実務家からみた司法試験コミュの行政判例百選１　第６版

別冊Ｊｕｒｉｓｔ　行政判例百選?[第６版]
Ｎｏ．２１１　Ｏｃｔｏｂｅｒ２０１２
発行　平成２４年１０月２０日
４８巻４号
編集人　信国幸彦
発行人　江草貞治
発行所　株式会社有斐社
ＩＳＳＮ　１３４２－５０４８
ＩＳＢＮ９７８－４－６４１－１１５１１－８

目次

はしがき・・・・・・・宇賀克也・交告尚史・山本隆司
?　行政の範囲と主体
１　国民健康保険事業の保険者の地位・・・・石森久広
２　日本鉄道建設公団の地位・・・・・・・・飯島淳子
３　診療報酬支払事務の委託・・・・・・・・豊島明子
４　商工会議所への自治体職員派遣・・・・・白藤博行
５　自治体関連団体による博覧会の開催・・木藤伸一朗
６　指定確認検査機関による確認事務の帰属・松塚晋輔
?　行政上の法律関係
（１）行政法と民事法の関係
７　公務員の勤務関係・・・・・・・・・・・・島田茂
８　建築基準法６５条と民法２３４条・・・・・石井昇
９　農地買収処分と民法１７７条・・・・・・・高橋滋
１０　租税滞納処分と民放１７７条・・・・・・高橋滋
１１　自治体の金員借入れと表見代理・・・・池村好道
１２　取締法規違反の法律行為・・・・・・・上原克之
１３　統制法規違反の法律行為・・・・・・・玉井克哉
１４　独禁法違反の法律行為・・・・・・・・舟田正之
１５　普通保険約款の認可・・・・・・・・・・來生新
１６　法律行為の要件たる行政行為の欠缺・・植村栄治
（２）行政法上の権利の性質
１７　恩給権と担保・・・・・・・・・・・・米丸恒治
１８　生活保護受給権と相続・・・・・・・・前田雅子
１９　公衆浴場経営者の地位・・・・・・・・山岸敦子
２０　道路の自由使用・・・・・・・・・・・遠藤貴子
２１　公水使用権の性質・・・・・・・・・・福井秀夫
２２　未墾地売渡予約と名義変更・・・・・・加藤幸嗣
（３）行政組織上の関係
２３　内閣総理大臣・各省大臣の職務権限・・高橋明男
２４　建築許可と消防長の同意・・・・・・・内海麻利
２５　文部大臣と教育委員会の関係・・・・・小林博志
２６　専決による支出と賠償責任・・・・・・・小舟賢
?　法の一般原則・一般制度
２７　国民健康保険の保険料と租税法律主義・原田大樹
２８　租税関係と信義則・・・・・・・・・・玉國文敏
２９　工場誘致施策と信頼の保護・・・・・・首藤重幸
３０　国家公務員に対する国の安全配慮義務・嵩さやか
３１　信義則による地方公共団体の時効主張の制限・・
　　　・・・・・・・・・・・・・・・・・・恒見隆禎
３２　条例による新たな規制と配慮義務・・・黒川哲志
３３　行政権の濫用・・・・・・・・・・・・高橋信行
３４　選挙法上の住所・・・・・・・・・・・佐藤英世
３５　選挙法上の期間・・・・・・・・・・・木原正雄
３６　給与の過払いと相殺・・・・・・・・恩地紀代子
３７　国に対する損害賠償請求と消滅時効・・松本克美
３８　公共用財産と取得時効・・・・・・・・土居正典
３９　行政上の不当利得・・・・・・・・・・板恒勝彦
?　行政保有情報
４０　知事交際費と情報公開・・・・・・・・北原宗律
４１　食糧費と情報公開・・・・・・・・・・大貫裕之
４２　審議検討に係る情報の公開・・・・・・・枝根茂
４３　非公開情報の単位・・・・・・・・・・早川和宏
４４　情報公開条例と本人開示・・・・・・・田村達久
４５　インカメラ審理・・・・・・・・・・・井上禎男
４６　国民健康保険診療報酬明細書の訂正請求・・・・
　　　・・・・・・・・・・・・・・・・・・皆川治廣
４７　公務員の守秘義務・・・・・・・・・・佐伯仁志
４８　弁護士法に基づく犯歴照会・・・・・・稲葉一将
?　行政立法・通達・計画等
４９　政令の公布・・・・・・・・・・・・・本多滝夫
５０　委任立法──一般・・・・・・・・・・田中祥貴
５１　委任の範囲（１）──農地法施行令・・舟田正之
５２　委任の範囲（２）──旧監獄法施行規則・・・・
　　　・・・・・・・・・・・・・・・・・・筑紫圭一
５３　委任の範囲（３）──直接請求に係る地方自治法
　　　施行令・・・・・・・・・・・・・・・室井敬司
５４　学習指導要領の法的性質・・・・・・市川須美子
５５　漁業調整規則の地域的適用範囲・・・渡井理佳子
５６　パチンコ球遊器に関する通達・・・・・・平岡久
５７　墓地・埋葬等に関する通達・・・・・・・平岡久
５８　都市計画と公害防止計画の適合性・・・磯野弥生
?　行政行為
（１）行政行為の成立・発効
５９　行政行為の成立・・・・・・・・・・・岡本博志
６０　所在不明者に対する送達・・・・・・・中野勝哉
６１　相手方への到達・・・・・・・・・・・交告尚史
６２　税理士懲戒処分の効力発生時期・・・・亀田健二
（２）行政行為の意義・種類
６３　毒物劇物輸入業の登録・・・・・・・・下山憲治
６４　納税告知・・・・・・・・・・・・・・手塚貴大
６５　住民票への記載・・・・・・・・・・・諸坂佐利
６６　道路供用開始・・・・・・・・・・・・・福永実
６７　公衆浴場営業許可・・・・・・・・・・・亘理格
６８　皇居外苑の使用許可・・・・・・・・大久保規子
６９　特許法上の特許と特許無効・・・・・・大渕哲也
７０　年金請求権と支給決定・・・・・・・・石黒匡人
（３）行政行為の効力
７１　公定力・・・・・・・・・・・・・・・・人見剛
７２　行政行為と刑事罰・・・・・・・・・島田聡一郎
７３　不可変更力・・・・・・・・・・・・・中川丈久
７４　実質的確定力・・・・・・・・・・・・山本隆司
（４）行政行為における裁量
７５　裁量と権利侵害行為・・・・・・・・・・周作彩
７６　裁量と不確定概念・・・・・・・・・・池村正道
７７　学校施設使用許可と考慮事項の審査・・土田伸也
７８　行政代行的な業の許可と裁量・・・・・・山下淳
７９　都市計画と裁量審査・・・・・・・・・日野辰哉
８０　在留期間の更新と裁量審査・・・・・・三浦大介
８１　科学技術的判断と裁判所の審査・・・・山下義昭
８２　教科書検定と裁量審査・・・・・・・・中川丈久
８３　公務員懲戒処分と裁量審査・・・・・・・森稔樹
８４　学生に対する措置と裁量審査・・・・・榊原秀訓
（５）行政行為の瑕疵
８５　重大明白な瑕疵・・・・・・・・・・・小川一茂
８６　課税処分と当然無効・・・・・・・・・岩本浩史
８７　違法性の承継・・・・・・・・・・・・川合敏樹
８８　瑕疵の治癒（１）──農地買収計画に対する訴願
　　　裁決を経ない手続の進行・・・・・・・・山田洋
８９　瑕疵の治癒（２）──更生処分の理由附記の不備
　　　・・・・・・・・・・・・・・・・・・・山田洋
９０　違法行為の転換・・・・・・・・・・・山本隆司
（６）行政行為の取消し・撤回
９１　職権による取消し（１）──農地賃貸借解約許可
　　　・・・・・・・・・・・・・・・・・竹之内一幸
９２　職権による取消し（２）──農地の買収・売渡し
　　　・・・・・・・・・・・・・・・・・・・牛嶋仁
９３　行政行為の撤回の可否・・・・・・・・石川敏行
９４　行政行為の撤回と補償・・・・・・・・・野田崇
（７）行政行為の附款
９５　行政行為の附款（１）──小学校教員の期限付任
　　　用・・・・・・・・・・・・・・・・・見上崇洋
９６　行政行為の附款（２）──建築許可に付した無補
　　　償撤去条項・・・・・・・・・・・・・見上崇洋
?　行政上の契約
９７　水道供給契約・・・・・・・・・・・・玉巻弘光
９８　公害防止協定・・・・・・・・・・・・・福士明
９９　指名競争入札・・・・・・・・・・・・大脇成昭
１００　土地開発公社との委託契約の履行義務・石龍潭
?　行政指導
１０１　行政指導と石油価格カルテル・・・・白石忠志
１０２　教科書検定における改善意見・・・・伊藤治彦
１０３　指導要綱による開発負担金・・・・・櫻井敬子
?　行政上の実行行使
１０４　鉄道公安職員の実力行使・・・・・・市橋克哉
１０５　現行犯逮捕時における武器の使用・・・位田央
１０６　ヨット係留施設の撤去・・・・・・・大橋洋一
１０７　段ボール小屋の撤去・・・・・・・金井恵里可
?　行政調査
１０８　国犯法上の捜索・押収と憲法・・・・水野忠恒
１０９　税務調査と憲法・・・・・・・・・・・高橋靖
１１０　税務調査の要件・手続・・・・・・・山本未来
１１１　税務調査と国税犯則調査・・・・・・増井良啓
１１２　警職法による所持品検査・・・・・・曽和俊文
１１３　自動車の一斉検問・・・・・・・・・曽和俊文
??　行政上の義務の履行確保
１１４　行政上の強制徴収と民事手続による執行・・・
　　　　・・・・・・・・・・・・・・・・・岸本太樹
１１５　条例上の義務と民事手続による執行・太田照美
１１６　条例と罰則・・・・・・・・・・・・髙橋雅夫
１１７　道路交通法違反と過失犯処罰・・・・日髙義博
１１８　両罰規定の法意・・・・・・・・・・樋口亮介
１１９　追徴税と罰金との併科・・・・・・・川出敏裕
１２０　独禁法上の課徴金・・・・・・・・・岩橋健定
??　行政手続・私人の行為
（１）合議体の議事
１２１　持ち回り決議による答申に基づく行政処分・・
　　　　・・・・・・・・・・・・・・・・・鹿子嶋仁
１２２　合議体の議事と利害関係者の関与・・・木藤茂
１２３　会議の公開・・・・・・・・・・・・新山一雄
（２）事前手続と理由提示
１２４　工作物使用禁止命令と事前手続・・・木佐茂男
１２５　個人タクシー免許申請の審査手続・・恒川隆生
１２６　運輸審議会の審理手続・・・・・・・・大沢光
１２７　理由の提示（１）──青色申告に係る更生・・
　　　　・・・・・・・・・・・・・・・・・・下川環
１２８　理由の提示（２）──　一級建築士免許取消し
　　　　・・・・・・・・・・・・・・・・・北島周作
１２９　理由の提示（３）──旅券発給拒否・折橋洋介
（３）行政過程における私人の行為
１３０　独禁法による報告・措置要求・・・・・村上博
１３１　申請に対する応答の留保（１）──特殊車両通
　　　　行認定・・・・・・・・・・・・・・出口裕明
１３２　申請に対する応答の留保（２）──建築確認・
　　　　・・・・・・・・・・・・・・・・・西津政信
１３３　納税申告と錯誤の主張・・・・・・・田部井彩
１３４　第三者名義による申告納税・・・・中山代志子
１３５　登録制度と廃業の届出・・・・・・・三好規正
１３６　公務員の退職願の撤回・・・・・・・下井康史
１３７　換地計画と関係権利者の同意・・・・・亘理格
（４）一事不再理
１３８　住民監査請求と一事不再理・・・・・岡森識晃

行政判例百選?・?[第６版]収載判例索引
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コメント(1)

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[1] mixiユーザー 06月10日 15:34

公務員の退職願いの撤回についての覚書

　　　　　　　　　　　　弁護士　岡本　哲

民間企業において従業員が退職する場合、従業員の意思表示によって効果が生ずる契約解除（民法６２７条）と、使用者側の同意によって効果が生じる合意解約とに区別される。
　公務員には前者のような形態はないとされる。その理由は、①勤務関係の明確化、②突発的な公務停廃の防止、③懲戒免職を免れようとして提出された退職願を承認せず、懲戒手続を進めて免職処分を下しうるようにすること、がある。
　ただ、国家公務員については人事院規則８－１２第51条は退職願の提出があった場合は任命権者は特段の支障のない限り承認すると定めている。下井教授は特段の支障がある場合とは、後任者を直ちに確保できない場合や、当該公務員に懲戒処分が予定されている場合であろうとしている。
　最高裁昭和34年6月26日第二小法廷判決　民集13巻846頁　判例時報189号５頁は50年以上前の判例であるが、現在も判例百選に採用されている。
　原告Xは村立小学校教員であったが昭和29年3月20日、55歳以上の教員に勇退を求める被告Y村教育委員会の勧告に従い、3月31日付けで退職する旨の願をYに提出した。その後、55歳以上の教員にも退職しない者があることを知り、3月26日に退職願の撤回を申し出て、3月31日以降も引き続き勤務していた。しかし、Yが4月20日に3月31日付でＸの職を解く旨の辞令を交付した（依願免職処分）、Ｘは処分の取消を求めて提訴した。１審請求棄却、2審請求任用、最高裁は上告企画でＸ勝訴が確定した。判示では免職処分が提出者に対する関係で有効に成立した後においては、もはや、これを撤回する余地がないが、その前においては、退職願は、それ自体は独立に法的意義を有する行為ではないから、これを撤回することは自由である、中略として退職願を撤回することが信義則に反すると認められるような特段の事情がある場合には、その撤回は許されない、信義則の内容として①退職願提出の理由、②退職願撤回の理由、③当局側の不都合回避可能性を検討している。
　この判決以降は何らかの形で当局側から退職の勧告・要請があった事例であれば辞職願の撤回をよしとするようである。撤回により後任人事が留保されたり、撤回た退職予定新日であったとしても、撤回有効としている。辞職が公務員側の理由の場合は事後の手続きが進行していれば撤回できないとしている。
　民間の場合も同様の判断枠踏みのようである。

後継判例百選では行政法理論の私人の公法行為に解説をすこしさいている。
行政法の特殊性として阿部泰隆「行政法の進路」中央大学出版部2010年９８頁以下では少数のわがままな者に対して権力を適正に行使することを特徴とする、としている。民事法は私的な当事者間の利害調整が基本で社会の富の増大は副次的には考慮されても第一次的には考慮されない。たとえば借家人保護のための家賃の規制をすれば借家の供給がへり結局は借家人層に不利になる、という例をあげられている。
　阿部教授の見解はわからないが公共性のために撤回をはばひろく認める、辞職願に働きかけがあった場合のほうを優先して撤回を認めない考え方もありそうではある。

参考　行政判例百選１　１３６公務員の退職の撤回　筑波大学教授　下井康史

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