ちゃむ(coLd)コミュの【“とり”付く島も無い話】 ちゃむ

ある日、何気なくmixiを開くと、『Ｆ』というマイミクが写真付きで呟いていた。

比較的頻繁に更新される彼のボイスは、写真付きのものが珍しくはない。

今回も写真付きでアップしたようだ。



■Ｆ
【ケッコーな出来栄えだ♪】



そんな呟きに添えられた写メ。
その小さな写メを拡大した俺は叫んでしまう。


写メ【美味しそうな手作りの鶏肉料理】


…鶏肉料理…鶏肉…とりに………



誰がウマいコト言え、と！！！！！



そうなのだ、コイツは鶏肉と“ケッコー(結構)”をかけてやがったのだ。

「うわー、コレは、うわー…」なんだがムズムズする。

「うわー…あ、あれ…？」
ムズムズしながら俺は気が付いてしまった。
とても大切なことに。

そう



誰 も ツ ッ コ ん で ね ぇ



総員、このウマいコトを見事なまでにスルーしているのだ。

こんなに高く上がったトスをスルー。

足元に転がるボール(ボケ)……ひ、酷い。


沸々と込み上げてくる感情。

震える拳。

「お前のマイミク連中は何やってんだ」

「コートの中で棒立ちかｸﾉﾔﾛｰ」

明らかな苛立ちが俺の中に募る。
見ず知らずのマイミクさん達(きっと良い人達)に勝手に募る。

ツッコミ気質の悪い所全開である。

「仕方ないな…」
優しい俺は言葉少なにコメントを残した。



■ちゃむ
【鶏肉だけに】



これであの“ウマいコト”も浮かばれる。
一安心の俺(自己満足)は仕事に戻った。



帰宅後、またmixiを見ていた俺は、数時間前にコメントしたＦのボイスに新なコメントが加わっていることに気が付いた。

なんだろう…



■Ｆ
【>ちゃむ コラ!適当にコメントすな!!（笑）ソレ思ったけど俺には付け足す“勇気はなかった”…鶏肉だけに】



カブせてきたぁぁぁ！！！！！ｗｗｗ



なんだよ！
どうしたＦ！！
おい、このセッター、コートの中で一人やる気まんまんじゃねーか！！！

……で、やっぱ誰もツッコまねーのかよ！！！！！

もうイライラは頂点である。

ざけんじゃねーよ！！！
俺のツレに恥かかしてんじゃねーよ！！！
あー！こうなりゃやってやるよ！！！
締める！
これで締め括る！！！

誰からも頼まれていないが、俺は解り易く、尚且つコチラ側からもアプローチのあるコメントを書き込んで事態を終結に導こうとした。



■ちゃむ
【チキンだけに、ってか。この弱虫！まったく、トサカに来るよ。】



よし、よしよしよし。
ゲームセット。
これで終わり。
気持ち良く寝れる。

美味しい煙草を灰皿に押し付け、俺は眠りに付いた。

が、しかし……



■Ｆ
【“ヒナ”ゲシでも見て落ち着きなさい。】



Ｆテメェェェェェ！！！！！

なにまたウマい風な返ししてんだよ！！！
終わんねーだろ！！！

えっ!?流せば良い!?
バカ！！
おまっ、お前！
お前解れよ！

俺はなぁ！



こういうのは負けたくないタイプなんだよ！！！！！



静かなゴングが確かに鳴った。



こうなったら一歩も引けない。
これは京都市内２位にランキングされる文系ツッコミニストちゃむのプライドを賭けた戦いだ。
もはや戦争だ。

縛りのテーマは『鳥』

この一見すると広過ぎるテーマは、しかし、ともすると安易に選んだワードにより、陳腐な表現を産んでしまう足枷にもなり得る。

慎重になれ。

“ヒナゲシ”のフリは踏め。

出てこい、とびきり全開パワー！



■ちゃむ
【花見る趣味は無いからさ、『ひなげしの花』って曲聴いたよ。あの曲“歌詞は”良いからね。】


スマァァァァァッシュ！！！！！

降りた！

俺に降りた！

フハハハハ！
どうしたＦ！
手も足も出まい！(鳥だけに)
どう出る!?
どう出るＦじのォォォ！！！



Ｆ
【アグネスチャンかぁ… って知ってるっ“てば”！】



コイツ、ウメェェェェェ！！！！！！

なんだよコレ！！！

ウマいよ！！！

コイツ…



ち ゃ ん と 考 え て や が る ｗ ｗ ｗ ｗ ｗ



しかぁし！
この程度で屈する俺ではないわ！

次の、ラッシュで、貴様を、畳む！！！



■ちゃむ
【あ、知ってる？ほな…若作りしてもＦはオッサンやわ。この曲さ、ある年齢から一気に認知度が上がるって“統計”が出てるんだよ“う。滑稽”ｗｗｗ】



ダブルインパクト！！！！！(厨二)ﾋｬｯﾎｩ!!!!



まさか２つぶつけてくるとは思うまい！！

フハハハハ！！！

一気に２つ、て！！！



■Ｆ
【別に若作りしてるつもりはないけど（笑）ま、“ひよっこ”でもないけどね。しかしそんな現実を突“きつつ、キ”ザな受け“取りにく”いデータ、一体どこ“から挙げ”てきたの？？】



４ つ 来 たｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗｗ



いや、待て待て待てェェェ！！！

コレお前所々無理あんだろ！！！

なぁ！“キツツキ”とか、お前…おま…お前ェェェェェ！！！！！



俺は焦った。

状況は明らかに劣勢。

同時に自らが招いた複数解答地獄を呪った。

４つ以上は…相当キツい…。

ここから俺は長考に入る。
煙草を口にくわえ、腕を組んで目を閉じる。



『ちゃむさん、残り30秒〜』



タイムキーパーのお姉さんが俺の焦りを加速させる。

時間が…無い…

もう…時間が…



『焦るでない！』



誰かの声が聞こえる…



『諦めるでないぞ！』



この声は…？



『一羽丸ごとパック！！！』



神様…いや……カ、カーネル!?

アンタ、鶏肉界の神、カーネル・サンダースなのか!?

な、なんて心強い味方が現れたんだ…。
この安心感…温かさはなんだ…。
まるで、水鳥羽毛100%の掛け布団みたいじゃねーか…(鳥だけに)。
鳥肌を立てる(鳥だけに)震えた俺を包んでくれるなんて…。



ありがとう、カーネル。

俺、まだ諦めないよ。

俺は強く強く目を閉じた。



『大切なのはイメージじゃ！！！』



鳥を思い浮かべる。

大空を優雅に羽ばたく

自由な鳥を…！！！



「……来た」



脳裏を掠める残像。
ゆっくりと明確になるビジョン…。
鮮明に、鮮明に、鮮明に…！！！

俺の頭の中を



数百羽の鳥々が



美しく羽ばたき



調理され



カーネルもまた



満面の笑みで



美しく羽ばたき



調理されている。



「……………」



も は や カ オ ス



ダメだぁぁぁ！！！

俺はこのまま負けてしまうのか。

この不毛な(鳥だけど)チキンレースに(鳥だけに)敗れてしまうのか…。

全てを諦めかけたその時、不意に一羽の鳥が舞った。

華麗に舞うその鳥は

高らかに鳴いた。

俺は携帯を握り、



『データ、一体どこから挙げてきたの？？』



に対して、こう返した。



■ちゃむ
【“記事”】



Ｆ、お前、鳴き過ぎたな…。

俺は、その長尾鳥には不似合いな最短文を打つと、携帯を置いて空を見上げた。

冬の空は青く澄んで高く、眩しくて思わず目を閉じた。

閉じたらカーネルが出てきたからすぐ目を開けた。





ちゃむ