弁理士受験生コミュの令和7年度弁理士短答式試験　問11 肢（ﾆ)の解説

このトピックで、どれくらいの方が見られているか不明ですが、今年（令和7年）度弁理士短答式試験　問11 肢（ﾆ）の出題意図を含めた解説を以下に行いたいと思います。今後の参考にしていただければ幸いです。

特50条は、「審査官は、拒絶をすべき旨の査定をしようとするときは、特許出願人に対し、拒絶の理由を通知し、相当の期間を指定して、意見書を提出する機会を与えなければならない。ただし、第17条の２第１項１号又は第３号に掲げる場合（同項１号に掲げる場合にあっては、拒絶の理由の通知と併せて次条の規定による通知をした場合に限る。）において、第53条1項の規定による却下の決定をするときは、この限りでない。」と定め、
特53条１項は、「第17条の２第１項１号又は第３号に掲げる場合（同項１号に掲げる場合にあっては、拒絶の理由の通知と併せて第50条の２の規定による通知をした場合に限る。）において、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面についてした補正が第17条の２第３項から第６項までの規定に違反しているものと特許をすべき旨の査定の謄本の送達前に認められたときは、審査官は、決定をもってその補正を却下しなければならない。」と定め、
特49条１号は、「審査官は、その特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面についてした補正が第17条の２第３項又は第４項に規定する要件を満たしていないときは、その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。」と定めている。
　
　すなわち、特50条ただし書を設けた趣旨について、特許庁編　工業所有権法逐条解説〔第22版〕（2022年９月16日、発明推進協会発行）223頁によると「・・なお、平成５年の一部改正において、第二回目以降の拒絶理由通知に対する補正が、新規事項を追加する等、補正の要件を満たさないものである場合は、特49条１号に該当し、拒絶理由通知の対象となるとともに、特53条１項の補正却下の対象ともなり得ることから、本条ただしの規定を設け、特53条１項の規定が優先して適用されることとし、再度拒絶理由を通知することにより、審査が繰り返し行われることを回避することとした。」と説明されている。

　一方、最後の拒絶理由通知に対する補正が不適法であった場合の取扱いとして、特許庁工業所有権制度改正審議室編　新特許法・実用新案法の概要 - 改正のポイントとＱ＆Ａ -（1994年２月14日、発明協会発行）18頁～19頁によると「最後の拒絶理由に対する特許請求の範囲の補正が不適法であったときは、その補正を却下することとしました。・・（中略）・・すなわち、第53条に規定する補正却下は、最後の拒絶理由通知に対する補正が不適法な場合、具体的には、第17条の２第３項、第４項、第５項、第６項の要件を満たしていない場合について、その補正を却下することとなります。最後の拒絶理由通知に対する補正によっても、依然として出願が拒絶理由を有している場合に、再度拒絶理由を通知することとすると、その拒絶理由通知に対して、再度補正が可能となり、更に補正後の明細書、特許請求の範囲又は図面に基づいて審査を行う必要が生じるため、迅速な処理が担保されないこととなりますので、このような事態を回避するために第53条の規定が設けられました。したがって、例えば、最後の拒絶理由通知に対して行われた特許請求の範囲の限定的減縮に相当する補正が新たな拒絶理由を生じる場合や依然として拒絶理由を回避していない場合には、審査官はその補正を却下することとなります。そして、補正却下されると出願は補正がなされる前の状態に戻ることとなりますので、既に通知された最後の拒絶理由が維持される場合は、その拒絶理由に基づいて拒絶査定がされることになります。」と説明されている。
　これを受けて、平成５年の改正法の運用に関して特許庁により公表された審査ガイドラインによると、「・・（４）却下の対象となる補正は、次の通りである。①明細書、特許請求の範囲及び図面についてする補正であって新規事項を追加するもの（最後の拒絶理由通知で指摘した新規事項が補正後も維持されている場合も却下の対象に含まれる。）・・以下略」（特許庁調整課審査基準室長　平山孝二　編「注解：改正特許・実用新案法の運用のてびき」（平成５年11月８日発明協会発行）50頁）とされている。
　また、現行の審査の運用について、平成27年9月、特許庁公表「特許・実用新案審査基準」（特許庁ホームページ掲載）第Ⅰ部　審査総論　第２章　審査の手順　第６節　補正却下の決定の項によると、「・・（略）・・3.1 却下の対象となる補正　補正の却下の対象となる補正は、以下の(1)から(4)までのいずれかに該当する補正である。(1)新規事項を追加する補正(第17条の２第３項違反)　(2)発明の特別な技術的特徴を変更する補正(第17条の２第４項違反)　(3)目的外補正(第17条の２第５項違反)　(4)独立特許要件を満たさない補正(第17条の２第６項違反)　3.1.1 新規事項を追加する補正(第17条の2第３項違反)　「最後の拒絶理由通知」に対する応答としてされた補正であって、以下の(ⅰ)又は(ⅱ)に該当する補正は、「新規事項を追加する補正」に該当するため、補正の却下の対象となる。　(ⅰ) 新たに新規事項を追加する補正　(ⅱ)「最後の拒絶理由通知」で指摘した新規事項が含まれている補正　・・・（中略）・・4.補正却下をする場合の出願の取扱い　補正を却下すると、出願は補正書が提出される前の状態に戻る。したがって、審査官は、補正書が提出される前の出願に対してされた「最後の拒絶理由通知」で指摘した拒絶理由が適切なものであったか否かを、確認する。「最後の拒絶理由通知」で指摘した拒絶理由が適切なものであったか否かの確認に当たっては、出願人が提出した意見書等の内容を考慮しなければならない。(1) 審査官は、「最後の拒絶理由通知」で指摘した拒絶理由が適切であって、その拒絶理由が解消されていないと認められる場合は、補正の却下の決定をした上で、拒絶査定をする。・・以下、略」とされている。

　そうすると、上述した特50条ただし書、特53条１項の趣旨及び審査の運用により、審査官は、特17条の２第３項に規定する要件（いわゆる新規事項の追加の禁止）を満たしていない旨の最後の拒絶理由通知をしたが、当該通知に対して出願人がした補正は、最後の拒絶理由で通知した拒絶の理由を解消していなかった場合、審査官は、その補正を却下した上で、特49条１号により拒絶をすべき旨の査定をすることになると考えられるので、本肢は誤りである。
　
　なお、本肢の場合には、特49条１号により、審査官は、特17条の２第３項に規定する要件（いわゆる新規事項の追加の禁止）を満たしていない旨の最後の拒絶理由通知をしたが、当該通知に対して出願人がした補正は、最後の拒絶理由で通知した拒絶の理由を解消していなかった場合、審査官は、その補正を却下することなく、拒絶をすべき旨の査定をすることができと考えられるので正しいとする見解を主張する者があるが、これは、平成５年の一部改正における補正の範囲の適正化の趣旨により導入された特50条ただし書及び特53条１項の改正趣旨及びその運用を訊いた本肢の出題意図を見誤ったものであり、適切であるとはいえない。
　
　参考までに、平成12年度弁理士多肢選択式試験　問28　肢４は、本肢と同様の出題意図をもって訊いたものであるので、参考までに以下に掲げておく。
　（問題）
　最初の拒絶理由通知の際に指定された期間内にした補正Ａが特許法第17条の２第３項に規定する要件を満たしていない（いわゆる新規事項の追加である）ことを理由として、審査官が最後の拒絶理由通知をした。これに対して、その拒絶理由通知の際に指定された期間内に補正Ｂがなされたが、Ｂによってその新規事項が削除されていなかったとき、Ｂは却下されずに当該特許出願について拒絶をすべき旨の査定がなされる。ただし、特許出願は、外国語特許出願でも外国語書面出願でもないものとする。　　
　（解答）　
　本肢の場合、補正Ｂは、特50条ただし書及び特53条１項及び審査の運用により却下された上で、特49条１号により、当該特許出願について拒絶をすべき旨の査定がなされると考えられるので誤りである。