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犬小屋Run About!!コミュのFate/hollow ataraxia ライダーSS

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「形無き島 〜笑顔の花〜」
Fate/hollow ataraxia外伝:ライダーSS


遠い、遠い海の果て。「形無き島」と呼ばれる其処には、絶世の美少女と、恐ろしい魔物が棲むという。

近隣の島々の民は口伝に準じて島には渡らず、また名高き戦士は口伝に準じて島へと渡った。その未来は、誰も、誰も知ることは無い物語。


「形なき島」そう呼ばれた島には誰の人影も存在しない。否、「動いている人影」は存在しないというべきか。島の中央に存在する神殿の広場には、夥しい数の人の影。しかしそれらは風に揺れようとも、大地が震えようとも微塵も動く事は無く、その表情は恐怖のままに固まっている。それは、人の形をした石像群であった。
曰く、「形なき島には、人を石に変える魔物が棲む」という。それを聞きつけた古今無双を自負する戦士のなれの果てがこの姿とでもいうのだろうか。確かに石像たちの身には鎧、その手には武器が携えられていた。武器を構え、または逃走の姿を見せたまま石になった者たちの群れの中、その中に、彼女は立っていた。

長く麗しい髪は足元にまで届き、丈の短い黒い衣装は彼女のスタイルを際立たせている。太ももまで覆う具足と、二の腕までを覆った黒い手袋は彼女の肌にしっかりとフィットし、隠されている筈のスタイルを浮き出しにしていた。しかしその中で大きく違和感を感じさせるものは、彼女の半顔を覆うマスクである。隠されていない鼻から下を見るだけでも彼女が絶世の美女である事は容易に見て取れる。しかし最も美しいであろう彼女の瞳は闇と神秘に閉ざされていた。
くるりと、周囲の石像郡を見渡す彼女は無言。端正な顔立ちである彼女が無言であると、それは周囲の気温を下げんばかりの威圧感と冷たさを感じさせる。彼女は石像郡から視線を切った。
「…はぁ。」
しかし威圧感を滲ませていた彼女の口から漏れたのは、なんとも可愛らしい溜息一つ。彼女は辺りに横倒れになっていた石柱に腰をかけると小さく身を縮ませる。
「…今日は、姉様方に無茶な事を言われないといいなぁ…無理…だろうなぁ…。はぁ。」
その姿に似つかわしく無く、悩みの多い年頃の少女そのものに嘆息を漏らす女性。彼女こそが神代の妖女として恐れられた者、メデューサである。


彼女には二人の姉がいる。「ステンノ」と「エウリュアレ」という二人の姉は、彼女と違い永遠に成長する事は無く、ただ一人成長してしまうメデューサは姉に引け目を感じていた。二人の姉は事あるごとに彼女に無茶な注文をしては彼女を困らせ、ただ一人の異端であるメデューサに無体な文句を言っている。尤も、二人の姉はその実メデューサを溺愛しており、むしろ二人の姉こそが美しく成長を遂げている末妹を羨んでいるというのも実情だ。
しかしそんな事情など知らないメデューサにとって、二人の無茶な注文は大変なものであることに変わりは無い。いかな仕打ちを受けようとも、心から姉を敬愛している彼女にとって心底苦痛という訳でもないが大変なものは大変なのだ。

「…はぁ。」
溜息の数を数えるのも最早バカらしい。幸い二人の姉は昨日遅くまで起きていたせいか、まだ寝ている。早い時間に洗濯も掃除も済ませたし、姉が起きればすぐに食事を準備する用意も出来ている。僅かな時間ながら安息の時間を得ることが出来た。それ以外は侵入者に備えて神殿の近隣でブラブラしていればいいのだ。
彼女は膝を抱えてグッタリと力を抜く。しばしの間の平穏に溺れていた彼女は、僅かに身じろいだ。

−侵入者が、来た−

明らかに自分たちとは違う「人間」の気配。メデューサは魔力を巡らせてその手に愛用の短剣を具現化させる。黒い疾風は腰掛けていた石柱を蹴り、島の海岸へと駆け抜けた。



形なき島へと上陸する海岸は一つしかない。周りを断崖に囲まれたこの島は天然の要塞であり、唯一の入り口にさえ気を張っておけば侵入者の感知は容易だ。メデューサは海岸に降り立つと油断なく周囲を見回した。しかし海岸にはおおよそ自分や姉を狙うような者が乗ってくるような豪奢な船は無く、見るからに貧相な小船が一隻。そして船から僅かに離れた波打ち際には幼い少年が倒れていた。
年の功は10〜12程度か。どうみても自分を討ち、姉を得ようという輩には程遠い。死んではいないようだし、大きな怪我も見受けられない。しかしメデューサにはいかに彼が無害であろうとも救う道理など無い。無事に帰しては此処に訪れる者を増やす結果になるかもしれない。メデューサは少年に近寄り、ゆっくりと短剣をかざす。
「…う…んう?」
目を完全に覚ます前に刺し殺してしまえば良かったのだが、少年は
メデューサが思っているよりも早く目を開く。そして目の前で凶器を振りかぶる彼女を発見した。少年の顔はみるみる恐怖に歪み…いや、歪むと思っていた。
「すっげー!女神様がいるって本当だったんだ!」
「は?」
少年は恐怖どころか歓喜と興奮でいっぱいだった。短剣は振り下ろされること無く収められる。毒気を抜かれた、というのも事実だったが、この島において自分を良く評価されたことの無い彼女にとって、彼の「女神様」というのはこの上なく動揺を誘う言葉だった。
「…貴方は、何故ここに。」
可能な限り威圧的に、怜悧に。少年に害意は無い。しかし依然彼の目的も正体も不明である以上、こちらは恐ろしい魔物を演じる必要がある。
「えーと…んーとね…」

聞けば、随分と子供じみた話だった。彼の住む島々にもこの島の事は知られていた。曰く「美女と魔物の棲む島」と。彼らの世代の少年にはありがちな事だ。彼らは島の噂の真偽を議論し、彼はその調査員として名乗りを上げたんだろう。少年達に冒険譚はいつでも憧れの的なのだ。しかし立てた計画は杜撰だったのだろう。目に見えている島だというだけで船を出すのはあまりに短絡的であり、結果彼の乗った船は難破した。

「…馬鹿ですか?貴方は。」
「うー…」
馬鹿と言われて返す言葉は無い。しかし少年の瞳から光が失われることは無い。
「いいんだ!この島に女神様がいる事は本当だったんだ!」
少年はキラキラと瞳を輝かせている。しかしメデューサはあくまで怜悧に答える。少し耳が赤いが。
「…残念ですがそれは違います。女神たる存在は私では無く……私は、魔物の方ですよ。」
あくまで事実だけを突きつける。ここで正体をばらし、せめて逃げ帰ってくれればいい。他言せぬよう脅しつけ、それを承服すれば帰り道くらいは保障しよう。だが
「うっそだぁ!お姉ちゃんすごい綺麗だもん。魔物ってもっと怖いんだぞ!?」
「う…え?」
少年の言葉にメデューサの顔が紅潮していく。耳まで真っ赤だ。この年頃の少年は自分が思い込めば頑として聞かない。自分を褒められたから、という理由だけでもないが、メデューサは彼を手にかける気を失いつつあった。
「いえ…しかし、私は本当に貴方の言う女神ではありません。私のほかに、その、ちゃんと居るのです。」
なぜかしどろもどろに話すメデューサ。「この島には魔物しかいない」と言って帰せばいいのだが、褒められることに慣れていない彼女の頭は今や回転速度が鈍っていた。如何にして彼を説得し、追い返そうかと思案する。しかし
「ええ?お姉ちゃん以外にも女神様がいるの!?すごいなー!すごいや!」
「え…ああ、あう、その。」
失言だった。少年はますます興奮しており、一度パニックに陥った
メデューサは最早少年を丸め込むだけど弁舌は震えない。一人騒ぐ少年、一人混乱に陥るメデューサ。進退窮まった二人の前に突如声が降り注いだ。
「あらメデューサ、構わないわ。その少年が私たちをどうこうできるわけでもなし。」
「ええそうね私。勇敢な少年に思い出というご褒美を授けてもいいのではなくて?」
聞きなれた声にメデューサは驚いて振り向く。海岸に至る道の入り口には、彼女の敬愛する二人の姉が立っていた。
「ね…姉様!?」
驚いたメデューサを他所に、二人の姉は優雅に少年に近寄る。少年の目の前で立ち止まると、二人の姉はスカートの裾を軽く持ち上げ優雅な礼をした。
「ようこそ、勇敢な少年よ。本来なら人の身が立ち入ること叶わないこの地に、幼いながらも到達した勇気を称え、私たち姉妹は貴方を歓迎いたします。」
この二人の姉、この地に訪れては自分の美貌に酔う人間たちをからかう悪癖を持っているのだが、少年は興味の対象外であったのだろう。ただの暇つぶしとは思うが、少年を快く迎え入れた。
「うわぁ…うわあ。」
絶世の美女三人に囲まれた少年は、もはや言葉らしい言葉も放てずにただ感嘆の声を漏らすだけだった。ステンノとエウリュアレに手を引かれて神殿へと向かっていく。その姿をメデューサは見送っていた。少年はメデューサが自分たちに付いてきていないことに気づき、二人の姉に声を掛ける。
「ねえ…あのお姉ちゃんは、こないの?」
少年の問いに、二人の可憐な女神は笑って答える。
「ええ、気にしないでいいのよ?」
「ええ、彼女は彼女の仕事がありますから。」
クスクスと笑いながら石段を上る三人を遠く見つめ、メデューサは踵を返す。そう、やはり二人の姉に自分など及ぼうはずが無いのだから。





そして、夕刻。少年は石段を駆け下り、海岸へと下りてきた。
「おかえりなさい、少年。…船は修理し、貴方の島へ帰れるよう魔術を施しておきました。」
「え…その、ありがとう。お姉ちゃん、すごいんだね!」
少年は無邪気に微笑む。船の修理も、帰還の魔術も、少年からすれば神秘の域だ。純粋な憧憬を込めた言葉にまたも取り乱しそうになるが、必死で怜悧な自分を演じる。
「いいですか、今回はお姉様の御厚意によって生き延びたに過ぎません。…二度目はありませんよ。」
次にくれば、殺す。そう告げた。少年もそれが分からないほど愚かではなかったのだろう。少しだけ肩を震わせた。そんな少年を見てメデューサの心が少しだけ痛む。こんな自分を褒めてくれた少年だから、怖がれるのは、少し嫌だった。
「…貴方は、純粋で良い子だ。出来れば手にかけたくは、無い。」
俯いた少年の頭にポンと手を置くと、優しく撫でた。そのメデューサの手に少年は恥ずかしそうに笑う。
「あ…あのね、お姉ちゃん、これ!」
少年は後ろ手に持っていたものをメデューサに手渡す。それは、庭園に咲くシロツメクサで作られた花の冠だった。
「あの二人のお姉ちゃんに教えてもらったんだ。俺、男だからこういうの作ったことなくて、あんまり綺麗じゃないけど!」
そういって、メデューサに花の冠を押し付ける。戸惑いながらそれを手にしたメデューサに、少年が笑いながら言う
「うん。お姉ちゃんはやっぱり綺麗だよ!なんで顔隠してるか分からないけど、きっと花とか似合う!あの二人のお姉ちゃんも言ってたから!」
「え…?」
心が、じわりと温まった。少年の言葉も嬉しかった。だが、普段優しい言葉をかけてくれることの無い姉の、優しい言葉。それは人づてだけど、きっと嘘では無いと確信出来る。
「そう、ですか。…さぁ、もう行きなさい。日が暮れては、貴方の家族が心配する。」
冷静を装い、あくまで平静を崩さず、メデューサは少年を送り出す。
「うん。ありがとうおねえちゃん!あのね、俺、この島のこと誰にも言わないから!」
少年は、そう叫ぶと船に乗り込む。魔術によって動き出した船は、徐々に加速して海原へと駆け出していった。少年は人影が見えなくなるまで手を振り続け、ずっと何かを叫んでいた。
船はやがて黒い点のように遠ざかり、声も姿も見えはしない。少年も居なくなり、姉も居ない海岸で、メデューサは手に持った花の冠を、おそるおそる自分の頭に乗せる。似合わないと思うけど、二人の姉が見ればお腹を抱えて笑うかもしれないけど、幼い王子様から贈られた花の宝冠を冠して紫髪の姫は微笑む。
「…えへへ。」

自分らしくないな、なんて思う。こんな笑い方、きっと似合わないけど。それでも。今日一日だけは「形なき島の魔物」では無く…図々しいかもしれないけど、女神の三姉妹で居られたらと、そう思った。





Fin

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