A4%AB/dp/4121007891/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1518500453&sr=8-1&keywords=%E6%96%B0%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%AB%E3%82%B9%E7%89%A9%E8%AA%9E


日沼頼夫(ひぬま・よりお) 大正14年(1925年)、秋田県に生まれる。1950年、東北大学医学部卒業。1960年、東北大学医学部助教授。1968年、東北大学歯学部教授。1980年、京都大学ウィルス研究所教授。1980年、高松宮妃癌研究基金学術賞受賞。1982年、野口英世記念医学賞受賞。1983年、武田医学賞受賞。1984年、高松宮妃癌研究基金賞受賞。ベーリング・北里賞受賞。1985年、ハマー賞受賞(1986年出版の本書末尾の著者略歴全文)

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 或る一つのウィルスがヒトの癌ウィルスであることを決定する、ということは大変むつかしいことである。よくこういわれる。「まだヒト癌ウィルスだと断定できないんですか?」あたかも、やり方が悪いかからまだわからないのではないか、或いはひょっとしたら、本当は癌ウィルスでないものを癌ウィルスと見誤っているのではないか、といわんばかりである。本当にヒト癌ウィルスだとしても、これを断定することは、科学的に或いは実験的にすこぶる難しい問題である。
 動物、例えばネコやネズミの場合、癌ウィルスであることを最も直接的に決めるためには、そのウィルスをそれらの動物に注射して発癌を成功させればよい。ところが、人間に癌ウィルスを注射して発癌実験をするということはできるわけがない。注射して癌が発生したら、どうなる。いわずもがなである。


(日沼頼夫(著)「新ウィルス物語/日本人の起源を探る」(中公新書・1986年)39〜40ページ)
https://www.amazon.co.jp/%E6%96%B0%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9%E7%89%A9%E8%AA%9E%E2%80%95%E6%97%A5%E6%9C%AC%E4%BA%BA%E3%81%AE%E8%B5%B7%E6%BA%90%E3%82%92%E6%8E%A2%E3%82%8B-%E4%B8%AD%E5%85%AC%E6%96%B0%E6%9B%B8-789-%E6%97%A5%E6%B2%BC-%E9%A0%BC%E5%A4%AB/dp/4121007891/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1518500453&sr=8-1&keywords=%E6%96%B0%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%AB%E3%82%B9%E7%89%A9%E8%AA%9E


日沼頼夫(ひぬま・よりお) 大正14年(1925年)、秋田県に生まれる。1950年、東北大学医学部卒業。1960年、東北大学医学部助教授。1968年、東北大学歯学部教授。1980年、京都大学ウィルス研究所教授。1980年、高松宮妃癌研究基金学術賞受賞。1982年、野口英世記念医学賞受賞。1983年、武田医学賞受賞。1984年、高松宮妃癌研究基金賞受賞。ベーリング・北里賞受賞。1985年、ハマー賞受賞(1986年出版の本書末尾の著者略歴全文)

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 話しは少しさかのぼる。1981年3月の或る日、比叡山腹の小さなホテルで、小規模の国際研究会があった。その主題はヒトの癌ウィルスである。少人数であるが、外国からの高名な学者も何人かいた。そのうちの一人が、R・C・ギャロ博士(アメリカ国立癌研究所)であった。私はEBウィルスに関する研究を紹介する予定でいた。ところが、この研究会なるものは、実はギャロ博士が分離したウィルスに関する研究報告を核にして、日本人研究者に協力してもらう趣旨のものであることが、間もなくわかった。しかもそれは、私たちがつい最近見つけていたATLウィルスと非常に似たレトロウィルスを、すでにギャロ博士たちがアメリカのある種の患者から見つけていて、その研究材料を日本のATLに求めていることが判明したのである。この時の私の驚きは大きかった。この驚きは、すぐ私に一つのことを決心させた。私たちのウィルスは私たちが日本でやる。


(日沼頼夫(著)「新ウィルス物語/日本人の起源を探る」(中公新書・1986年)65ページ)
https://www.amazon.co.jp/%E6%96%B0%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9%E7%89%A9%E8%AA%9E%E2%80%95%E6%97%A5%E6%9C%AC%E4%BA%BA%E3%81%AE%E8%B5%B7%E6%BA%90%E3%82%92%E6%8E%A2%E3%82%8B-%E4%B8%AD%E5%85%AC%E6%96%B0%E6%9B%B8-789-%E6%97%A5%E6%B2%BC-%E9%A0%BC%E5%A4%AB/dp/4121007891/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1518500453&sr=8-1&keywords=%E6%96%B0%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%AB%E3%82%B9%E7%89%A9%E8%AA%9E


日沼頼夫(ひぬま・よりお) 大正14年(1925年)、秋田県に生まれる。1950年、東北大学医学部卒業。1960年、東北大学医学部助教授。1968年、東北大学歯学部教授。1980年、京都大学ウィルス研究所教授。1980年、高松宮妃癌研究基金学術賞受賞。1982年、野口英世記念医学賞受賞。1983年、武田医学賞受賞。1984年、高松宮妃癌研究基金賞受賞。ベーリング・北里賞受賞。1985年、ハマー賞受賞(1986年出版の本書末尾の著者略歴全文)

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