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実務家からみた司法試験コミュの著作権法 ノンタン事件

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9年前にかいたエッセイです。

ノンタンといっしょに著作権を考える

   ――タレントの話から著作権者の認定のはなしになりました――
1 千秋の業績
2 ノンタン事件の概要
3 先例としての価値

1 千秋の業績
  2004年9 月12日放送の「笑っていいとも増刊号」をみているとテレホンショッキングのコーナーにタレントの千秋がでていた。タモリと子育ての心構えなど話していて、なかなか気の利いた発言をしていた。千秋はポケットビスケッツのボーカルで紅白歌合戦に出場した歌手でもあるが、現在はタレントという位置づけであろう。育児エッセイも出版している。二人組タレント、ココリコの遠藤の妻でもある。
 千秋には声優としての顔もあり、1990年代前半に人気のあった「ウゴウゴルーガ」のコーナーでノンタンの声をしていた。
 さて、民事法のコーナーなのであるが、この千秋と民事法はどこに関連するのだろうか?
 実は千秋が声をあてたノンタンの事件が著作権法で興味深い先例を提供しているのである。この判決は、共同著作物であるような表示がなされた著作物について、その表示に反して単独の著作物と認定した。共同著作物と表示されたものについては共同著作と推定するという、法律上の推定を覆したのである。新たな法律論を述べたというものではなく、事例判決であるが、事実認定でどのような証拠を重視したかという点で実務家には参考になる。

2 ノンタン事件の概要
 東京地裁平成10年3月30日(東京地裁平成2年(ワ)第4247号 著作権存在確認等請求事件 平成3年(ワ)第14827号 著作権存在確認等反訴請求事件 )著作権速報218号 1頁

 原告Xは絵本作家、被告Y1は漫画家である。XとY1が結婚して共同著作名義のもとに昭和51年ごろから主人公ノンタンの絵本1(著作目録の絵本)を創作して出版社Zから出版して好評を博していた。
絵本1の著作目録は、いずれも偕成社刊で「ノンタンぶらんこのせて」「ノンタンおやすみなさい」「あかんべノンタン」「ノンタンおよぐのだいすき」「ノンタンほわほわほわわ」「ノンタンおねしょでしょん」「ノンタン!サンタクロースだよ」「ノンタあわぷくぷくぷぷう」「ノンタンのたんじょうび」「ノンタンボールまてまてまて」となっている。
XとY1は、昭和50年ころ、子ギツネを主人公にしたタイトル「あかんべきつね」という絵本の原案をZに持ち込み、その後、主人公を「ノンタン」という子猫に変更した絵本がZから出版され、続編がつぎつぎとだされた。絵本1についてZとの出版契約書はY1が手続を行い、契約書の著作者名にはXY1のペンネームが記されており、契約当事者欄にはY1だけが記されていた。その後作成された出版契約書には著作者及び著作権者ともに両名の名が記されている。絵本1の印税は、昭和57年までX個人の銀行口座に送金されていたが、昭和57年に著作権の管理や販売代行を目的とするY2を設立し、Y1が代表者に、Xが取締役に就任し、以後の印税はY2の口座に支払われた。絵本1以外にXは複数の幼児向け月刊誌に創作絵話を掲載し、Xを著作者と表示したり、前記Y1のペンネームの最後の2文字を省いたものを使用していた。
XとY1は昭和59年ごろに不仲となりX作成の協議離婚届が提出され、Y1が離婚無効の調停を申し立てたが不調となった。ノンタンシリーズの続編を望むZはY1に試作を依頼したが、同試作はストーリーの展開や子どもに対する見方が絵本1と対極的な違いがあり、Zの採用するところとならず、その後の絵本原稿も同様であった。ZはXに絵本1の続編の制作を依頼して出版し(絵本2) 、Yはこれに同意している。
 絵本2の目録は「ノンタンぱっぱらぱなし」「ノンタンこちょこちょこちょ」「ノンタンバーテデイブック」「赤ちゃん版 ノンタンおしっこしーしー」「赤ちゃん版 ノンタンにんにんにこにこ」「赤ちゃん版 ノンタンもぐもぐもぐ」「赤ちゃん版 ノンタンあそびましょ」「赤ちゃん版 のんたんいないいなーい」「赤ちゃん版 ノンタン自動車ぶっぶー」「赤ちゃん版 ノンタンおはよう」「赤ちゃん版 ノンタンはっくしょん!」「ノンタンかるた」
である。 著作権目録・物件目録記載のものについて当時や現在でも育児中の読者のなかにはもっているかたもおられるのではなかろうか。
Y1Y2はXの承諾なく、ノンタンの絵本のキャラクターであるノンタンの図柄とnontanの表示をした物件目録記載の商品の販売をおこなった。
Xは、被告Y1及びZが設立した被告会社Y2に対して、右絵本1の著作権存在の確認及び複製権侵害の損害賠償300万円を請求する本訴を提起した。
複製権の対象の物件目録では、スポーツタオル、ハンカチ、タオルハンカチ、浴用タオル、布製エプロン、布製袋で、いずれも別紙著作目録記載の絵本のキャラクターである子猫「ノンタン」を図柄に採り入れ、かつnontanの表示をしている。
 被告Y1らは、反訴請求として絵本1の著作物については被告Y主導の下に制作され、原告Xは補助者であるから、著作権はY1に属すること、及びXに対してノンタンの絵本とカルタの出版・製造・販売の禁止を請求した。
(実際の判決ではキャラクター自体の著作物性とか、Y1の相続が生じて訴訟承継関係が複雑でわかりにくいため、ここでは本訴も反訴も主たる請求と反訴に限定し、訴訟承継については省略して説明する)
 判決は、著作者とは、著作物を創作する者であり、これをいいかえれば、当該著作物の思想又は感情の表現につき創作的関与をした者であり、たとえその創作過程において複数人が何らかの形で関与したとしても、創作的寄与に及ばない単なる補助者は著作者とはなりえない。絵本1の創作過程は、テーマやストーリー等の構想をまとめ、これを具体化するラフコンテや絵コンテを創作し、編集者に示してその意見を聞くなどしてストーリーや絵の大要を固め、実際の絵本の版下となる原画の作成に至るものであること、原画は鉛筆で下書きをした後、輪郭線を決め(これが耐水性ペンで引かれるか、墨線を引くかにつついては、XとYの供述に齟齬がある)、色を塗り終えてから、最後に絵の輪郭線を毛筆(墨)でなぞって完成に至ることが認められるが、絵本1の創作的表現の核心部分は、扱うテーマやストーリーを構想し、これを具体的に表現する絵柄やその配置、配色の決定及び文字記述部分にあるものと解される。従って、これらを創作した者が著作者たりうるものであって、単に決められた色を塗ったり、輪郭線の仕上げをするにとどまる場合は、単なる補助的作業であって、著作物の創作行為とは評価できないものと考えられるとし、Y1の関与はいずれも補助的作業にとどまると解されるとした。このさいに以下のXに有利な事実を参照している。丸数字は筆者が便宜的につけた。
?Y1がZに対しXがノタンシリーズの続編を制作するにつき同意したこと、?XとYとの間で当初はXが印税全額の支払いを受けることの了解がなされていたこと、?先行作品「あかんべきつね」がXによって創作されたものであること、?本件絵本1の刊行前のY1の作品には本件絵本1と共通点を有するものと認められる作品を見いだせないこと、?本件絵本1の原画にXの筆跡と認められる鉛筆による記載があり、絵コンテにもXの筆跡と認められる記載があるとした。
Y1に有利な事情としては、?色塗りや仕上げの輪郭線を引く作業にY1が関わり、その作業の中でYが豊富な経験を生かして絵の具を配合したり、Xよりも上回る技術を駆使して仕上げの輪郭線をひいた、というのをあげている。
まとめてしまえば、絵本1はXの独創性があらわされており、Y1はその続編をつくる独創性はなかったということにつきる。
 3 先例としての価値
 本件は絵本の創作過程について創作的寄与とはなにかを明らかにしている点で先例の価値がある。
 後掲の判例評釈で谷口弁護士は、XY1が共同の著作者名義を表示していた経過があることから、共同著作名義の表示かあったとして著作権の共有を主張できたのではないかと疑問を呈している。
 ただ,この合意についても通常の共同著作と異なり、夫婦間の同意であるから、同意の認定や取消自由の原則の問題も含めていろいろと複雑な問題もでてきそうである。
 ノンタンの描き方であるが、輪郭線を最後になぞるということは、この判決で初めて知った読者もおおいと思われる。筆者もおどろいた。
 ノンタンは波風の立った輪郭線が特徴であったが、その作者のほうにも波風が立っていたと言えようか。

参考文献 谷口由記「著作権法一四条の推定を覆して著作者を認定した事例」「村林隆一先生古稀記念 判例著作権法」東京布井出版 2001年


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