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洪水コミュのその日見た夢

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 四月二十六日

 その日、大地震と大洪水が起こることを誰もが知っていた。僕たち家族も朝から荷物をまとめている。その日の空は濁ったような灰色で、不吉に見えた。僕は電池や食物を鞄に詰めながら、その光景はとても切迫したものでなく、どこかぼんやりとして、緩慢だ。古びた懐中電灯の処遇を巡って母と冗談を言い合い笑ったりもした。それらは午後を過ぎた時間だったのだろう。

 何か予兆があったのか、私たちは洪水の来るのを直感した。私は家族に呼びかけつつ、恐慌して外へ飛び出したが、この時咄嗟にスタンドライトを手に掴んでいた。背負ったリュックサックは荷物で膨らんでいて重く、私はもっと切実に考えるべきだったと後悔した。私はすべてを持ってはいけないのだ…。道路には既に多くの人たちが出て来ていて、山の間に見える遠い海、その巨大な液体の様子を伺っている。彼らは、潮鳴りのようにさわめき、波間の藻屑のように揺れてはいたが、全体として、異様なほど静かで、また静的に見えた。フィクションでありがちなパニックや狂乱騒ぎは、何一つ起こらなかった。皆な、その日が最期の日であることを、知り過ぎてしまったのだろうか…。

 私たちの町は山を切り崩した場所にあったが、僕たち家族はより広く高い所へ向かって移動しようとした。その途中で、災厄がついに始まったことを皆な理解した。地鳴りのようなものが響いている。
 私たちは白いタイルで舗装された遊歩道に自らを置いた。小さな森のような林に面した、平坦な高台だった。私たちの他には誰も居なかった。静かに流れてきた半透明の水が、私たちの足を濡らす。
 水にくるぶしまでが浸かった時、僕は「来たな」と言った。間もなく水は低い音を立てて流れ込み、私たちを腿まで沈めた。姉が、そのフロアスタンドはどうするのかと尋ねる。私はスタンドを水底に立ててみせ、これ以上水嵩が増してもスタンドの軸を掴んでいれば沈むことはないし、流されにくいのだと説明した。姉は感心して、気休め程度には心丈夫になったらしい。やがて私たちは濁流の中へ沈んでいった。
 轟々と鳴りながら深さは増し続ける。水は茶色にも灰色にも見えた。もう私でさえ爪先立たねば苦しく、足のつかない姉が私にしがみつくと溺れかかった。私は姉にスタンドを掴むように言った。家族四人が一本の軸を握っているが、それは胸の高さまでしかなく、私たちはあっぷあっぷした。家族全員で抱き合った。母は、「これが最期かも知れへんね」と言った。
 波はいよいよ大きくなり、足はとうに地を離れていた。それでも必死に生きることを考えた。私は林の上に陸橋が出ているのに気付いて叫び、あそこまでゆくのだと呼びかけた。私たちは何とか泳ぎつき、やっと深く息をついた。この陸橋だっていつまで持つか分からない。波はあんなに高まっている。見渡すかぎり、もうこれ以上高い処は無い。
 私たち家族は一体どうなったのだろうか。

 (2012年の夢日記から)

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