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犬小屋Run About!!コミュのFate 超短編SS 「切なさ」

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 視界を染めるは朝焼けの薄紫。このまま時を追えば紫の空は橙に変わり、眩いばかりの青空へと変わる。だが、たったそれほどの時間すら残されていない。
―目の前に立つ、一人の少女には。―

「セイバー・・・」
昇りかかる太陽を背にたたずむ金糸の髪を持った少女に士郎は語りかけた。もう、全てが終わりを迎えた。金色の英雄王との死闘も、背徳の聖職者との決戦も、望むものではなかった聖杯との決別も。そして、二人の時間さえも。
「シロウ・・・」
初めて出会った時よりもずっと頼もしくなった少年に銀の騎士王が語りかける。辛いことも沢山あったけど、彼と出会えた事が幸せだった。マスターとサーヴァントではなく、一人の男と女として愛し合えた事を誇りにすら思える。

 それでも、二人の別れは絶対だった。死闘を越えて魔力の大半を使い果たした彼女に最早この世に留まる術は無く、この世に留まるべき理由も無い。それはとても辛い事実ではあったけれど、逃れられない別れなら最後は互いに強くあろうと涙を浮かべずに笑顔で向かい合った。
 だから士郎はいつも通りの笑顔で、いつも通りの調子で、軽口の一つも叩きながら見送ろうと思った。唇のから零れたのはただの下らない、とりとめの無い一言。
「はは・・・もう飯も作ってやれないな・・・」

 なんですって・・・!

ビシリと彼女の内が凍った。

 なんと言うこと。シロウの作った食事が食べられない。それはハッキリ言って嫌だ。
 シロウの作った食事を愛するシロウと共に食すのが私の無上の喜びだったのに!
 今戻ればまたあの味も素っ気も無い食生活に逆戻り!?
 というか戻ったら死ぬ直前じゃないですか!
 嫌だ!私はシロウと一緒に居たい。
 シロウのご飯をシロウと一緒に食べるんだ。
 てゆーかむしろご飯。

「・・・ぁ。」
セイバーの口から僅かな声が漏れる。顔は俯き、肩が小さく震えていた。
「セイバー・・・?」
士郎は彼女の容態の変化に気付き、声を掛けた瞬間−
「ぁぁぁぁああああああーーーーー!」
騎士王の咆哮が響き渡った。

 古に伝わる話によるとアーサー王は竜の力をその身に宿したという。最強の生物の因子を宿した体は息をするだけで魔力を生成し、循環させる。そして竜族は人類を遥かに越える叡智を持って彼らだけが使いうる究極の魔術を体得した。
−竜語魔術(ドラゴン・ロア)−
その力は人の身で云う魔法に相当し、おおよそ人類に行使不可能なもの。だが今セイバーが行使する「それ」はまさしく人の及ばぬ究極魔術。

「あああああああああああぁぁぁぁぁぁーーー!」
裂帛の気合と共に魔術回路が開く。最早死に体の彼女にとってそれは自殺行為の筈だった。しかし彼女は全霊の気合を持って魔力の網を展開する。ほんの一瞬の間をおいて、彼女は竜の力を展開した。

 大気中に残留する聖杯の魔力を吸収。
 魔力を体内に取り込み自己の形成、現界。
 即時行動のための予備魔力を充填。
 現在体に貯蓄された全魔力を以って『竜語魔術』を発動する―――!

 彼女の体内に形成された魔力の矢が足元の大地に向けて射出される。陽光の如き光の塊は大地を割る事無く、まるで水が砂漠に吸い込まれるかのように溶け込んでいく。
流水が岩壁を流れるように。
巨木の根が大地に侵食するように。
光の矢は流れるように自然に、それでいてその速度は風のように速く大地に行き渡る。そして張り巡らされた魔力の根は大地のマナを吸収し…

セイバーとこの大地との契約を完成させた。

大地の魔力を吸収し凛然と立つセイバーは、腰を抜かしてへたり込んでいる士郎に強く、それでいて優しい目をむけた。今や消え行く儚さなど微塵も見せぬ白銀の騎士王は歌うように紡ぎ上げる。

「シロウ、貴方のごはんを愛している。」

士郎の頬を一筋の涙が毀れる。それは、愛しい少女とこれからも一緒に居られるのだという喜びの涙なのだと、心の底から思いたかった。


をわる。


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