ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

小説『白夜行』の謎 コミュの売れるはずのもの?

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
奈美江を殺害した実行犯は榎本である。
「友彦は、奈美江を殺したのは榎本だろうと確信している。(p410)」
奈美江の居場所を伝えたのは、亮司である。居場所を伝えただけではないだろう。
奈美江の隠し口座の存在と、銀行員である身分を捨てて逃亡するという奈美江の腹積もりも、説明しているはずである。
そこまで説明して、初めて榎本は奈美江を殺害することを決意したのであろう。亮司にしてみれば、榎本には完璧な仕事を行うように仕向けなければならない。
榎本にとって一番良いのは、奈美江が銀行員に戻って、再び榎本に不正送金を繰り返させることである。そのような見込みがなく、悪くして奈美江が警察に捕まれば、間違いなく榎本にとって命取りとなる。2,000万円は手切れ金代わりであろう。
亮司は、自分の商売が榎本に邪魔されないように、加えて、違法ソフトをさばくための榎本の裏社会のネットワークも利用しようとする目論見があったのであろう。自分の手は汚さず、榎本に貸しを作る都合の良いやり方を選んだ。

ところで、2,000万円の行方について、奈美江殺害後に、雪穂が変装してキャッシュカードで引き出した、とする説がある。
2,000万円という数字が後に出てくることも、この説の一つの根拠となっている。
リカルド、という会社の株式に雪穂が2,000万円を投資していた、という部分である(p581)

私は違うと考える。
リカルドの株式がフロン代替物質の開発を公表して株価が急騰するのが1989年の出来事である。奈美江が殺害されるのが1982年、あまりにも年数を経過しているし、亮司と雪穂にとって、2000万円という数字は喉から手が出るほど欲しい金額にも思えない。
このリカルドの2000万円という数字は、あくまでインサイダーの疑いをかけられない、安全な金額で雪穂はうまく投資していた、という意味合いで作者は引き合いに出したに過ぎないと考える。林真須美の毒入りカレー事件を思い出して頂きたい。林は、保険外交員だった知識を悪用して、医者の診査もいらず、保険会社の管理システムに「異常値」として検出されない金額(いくらだったかは失念、500万円程度だった記憶がある)の保険金額で標的となる被害者に複数口加入させていた。個人投資家の2,000万円程度の投資なら、証取監視委員会も異常取引とはみなすことはない、そういう意味合いの数字であろう。

また、榎本が色々な意味で無傷である。
なぜ、榎本が不正送金に関して警察の追及を受けなかったのか?現行刑法で、業務上横領罪が成立するのは奈美江だけである。榎本については、奈美江の不正送金の事実について悪意であったこと(つまり不正の事実を知っていて金を受け取ったのか)が立証されない限り、犯罪要件を構成することはない。肝心の奈美江が死んでいるので、警察は立件をあきらめざるを得ない。

殺人については手下に手際よくやらせた為、痕跡を残していなかったのだろう。

だが、榎本はヤクザである。
警察の手は逃れても、身内の追及から逃れることができたのであろうか?
真壁を殺害してまで、緊急に必要としていた資金のことである。
それがない限り、榎本は身内から粛清されることになったのではないだろうか?
その後も、のうのうと亮司と取引を続けている辺り、難を免れたのであろう。奈美江の引き出した2,000万円を使ってである。

また、死亡推定時刻に関する記述がある。
友彦が見送ってから、4日目に死体が発見される。つまり金曜日である。
この時点ですでに死後72時間以上が経過、少なくとも火曜日以前ということになる。
月曜日にはあった2,000万円が死体発見時には残高ゼロになっていた、という原作の記述をどのように解釈するか?
この点、月曜日から、奈美江の遺体が発見された金曜日にかけて、徐々に預金が引き出されたかのような印象を受ける。
監視カメラは変装した奈美江を映し出していた。
しかし、死亡推定時刻から、火曜日以降に奈美江が現金を引き出すことのできる可能性は低い。水曜日か木曜日に引き出し記録が残っているなら、警察は間違いなく、奈美江以外の人物が現金を引き出した、と考えるはずである。ところが、奈美江本人が引き出したに間違いない、と新聞で発表されているから、2,000万円は全て月曜日か火曜日に引き出された、ということになる。
雪穂が変装した、という仮定は、夕子の事件のときのようにパラレルで描かれている部分がないので、発想の飛躍になるだろうと思う。雪穂にそんな危険な役をやらせるくらいなら、2,000万円など榎本たちにくれてやった方がよい。亮司自身が変装した、というのは論外である。友彦に偽造カードを初めて使わせた下りを読めば明らかである。
「女というのは、必要もないのに人の事を観察するのが好きな動物やねんぞ(p308)」
亮司は確実ではない仕事を嫌う。

おそらく、亮司は事前に奈美江に言い含めておいた。
真壁殺しの容疑が、横領のセンから奈美江にかかってくるのも時間の問題だ。金を引き出すなら早いほうがいい、と。
午前中に大阪を出て、新幹線で名古屋までほぼ一時間。ホテルにチェックインするまでにまだ充分な時間がある。名古屋に土地勘のある奈美江は、複数の銀行を使って全額を引き出し、ホテルの部屋に入っていった。
おそらく到着して、まもなく、榎本の手下たちの手にかかったであろう。
一日置いて、火曜日に殺害した、という可能性は低い。
時間が経つほど、奈美江が想定外の動きをする可能性が高まる。
確実に仕留める。そういう世界に、榎本も亮司も生きている。

亮司が奈美江という人物を不要、と判断したのはなぜか、という話に戻る。
奈美江は知り過ぎた。
亮司が恐れたのは、奈美江の口を通して、雪穂との繋がりが明るみになってしまう事であろう。
奈美江は、帳簿を通して資金の出入りを知っている。
もし、もののはずみで笹垣という刑事がしゃしゃり出てきて、資金の行方を徹底的に調べられればどうなるか。(※注)

簡単にさらっと書いてしまったが、亮司は笹垣の存在を強く意識していたと思われる。
TVドラマで、その様に描かれているので、あまりピンと来ないかもしれないが、実は原作において、笹垣は雪穂と亮司と何らの接点を持たないままラストシーンを迎えているのである。。
 「笹垣の執念?前編」の記事の最後に触れていた話題である。
笹垣はあくまで、慎重な態度で雪穂と亮司のその後を調査していた。だからTVドラマのように、亮司と雪穂の最大の脅威としては、直接には描かれていない。
しかし、障り気なく近所の人間や菊池らに聞き込みを続ける笹垣の噂は、亮司たちの耳に確実に入っていたであろう。笹垣から逃れる為、徹底して雪穂との繋がりを示す痕跡を消そうと亮司は必死になる。笹垣の執念が逆に亮司たちを追い詰めてしまった、その結果、奈美江は死ななければならなかったのだ、とも解釈できるのである。

だから、笹垣の事を先に描いた。
笹垣を非難する訳ではない、職務を忠実に全うしようとする刑事と、自らの魂を守ろうとした亮司と雪穂。この衝突がさらなる不幸の連鎖を生むことは、ある意味で避けられないものであったのかもしれない。
それもこれも、最初の事件が全ての始まりである。
迷うべくして迷い込んだ迷宮、そういう時代であったとも書いた。
登場人物の誰もが、白夜の中を生きている。

いま少し、この文脈を続ける。
亮司は榎本というヤクザに、こんな形で貸しを作った。
榎本はそれに報いる気持ちがあったのかどうか、いかにも恩着せがましい口ぶりで、やたらと危険な仕事を持ち込んでくる。義理を口実に打算を持ち込む小さい男である。
やっぱり、ヤクザはヤクザや・・・。
亮司は本心では、一刻も早くこの男から手を引きたかったであろう。

そして、警察へのタレ込みなのだが、亮司の自作自演の可能性が高いように思える。
ついでに、というよりも、絶好の機会に、亮司にとっても危険人物である松浦を殺害してしまう。そして、雲隠れという理由で、榎本たちからも行方をくらます。一石二鳥ではないか。
そして、前回の記事に書いたように、友彦との決別という意味も込められていたかもしれない。亮司は結婚の前祝として友彦に切り絵を送る。パソコンショップMUGENの運営を友彦たちに託す、という意味の話を聞かせる。そして絶妙なタイミングで電話のベルが鳴る、警察のガサ入れが入る、と・・・。

--------------------------------------------------------------
亮司は数々のプログラム製作に携わる過程で、この技術を大金に変えるための計画を密かに思案していた。この計画に余計な仲間は必要としない。雪穂との秘密の連携は完璧である。かならず成功するという自信が亮司にはあった。
亮司は頭の悪いヤクザと付き合っても、危ないだけでたいして実のないことを身をもって経験した。
パソコンショップの運営は地道だが未来があると、亮司は確信していた。友彦ならきっとうまくやれる。ここら辺がいい潮時であろう・・・。
亮司は一匹狼で歩いていくことを決心する。

「これからの時代は情報や・・・。」
亮司は、くっくっくと一人でほくそ笑んでいた。警察に一本電話を入れるだけで、こうも振り回されるなどとは、榎本や金城には思いもよらなかったであろう。そして松浦・・・。
「物事にはどんなことにも、特別なルートというものがある」
亮司以外に、この言葉の本当の意味を知るものはいない。

「これからの時代、どれだけ他人よりカネと情報を持ったかという世の中になる」
様々な商売に手を染めてきた亮司は、身を持ってこんな結論に達したのである。

10年前、亮司の父洋介が、雪穂の母、西本文代に対して同様の事を言っていたという事実など、亮司には知る由もなかった。
--------------------------------------------------------------
(注※)補足説明(2/21 22:30)
 「笹垣がしゃしゃり出てくる」ことの可能性である。奈美江は真壁殺しの容疑者にもなりうる。奈美江の殺害現場は名古屋だが、真壁は大阪である。笹垣が大阪府警本部に配属されているのであれば、充分、このラインで絡んでくる可能性がある。真壁が殺害されたこと、ということも亮司のアンテナに引っかかったのではないか?危機を察した亮司が、奈美江を亡き者にする決断をするための根拠の一つになったとも考えられるのである。 

コメント(6)

※補足説明 追加しています。(2/21 22:40)
またまたおじゃまします。

友彦と奈美江についての洞察、
相変わらず深いです。

でも実は少し違和感も感じていて
(どうも私はいろんなことに情の部分を見出したいのかもしれません(苦笑)
それがうまく形にならなくて書き込めないでいたんですけれど
しばらく考えていたことのひとつを書いてみたいと思います。

友彦と奈美江はどこが違ったのか?という点ですが
やはり日なたにいられる人間とそうではない人間ということではないかなと思いました。
友彦は人の死(殺人ではないにしても)やその隠蔽
キャッシュカードの偽造犯罪、などに絡みながらも
決して堕ち続けないで踏みとどまれるというか
やはり日なたのイメージがあります。
弘恵といういわゆる普通の女の子とつきあったりもして。
育ってきた家庭環境も伏線として張られているのでしょうか。

一方奈美江はやはり這い上がれない人、です。
チャンスがあっても日なたには出られない、堕ちてしまう人。

亮司は言うまでもなく日なたにはいられない人。
同じ匂いを感じていたのかもしれません。
ただ、「俺はあんなあほなことはせえへん」
だったかもしれませんが。
でも亮司の中では
日なたにいない人間はその”時”が来ればその存在を消すことを受け容れる
という覚悟?があったのではないでしょうか。

ラストシーンも壮絶ですよね。
一刺しで自分の命を絶っています。ためらいもなく。
自分が何かヘマをしでかしたときには
雪穂を巻き込まずに自分だけ確実に死のう。
そんな覚悟があったから
奈美江に対しても変な同情をしなかったのかも?
奈美江も榎本に目をつけられていますから
あの後かばい続けることは難しかったでしょう。
亮司は道連れになるよりは奈美江にその存在を消してもらうことを選んだのでは。


そんなことを考えながら
今日のドラマ7話を見ていたら
亮司が友彦に「お前には太陽の下に戻ってほしいからさ」
なんて言ってて、やられた!って気分でした(苦笑)。

亮司にとって友彦はとても眩しい存在だったと思うのです。
だから、最後は巻き込まずに姿を消し
彼に日常を取り戻させたのかな。

どこまで秘密を知っていたか?ももしかしたらそうかもしれませんね。
友彦には踏み込まないところがあるんですよね。
夕子の件にしても奈美江のことにしても
気になりながらも亮司を問い詰めたりしない。
最後の一線を越えない。
それが堕ちていかない、日なたにいられることにつながるのかもしれませんが。

本当の闇に触れずに人を信じていける、強さみたいなものかもしれません。
亮司や雪穂がどうしても手に入れられなかったものかもしれません。

またとりとめなく書いてしまいました(苦笑)。

あ、実は2000万の行方が原作を読んだだけではわからなくて気になっていたんですよ。
ドラマを見て「なるほど!」と思ったんですよね。
2000万を榎本と折半で、私は納得してしまいました(笑)。
夕子のときも、ルームサービスを頼んだ女性はおそらく雪穂ですよね。
だから雪穂に頼むのもそれほど不自然ではないかなと。
>ましろんさん

>でも実は少し違和感も感じていて

ありがとうございます!
ましろんさんのご意見をご覧になって、
「実は俺(私)もこの管理人に言いたかったことがある!」
って方、たくさんいらっしゃるんじゃないかと(笑)

面白いので、どなたか、ご意見お書きになるの、も少し待ってみようかな〜、と。(本当は書くことまとまってないだけともいえるのですが)
やや、控えめに、募集します(^_^)
という訳で・・・、
やや、控えめに書き込みの募集していましたが、とくに締め切りというわけではなく…。
あんまり鋭い指摘があったらどうしよう、と、一人どきどきしているのも心臓に悪いので、先に書き込んじゃいます(^^;)

長くなります。

ましろんさんの感じた「違和感」について、私はもっともだと思いました。
私は心理描写、という部分をすごく苦手にしていまして、登場人物たちの内面から物語を考えていく、という部分を極力避けてしまっています。ですから、友彦と奈美江の存在意義について「雪穂と亮司の関係にどこまで近付いたか」という基準を持ち出すことで、それぞれの違いを書いています。ちょっとこれだけでは、あまり人を納得させられる説明とは言えないかも知れません。

そうした意味で、ましろんさんのご意見、興味深く読ませていただいております。

登場人物の内面や心理といった部分は、読む人の価値観や生活環境、背景といった様々な要素で大きく変わってくる部分でもあります。私も色々な人の解釈を読んで楽しんでいます。そうした意味で、登場人物の心理描写、だけではありませんが、記事を書くことを通じて私なりの価値観のようなものが出てしまうことになるでしょう。
おそらく、ましろんさんのおっしゃっている「違和感」というのは、そうした部分に起因しているのではないかと思います。私もましろんさんと同様に、奈美江と友彦の下りというのを、純愛とはこういうものなのでは?と「情の部分を見出したい」と思っていたりします。そういう雰囲気が文章に出ているかな、と感じているのですが、雪穂と亮司、雪穂と一成、今枝と絵里、亮司と典子、それぞれの関係について、読む人によってどれが純愛か?という考え方はやはり異なってくると思いますので、私の描き方に違和感を覚えるのも当然のことだと思います。
ましろんさんのご指摘にある、「日の当たる人」とそうでない人ですね、原作中の亮司が奈美江のことを「あほな女や」とはき捨てている部分が関係しているのではないかと考えました。日の当たらへん女やのに、無茶するからこうなるんや、という亮司の心の声が聞こえてきそうです。そこに、「今でもダクトの中を這いずっている」という亮司自身の心情と重ね合わせて考察されていて、とても鋭いご指摘だと思いました。人間の内面部分に関する考察というのは私の苦手とするところですので、色々とご意見を頂くと新鮮な発見がある、とつくづく感じております。

ではなぜ、私がこの記事で「雪穂と亮司の関係にどこまで近付いたのか」という基準を持ち出したのか、という理由です。
一応、一つの謎に一つのトピックスという感じで進行させているんですが、それぞれのトピックスをばらばらに存在させる、ということは考えておりません。例えば「質屋」の意義を書いておいて、後でそれがどのように亮司の人生に影響を与えていくか、などはここのトピックスでも触れたりしてますよね。それぞれの伏線が綿密に繋がるように・・・つまり、原作の手法にできるだけ近づける形で謎解きをすることを考えています。原作の素晴らしさの一つの要因が、この綿密な構成ですよね。ですから、「ある場面」を切り取ってみて、大きな流れを踏まえて把握していこう、というのが私の意図するところです。
そして、このトピックスで触れている「雪穂と亮司の関係にどこまで近付いたか」という基準は、別のトピックスでも使う予定なんです。現に使用しているトピックスがあります。「寺崎」の記事で、「雪穂が最も恐れたことは何か」と書きました。雪穂を守ることが亮司の使命です。亮司が行動する上で、最も優先すべきことは何か?このことが奈美江と友彦の生死を分けた理由に繋がってくるのでは、と私は考えました。原作者の東野圭吾がインタビューで、亮司を「迷わない男」と表現しているんですね。亮司が迷うことなく非情な決断を下す、その根底にあるもの・・・、ここが一貫することを大きな目的として記事を作っていこうと思っているのです。しかし、そうすると原作の記述を拾って、機械的に結論を出していく作業ともいえますから、登場人物たちの内面について、どうしても考察が浅くなってしまう、という弱点があるのは改めて感じた部分でした。

こういう作業を続けて感じたのは、東野圭吾は小説に描かれていない「裏」の部分を、文章という形ではないかもしれませんが、おそらくストーリーを作っていたと思われます。それも、とても緻密な論理構成を持ったストーリーです。あえて、そこをばっさりと省いた。色々な解釈があるようにみえて、詳細に検討していくと実は一つの道筋しか成立しない、そういう部分が随所に見られるんです。
私も記事を書いていて、実際には倍以上の分量を書いているんですが、ばっさりと切っているところがあります。これは、あまりトピックスを長くしないようにしているつもりなんですけど、その分、説明不足になっている気もしています。ただ、もし私の記事を読んで、「ここは事実と違うのでは?」という疑問点が出てきた場合に、これに対して、いくつもの角度から説明するための材料にはなります。
長くなってしまうのを恐れずに、実際に「ばっさりと説明を省いた」例を挙げて見ようと思います。

2000万円の件です。
TVドラマの解釈と比較しながら書いていきます。
松浦が榎本と交渉して折半した、というドラマの解釈、ドラマの文脈では、あれが一番妥当な解釈だと思いますね。亮司は迷う人で、松浦が決断する人です。ましろんさんの「松浦が亮司の陰の部分を随分と背負っていて・・・」と以前、指摘されていましたね。これはとても的確だと思います。
また、奈美江はさほど重要な人物とは描かれていません。亮司に脅迫され、偽造カード作りに加担し、榎本に追われたから亮司に助けを求めていつのまにか仲間になっている、亮司の「隙を見せる奴の負け」というセリフに奈美江が惹かれた、ということが動機のとして描かれています。奈美江と亮司が繋がった要因を様々な角度から意味づけしている原作とは違い、単に亮司のセリフが気に入った。それだけです。
だから、奈美江殺しの動機は、松浦と榎本の金目当てという利害の一致に拠ります。
雪穂が登場するのは、亮司の嫉妬が起因してましたね。ちょうど一成とドライブするところを目撃した亮司が、自分の苦労も知らずのんきに恋をしてる雪穂を傷つけてやろうと、ちょっと危険な役目を押し付けた。奈美江と同様、ドラマでの動機付けは単純明快です。
松浦が奈美江殺しを決断し、ぐだぐだしている亮司に構わずに強引に榎本と交渉し、1000万円ずつ折半する、と話をつけたのを受けて、仕方なく、亮司は奈美江のカードを偽造し、変装道具を2組用意して、ちょっぴり復讐の意味を込めて雪穂を利用します。雪穂は奈美江が隠れ家に入るのを見届けた後、変装して偽造カードを使ってお金を引き出し、奈美江は榎本に殺害される。
この方法ならカードから指紋を検出されることもなく、筋としては良くできていると感じます。
2000万円の折半、ドラマではこんな文脈で解釈されていたと思います。
ですが、これはドラマの文脈に限定された解釈です。
そもそも原作では亮司や雪穂が大学2年生の時に事件が起きていますから、篠塚一成への嫉妬から雪穂を担ぎ出したとする解釈は、1年とはいえ時代設定が違いますから、成立しません。
しかし、もっと大きな理由があります。キャッシュカードの偽造が、亮司にできたのかどうかです。

上の記事に補足という形で検証します。
私は、上の記事に書いたストーリー以外に2つ、筋の通るであろう推論を組み立てていました。

一つは、榎本が奈美江を殺す前に、キャッシュカードの暗証番号を強引に聞き出した後、殺害した。そして、奈美江の持っていたカードを持ち出し、榎本と関係しているある女性に奈美江の持っていた変装道具を着用させ、お金を引き出した後、カードを元に戻した。榎本はカードを偽造する技術がありませんから、この方法しかないでしょう。しかし、カードの指紋が問題です。手袋をはめたとしても、その分指紋の跡が不自然に消えてしまったりする可能性が高いと思います。カメラには「変装した奈美江」が映っている事を考えると、指紋が不自然に消えていれば警察も他人が引き出したセンを当然考えなければなりません。ところが警察は金を引き出したのは「奈美江に間違いない」と発表していますので、この解釈はちょっと無理がある気がしました。

もう一つは、亮司はレンタカーにエンコーダーと一組の変装セットを積み込み、雪穂を乗せて名古屋のホテルかどこか、ある場所に待機します。榎本は奈美江を殺害した後、亮司に奈美江の所持していた秘密通帳の口座番号を電話で亮司に伝える。亮司は榎本とは違い、口座番号さえわかれば、暗証番号無しでもカードを偽造できる技術を持っています。死亡推定時刻の問題がありますから、亮司は偽造カードを短時間(少なくとも火曜日の午前中まで)のうちにエンコーダーを使って作成し、変装をさせた雪穂にお金を引き出させるというストーリーです。真壁が殺された金曜日に合流して以来、友彦が最後まで奈美江と行動を共にしていますから、亮司は、奈美江の秘密口座の番号を、この方法でしか知り得ないだろうと思います。それより以前に、亮司が奈美江の秘密口座を知っていた、という可能性は無いと考えています。理由は色々ありますが、誰にも言わないから秘密口座なんだ、というところに留めておきます。
このストーリーはTVドラマに近いと思いますが、亮司がそもそも偽造カードを作成することが出来たのか、という点が問題です。
偽造カードを作る過程なんですが、あらかじめカードに組み込まれている各銀行特有の暗号のパターンを解読しておいて、実在する口座番号の情報をエンコーダーに入力して、プラスチックの板に貼り付けるというものでした。奈美江の秘密口座ですが、奈美江の勤める大都銀行のものである可能性は、まず無いと考えます。一般的に銀行員は、自分の勤める銀行の自分の預金通帳の取引記録を、公ではありませんが、上司が確認していることが多いのだそうです。記事中にもありますが、銀行は内部の不正が起きる可能性が非常に高いので、行員のお金の使い道などについて上から厳しくチェックされる。もし奈美江名義の大都銀行の預金口座に総額2000万円以上にもなるお金の出入りがあったなら、間違いなく上司に理由を聞かれることになります、またはその可能性が高い。他人名義で大都銀行に口座を開設した、という可能性については、奈美江は不正送金もできるから、それぐらい簡単では?と思ってしまうかもしれません。しかし奈美江の従事している業務の範囲を超えていると考えられます。銀行ではそれぞれの作業分担が厳格になされているので、架空口座を他の同僚にわからない様に開設することはまず出来ないでしょう。とすれば、他の銀行の口座を開設してそこに不正送金した、というのが自然な流れです。そうなると亮司は、奈美江が選んだ、地方銀行や地元の信金などまで含めて100以上ある金融機関の内の5つの銀行について、それぞれの銀行特有の暗証化パターンを解読しなければなりません。はたしてその様なことが、たかが1日2日でできるのでしょうか?暗証化パターンを解読するには、その銀行のキャッシュカードを事前に手に入れて、カードに磁気粉末をかけて暗号を解読しておかなければなりません。それに口座の開設をしてキャッシュカードが手元に届くまでに少なくとも1週間はかかります。事前に亮司が、あらゆる銀行の暗証化パターンを解読していたとしても、かなり無理があることには間違いありません。
私は、亮司が奈美江の秘密口座の偽造カードを作るのは物理的に不可能だと、いう結論に達しました。

東野圭吾は「裏」の部分について、論理的に正しいストーリーを描いている、と先ほど述べた部分はこういうところに見られます。色々と解釈があるように見えて、実は私の書いた記事のストーリーしか、成立しないように思えてくるのです。

そして以前からあたためていた「亮司自作自演説」というアイデアも実は影響しています。
榎本と亮司の関係は、亮司が貸しを作っているように見えて、実は利用されている。ヤクザというのは一般人の常識が通用しない、そこを亮司は「マリオ」の件で学習した、と考えました。そこからさかのぼって、奈美江の件に関して、亮司と榎本との間にどんな取引があったのかを考えた訳です。2000万円は、すぱっと榎本の手に渡るように亮司は手配したに違いない。折角そこまでお膳立てしてやったのに、ヤクザというのは所詮ヤクザだ。裏切られた、というよりも亮司はどうしたら早く榎本と手を切ることができるのか、そのチャンスを虎視眈々と狙っていたのだと考えたわけです。
「昼間に歩きたい。
 ・・・俺の人生は白夜の中を歩いているようなものやからな(p436)」
レヴューなどでよく使われている部分です。亮司がつい本音を漏らしている、多くの人はそう解釈しています。
ところが、ここだけ抜き出すのではなく、前後の文脈を読み直して見て頂きたいと思います。
中島弘恵が「来年に向けての抱負」について問いかけているのに対して、「昼間に歩きたい」と答えているのです。「ファミコンに負けないパソコンゲームを作りたい」という友彦の回答と比較して、亮司の答えはあまり質問と噛み合っていないようにみえます。ただ、今までは夜を歩いていたけど、来年こそ昼間を歩いていきたい、という「環境の変化」を渇望していたのは確かだと思います。もちろん、友彦にだからこそ、亮司がふと本音を漏らしたりしたのは間違いありません。この後、切り絵を友彦たちに送ったりしていますから。私の「自作自演説」の流れだと、この時点ですでに、友彦たちと訣別するという決意を固めていた、という意味が加わってきます。タイミングよく警察のガサ入れが入る、邪魔な松浦を始末する、榎本と手を切る、全てが亮司にとって好都合です。亮司が本音をポロリと吐きつつ、友彦たちに対して亮司なりにお別れを告げる場面だった、とすれば友彦はやはり亮司にとっては「唯一の親友だった」といえるのではないか、という解釈にも繋がってくるわけです。
そして、夕子の記事で以前書きました。「何があったかを想像することは、あたしが許さない」という奈美江のセリフは不自然な言い回しであると指摘して、そこに何らかの意味が込められているのではないか、と。同じことが亮司の「物事にはどんなことにも、特別のルートというものがある」というセリフについてもいえると思います。これは亮司にしかわからない「特別」の意味が込められている。例えば、雪穂との秘密の共生関係も「特別のルート」ですし、全ての人間の裏をかいて自作自演を行うのも「特別のルート」です。このことについて、亮司は既に色々と学習し、実践しています。都子や江利子の事件、あるいは夕子の死の偽装事件で、他人が窺い知ることのできない「特別のルート」というものを、亮司は自ら手で切り開き、いずれも成功させてきました。亮司が単に暴力団と警察との「陰の癒着関係」に精通しているという意味だけではなく、自分の未来は自分で切り開いていくという自信、そういうものが、このセリフに隠されているのではないか、と。
そういう大きな文脈の中で、物語の断片を、意味のあるものに繋げていきたい、というのが私のスタンスです。
その場その場でしか通用しない解釈、難しく言うとアドホックなロジックやレトリックと言うのでしょうか、私はそういうものを持ち出したくない。原作の魅力を最大限に引き出すためには、場当たり的な謎解きではなく、大きな流れの中で、ある場面の断片を分析していきたいと、考えているのです。

長くなってしまいました。私の記事を読んだ皆さんが、もう一度原作を読み返してみたとき、「ああ、なるほど」と楽しむことができるような記事を作っていきたいと思います。
個人的に、一番気に入っているのは、「笹垣の執念?」でアレンジした、笹垣と今枝のやり取りの部分です。どうして笹垣は大阪に戻って今枝に電話をしなければならなかったのか?原作中の今枝と笹垣の会話の内容と併せて、その経緯をもう一度読み返していただくと、とても面白いのではないかと思います。
>まいけるさん

相変わらずお見事です。
すごい。

後半は「そっか〜。そうだよなあ」と思いました。

私は原作にあった”2000万が見つからなかった”というところに
ひっかかっていました。
榎本は一応逮捕されているわけですから
家宅捜索なども入るでしょうし。
そういう意味ではやっぱり亮司が?と思っていたのです。
でも、口座番号を知る可能性、偽造の可能性を考えると
まいけるさんの説になりますよね。

ただ、雪穂に手伝ってもらうのに「動機」は必要なかったと思っています。
ドラマでは感情に焦点が当てられていますので
嫉妬にかられて、となっていますが
共生の言葉が示すようにお互い必要なときは手を貸したのではないでしょうか?
菊池の母親に映画チケットを渡したり
夕子になりすましたり、
(これは雪穂に直接的メリットはないですよね)
サブマリン、高宮のIDを手に入れたり。
雪穂は何かしら亮司の手伝いをしていますよね。


東野氏が小説に描いてない部分のストーリーを全部組み立てているというのは同意です。
そうでなければあんな物語は描けないでしょうね。
でも敢えて描かない行間があるからこそ
読者は想像する楽しみを与えられていますけれどね。
>ましろんさん
 断定的に書いてしまったりしていますが、色々な可能性はあると思います。
 なぜ、偽造カードの件を記事に入れなかったのかと申しますと、銀行業務の話など、そこに精通されている方から実際に聞いた話をもとにしていたりして、後でこの記事を読んだ情報源の方が「あまり勝手に俺の話を使うな!」とクレームがきたらどうしようという思いがあったものでしたので…、もう書いちゃいましたけど(笑)
 その他に記事中でもっともらしく書かれている話ですね、「警察官の作文能力」とか、「裁判所は嫌がる」とか。警察官の方は供述調書の作成に私自身が協力した経験を踏まえていますし、裁判所の本音も、あまり大きな声では言えないのですが、そういう所にお勤めの方に聞いた話なんです。だから、リアリティがあるかというと、私もそんなに人生経験があるわけでもなく、いかにもそれが真実であるかのような書き方をしていても、ほんのわずかな一面を誇張して表現したものに過ぎないともいえます。実際に銀行員や警察官の方が私の記事を読んで、「それは違う!」と猛烈に反論されることも想像しています。そういう貴重なご意見は是非聞いてみたいと思いますね。
私の記事の信憑性に対しては、そこそこ距離を保って読んでいただければ、と思います。
私自身は会計業界に身を置いていますので、「ヒト・モノ・カネ」を巡る動きについて、一般の方と比べてやや違った視点で見ることができるかもしれません。特に「カネ」の動きについては、記事を見ていたらわかると思いますが、ものすごく執着しているのがわかると思います(笑)原作の「ヒト・モノ・カネ」の動きはとても深く描かれていると思います。ドラマのほうでも、「カネ」の動きについては割と配慮されてますね。マンションの敷金はどうだったのか、とか松浦に全部おっかぶせてますけど(笑)
で、2000万円の行方ですね。
それ以前の不正送金については、記録が残っているので、原作の記述にあるように「横領については、現在も係争中(p411)」となっています。アニータの事件なんて記憶に新しいですけど、あれはアニータが横領の事実を知っていたということを、犯人(名前忘れました)が生きていたため証明できたので、民事では回収が進んでますね。刑事のほうは司法権の管轄の問題があってあまり上手くいっていないようですが。つまり奈美江が死んだまま榎本の「悪意」について証拠を固めるというのは非常に難しい、というのは記事にあるとおりです。
そして2000万円の方は、現金化した後に行方がわからなくなっているので、どこへ渡ったのか記録に残りません。ですので私はヤクザの榎本が「無傷」であることを根拠に、2000万円を跡形もなく使ったと考えました。こういう面ではヤクザはプロでしょうね。足のつく銀行振込とかは、間違ってもしないだろう、と(笑)ですから警察が家宅捜査に入っても、手掛かりが残っているのはそれ以前の不正送金の分だけですね。原作(先ほどのp411)でもその分しか触れられていません。

 >雪穂に手伝ってもらうのに「動機」は必要なかったと
 私もその部分は重要だと思っています。
 やっぱり笹垣のセリフですね。
「おそらく取り決めらしいものはなかったであろう・・・、自分たちの魂を守ろうとしているだけなのだ」
 私も取り決めのようなことを具体的に書いちゃったりしていますが、何か具体的に書かないでも表現できないか、と常に悩んでいます。
 夕子の時と奈美江の時ですね、細かくなってしまうんですが、夕子の時はもし警察にばれても、亮司が防波堤になれば雪穂に危険が及ぶことはありません。友彦は亮司以外に関与した人物を知りませんから。奈美江の時は防犯カメラに映りますから、絶対に安全とはいえないのではないか、と考えました。亮司は雪穂を危険に曝さない、という私の思い入れが出てしまってますかね(笑)ドラマでは武田鉄矢が防犯カメラを見て雪穂って気づきますね、やりすぎだとは思いますが(笑)
ただ、魂で惹かれ合う二人ですから、むしろ雪穂の方から積極的に関与している、という筋でも面白いのではないか、とも思います。そっちで記事書き直そうかな?(笑)

 あと、東野圭吾の裏のストーリー作りがあったのでは?という話題です。
「ばっさり省略した」と私書いているんですが、もちろん、それだけで物語の面白さが増す、というだけではないのだろうな、と思います。その辺は、馳星周のあとがきが素晴らしい表現をされていると思います。あとスネークさんのレヴュにもあるんですが、ちょっと失礼してコピペさせてもらいます

「この作品、異なる環境に生きる男と女、すなわち二つの視点から
交互に物語が進む。そこにはもはや接点と言えるようなものすら
無いように見えるが、物語が進むにつれ、その複雑に絡み合う
人間模様から、意外な "糸" が見えてくる。
この手法、古くはカフカ、最近で言えば村上春樹の『世界の終わりと
ハードボイルドワンダーランド』に代表されるやり方と言っていい。
まるで異なる視点、別な世界で生きている"はず"の二人。
でもその謎が一つ、一つ露になっていく過程は正に鳥肌ものであり、
それが十数年という長きにわたり展開される様は、もう圧倒的だ。
これだけ広げた風呂敷を、よくもまぁ見事にまとめたものである。」

こういう描き方は成功させるのがとても難しいのですね。
芥川龍之介もこういう作品書いているそうですが、失敗だった、という書評を読んだことがあります。
つまり、ばっさりと省略するにも、ものすごい技術というかセンスがないと、物語がとてもつまらなくなる危険性があるのでしょう。宮部みゆきでいうと「長い長い殺人」という話があって、同様の手法をとっていたと思いますが、あれは失敗だったのでは、という記憶があります。
ですんで、これだけ読者の想像力を掻き立てておきながら、人それぞれに納得がいく、という作品はやはり傑作なんだろうと感じています。

ログインすると、みんなのコメントがもっと見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

小説『白夜行』の謎  更新情報

小説『白夜行』の謎 のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング