実務家からみた司法試験コミュの勤務弁護士をとる側からみたロースクール受験希望者におくることば

大学にはいるひとか2年生向けにかいたものです。

平成２５年７月１１日
勤務弁護士をとる側からみたロースクール受験希望者におくることば

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　弁護士　岡　本　　哲
１　法科大学院（その前後も含む）での勉強づけの２年あるいは３年の覚悟
２　基礎学力の確認を

結論　頭に自信があって初回での上位合格（１００番以内）で合格できるひと、あるいは強力なコネがあって合格しさえすれば法律事務所に就職可能でないと法科大学院はめざすべきでない。
目安としては旧帝大の法学部学生で六法が全部優か有力弁護士のこどもか孫。
上位合格のためには予備試験合格はいいし、その場合は法科大学院にはいかないほうがいい。

１　勉強づけの２年あるいは３年の覚悟
消費者保護という観点からみると大学院以上の進学というのは理系のマスター以外はペイしないというとこはあまり周知されていないようです。お金の面では学費と時間のもとがとれない、ということです。

司法試験に合格し修習を終えたら大部分は弁護士になりますが半分くらいは就職できないようです。
ここで就職できないと先行きは暗くなりがちです。先輩によるトレーンングの機会を失いますから。
就職できそうにないひとはロースクールを目指すべきでないということになります。
就職で採用する側の弁護士あるいは裁判官・検察官はどういう試験をくぐってきたのでしょうか。
大事務所でもだいたいわたしと同年代くらいが最終決定しているようです。わたしは昭和63年合格ですが、そのときの司法試験はいまとかなりちがっていました。最終合格者500人の時代で今の３分の１から４分の１ですし、バブル期で売手市場でした。その後700人1000人1500人２０００人！と合格者がふえていって売手市場でなくなります。
司法試験については基本書と百選あるいはケースブックシリーズが出題範囲であり、それをマスターすべし、というのがだいたい４０年前から変わらず言われています。これにかかる時間が授業・ゼミ・答案練習会検討会・純粋個人学習等すべての形態をふくめて６０００時間必要とされています。
　合格者５００人時代だと本気受験が平均６回の受験でようやく合格していた旧試験の時代だと、たいていの合格者はこの時間をこえていたようです。
　東京大学の４年ストレートで５人程度、京都大学の場合は定員が東大の半分のせいか２人程度の合格でした。受験秀才中の秀才を選ぶ試験であったといえます。大学４年間で６０００時間を捻出しようとすると（実際は４年目の７月にヤマがありますので　いまの予備試験も7月にヤマがあるのは同様ですが）３年つかえたとして、１年に２０００時間、３６５日でわると全くやすまず１日７時間の勉強が必要となります。授業についていけるのは東大で１割といわれていますから、大学の授業についていける１割がさらに勉強をかさねていくことになります。ただ、わたしのころから授業にでていない合格者が増えていくようです。その後予備校全盛になったころは授業にでていないほうが合格者の主流になったかもしれません。
合格者５００人時代だと５月におこなわれる択一試験がだいたい５－８倍くらいの倍率で、これに京大の場合４回生で３０人程度うかっていましたから、ここで１割程度にしぼられ、７月におこなわれる論文式でさらにその１割にしぼられることになります。
授業の予習復習をしたうえで数時間を勉強にコンスタントにさくことになります。この時間を確保できるのはかなり健康にも金銭的にも動機にもめぐまれた（！）ひとでしょう。８年間ならこの半分のペースです。実際は受験６回程度で合格していたのは時間確保の困難性もあったことでしょう。

　旧司法試験と新司法試験では受験者の数量・質・科目ともに相当ことなっています。ただし、勤務弁護士や判事補・検察官を採用する側では旧の時代より質的に差のない人材を求めています。自分に似たひとを求めるのが自己愛なのです。
　
　新司法試験の場合、２－３年の法科大学院卒業が義務づけられたうえで卒業後５年のうちに３回しか受験できないこと、そもそも制度設計としては法科大学院を卒業した年に受かるべきことになっていること（奨学金の償還の問題がある）から、最初の受験段階で本来なら６０００時間をクリアーしている必要があります。ロースクールに２年（既習者）ないし３年（未習者）通わされ、卒業しなければならないという負担があります。授業に参加義務があるところもおおいので、この時間を有効につかえるかどうかは授業内容が意味あるものか、時間のつかいかたとしても相当異なってきます。司法試験合格だけを考えると学問的なふくみのほとんどない判例通説を教え込む例年同じ授業がいい、ということになります。先輩のノートが利用できて予習復習が簡単です。
　これで最高裁調査官とか最高裁判事を目指すことができる頭の使い方だとは思えませんが。
　文部科学省はどうも授業を過大評価する傾向がありますが、自学自習が勉強の基本とわたしは思っています。
一般的なロースクールではゼミナールに積極的に参加できるのは上位１割くらいでしょうから、入学段階で最初からここの線をキープしておくのがのぞましいことになります。

法科大学院（法曹養成制度）の評価に関する研究会の「法科大学院（法曹養成制度）の評価に関する研究会報告書」平成２２年１２月というものがあります。インターネットで入手可能です。

伊藤塾塾長が現状認識について報告されています。

合格に必要な力
① 　徹底した基礎力
② 　考える力（論理的思考力・未知の問題に対処する力）
③ 日本語力（特に書く力）

これらを泥臭い学習を続けて習得するしかない。法科大学院では受験対策ができないため、基本的には自学自習または受験指導校を利用。
法科大学院の勉強だけで十分であるのか。
②に関しては。法科大学院の授業が効果的。入学前に①②を習得しているかが新司法試験の合否に大きく影響する。
　結局、合格しやすい学生を入学させることができたかどうかが合格率の差。

　となると法科大学院入学段階で東大京大の上位１割レベルの学力（未習）あるいは東大京大の法学部の上位１割レベルの法律知識＋学力がほしいことになります。

法学部の２年から勉強して既習２年として４年弱で６０００時間というのはそんなに無理のない数字といえます。
　これは法学関係に集中した数字ですので国語力と思考力についてはロジカルライティングの本をよんでみてください。ちくま新書｢東大入試にまなぶロジカルライティング｣の後半部分をよんでみてください。模範解答にちかいものがかける自信があれば法学の勉強にすすみましょう。

２　基礎学力の確認を
未習者は法学部卒業と他学部卒業の場合がありますが、卒業及び入学段階であえていうと３流レベルの大学・大学院だと学力試験が実質的にない場合があります。
６０００時間の勉強の前提となる東大・京大の法学部入学レベルの国語と社会の力があるかチェックしておきましょう。
センター試験の現代国語で、満点がとれていたか。いまもとることができるか。東京大学に１次試験があった時代の現代国語の問題も良問とされているようです。
　
東京大学・京都大学の現代国語で満点がとれるか。
これらの問題は常識とややはずれた答、表面的な理解だけではなく皮肉についても回答をさせるので、今後の授業でのホンネ部分の理解とかに必要になってきます。
ホンネとタテマエでは、たとえば新司法試験はロースクールでしっかり鍛えた人間を厳しく卒業で選抜する、卒業生のレベルは旧司法試験合格者が前期修習をおえた段階の実力がある、というタテマエでした。第一回新司法試験は、それにあわせた難易度でおこなわれましたが、そのレベルに達した答案はほとんどなく、選抜の用をなさないものであったのでした。その後はレベルにあわせて２０００人前後がうかるような簡易な内容になってきている。しかしタテマエはかわっていません。このような事情がわかるようなひとでないと法を適用する実務はできないのです。
　社会　日本史の明治以降
　世界史の西洋史・アメリカ史
　現代社会
　政治経済
　センター試験については９０点以上がとれる状態か

　国語力がたりない場合は中学レベルまでさがって復習の必要はあります。
　全体でみると司法試験合格後就職までたどりつくのは一流ロースクールで７割、３流だと０もありうるのでかなりリスキーなものです。失敗すると３年間あるいは２年の時間ロスと奨学金の借金がまっています。
コネがあって就職確実か、上位合格レベルの実力確保に自身のある人以外はロースクール進学はおすすめできません。
法科大学院は学校を選ばなければ低学力にひとでも合格してしまいますが、自分の実力、受験生のなかでの相対的位置をよく考えたうえで受験を決めてください。