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Octopus-S倶楽部コミュの【小説】その御目覚めは

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おはこんばんちは
(´・ω・`)
Octopus-Sです!
(σ>ω<)σ)Д`)

この作品はもともとmixiアプリの携帯小説で書いていた作品になります。
(´・ω・`)

ジャンルは、ミステリー、ホラー的な感じですね
(´・ω・`)

もしよろしければご覧下さい
m(_ _)m

はじめて読む方は下方にある『最初から読む』をクリックして下さい。
(σ´Д`)σ)д-`)

危険・警告
※この物語はフィクションです。実際の人物、事件等は一切関係ありません。

※この作品には暴力シーンやグロテスクな表現が含まれております。
予め御了承下さい。


危険・警告
※このトピックでの、当作品の著作者以外の方の書き込みはご遠慮下さい。

コメント(165)

第捌章〜崩壊への始動〜



罪は無くなることは無い

罪を背負ったまま幸福を掴めるか…

掴めるはずがない

いくら飛び跳ねても、それを背負ったままじゃ届くはずもない

幸福を掴めたって?

それは幸福じゃない

幸福はもっと高いところにある

到底届かないところにある

あなたが掴んだもの
よく見てみな…
それは幸福と呼べるものだったか

あなたは幸福を知らない

罪を背負ったままじゃ、幸福は掴めない


しかし罪は一度背負うと二度と下ろす事はできない

永遠に幸福は掴めない
永遠に…

でもね……
―思い出せ

――思い出せ!

―――思い出せ!!

『お前はもう逃れられない』

『俺達の逆襲から逃れる事はできない』

『自分の犯した過ちを篤と味わうが良い』


俊ちゃん…

「俊ちゃん!」


俊輔「…………あれ?」
生徒YY「もう着いたぜ?」

いつの間にか眠ってしまったようだ

誰かに何かを告げられていた様な気がした。

前にも起きた
不意に聞こえる声

そしてその声を僕は知っている。


生徒YY「いつまでも寝ぼけてねぇでさっさと行こうぜ!」

Yに連れられバスを降りる。


緑が広がる山奥

今日はここで野外調理実習
各自カレーを作る


14時くらいから
旅館周辺のスタンプラリーをやるとのこと



一旦広場に集まり
主任やら旅館員らの話しを長々と話す


無論、誰も聞いていない。


まあ、聞かないで後で大変なのはお前らなんだがな…

そして僕か…


なぜかって?

「俊ちゃーん、米ってどうやって研ぐのぉ?」
「俊ちゃん!火つかねぇよ!」
「そもそも薪ってどこ?」
「俊ちゃん、カレー作って!」


疲れる…


谷川T「人気者は辛いですなぁ渡会先生」
俊輔「見てないで手伝って下さいよ…」
男衾「元気ないねぇ俊ちゃん」
俊輔「おかげさまで」

寝不足かつ過労で今にもぶっ倒れそうだ

さらにこの後はスタンプラリーだと?

僕は山の頂上付近の奥の方の立入禁止エリアの監視を任されている。

しんどい!

男衾「俊ちゃん今日が楽しみで眠れなかったの?」
俊輔「…そんなとこだ」

男衾「俊ちゃん可愛いねぇ」
俊輔「ほっとけ」
疲れ果てて完全に無愛想になっていた。


15:20
先に勤務地へ足を運び、目的地に到着した。

近くのベンチに腰掛ける。

もう歳だろうか?

腰が全然あがらない。


僕は鞄からお茶を取り出し、一気に飲む


少し落ち着き、息も整ってきた

静かだ…


スタンプラリーはもう始まりの時刻を過ぎているが
僕のいる場所は地図上でも奥の奥

しばらくは誰も通らないだろう


僕はしばらく
四方八方に広がる自然を堪能することにした。


癒される…


ふと、音が聞こえた

微かだが水の流れる音が聞こえる


――ドクンッ!

世界の色が真っ白になる

ここは…まさか


――ふふ…それでいい
ちゃんと覚えているじゃないか


僕はこの場所に来た事がある…


まだ生徒達が来るには時間がある


僕は音のする方へ足を進める。

それは立入禁止のロープの先

雑木林をかきわけ
次第に音は大きくなる。


音は聞こえるのに
なかなかその場所にたどり着かない。


道がかなり複雑だ


一歩間違えたら迷ってしまいそうだ

その時、目の前に空間が現れる。

足場が多少ましになった狭い空間の先には
洞窟があった

音も洞窟から聞こえてくる

その先に進みたい

しかし…
時計を見る。

そろそろ戻らないとまずい…


ひとまず僕は引き上げる
山道に戻る最中

例の声が聞こえる。

『嫌な出来事は忘れようとする…お前の悪い癖だ』

そして漸く気付く

俊輔「ああ…本当に…」

自分自身の声で有ることに。

『全てを受け入れろ。過去は変えられないのだから』

『お前はどこかでまだ迷いを感じている』

『迷う必要はない。お前は幸せを掴む為に戦って来たのだから』

『それを邪魔するものと戦ってきた』

『それだけの事だ』


お前は悪くない


はは…


はははははっ


そうだ。


僕は悪くない

幸福を邪魔するお前らが悪いんだ


僕はどこぞの犯罪者とは違う


金銭目的で人を殺めたわけではない


僕を邪魔するから廃除する

ただそれだけの事

あくまでも正当防衛

そうだ
僕は悪くないんだ。


生徒YY「俊ちゃん、なにニヤケながらぶつぶつ言ってるの?」

いつの間にか山道に戻ってたらしい。

よく迷わず戻ってこれたものだ…

俊輔「いや、なんでもない」
生徒YY「なんだよ気になるじゃん!」

俊輔「ちょっと思いだし笑いをしていただけだ」
生徒YY「うわぁ…俊ちゃんも遂に変態に…」

俊輔「なぜそうなる!?」
生徒YY「思い出し笑いをする人って変態なんだぜ?」

変態…ねぇ…

俺はお茶を飲みながら軽く受け流す。


生徒YY「そうか…昨夜は熱い夜を過ごしたわけか」

お茶を吹き出す

生徒YY「おー…見事な霧吹き状」

俊輔「急になんだよ!」
生徒YY「いや?…てか、図星?」

俊輔「急に変な事を言うからだ!」
生徒「俺は熱い夜って言っただけで●●●とは言ってないぜ」

今時の中学生はもうそんなことまで知ってしまっているのか?

なんの事かは御想像にお任せします。

俊輔「それより他の連中は?」

生徒YY「さあ?…俺が一番最初じゃん?」
ひとまず安心する。

ってか
班行動だったはずなのでは?
消灯時間をとっくに過ぎた深夜

俺は目的地へと足を運ぶ。


海中電灯の明かりだけが頼り

足を踏み外さない様に気をつけながら進む。


一度来たせいか洞窟までは簡単にたどり着く

問題はここからだ


僕の記憶が正しければ、ここは迷路の様に入り組んでいる。


昔の記憶を頼りに俺は暗闇へと踏み入れた。

足音と水の音が響く。

この水の音を頼りに数多の別れ道を進んでいく。

次第に大きくなる音

そして


ドォオオオオ


勢い良く流れる滝

周りを岩場で囲まれた泉が広がる

たどり着いた。


桜の木が見下ろすこの場所には
俺が殺した奴の一人が眠っている。


足場の悪い岩場を進み、滝の裏側へまわる。


そう。この下に


ライトを当てるがよく見えない。

やはりこの時間に来るのは無謀だったか…

時刻はam2:50

明るくなるにはまだしばらくかかりそうだ。


どうする?

今日のところは引き上げるか?


その時だった。

俺の来た場所
つまり洞窟の入口から人影が見えた。


なぜこんな場所に!?
どうやって!?
誰が!?

顔がはっきりと見えない。

逃げるにも、ここは岩壁に囲まれた泉

出入口はあの洞窟一カ所のみ

数10メートルもある垂直に切り立つ岩壁を乗り越えるには無理があるし

必ずその姿を目撃される。


万事休すか!?


そもそも誰なのか

それを確認しないことには話しが進まない。

俺は滝の裏に身を潜め
相手の様子を伺った。

相手は段々と俺の方へ近付いてくる。


次第にその姿もはっきりしてきた

見覚えのある顔
あいつは…

更に近づきそれは核心へと変わる。


旅館の従業員の服装をした
旅館員…
なぜあの人がこんなところに?

どちらにしろ顔が知られている。

ここに居る事が知れたらまずい

しかし逃げ場はない


どうする…


旅館員「こんばんは」
俊輔「こんばんは」

殺してしまうか?

旅館員「こんなところで何をなさっているのですか?」
俊輔「それはお互い様ですよね」

とりあえず相手の目的を知らねば…

旅館員「私はただ、貴方をつけて来ただけですよ?」
俊輔「僕を?」

なぜつける必要がある

旅館員「こんな夜中に急に旅館を出ていかれる姿を見まして、そしたら山の中へ入って行ってしまうのですもの。
夜の山道は危険ですから呼び止めようと追い掛けたのですがなかなか追い付かなくて」

嘘だ

こんな夜中に何で俺を目撃することができた?

それに呼び止めるなら声をかければ済むこと

それを立入禁止エリアを越え
迷宮までついて来た。

この女の目的は…


旅館員「それで、渡会さんでしたっけ?渡会さんはどういった目的で?」

俊輔「それは…」

生かしてはおけない

この女を今ここで抹消しなければ…

旅館員「あ、もしかしてトレジャーハンターですか?」

俊輔「え?」

旅館員「この地には昔からの迷信で異人が人の入ってはいけない泉に金塊を隠したと言う言い伝えがありまして」

なんだ?
俺の思い違いだったのか?


旅館員「その金塊を探しに来られたのですか?」
俊輔「はは…実はそういうのに興味有りまして、つい」

まあ、そう言う事なら問題はあるまい

あとはここに来た事さえ口外されなければ


旅館員「ふふふ…渡会さんったら」
俊輔「すみませんね、私の身勝手な好奇心でこんな夜中に迷惑をかけてしまいました。出来ればこの事は他の人には…」

旅館員「渡会さん、渡会さん」
俊輔「…はい?」


旅館員「金塊の迷信なんて、そんなもの存在しませんよ?」
この女っ!!

旅館員「有りもしない迷信に興味が有るなんておかしいですよね?」

俊輔「………っ」
どうする?

やはり殺すべきか

旅館員「何が目的何ですか?」

落ち着け

ここで殺したら…

旅館員「言えないんですか?なら私が代わりに言いましょうか?」


何者なんだこいつは!?

旅館員「渡会俊輔…貴方は昔、ここで己の友人を泉で沈めた。」

俺を…全てを知っている

俊輔「何の話しですか?」
旅館員「しらばっくれるんですか…ではお教えしましょう」

旅館員「この場所をいくら探してもここには人の死体なんて沈んでませんよ?」

俊輔「――!!?どういう事だ!?」

俺はこの場所で隆治を眠らせ
滝に沈めた

生きているはずなどない

旅館員「兄が貴方にのこのこと殺されに来る程、頭が悪いと御思いで?」

俊輔「…お前は…誰だ?」

旅館員「戸塚隆治の妹…
戸塚速海(はやみ)と申します」

隆治の妹だと!?
そんな奴がなぜこんな場所に

そんな事より

俊輔「隆治が生きているとはどういう事だ?」


速海「そもそも、この地域一帯は私共のテリトリー。この場所も庭みたいなものですわ」

俊輔「テリトリーだと?」

速海「あの日、兄は貴方に殺される事を悟ったのでしょう。
予め私にそのことを告げ、兄は貴方の元へ行きました。
貴方の過去も全て兄から聞いております。
予め知らされていたため、貴方が犯行をした直後、隙を見て兄を引き上げ、兄は一命を取り留めました」

崩壊の音が聞こえる。
俺の詰めが甘すぎた…
速海「私にとって貴方は憎い存在なんです。貴方のしてきた事を許す事なんてできません」

こいつはどれ程俺の事を知ってしまった?

それによって
この女をどうするか

俊輔「さっきから何を言っているのかわからない。僕が何をしたと言うんだ?」

さあ…どこまで知ってしまった?

速海「犯行を認めるんだか認めないんだか、どっちかにして欲しいですね…
いちいち私の口から説明しないといけませんか?」

さあ…言え
お前の判決をしよう

速海「だんまりですか?
まあ、話せば話す程、貴方が不利になるだけですが…
小学生の夏…それが全ての始まり…」

速海は犯行理由から凶器、死体遺棄方法まで細かく説明する。

あの時の出来事が鮮明に思い浮かぶほど…


速海「さあ、ここまで言われてしらばっくれますか?」

え…それだけ?

お前はそれだけしか知らないのか?

そうか
考えてみれば洋平を殺したのを知っているのは誠也と相島だけ。
その相島を誠也が殺し
誠也を俺が殺した。

河濱聡美
あいつに関しても全てを知る者はいない。


下手に今殺してもかえって俺自身を苦しめるだけだ…

この女の事だ
のこのこと俺をつけてくるはずもあるまい。


俊輔「僕がそんな事をしたと言う証拠は有るのか?」

速海「今度はそう来ますか…」

証拠など有るはずない

俺はあの事件後
凶器を解体し
あの場所を全て

燃やしてしまったのだから

速海「確かに目撃談だけでは確かな証拠にならないし
何せもう10年以上も前の事。
素直に“私がやりました”と言って頂ければ楽なんですけれども」

俊輔「どうしても僕を牢獄へ入れたい様ですね」

速海「兄があの時貴方を通報していたら、貴方は今ここにはいなかった思います。なのに兄や兄の友人がそうしないのは
なぜだと思います?」
なぜ通報しないか?

そんなの決まっている。

臆病だからだ。


自分達も立派な共犯
通報すれば自分達も牢獄行き


速海「貴方は皆の気持ちが全くわかっていないのですね」

そんなもの
わかりたくもない


速海「兄達は少しでも貴方の罪を軽くしようと思い、今でも自主する事を願っています。一度殺されかけたのに、それでも貴方の事を思っているのですよ?」


どこまでも俺を蹴落とそうとする裏切り者が…


速海「その思いが、貴方には届きませんか?」


なぜ俺はここまで負われなければならない?

俺は何も悪くないのに


速海「どうか、自首してくれませんか?
皆それを望んでいます。渡会さん自身も全てから解放されます」


俊輔「僕は何もしていない」
何も悪くない

速海「では仕方有りません。こちらも強行手段と行きましょう」

強行手段?

速海「貴方はもう既に自ら失言してしまっている事にお気づきですか?」

俊輔「なに?」
失言だと?


速海「まず私の言った事を覚えていますか?
ここは私共のテリトリー
兄が生きている
この意味がわかります?」

兄が生きている…
それは隆治が生きていると言うこと

しかしテリトリー…
これはいったい…


速海「今回あなた方が泊まりに来られた旅館は私共、戸塚家の経営する旅館です。それゆえにここら一帯は私共の庭同然」

戸塚家の経営する旅館?
それが何だというんだ?

速海「そのテリトリー内で兄は殺されかけ、私共が助け一命を取り留めた…
この意味がわかりませんか?」


さっきから何を言っているのかわからない。
俺がいつ
どんな失言をしたと言うんだ?
速海「つまり、私が言いたいのは
兄が殺されかけた事を知っているのは私達身内だけ
ニュースにも新聞にも載っていない情報を知る者は犯人だけです。」

確かに、隆治に関したニュースは一度も見ていない。

速海「それなのに貴方は何と言いました?」


――隆治が生きているとはどういう事だ?


速海「あの時、なぜ兄が死んだと御思いだったのですか?」

俊輔「あいつ、ずっと音信不通だったから…」
速海「それにしたって普通は死んだなんて思いませんよ?
それに、過去の兄の携帯及び戸塚家関係の連絡先の通信履歴には
貴方がかけた履歴は残されていません」


どこまでも
うざったい女だ


速海「さあ、まだ言い逃れします?」

俊輔「ふ…ふふ…だったら何だと言うんだ?
僕がそんな発言した証拠は――」

速海「証拠、証拠としつこいですね…
私がそこまで後先考えていないと御思いで?」

女はポケットから何やら四角い黒い何かを取り出す。

速海「全部録音させてもらいました」

録音だと!?

速海「それだけでは有りません。この機械は通信機能もあり、マイクの向こう側には兄がずっと私達の様子を伺っています」

突然、雑音と共に、トランシーバーから声が聞こえた。

隆治《久々だな、俊輔》

俊輔「貴様ぁ!」

隆治《まあ、落ち着け。そのまま妹を殺せば流石にお前を許すわけにはいかない。その場で現行犯逮捕だ》

俊輔「何が目的だ!?」

隆治《お前が良く知っているだろ?
自主しろ。
さもなくば今この場でお前を逮捕しよう》

俊輔「逮捕だと?警察にでもなったつもりか?」

隆治《つもりじゃない。なったんだ》


どこまでも

どこまでも

俺を蹴落とそうと


なぜ邪魔をする?


なぜそっとして置いてくれない?
どうする?

あいつが何処にいるのかわからない

もし本当に警察になったのなら
あいつ一人で居る可能性は低い

洞窟内、あるいは出口で待ち伏せている可能性が大か?


だが、俺は殺そうと思えばこの女を殺す事もできる


まさか見す見す殺させる事はしなかろう…


だとしたら
それを直ぐに阻止出来る場所…


岩壁の上…

決して飛び降りれない高さではない

上には木もある

ロープを縛り
伝い降りる事も

俺を銃で狙い撃つ事も可能

隆治《さあ、どうする?出来れば俺はお前を逮捕するのはごめんだ》


後は、ここからどうやって逃げるか…

周囲は岩壁に囲まれ出口は洞窟のみ


有るのは滝と泉のみ


洞窟出口まで逃げられたとしても恐らく警察が立ちはだかる


だとしたら逃げ場は…無い


ちくしょう…

俊輔「畜生ぉおお!!!!」

どうせ捕まるなら俺の邪魔をする者は皆殺しだ

岩壁に居るなら水の中に落としてやる

俺を狙い撃つ事は出来まい!

俺は速海に襲い掛かろうとした。


――ドンッ!


響く銃声

右腕に掠めたらしい

痛みが走る


銃声はすぐ隣から聞こえた。

そこは滝のしぶきの有る場所で…


俊輔「貴様ぁ!」

隆治が顔を出した
銃を俺に向けて

隆治「流石のお前もまさか水中から監視されているとは思わなかった様だな」


こんなに近くに居たのに
気付けなかったのか

いや、こんなに近くに居ながら気付けないはずがない!


俊輔「ふふ…はは…はははは」

隆治「おしまいだ。観念するんだな」


全く…

僕ってどうして
こうも


幸運なんだろう
水の中に居たのは失敗だった様だぜ?

隆治…


俺は横に落ちている岩を持ち、透かさず隆治に振り投げた。

速海「兄さんっ!!」

隆治の庇った左腕に当たり、その勢いで水中へ沈んだ。


その隙を僕は逃さない。


速海の腕を引っ張り両腕を後ろへ捻った。

速海「ちょっ!放して!!」

隆治《速海に手をだすなぁぁああ!!!》

水底から勢い良く出て来る隆治が向けた銃口は

速海


隆治「―――っ!!!」

俺は速海を盾に泉に向かい

小岩の刃先を速海の首元に持ってきた。


俊輔「さあ、その銃を俺の足元に投げてもらおうか」

隆治「救い様のねぇ奴だ!」

俊輔「救う?そう思うなら最初から何もして欲しくなかったな」
隆治「なに?」

俊輔「これは正当防衛なんだよ。俺はただ、自分の幸せ守って居るだけ」

隆治「自分の幸せだと?」

俊輔「金や地位…そんなのは求めていない。ただ幸せになりたいだけなんだ。
それなのに、なんで邪魔をする?
なんで俺の思うようにさせてくれない?
だから俺は自分を守るために邪魔をする者を廃除する」

隆治「違う」

俊輔「違う?」

隆治「皆、お前の邪魔をしようとなんてしてなかった。お前を守ろうとしただけだ」

俊輔「笑わせるな!!だったら何で俺を捕まえようとする!?
俺は何も悪くないのに、何で皆俺を!!?」

隆治「その結果がこれじゃないか!!」

俊輔「――!?」

隆治「そうやって、あの日の事を受け入れなかった結果、お前は幾つの罪を重ねて来た?」

俊輔「…なんでだよ」

隆治「あの日自首すれば正当防衛で済んだのに、もうお前歴とした殺人犯だ」


俊輔「…なんで僕なんだよ」


隆治「さあ、これ以上罪を重ねるな。そんなもの、幸せとは言わない」


俊輔「3つ数える間に銃を俺の足元に投げろ」
隆治「―――っ!?」
俊輔「いち……」

隆治「ま…待て!」

俺は構わずカウントダウンする

俊輔「にー……」

隆治「わ、わかった!落ち着け!」

俊輔「さ……」
その瞬間
隆治が俺の要求に応えた

それでいい

後は慎重に策略通りいかねば


果たして俺の考えは当たっているだろうか…


速海「―――っ!!」

俺は速海を泉に向かい押し落とす

それを庇う様に隆治は受け止め水中に沈み込む


その隙に俺は銃を拾い
水面に向けた


隆治達が水面から顔を出す


俊輔「俺の勝ちだな」
隆治「俊輔…」

俊輔「陸へ上がれ。二人とも」

速海が速やかに上がる

俊輔「どうした?早くしろ」
隆治「この格好じゃ上がれない。手を貸してくれ」

そんなのに引っ掛かるとでも思ったか?

俊輔「速海、隆治に手を貸してやれ」

速海「気安く呼ばないで!」

速海は隆治の元へ歩み手を伸ばした

やっとの思いで岩へ引き上げられる


俊輔「さあ、ウェットスーツを脱げ」

隆治「お前!!?」

その反応を見ると俺の考えは当たっている様だな

俊輔「早くしろ。妹を撃たれたくなければな」
俺は銃口を速海に向ける。

隆治はウェットスーツを脱いだ。


中はTシャツで防弾チョッキ等の装備はない


隆治「さあ、脱いだぞ。どうする?」

問題はここからだ。


恐らくここから逃げられても結局は追われるはめになる

ならば今だけでも逃げやすい状態にしておきたいが…


無駄だとは思うがやってみるか……
俊輔「洞窟にも旅館にも警官が居るんだろ?
警官全員を退散させろ」

隆治「……」

俊輔「ここでは何もなかった。何事もなかった。全ては隆治の憶測。勘違い」

隆治は躊躇う様に無線機を口元へ上げた。


隆治「こちら戸塚、A班応答せよ」

《こちらA班、どうぞ》

ノイズのかかった声が響く


隆治「明覚湖および明覚山道周辺異常なし。全班退散せよ」

明覚湖(みょうかくこ)?
この泉の名前か?


《こちらA班、全班退散命令を出します》

隆治「退散!」
《解!》

くどい位の確認

隆治「さあ、退散命令を出した」

そんなに上手くいくとは思っていない

俊輔「とりあえずその無線機、こっちへ渡せ」

隆治は俺の指示通り、無線機を投げ渡す。

スイッチは切ってある。

俺はそれを湖に捨てた。


俊輔「隆治…お前はまだまだ甘いな」


ドンッ!


俺は隆治に向かって発砲した。


隆治「ぐっ―――!!」
速海「兄さん!!!」


ドンッ!!

続けて速海に発砲した

ドンッ!!
ドンッ!!
ドンッ!!


腹部 肩 腕 足

それぞれ銃弾が命中し、二人は動けなくなる。


その隙に俺はウェットスーツに着替える。


時間がない

逃げ道もバレバレだ。


早いとここの場を立ち去らなければ


隆治「し……」

俊輔「まだ生きていたか…」

俺は銃口を向け引き金を引いた


チャッ…チャッ


ちっ
弾切れか


まあ良い…
殺している暇はないか


俊輔「厳重な警備をするわけでもなく、俺を信じたお前は馬鹿だったな」

隆治「お…れ………し」


俊輔「どうせ退散命令じゃなく、突撃命令だろ?
はなっから俺はお前らの事なんか何一つ信用しちゃいねぇんだよ!」

隆治「…………る」


俺は酸素ボンベを装着し終えると
泉へと潜った。
第玖章〜魔滅路志‐マボロシ〜



その罪に気付けた時

その罪を償おうと考えられる


その考えを行動に移せたとき

また一つ進歩する


償う事で苦しみ壁から立ち向かう時


人はまた成長する


一度犯した罪は消えないけれど


人は変われる


誰ひとり幸せになれない命なんてない


その魂に宿る魔の封印を解いた時


その御目覚めは幕をあける
渡会容疑者
職業、中学校教師

●●県警の警視一人と
民間人一人を銃で発砲し、逃走

二人は意識不明の重態

未だ行方不明はわかっておらず

殺人未遂で指名手配中


??「結局無駄に終わったな」

?「自分自身を掛けて闘い抜いた結果これか…」

??「最初から警備を固くしていれば良かったんだ」

?「隆治は甘すぎる」


渡会俊輔は明覚湖の
言わば密室状態から忽然と姿を消した


あの密室からどのように逃走したのか

岩壁はほぼ垂直に数十メートルにまでそびえ立つ


突撃命令が下ってから明覚湖に着くまでの時間は10分

それまでにあの岩壁を登り脱出したとは考えにくいし

突撃命令以前に
明覚湖周辺は突撃部隊が待機していた



そしてもうひとつ

隆治が倒れているのを発見した時
何故隆治はTシャツ一枚で
防具等をつけていなかったのか


それも全て

俊輔を信用した上での行動だったのか


渡会俊輔…

お前はどこまで人を苦しめれば気が済むんだ?


お前は自分自身のことしか考えていない


皆、お前のことをずっと守ってきたのに


その思いは伝わらなかったのかよ


絶対にお前は

お前だけは捕まえてやる

皆の思いをお前に突き刺してやる


はじめは誰しもが魔に取り付かれた

でも

その中でお前への思いは消える事はなかった

個々に考えは異なるけれど


心のどこかでお前を守りたいという気持ちがあった

それは今もなお


そうだろ?


なあ…誠也
《渡会容疑者の行方は依然わかっておらず…》

美咲「俊輔…こんなの…」

明覚湖の事件後、渡会容疑者の自宅も監視下に入れていた。

あいつの事だ…
のこのこ自宅に帰ってくる程馬鹿ではないと思うが
万が一と言う事もある。


美咲が俊輔の逃亡の手助けをしないとも限らない


美咲「嘘よ…こんなの嘘何でしょ!?」

………美咲


美咲「ねぇ!!重ぅ!」

美咲が肩を揺さぶってくる

重「残念だが…」

その両肩を抑える


重「美咲はあいつについて、どれくらい知っている?」

美咲「…何の話し?」

何も知らないのか…


まったく
この世の中はなんて残酷なんだ


いずれ嫌でも知るはめになる


かわいそうだけど
美咲にも全てを知ってもらわないとな…


俊輔…
お前はどれほどの人間を傷付けるつもりだ?

その先に有るものは

お前の望むものは

何もないというのに


重「俊輔の過去の話し…聞いた事あるか?」
美咲「いいえ?」

重「そうか」

ため息交じりの返事の後
一呼吸おき

過去の事実を掘り返す


それは吐き気がするほどえぐく
残酷な時間


まるで現実とは思えない様な

むしろ今起こっている出来事すべてが悪い夢なのではないだろうか


そう思いたくなるほど


胸が痛かった
小学校、夏の出来事

洋平を殺害した話

隆治の殺人未遂の話

そして、今起こっていること

全てを話し終えた時
美咲は崩れた


自分の信じていた
愛していた人が殺人鬼と知った
そのショックは計り知れない

だけど

重「美咲、辛いと思う。でもこの惨劇を終わらせなきゃいけない」

この悲惨な人生に幕を下ろさなければ…

重「俊輔を愛していたのなら、どうか俊輔のためにも―――」
美咲「わかってる」

不意に美咲が顔を上げる

美咲「全てを終わらせなきゃ。俊輔のためにも」

重「ああ。俺も終わらそうと思っている。隆治と一緒に、全てを…」

そして、新たな幕を開けるんだ


重「俊輔が帰ってきた時は、取り押さえる。連絡が来た際は録音させてもらう」
美咲「ええ」


まだ俺の知らない事が有る


誠也は高校の時から行方不明

夏の事件での目撃者だった
河濱聡美の事故死


恐らく俊輔が関与していると思う


そして俊輔は今もなお俺を殺そうとしている


俺は高校卒業からずっと隆治に匿ってもらっていたのだ


隆治が殺されかけた事を知った時はショックがでかかった


皆殺される


それだけは阻止しなければ


これ以上あいつに罪を背負わせるわけにはいかない


全てはその一心で
俺達は警察になった


重「あいつは良い奴なんだ。ただ、自分自身に宿る魔に負けているだけなんだ」
美咲「ええ、知ってるわ。私、俊輔のこと愛しているもの」

重「それを聞いて安心した」

もう迷う事はない



ふと、電話が鳴った

重「俺か」

ポケットから携帯を取り出す。

電話の主は

相島健一
通話ボタンを押し、応答する

重「どうした?」

相島《隆治が意識を取り戻した》

単刀直入に用件を伝える相島


重「すぐ行く」

それだけ応え
俺は携帯をしまった

これであの夜の出来事が明らかになる


重「美咲、俺は隆治のところへ行く。もし何かあったらすぐに俺のところへ連絡を頼む」
美咲「…わかったわ」

重「一応警官を2人ここに居させる。頼むぞ」

巡査「「はっ!」」

同時に敬礼する部下たち

俺はそのまま病院へ向かう



洋平が殺された事を知ったのは相島からだ。


洋平の殺害、死体遺棄現場を目撃した相島は
その場を逃げようとした。

その矢先、誠也に見つかってしまった


誠也と俊輔は洋平を殺した共犯


相島は殺される事を覚悟した。


しかし、誠也の対応は意外なものだった。
誠也『…見たな?』

冷酷な声色に震えがあった

相島は殺されることの恐怖にただ立ち竦んでいた


一歩一歩、誠也が近付く

ただ、烏の鳴き声しか聞こえない


背後には樹木の壁が相島を塞ぐ

相島は追い詰められた

ついに目の前まで迫った誠也

刹那、相島の両肩を押さえ付け
もはや万事休すかと思った

しかし、誠也の動きが止まる

誠也の顔を見ると
その頬には一粒の雫がこぼれ落ちていた


誠也『助けてくれ』

それは誠也の心の奥底からの願いだった


誠也『俺はもう、魔に取り付かれてしまった』


魔…?

誠也『俺は自分のために、洋平を犠牲にしてしまった』


肩を痛いくらいに締め付けてくる

誠也『俺はもう…だめだ
だから―――』

―――俊輔を助けてくれ


―――生きて全てを終わらせてくれ



誠也も原点は一緒だった


誠也だけじゃない


やり方や考え方は異なるにしろ

皆同じ気持ちを持っていた


誠也『さあ!行け!俊輔が戻って来る前に!』


相島が生きている事は俊輔は知らない


何も知らないと思っているのだろうけど


何もかも知っているんだよ

俊輔…


知らないのは
お前だけだ
病院4階の一角にある個室

そこに隆治は眠っている。

その隣の個室には妹が



扉を開けると
そこには目を開いた隆治がいた


意外と意識はハッキリしている


隆治「すまないな…迷惑をかけてしまって」

第一声は隆治だった

重「迷惑だなんて思っていない。あれが隆治のやり方だったんだろ?」

隆治は少し間を置き
小さく頷いた


相島「だが、こうなってしまった現状、やれる事はただひとつ」


捕まえる事


重「その時は俊輔、そして俺と隆治の終わり」
隆治「そして始まりだ」


重「明覚湖で俊輔はどうした?
俺達が駆け付けた時には俊輔の姿はなかった」

隆治は一呼吸間を置き

ゆっくりと語り始めた


隆治「旅館員だった妹に連絡を受けたのはあの日の夕方だった。
かつて俺が殺されかけた地に再び奴が訪れた。
奴は何かしらの行動を起こすはず
そう思い俺は部下を上手いこと言いくるめて連れてきた。
しかし、俊輔を捕まえるつもりはなかった。あくまでも自首してもらうために行った。
しかし、今回は妹も巻き込んでしまった。
万が一の事も考え、警備を配置したが、詰めが甘かった。

あらかじめ俺は明覚湖に身を潜めていた。しかし普通にしていたら見つかってしまう。
そこで絶好の隠れ場所を思いついた。
それが泉の中だ。」

重「ウェットスーツか何かを着ていたのか?」

隆治「ああ。しかし、それがあだとなるとは夢にも思わなかった」

あだ?

隆治「俺もあの時はじめて知った。
明覚湖の洞窟意外に存在する出口を…」
洞窟意外の出口…

隆治「俺が迂闊だった。少し考えればわかることだったのに」


明覚湖はそびえ立つ岩壁に囲まれた泉

出入口は洞窟ひとつ

岩壁を道具無しに登る事は不可能

となると考えられるのは…

重「水の中か」

隆治「ああ、俺は水中に潜ってはじめて気が付いた。
しかし奴は水中に潜る前に瞬時にその事に気が付いた」


考えてみろ

泉は岩壁に囲まれている

そんなところに
大量の滝が流れて来たらどうなる?


普通は溢れ
洞窟を水が流れて行く


しかし水嵩は増さない。

それを意味する事は簡単


通り道があるからだ


隆治「俊輔は俺のウェットスーツをまるごと奪っていった。
恐らくそのルートから逃走したのだろう」

しかし、そのルートの出口はわからない

それに日にちが経ちすぎている

隆治「万が一という事も有る。一応明覚湖周辺を捜索させる」


早く奴の魔を押さえないと


これ以上、酷くなる前に



俊輔…

今どこにいるんだ?
夕日が沈む

結局今日もわからず仕舞い


目撃情報も何もない


今は奴から姿を現してくれない限り何も出来ない…


重「美咲、今日はもう来なさそうだ。もう休むと良い」

美咲「…ええ」

重「何かあったら直ぐに呼ぶ。その時は頼む」


美咲がリビングを出ようとした時だった。


――プルルルルルルルルルルルル


鳴り響く電話

公衆電話からの着信

これは正しく


俺と相島は頷いた

美咲はそっと受話器をとった


録音機のスイッチを押す


美咲「…はい」
力の無い声で返事をする。

??「僕だよ」

美咲「―っ!!」

声から恐らく俊輔で間違い無いだろう


美咲がこちらの支持を伺っている

まずは自然体で話すように促した


美咲「しゅ…俊輔…なの?」
俊輔「ああ…そうだよ」

美咲「俊輔!今どこに居るの!!?」
俊輔「その事だが、美咲…会って話がしたい」


よし、来た!
これで道が開けるぞ!

俊輔「次に言う場所に、誰にも知らせずに一人で来てほしい」

そのまま話を続けるように促す

美咲「…わかったわ」

俊輔「今から言うことをメモってくれ」

メモ?

まさか…

美咲「ええ、良いわ」

俊輔「g..atj.dgdaajaa.adwgwdgjaamdpajjw..amd*」


暗号か…


俊輔「待ってる」


それで電話が切れてしまった…
g..atj.dgdaajaa.adwgwdgjaamdpajjw..amd*


アドレス…ではないよな?

重「とりあえず、どこの電話からかけたか調べろ!」
巡査「はっ!」

重「俊輔の携帯のアドレス…とかでは無いよな?」
美咲「違うわ」

美咲は自身の携帯の電話帳を開き、俺に見せてきた。

重「繋がらないんだよな?」

美咲「…ええ」


暗号を解くしかないか…

g..atj.dgdaajaa.adwgwdgjaamdpajjw..amd*


重「相島…わかるか?」
相島「まったく」


ローマ字読みも出来ないし

何かに置き換えるのか?

相島「.adgjmptw*」

重「何かわかったか?」

相島「いいや、使われている文字、記号がこの10種類ってだけだ」


美咲に自分の居場所を知らせねばなるまい…


そんな難しい暗号にするはずがない


それとも、俺達が居ることを読んでいる上での行動か…

いや、暗号化している時点で美咲に既に警察と絡んでいる事はわかっている。

録音されている事は承知済みか…

俊輔にとっては居場所は美咲にしか知られたくない。

だとしたら美咲にしかわからない暗号か?


重「美咲はもうわかっているのか?」

美咲「…いいえ」


どういうつもりだ俊輔…

相島「どっちみち、暗号が解けなければ何も出来ない。行動出来なければ奴も何かしらまた連絡をよこすだろう」

重「そうだな…得に脅迫されているわけではないからな」

とりあえず様子をみよう。

重「美咲も何か気が付いたら言ってくれ」

美咲「…ええ、わかったわ」
美咲「はぁ…」
ため息が漏れる

何もわからないまま時間だけが流れていく

俊輔…どこに居るの?

私はどうすれば良いの?

『誰にも知らせず一人で』

こんな暗号、私に解けるの?
解けたとしても
私はどうしたら良いの?


私は俊輔を信じている
きっと何か理由が有るはず



ふと、携帯を取り出す

友達や家族からの沢山のメールや着信

皆心配してくれている
返事しなきゃ…

でも、もう夜分遅いしメールの方が良いかな?

夜が明けたら電話しよう


私は親しい友人達にメールを打ちはじめた
美咲「夜分遅くにごめんなさい。今回の事でお騒がせ…」

私は途中でメールを打つのを止める。


私は携帯のボタンを見た。


g..atj.dgdaajaa.adwgwdgjaamdpajjw..amd*

まさか…

私は文字を打ちはじめた。

美咲「違うかぁ…」

私の予想通りに打つと訳のわからない文になった

やっぱりそんな単純じゃないか…

ダメ、諦めちゃ!

できる事はやらなきゃ!


私は試行錯誤をし、携帯でいろいろ試して見る。

平仮名、片仮名
アルファベット、数字

全くわからない…

携帯じゃないのかなぁ…

パソコンとか?

でも俊輔は最新機器とか疎いみたいだし…
いや、俊輔頭良いしなぁ…

さっき打ち変えた文字を何度も見直してみる。

これを更に捻ってみるとか?


再び携帯を打ちはじめる

携帯の打つ音がひたすら部屋に響く

美咲「…え?」
私はある事に気が付いた

もしそうだとしたら…

私は再び文字を打ち変えてみる


美咲「これは!?」


みるみるうちに文字が浮かび上がり

それは一つの文になった
でも、その文もまた暗号になっている様だ…


ふと携帯の日付が目に入った。

美咲「そっか…もう日付かわってるのか…」
今日は土曜日…

美咲「まさかっ!?」
とすると、これは…

『一人で来てほしい』
俊輔の居場所がわかった
明くる日、俺は相島と隆治のもとへ行った。

病室に入り、挨拶を交わすと早速
例の暗号を見せた


g..atj.dgdaajaa.adwgwdgjaamdpajjw..amd*

重「わかりそうか?」
隆治「ちょっと待てよ」

暗号をメモした紙をじっと見つめながら考える隆治

隆治「き…る…る…ち…か…」

相島「わかったか!?」

隆治「いや、わからん。言ってみただけだ」
重「きるるち…ってなんだ?」

隆治「パソコンのキーボードだ。
gは『き』aは『ち』と言った要領で解読すると
『きるるちかまるしきしちちまちちるちしてきてしきまちちもしせちままてるるちもし*』
この通りわけのわからん文章になる」

相島「他にも何か変換出来ないだろうか?」

隆治「そうだなぁ…同じ要領で携帯で変換してみるか?」

g..atj.dgdaajaa.adwgwdgjaamdpajjw..amd*

たああかやなあさたさかかなかかあかさらたらさたなかかはさまかなならああかはさ*

重「やはり良くわからないな」

相島「いや、ちょっと待て。
この文字、全部あ段だ」

隆治「確かに、これは重要なヒントになりそうだ」

重「『*』っていうのは何だろうか?」

隆治「俺の憶測だと恐らく『゛』か『゜』の意味を表しているんだと思う」

重「なるほどな…」
隆治「ところで渡会美咲はどうしてる?」

重「今は本人自宅に匿っている。警官を2人配置している」

隆治「気をつけろ?
俊輔は美咲に会いたがっている。
それでいてこんな暗号を寄越した。奴は既に自宅を警備されている事に気付いていないはずがない。
だから奴は美咲に会うには美咲だけを俺達にはわからない場所に呼び寄せる必要がある」

重「つまり、この暗号は美咲には既に解読出来ている可能性が高い。
そして、美咲は隙を見て警官の監視下から逃れ、俊輔に会おうとしている」

隆治「そうなれば、美咲は逃走の手助けをする可能性もある。
最悪の場合、美咲は俊輔にその場で殺される」


相島がとっさに携帯を取出した

相島「俺だ。美咲はどうしている?」

巡査《自宅のリビングに居ます》

相島「美咲の監視を強化しろ。いつ逃げるかわからない。外にも警官を配置する」



隆治「美咲に解読できる暗号だとすると、それ程難しく作られてはいないはずだ。とにかく色んなパターンで試してみよう」


隆治は再び、暗号を眺めはじめた
土曜日の夕日が沈んで行く

俊輔に逢えるのは明日から明後日にかけて

しかしこの状況下
私はどうやって警察に見つからずに目的地に辿り着けるか…


昼過ぎからずっと家の周囲に1、2台怪しげな車が止まっている。

恐らく私を監視している者だろう


警察は私が既に暗号を解読出来たと読んでいる…


私が行動に出るのを待っているのだろうか?


美咲「お巡りさん」
巡査A「はい」


とにかくやるしかない

時間がないのだから

美咲「私、買い物に行ってきます」

行動を起こさなきゃ

巡査A「この状況下で買い物に行かれるのは危険です」

美咲「いつまでも家の中に引きこもっていたら体が持たないわ。それに冷蔵庫の食材も底を尽きそうですし」

巡査B「ならば私が行ってきましょう。」
巡査A「そうです。今は外出は控えて下さい。」

なるほど…
起承転結の起を抑えればはなっから安全というわけね…


美咲「…でも」
巡査B「大丈夫っすよ!ネギと玉葱の区別くらい出来ますよ!」

そんなの誰でもできるわっ!

美咲「そ…それじゃあ…」

私はメモした紙とお金を警官に渡した。

巡査B「どんと任せておいて下さい!」

警官は張り切って行ってしまった。
第玖章〜魔滅路志-マボロシ〜2



その目覚めは幻想なんかじゃない

夢なんかじゃない


現実さ


愚かな者だ

人は行動を起こしてから後悔し、歎き、絶望する

その先に起こる悪夢が
今現在の悪夢によって見えていない


これ程愚かな事はない


その目覚めを受け入れられない愚かな者よ
日曜日…か…

現在の時刻は19時27分


渡会美咲が姿をくらましたのは5時間も前の事だった


部下から話しを聞いたところ…

昨日の夕方
渡会美咲は買い物をしたいと要求があったが
当時そこにいた巡査は危険だからとそれを拒否

代わりに別の巡査に買い出しに向かわせた。


問題はその次だ。


今日、正午過ぎ
渡会美咲の方から再び買い物に出たいとの要求
もちろん、当時いた巡査は止めた

しかし…


美咲「その…どうしても必要なもので…」
巡査「ならば私が買ってきます。美咲さんはここで待機を」

美咲「えっと…その…ちょっとお願いするにはちょっと言いにくい物でして…」
巡査「良いですよ。遠慮せず申し付け下さい」

美咲「いや、そういう問題ではなくて…生活必需品と言うか…」
巡査「はい」

美咲「私にとって無いと困る物で…他人に頼むのは恥ずかしいと言うか…」
巡査「はい」

美咲「ですから男性の貴方がたには恥ずかしくて到底頼めるものではないと言ってるんですよっ!!」
巡査「は、はい」

美咲「だから生活必需品でなくちゃ困る物で私は買い物に行きたいと言ってるんですっ!!」
巡査「は、は…はいぃ…」


んで、仕方なく付き添いと言う形でショッピングセンターまで行ったが

渡会美咲は途中でトイレに行くと言い
トイレ前で巡査と分かれる。

巡査はトイレ前で待機

しかしいつまで経っても渡会美咲は出て来ない。


気付いた時には時既に遅し


トイレの窓から脱出された


当時そのトイレの外側には見張りはおらず

逃走に気付くのも遅れたせいで完全に見失ってしまった。

更には目撃情報も無いため
居場所がまったく掴めない。


例の暗号を解くしかないな…
g..atj.dgdaajaa.adwgwdgjaamdpajjw..amd*


まずは色々試してみるか


パソコンのキーボード

携帯の平仮名入力

いずれも意味不明な文章になった。


携帯で平仮名入力した文字は全てが“あ段”の文字となった。

携帯の数字キーにはそれぞれ
1….@
2…ABC
3…DEF

という様に、それぞれ文字記号が設定されている。

“あ段”しかない

つまり数字キーに書かれているローマ字の最初の文字

『.』『a』『d』『g』『j』『m』『p』『t』『w』

そして『*』

これしか使われていない。

それは暗号を見てもわかる。


隆治「なぜ全てが“あ段”なんだ?」

相島「何か最初の文字に関係するものなのか?」

重「なんだそれは?」

時間だけが過ぎて行く。


相島「美咲の目撃情報は?」

巡査「ありません」

―プルルルルル

その時、重の携帯がなった。

重「もしもし?……なに!?」

隆治「どうした?」

重「美咲の目撃情報だ」

皆の注目が重一点に集まる

重「美咲は…T県T駅構内のトイレでの目撃情報だそうだ。
美咲はその後T駅を抜け、北西方向へ姿をくらました」


T県…県外だ…

相島「なぜそんな遠くへおびき出す必要がある?」

重「確かに、T駅は遠いし人も多く目撃は免れられない。そもそも俺達から逃れられなかったかもしれないのにリスクが大きすぎる」


この暗号は俺達が思っているよりも遥かに深い難問なのか


それとも…
隆治「少し外の空気を吸って来る」

頭を使うのはどうも苦手だ

なんで警察になったのかと突っ込まれそうだが…


重「動いて大丈夫なのか?」

隆治「ああ、傷の割に治りは良好だ。この分なら復帰も近いな」

相島「まあ、あんまり無理はするなよ」


俺は重達に支えてもらいながら車椅子に乗り、病院脇の公園へ向かった。


雲一つない星空が広がっている。
天体観測にはもってこいだ

しかし、心は晴れる事はない


速海は依然意識は戻らない


俺達の事情に妹を巻き込んでしまったことに
とてつもない罪悪感を覚える

早く全てを終わらせなければ…



ふと目の前を携帯を打ちながら通り過ぎる女性が見えた。


メールでも打っているのだろうか?


凄まじいスピードで携帯のキーを押す。

どうやったらあんなに早く打てるのだろう?

あんな早く操作したら指がつりそうだ…


カチカチという音がこっちまで聞こえてくる


………

メール……

携帯キー……


カチカチッ、カチッ、カチッ、カチカチカチカチッ、カチカチカチッ



………まさか


俺は急いで病室へ戻った。
隆治「暗号を見せてくれ!」

息を切らせながら病室へ戻る。


相島「どうした!?暗号が解けたのか!?」

隆治「まだ分からない。でももしかしたら…」

俺は暗号を見る。

隆治「g..atj.dgdaajaa.adwgwdgjaamdpajjw..amd*」

重「どうだ?」

俺は携帯と暗号を見比べ
暗号の下に数字を書いた

41128513432252212394934522637255911263

重「なんだ?」
隆治「暗号の文字を携帯の数字で打ったものだ」

相島「『g』は『4』、『.』は『1』か」

隆治「そうだ。それぞれ携帯文字がある文字キーを数字で打ったものだ。
これをただ仮名入力で打っても全て“あ段”になってしまうのは当然だ」

相島「まさか…」

隆治「そう、メールだ。この暗号は2文字で1文字を示している。
つまり最初の4と1…
これは“4を1回押せ”と言う意味で捉える。
即ち“た”を意味する。


重「次の1と2は『い』か」

相島「8と5はどうなる?」
隆治「おそらく『やゆよ』ではなく『やいゆえよ』で表しているのだろう。
つまり『よ』を意味している。
そう言った要領で解読していき、最後の『*』を濁点として使用するとこうなる」

相島・重「これは!?」


隆治「『たいようつきにかくれるときふみのらいぶ』変換するとこんな感じか」


“太陽月に隠れる時ふみのライブ”
相島「また暗号か!?」

【太陽月に隠れる時ふみのライブ】

隆治「渡会美咲が解読出来たのなら複雑な暗号にはなっていないはずだ!
おそらくこれは時間と場所を表している!」


太陽、月に隠れる時…

ふみのライブ…


太陽、月に……っ!!

隆治「重っ!今何時だ!!?」
重「23時12分だ!それがどうし……っ!!?
まさか!!」

隆治「くそっ!!時間が無い!」

相島「時間がない?」

隆治「太陽、月…これは曜日を表している!
太陽が月に隠れる…すなわち“日曜日から月曜日に変わる時”と言う意味だ!!」
相島「なっ!?」

隆治「ふみのライブ!!
どこだ!?
どこだっ!!?」

ベッドの柵を殴る隆治

重「落ち着け隆治!焦ってもこんがらがるだけだ」

隆治「あ…ああ
ふみのライブ…何だ?音楽にでも関係しているのか?」
重「だが俊輔や美咲は音楽とは無縁だぞ?」

相島「音楽とは無縁なのか!?」
相島が驚いた様に尋ねる。
そして何かを悟ったように…

重「ああ、あいつらは芸術関連にはまったくの無縁とも言ってもいい」

相島「なるほど…」
隆治「わかったのか!?」

相島「学校の図書室だ」
隆治「なに!?」
重「なるほど!確かにその可能性はでかい!」

隆治「どういう事だ?」
重「まず暗号の意味はこうだ。ふみのライブ…
この“ふみ”と言うのは漢字に置き換える。
“文”すなわち学校を意味する。
次にライブ…
一見音楽に関連しているかの様に見えるが、さっきも言った通り、あいつらは音楽には無縁。となると…」

隆治「libraryか…」重「そう。ライブラリーと直に書いてしまうとバレやすい。
ライブで切る事により、まったく別の想像をさせてしまう策略。
更に美咲は音楽に縁がない。美咲にはすぐに図書室への考えが浮かんだだろう。
なぜなら美咲にとって図書室は思い出の場所だから…」
隆治「思い出の場所…」
相島「とにかく時間がない!至急向かうぞ!」
隆治「待て!学校と言ってもいろいろ有るぞ!?」

重「いや、恐らく俺の通っていた高校だ。俊輔と美咲はそこで初めて出会っている」

相島「よし!行くぞ!」
隆治「まて!俺も…」

ベッドから降りて立ち上がろうとする

重「その身体じゃ無理だ!お前は寝てろ!」
相島「そうだ!ここは俺達に任せろ!」

隆治「…すまない」
苦笑しながら頭をさげる

相島「あやまる事なんてない。誰も悪くなんかない」

隆治「呼び止めてすまない。後で場所だけメールしてくれ」

重「わかった」

駆ける音がホールに響く


エレベーターは動いていない

非常階段から病棟を駆け降りる



夜の街にサイレンが響いた

……………

静寂に包まれた校舎

非常口の証明が不気味に光る



正門に手紙が張り付いていた

侵入経路だった

体育館通路から校舎に入れる


校舎の扉は開いていた


この中に俊輔がいる


目的地へと一歩一歩
歩んで行く


廊下に足音が響く



夜の学校に忍び込む
なんて話しを友達が学生時代していたけど

想像以上に不気味だった



階段を上り、扉を開いた。
案の定、その部屋はカギが開いていた


本の匂いが私を包んだ

棚が並んでいて見通しが悪くて怖いけど、その不安はすぐになくなり、別の不安が私を襲った。


月明かりが窓から図書室を照らす


その窓から射す光が一カ所だけ黒く伸びる


窓際に立つ黒い影は
まさしく俊輔の姿だった。
美咲「俊輔…」

俊輔「…美咲」
美咲が俺の元へ駆け寄って来る

俺はそれを受け止める

俊輔「ごめん……ごめんな」
それしか言葉が浮かばなかった

呼んだのは俺なのに…

美咲「ううん…」
美咲は涙を流していた

この胸に込み上げてくる気持ちは何なのだろう

ときどき自分の考えが分からなくなる


俊輔「今回の事件の詳細は…もう知っているよな?」
美咲は小さく頷く

俊輔「それじゃあ、俺の過去から話さないとな…
時間が必要だ。今すぐ場所を変えよう」

俺は美咲の手を引いた

俊輔「……?」
美咲は動こうとしなかった

美咲「もう…知っているわ」

俊輔「え?…」
美咲「教えてもらったの」

誰に?
隆治が目を覚まして美咲の元へ行ったとでも言うのか?

―――まさかっ!?

美咲「重よ…」

そうだ…
重だけは殺せなかったんだ…

殺そうとした時には、既に姿をくらましていた…


俊輔「そっか…知っているんだ…」
知っているうえで
俺に会いに来たと言うのか…

俊輔「僕のこと…恐くないの?」
美咲「恐いわけないじゃない!だって私―」

美咲が抱きしめてくる

美咲「俊輔のこと、愛してるもの」
俊輔「美咲…」

俺は美咲を抱きしめ返した


俊輔「美咲…僕と一緒に来てくれないか?
遠く遠く、誰も来ないところで幸せに暮らすんだ
嫌な事なんてない
平穏な――」

美咲「俊輔…」

俺の言葉を遮り、美咲は言った



美咲「自首…しよ?」
一瞬なにを言われたのかわからなかった


沈黙が走る図書室


美咲「俊輔…」
美咲が再び俺の名を呼ぶ


頭が真っ白になる

これは夢なのか?
悪い夢なのだろうか?

自首……しよ?


なんで?

なんで皆して僕を陥れるの?

なんで美咲まで…

俊輔「ぼ…僕は悪くないじゃないかっ!!?
知ってるんだろ!?
僕らの過去を!?
僕は悪くないっ!!」

僕は美咲に向かって叫んでいた

美咲「…俊輔」

そんな顔で僕を見るな!
そんな哀れみの瞳で僕を見るな!!

俊輔「なぜなんだ!どうして僕をここまで苦しめるんだ!!?
そっとしてくれれば幸せな毎日を過ごせるのに!
僕の幸せを邪魔するからいけないんだ!!!
邪魔する皆がいけないんだ!!!」

美咲は相変わらず哀れみの表情で僕を見る
一粒の涙を流しながら目線を反らさない


俊輔「あの夏、あいつが現れなければ!!
洋平が自首しようとしなければ!!
隆治が僕を裏切る様なまねをしなければ!!
聡美が僕に絡んで来なければ!!
誠也が過去を掘り返さなければ!!」

僕は自分の手を血に染める事はなかったのに…


美咲「俊輔…違うよ」
俊輔「…………」

美咲「確かに最初の事件はどうしようもなかったのかもしれない。でも皆言ったはずだよ?」

自首しようって…

正当防衛だから大丈夫だって…

美咲「俊輔は自分自身の魔に負けてしまい、その事実をなかった事にしてしまった。
自分自身で仲間を否定し、追い払ってしまったの。
皆気持ちは一緒だったんだよ?
俊輔を―――」

俊輔「―――やめろおおおぉぉぉ!!!!」
僕は耳を塞いで叫んだ…

俊輔「やめろっ!…やめろっ!!」

美咲「俊輔!」

俊輔「美咲まで…美咲だったら僕の気持ち…わかってくれると思ってたのに…」


みんな…

僕の敵なんだ…


そうさ…
すべては僕に敵視する

味方なんて
いないのさ

神も悪魔も


だから、まわりなんて関係ない

僕が法律だ!


美咲「俊輔!現実から逃げないで!」


だから僕の敵はすべて消す


美咲「―――っ!!?」

僕は美咲の首を両手で締め付けた。

勢い余り美咲は本棚にたたき付けられる。


バサバサと本が幾つか落ちる


僕は更に手に力を込めようとした。


俊輔「――――………」

美咲の首を掴んだ手に力が入らない

美咲も抵抗しようとしない


俊輔「なぜ抵抗しない?」

そう…殺せるはずがなかった

美咲「信じてるから…」

だって僕は…

俊輔「僕は今お前を殺そうとしているんだぞ?」

美咲「でも殺せてないじゃない」

俊輔「………」

美咲「私は俊輔のこと、好きよ?今までも…これからの俊輔も…ずっと
愛してるわ…」

俊輔「馬鹿だろ?…こんな僕を…」


身体が自然と美咲を抱きしめていた


俊輔「僕も好きだ…愛してる」


美咲「俊輔…」


だからこそ

ここでお別れだ…
俊輔「ありがとう…ごめんな…美咲…」

僕は美咲の肩に手をやり
最後に一言放った。

美咲「…俊輔?」
俊輔「さようなら―――」

その刹那だった
図書室の扉が勢いよく開かれた。

それは重の姿だった…
息を切らし全速力で駆け上がって来たのだろうが
時既に遅し…

僕は図書室の窓を開け、雨樋を伝い、滑り降りた。

美咲「俊輔!」
重「俊輔ぇ!!」



―――美咲…君を巻き込んですまなかった…

―――本当にすまなかった…

―――もう君を巻き込まないために

―――僕は君から姿を消そう

―――だから君は僕を忘れ

―――新たな幸せを掴んで欲しい

―――最後まで…ごめん


窓から僕を見下ろす美咲が見えた


最後に見る美咲の顔が
こんな表情だなんて…


僕の人生って何だったのだろう?

生まれてきて意味が有ったのだろうか?

災いばかりが降り注ぐ時の流れに
幸福を掴むチャンスなど有ったのだろうか?



地面に着地した僕はそのまま校舎をまわり、学校を出ようとした。


しかし、目の前には予想だにしなかった人物が立ちはだかった。


相島「久しぶりだな…」
俊輔「………!?」

相島!?
相島だと!?

相島「驚くのも無理はない。君の中で俺は死んだ事になっているのだからな」

なぜ…生きている?


相島「お前は誠也の言葉を信じきってしまった様だな」
俊輔「どういう事だ?」

相島「誠也は俺を殺したのではない。逃がしたんだ。全てはこの時のために託して…」

相島は僕に銃口を向けた。

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