公開前の映画情報コミュの闇の子供たち

「闇の子供たち」
　　08年8月2日、シネマライズほか公開
　　ゴー・シネマ配給　　上映時間：138分
　　日本語字幕：吉岡憲彦
　　監督：阪本順治
　　出演：江口洋介、宮﨑あおい、妻夫木聡、豊原功補、鈴木砂羽、塩見三省
　　　　　佐藤浩市、プラパドン・スワンバーン、プライマー・ラッチャタ
　　http://www.yami-kodomo.jp/

「月はどっちに出ている」「血と骨」などの映画原作を持つ梁石日氏の作品の中でも、もっとも映画化が難しいとされていた同名小説を、阪本順治監督が映像化した作品です。テーマはタイにおける少年・少女たちの人身売買、ペドフィリア（小児性愛）、臓器売買の問題です。

日本の新聞社のバンコク支局に駐在する南部（江口洋介）は、東京本社からタイの闇ルートで取引されているという小児臓器の密売の取材を命じられる。日本の臓器移植希望者が近々タイを訪れるというのだ。取材を進めるにつれ、カネのために生きたまま子供の臓器が取り出されるおぞましい実態にぞっとする南部。一方、ボランティアとして現地の社会福祉施設で働き始めた恵子（宮﨑あおい）は、少女アランヤーの姿が見えなくなったことに気付く。彼女は街の一角にある売春宿に売り飛ばされていたのだ。次々と欧米や日本から訪れる客の相手をするアランヤー。子供はそれを拒めば容赦なく殴られ、病気にかかるとゴミと一緒に捨てられる……。恵子はアランヤーの姿を探しながら、南部とともに臓器売買を止めようと活動する。そんな彼女のもとに、アランヤーが監視の目をかいくぐって出した「助けてください」と書かれたメモが届いた……。

ここまでナーバスな問題にストレートに切り込み、かつドキュメンタリーではなくストーリーもののドラマとして作り上げた阪本監督の熱意とチャレンジ精神に、まず頭が下がります。

空虚な人形のような顔の瞳のアップから入る導入部が印象的。子供たちは演技していないんじゃないか、と思ってしまうくらいに真に迫っています。

全裸の男性との性交渉の様子から、病気になった子供がどういう末路をたどるかまで、ペドフィリアの実態をオブラートに包み隠さず、ありがままに描いています。その描写には、もう本当にヘドが出そう。子供たちの輸送にトヨタ車が使われるんだけど、それを見るだけでトヨタ車に乗りたくなくなるくらい。

監督のインタビューによれば、現地の子役たちに演じている内容の意味から映画の狙いまですべて説明し、納得ずくのうえで撮影に臨んだといいます。その努力があったからこそ、子供たちの本当に迫真の演技が撮れたのでしょう。

原作から大きく逸脱したラストは、かなり衝撃的です。「ミニミスト」と言ってもいいくらい。かなり好き嫌いが分かれそうですが、ありがちなラスト（○○が××したけれど、△△は変わらずに続く、みたいな）のに比べたら、リスクはあるけれど、ずっと心に突き刺さる。ヘンにお涙頂戴に走らなかったのも好感が持てます。

妻夫木聡、宮﨑あおいら人気役者がリスクを厭わず、こういう作品に出演したことは非常に評価したい。江口洋介、豊原功補ら演技に不安のある（と私が思っている）役者も含め、みな頑張っていました。劇中のセリフの３分の１くらいはタイ語。江口洋介、宮﨑あおいはそのセリフもこなしています。

「映画に感動して"歌わせてくれ"と申し出た」という桑田佳祐のエンディングテーマは、あまり映画と雰囲気合わない気が……。ありがたい話なんだろうけど、こういうコラボは作品の趣旨と合わないんじゃないかな。

ネタバレにならない程度に言えば、この映画で訴えたいことは、「知らないことも、知ってて素知らぬふりをするのも、加害者と同じである」だと思います。監督の「関心がある人もない人も見て欲しい」というメッセージを、ずしりと受け止めてほしい。

私的採点：4.0点（5点満点）

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　7月4日　映画美学校第１試写室