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小説『白夜行』の謎 コミュの雪穂と亮司(前編)

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 余白の大きいこの物語において、最も解釈が分かれるのが亮司と雪穂の関係について、であろうと思う。
ごく単純に図式化すれば…、
 ?『雪穂と亮司は純粋な絆で結ばれていた』
あるいは、
 ?『雪穂は亮司を、自分の目的達成の為に一方的に利用していた』
という意見に分かれるのではないかと思う。
 このコミュのトピックとBBSの全てに目を通された方はお気づきだとは思うが、私は?の立場に近い解釈をしている。

 だが、そう単純に図式化できる話では無いからこそ、この物語の魅力に惹かれてきたのだと思う。
 この物語を純愛と解釈した読者も、なお雪穂にミステリアスな印象を残しているのではないかと思うし、亮司は雪穂に完全に支配されていた、と解釈する読者も、二人の間に愛情は成立していなかったと断言することは出来ないだろう。

 私自身が、未だに上手く咀嚼出来ていない部分も多分にある。
 10年後に再読したら、また印象が変わるのだろう。そんな楽しみを残しつつ、現時点での『白夜行』の解釈を書いていきたい。
 
 主人公の心理描写が極端に少ない作品である。
 だから物語における第三者(特に笹垣)の推察部分は、「全て正しい」という前提で今まで色々なトピックスを書いてきたのであるが(そうした縛りをかけないと、TVドラマのように何でもありになってしまうから)、笹垣は重要な事を見逃しているのではないかと考えた。
 そして、おそらく、それは作者が意図的に仕掛けたものだと考えている。

 『…彼(桐原洋介)は何度か、娘の身体を買ったに違いない。あの古いアパートの一室は、そういう醜悪な商売の場として使われていたのだ。(p846)』
 笹垣は弥生子の話を聞き、こんな結論に辿り着く。
 だとすれば、なぜ、最初の事件は廃墟ビルの中で起きたのか?
 結論から書くと、雪穂は当初から洋介を殺害するつもりでこのビルに誘導した、と考えるのが自然であると思う。 
 事前に亮司と共謀したものではないだろう(p848の笹垣の推察、亮司の行動は突発的だったという文脈)。だが、雪穂は洋介との醜悪な現場を、亮司に目撃させる意図はあったと思う。事件は夕方の6時頃に発生している。この時代の図書館は5時には閉館しているはずである。にも拘らず、亮司は家を抜け出して図書館に向かうべき「理由」があった。おそらくそれは、雪穂との待ち合わせだろう。
 亮司が来るだろう時間を見計らい、通常なら吉田ハイツ103号室で事が済む話を、何がしかの理由をつけて洋介をビルに誘導した。二人がビルに入る姿を亮司に目撃させることで、亮司は必ず後をつけて来るだろう。雪穂は自分の身に降り掛かってくる残酷なシーンを亮司の目に焼き付け、現実に起こっている悲劇を亮司と共有したかったのではないだろうか。雪穂の初恋の相手として…。

 その後に亮司がどのような行動を取るかは、雪穂にも確信はなかったであろう。というのも、当初、雪穂は自分の手で洋介を殺害するつもりだったと考えられるのである。
 というのも、不自然に締め直された痕跡のある洋介のベルトから指紋が検出されていない。原作には全く指紋に関して触れられていない(松浦の件では描写があるが、洋介の事件とは無関係)が、逆に指紋からは何も事件解明のカギを握るような証拠は出てこなかった、と考えるべきではないか(指紋照合は伝統的な捜査手法で、日本では1911年より導入)。照合リストには未確認でも、子供のもの、と思われる指紋が検出されれば捜査方針は全く別の展開を見せていたであろう。
 犯行現場は子供の遊び場なので、子供の足跡などの痕跡は多数残っていた。だが、洋介のベルトは別である。洋介が死亡した後にベルトを締め直すことが可能なのは犯人だけである。第一発見者の菊池少年は洋介の遺体には一切手を触れず、急いで立ち去ろうとしている(p774〜775)
 とすると、雪穂は指紋を検出されないための準備を周到に行っていた、と考えられるのではないか。例えば、手袋や凶器などを予めランドセルに忍ばせていた可能性が考えられる。身に付けている服などで拭き取った事なども考えうるが、痕跡を残さなかった、という沈着冷静な点で計画的であった可能性が高いことに変わりはないだろう。

 「計画的であった」という点についてはもうひとつ根拠を挙げておく。
 雪穂は唐沢礼子の養女として取り入る準備を早い段階から着手していた。
 雪穂と礼子が初めて出会うのが雪穂の父親の七回忌とあり、1972年(つまり洋介殺害事件の前年)である。(※以前BBSに書き込んだ内容(1973年)を訂正。7回忌は死後6年目に行われるという知識が抜けていたため)
 礼子の記憶では、その後間を空けずに、雪穂は毎週のようにバスに乗って礼子の家に来るようになっていた。単に華道・茶道といった上品な礼儀作法に興味があったためだろうか?そうだとしても、礼子の家が雪穂にとって「居心地の良さ」を感じさせていたのであれば、自分の惨めな境遇を何としてでも変えていこうという揺ぎ無い決意があったのではないか。

 いつ頃から雪穂が幼女売春の犠牲となったのかは定かではない。
 雪穂は、およそ2年をかけて、独り身の礼子の心を懐柔して取り入り、桐原洋介と西本文代(寺崎忠夫?)らを排除して、ついには唐沢礼子の養女という地位に収まり、まっさらな未来を得ることに成功した…。
 雪穂がどんな思いでこの「2年」という歳月を過ごしてきたのか…。それを思うと、とても悲しい気持ちになる。少なくとも雪穂の人間像に関して、「トラウマ」とか「確信犯的な悪女」などと簡単に片付けて良いとは思えない。

 亮司が洋介を殺害しなければ、雪穂は自分の手で洋介を殺害していただろう。ただ、真実の証人として、初恋の亮司を選んだ。6時頃、いつもの図書館の前で待ち合わせをして、得意の切り絵を見せてと、約束を取り付けたのかもしれない。そこで何も知らない亮司はハサミを持ち出して図書館に出かけ、ビルに入る洋介と雪穂を目撃し、不審に思いダクトから後をつける。
 あまりにも残酷なシーンを目の当たりにして、亮司にはいくつかの選択肢があった。雪穂にとっては、ある意味で「賭け」であったかもしれない。
 亮司が現実の直視に耐えかね、その場から逃げ出したりすれば…、雪穂は亮司に容赦ない制裁を加えるつもりだったのかもしれない。 
 ところが、亮司は雪穂を守るために、あえて、実の父に手を掛けるという行動に出た。
 
 この瞬間、二人はお互いの魂を守り、供に手を携えて白夜を歩いて行くという暗黙の了解が出来たのであろう。
 雪穂は自分の未来を切り開くための最良のパートナーを見出し、亮司は父の犯した大罪を贖うため、雪穂の幸せにわが身を献じる「迷いのない」決意を固めた…。
 言い換えると、雪穂にとっての桐原洋介殺害事件は、悪魔を計画的に排除することばかりでなく、亮司にあえて試練を与えること、という2つの重大な意味を持った「儀式」であったように思える。
 なぜ廃墟ビルなのか?
 犯行を隠蔽するのに都合がいい、というばかりでなく、あえて亮司のホームグラウンドを、雪穂が意図的に「儀式」の場として選んだのではないだろうか。


 物語は笹垣の視点で締めくくられる。
 その笹垣自身が、雪穂の真の動機と思われる部分について解明しきれていない印象があるのは、彼の推理が、最初の事件よりも前の段階の雪穂の状況についてあまり斟酌していないことが原因ではないかと思う。というよりもむしろ、笹垣は全てのことを知っているわけではないのである。(TVドラマの笹垣はご都合主義で、超能力を駆使して全ての事件に関わらせていたが、原作の笹垣は、見えない糸だからこそ必死で真実を手繰り寄せようとしている)
 笹垣視点で読み終える読者は、相当の読後感を得ながらも、依然として雪穂にミステリアスな部分を感じるだろうし、もう一度読見返してみたくなる誘惑に駆られるだろう。

 読者は笹垣よりも遥かに多くの情報を与えられている。
 笹垣ほどの優秀な刑事が、雪穂のアパートを売春現場だったと結論付けながら、なぜ殺害現場が廃墟ビルだったのか、という不自然さを考えなかった単純なミスについて、これは作者の作為であったと思うのである。
 「笹垣の推理を超えてみろ」という作者の挑発を感じるのは、私だけの思い過ごしであろうか?


※追記: 
文庫版の馳星周による解説で、東野圭吾を「トリックスター」だと書いているのは(p856)、漠然と上のような部分を指しているのではないかと思う。

コメント(3)

すごい見落としをしていました(@_@;)その通り!!
それに気付いたなんてすごいです。雪穂が廃墟ビルでわいせつな行為を行なったことは本当に不自然だし、亮司が家を屋根づたいに抜け出したことも、雪穂が「誰にも内緒で図書館に来てね。」と唆したと考えたほうが自然。亮司の家庭環境からして六時にまだなっていない時間なら、何も屋根づたいに家を抜け出さなくても、玄関から出ていっても親にはとがめられなかったと思う。
改めて雪穂が恐い!!
なるほど(>_<)
読めば読むほど深いですよねー??

最初の所ですが、雪穂は亮司を操り人形としか思ってなかったのでしょうか?
幻夜も読んで「きっとそうなんだろうなぁ」と思いつつ
なんかそうであって欲しくない気もちで一杯です。

幻夜も読んでみて、せめて亮司に対してだけは人間らしい感情を持っていて欲しいと思ってしまいます。
>ちかさま、めろんさま
 コメントありがとうございます。
 結局、最初の事件をどう捉えるかで、ラストシーンの解釈が変わってくると思います。ラストシーンについても、ある見方を採ると、雪穂が亮司を見殺しにしたと解釈したほうが自然に思えますので、やはり、
 「雪穂は怖い女性」
という結論を導くことも出来ます。
 『幻夜』が続編、というのも『白夜行』をこのように解釈するとわりと素直に入り込めるのではないかと思います。

 ただ、本当にその解釈でいいのだろうか?・・・と。
 まず、笹垣刑事の言う「相利共生」的な部分を見落としてはならないと思います。
 亮司が自発的に学習経験を積んで次々と犯罪を重ねていく背景に、単に雪穂のためではなく、自分自身のために行動していく亮司の姿というのがあったと思います。
 また、亮司は自分の失踪後も園原友彦の身が立つように、きちんとお膳立てをしてあげてますし、栗原典子については、青酸カリの秘密を握られながら彼女の口を封じ込めることをしませんでした。これらの記述を見れば、亮司には人間的な感情が充分残っていたと考えられます。 
 ですから、幼少期の心的外傷を克服して自分達の道を切り開いた少年少女の成長記とも思えます。それが傍から見て犯罪を構成する行為でも、雪穂と亮司の信じた正しい道であったと。その意味で二人は確信犯でしょう。

東野さんが何を問題提起したかったのかは私自身、充分に理解しているとは言えないのですけれども、おそらく、大人の犯した身勝手な行為が、少年少女の成長を通じてさらに大きな犯罪を伝播させていくということに、現実に起こっている悲劇と重ね合わせて、根源的な問題点を読者に喚起しているのではないかと考えています。

 そんなこんなを色々と考えていくと、ラストシーンには二人の運命を決するべき、何らかの決意があったのだと考えています。
 後編は、もう少し・・・お待ちください(苦笑)

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