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実務家からみた司法試験コミュの民法・国際私法 藁の上からの養子 韓国法

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日本と韓国の藁の上からの養子
               弁護士 岡本 哲
――山田詠美の名作短編のはなしから藁の上の養子の日本と大韓民国法との比較になり
ます

 山田詠美「風味絶佳」文藝春秋・2005年が文春文庫の新刊として発売されている
。鳶職、ゴミ収集車の作業員、ガソリンスタンドのアルバイト、引っ越し作業員、汚水
槽の作業員、火葬場の職員などガテン系肉体労働者がでてくる短編集であり、谷崎賞を
受賞している。表紙は森永ミルクキャラメルのパッケージを模したものとなっており、
これがなかのある短編とむすびついている。なお、森永ミルクキャラメルの発売という
のは20世紀の大事件と考えられたらしく、1999年8月に発行された20世紀シリーズ第2
集のなかで1913年のチラシ広告を図案とした切手がでている。
 6編あるなかの1編「海の庭」に書評家の豊崎由美が絶賛している場面がある。「海
の庭」は、高校1年のときに両親が離婚し、両親をつなぎとめるこどもの役割をおえる
ことができてほっとしている、現在高校2年の日向子(ひなこ)が主人公である。母の
幼ななじみで、母が初恋のひとだという引っ越し作業員の作並くんと母がつきあってい
るがその微妙な関係が気になっている。離婚のときの引っ越し作業すらてつだわなかっ
た実の父と作並くんとは収入や容姿とかではかなり対象的である。

 作並くんと話し合っていたところをサーファー仲間(おそらくは日向に気がある)に
みられて、
「誰だよ、あのおやじ、さっき二人でべたべたしてたけど、最低。マジで日向子に似合
わねえよ、だせー」
「見てたんなら、そっちこそ声かけりゃいいじゃん」
「おれ、おやじ、真面目に、きれーだもん」
「あんたの方が、余程、おやじだよ、ターコ」
「あ?」
呆気に取られる彼を残して、私は、作並くんに駆け寄った。今の会話を聴いて気を悪く
していなければ良いのだが、と思って見詰めると、彼は、無言のまま私を車に促した。

「作並くん、ごめん」
「なんで日向ちゃんが謝るの。おれが、おやじなのは事実でしょ」
 作並くんは、そう言って、車の中からTシャツを取り出した。その背中が急な日灼け
で真っ赤になっている。彼の肌は、作業着から出ている部分しか黒くない。さっきの男
が言ったとおりだ。ほんと、「だせー」。そう思ったら、涙が溢れて来た。
「おい、どうした、どうした」
作並くんは、慌てて私に近寄って肩を抱いて顔を覗き込んだ。目が合った。心底、困り
果てたように目尻がたれている。涙が止まらない。だせーおやじ。情けない。でも、人
を情けないと思うのと、いとおしいと思うことってなんて似ているんだろう。

 実の親子でなくても細やかな情愛が感じられる名場面である。

これでおもいだした判例が藁の上の養子に関する以下のものである。

 最高裁第三小法廷平成20年3月18日判決 最高裁HPより
この判決は、大韓民国国籍の親族間の争いに関して藁の上の養子について親子関係不存
在の確認の訴えを提起することを韓国民法上の権利の濫用とした。
 関係者はすべて大韓民国国籍の在日韓国人である。
被上告人らが、韓国の戸籍上、被上告人の弟とされている上告人に対し、上告人と父親
との間の実親子関係が存在しないことの確認を求めた事案である。亡きAおよびBは、
昭和19年に婚姻した夫婦であり、被上告人XらはAB夫婦の長女および次女である。
このほかにA夫婦の間には長男Cがいたが昭和23年に死亡した。男の子をほしがって
いたA夫婦は福祉施設にいた上告人Yを引き取り、昭和35年に神戸市兵庫区口調に対
して上告人が昭和32年にA夫婦の二男として出生した旨の届出をした。また、韓国の
戸籍にもその旨が記載されている。
A夫婦は、上告人を実子として養育し、上告人も自分がA夫婦の実子であると信じてい
た。Aは、死亡するまで上告人が実子ではない旨を述べたことはなかった。Aは平成5
年に死亡し、上告人・被上告人らおよびBの間で、同年12月10日に上告人がAの遺
産のうち相当部分を取得する旨の遺産分割協議が成立した。
 被上告人らは平成15年になって、突然、上告にんとAとの間に実親子関係は存在せ
ず、上記遺産分割協議は無効であると主張するようになり、上告人が取得したAの遺産
の返還を求める訴えを提起した。
Bと上告人との間の実親子関係が存在しないことについては、平成18年4月20日に
名古屋家庭裁判所豊橋支部において、その旨を確認する判決が言渡され、同判決を認容
すべきものとした。
原審は、被上告人らの請求を認容し、実親子関係の不存在を確認した。
 最高裁は、韓国の大法院1977年7月26日判決(大法院判決集25−2−211
)が養子とする意図で他人の子を自己の実施として出生の届出をした場合に、他の養子
縁組の実質的成立要件がすべて具備されているときは、養子縁組の効力が発生すること
を肯定したことも考慮し、ア 上告人はA夫婦に引き取られてからAが死亡した平成5
年まで30年以上にわたりAとの間に実の親子は同様の生活の実体があり、かつ、被上
告人らは、平成15年まで上告人がA夫婦の実子であることを否定したことはなく、平
成5年には上告人との間でAの遺産分割協議を成立させた。
イ 判決をもって上告人とAとの間の実親子関係の不存在が確定されるならば、上告人
が受ける精神的苦痛は軽視しえないものであることが予想される。また、Aの相続が問
題となっていることからすれば−、上告人が受ける経済的不利益も軽視し得ないもので
ある可能性が高い。
ウ Aは、死亡するまで上告人ガ実子でない旨を述べたことはなく、上告人との間で実
親子としての関係を維持したいと望んでいたことが推認されるのに、Aが死亡した現時
点においては、上告人がAとの間で養子縁組をすることは不可能である。
エ 被上告人らが前期のとおり上告人が取得したAの遺産の返還を求める訴訟を提起し
ていることからすれば、被上告人らが上告人とAの実親子関係を否定するに至った動機
、目的は、経済的なものであることがうかがわれる。
オ 上告人とAとの間の実親子関係が存在しないことが確定されないとした場合、上告
人との間の実親子関係の不存在が確定しているBが不利益を受ける可能性は否定できな
いが、同人はAと共に上告人を福祉施設から引き取り、実子として届出をし、上告人と
の間で長期間にわたり実の親子と同様の生活をしてきたのであるから、同人の不利益を
重視することはできない。
として破棄差し戻しをおこなった。
 一般的に韓国人家庭ではあととり息子を大切にするし、息子は父親を大切にする。実
の母親と信じて疑わなかった相手から訴えられた上告人はさぞかしショックであろうと
想像されるが、最高裁はこの点を反映している。また、なかのよかった時期などには「
海の庭」にもあったような細やかな情愛があったかもしれない。ある程度人情というも
のに配慮した名判決だと筆者は思っている。

 さて、在日韓国人どうしの事案であったが、これが日本人どうしであったらどうなっ
たであろうか。
 上記の韓国の大法院1977年7月26日判決(大法院判決集25−2−211)の
ような、養子とする意図で他人の子を自己の実施として出生の届出をした場合に、他の
養子縁組の実質的成立要件がすべて具備されているときは、養子縁組の効力が発生する
ことを肯定した判例は日本には存在しない。養子が幼児だった場合には直系卑属を養子
にする場合以外は家庭裁判所の許可が必要であるから、この要件をかいている養子縁組
なので、養子縁組としては無効としている。しかし、30年も実質的親子として生活があ
るのであり、成人したときには養子縁組の追認があったと評価してもよいのではないだ
ろうか。
 無効な婚姻届がだされた場合に追認を認めた判例法理との整合性も気になるところで
ある。ただ、これだと正面から最高裁判例に抵触することになってしまう。一般条項の
採用で事案事案に応じて妥当な解決をはかるべきであろう。
 藁の上からの養子について嫡出子出生届の養子縁組への転換に煩多んする消極説の根
拠は、?養子縁組届がない以上、必要な形式が欠けている、?縁組の成立時期が明らか
でない、?戸籍の信用性を重視すべきである、?違法行為の助長を許すべきではないと
、?近親婚の危険があげられている。
? については票件代諾縁組を認めている判例とのバランスがとれない、?については
出生届の届出時で明確である、??については、事前規制である行為規範と事後規制で
ある評価規範とは別個に考えるべきであり、事後規制の場合には、無許可縁組の取消期
限経過後までこれを問題にすべきではない、?については人工受精子のほうが問題はお
おきいのであり、それとのバランスがとれない、という批判がそれぞれ妥当する。
ただ、??については一部消極説が妥当する場合もあることになる。
また、消極説による最高裁判例を正面から攻撃するのも実務的には得策ではない。そこ
で、筆者としては日本法が適用される場合にも、同様な事案のもとでは上記のアからオ
のようなことを考慮した場合は権利濫用になると思料する。結局韓国法とおなじ結論と
いうことになる。
  最高裁平成9年3月11日 判決 家月 49巻10号55頁は、当該事案においては権
利濫用ではないとしたが、権利濫用の適用可能性を認めている。
 また、実親子関係不存在確認請求を権利濫用として排斥した下級審判例としては、2
件あり、東京高裁平成14年1月16日判決 家月 54巻11号37頁・判時 1774号46頁1
大阪高裁 平成 3年11月 8日 判決 家月 45巻2号144頁 判タ781号265ページ 
判時1417号74頁がそれである。
参考文献 新版 注釈民法(24)269〜280頁(山畠正男執筆) 有斐閣 平成6年

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