日記コレクションコミュの８．怪盗よりガムテープになりなさい。

作者：煮汁
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たとえば元気一杯前歯の抜けたこれぞ５歳児って感じの男の子が幼稚園で将来の夢を聞かれて「大怪盗かガムテープになりたいです！」なんて瞳をキラキラさせて答えたとき、人がその生涯において文房具になりうるかどうかという可能性はさておいて、「犯罪者に俺はなる」宣言を聞かされた幼稚園の先生が立場的に「法的に言えば怪盗なんてしょせん窃盗犯の一種だしルパンとか盗む数より人殺す数の方が多いロクでなしですよ」みたいな趣旨のことを言いたくなるのは分かるんだけど、保護者の叱咤を恐れて５歳時にサラっとリアルを突き付ける前に自分の胸にズドンと手を突き入れてよく考えてほしい。今男の子言おうとしてることは己自身が本当に信じていることなのだろうかと。そして今の突きで自分の肋骨は何本折れたのだろうかと。


正解は３本。
そして勿論、怪盗が窃盗犯なんて論は間違っている。
怪盗と窃盗犯は違う。どころか怪盗という存在は犯罪者ですらないんじゃないかと僕は思う。だってどう考えてもルパンとか二十一面相ってヒーローだ。警察は追いかけるけどどこか本気で捕まえようとはしてなくて、盗まれるのはいつだって私腹を肥やす悪の組織や大富豪。華麗な手口で盗んだ宝は自分のポケットすり抜けて、行きつく先は不当に奪われた元の持ち主、はたまた誰にも奪えぬ海の底。誰もが心盗まれる憧れの賞金首。

まとめるところ、僕が思うに怪盗と窃盗犯を分ける要素ってのは『華麗な手口』と『義理人情』があるかどうかだと思うのだ。
自分以外の誰かのために鮮やかな手口で宝を奪う。それが怪盗。
華麗さと義賊の心、どちらが欠けても怪盗は怪盗たりえないし、逆にどちらかがなければそれは単なる犯罪者とも言えるのではなかろうか。

具体的に言うと『手術費用が足りない病気の弟マケオのためにバットを持って銀行を襲い金を奪うも、密かに通報され警察に囲まれた兄トミゾウ』には義理人情はあれど華麗な手口がないから怪盗ではないし、『乱用しすぎて足りないコカインのために厳しい警備の目をかいくぐってマフィアのアジトに潜入し、金とクスリを奪い、飛び交う怒声と銃弾を嘲笑いながら闇夜に消え、奪った金でギャンブルとドラッグに溺れる男モイチロウ』は私利私欲で動いているから怪盗じゃないってことだ。
で、この例の場合怪盗になるためにはトモゾウには『華麗さ』がトモゾウには『義理人情』が欠けているわけだけど、逆に言うならトモゾウ、あるいはモミオがそれぞれに欠けている技術と動機を補い合えばそれは間違いなく怪盗ってことになる。
補い合わせてみよう。


『手術費用が足りない病気の弟マケオのためにバットを持って銀行を襲い金を奪うも、密かに通報され警察に囲まれた兄トミゾウ』

＋

『乱用しすぎて足りないコカインのために厳しい警備の目をかいくぐってマフィアのアジトに潜入し、金とクスリを奪い、飛び交う怒声と銃弾を嘲笑いながら闇夜に消え、奪った金でギャンブルとドラッグに溺れる男モイチロウ』

＝

『手術費用が足りない病気の弟マケインの厳しい目をかい潜ってマフィアのアジトに潜入し、バットを乱用して金を奪うも、密かに通報されてマフィアに囲まれ、奪った金で酒とドラッグに溺れる男モミジロウ』


今日も元気にドラッグ三昧、「にーちゃん、頼むから俺に手術受けさせてくれよ！」と悲痛に叫ぶ弟の顔がイモムシに代わる幻覚を見るバッドトリッパー・モミジロウ。恐怖にかられ病室から飛び出し、荒く息を吐きながらトイレに駆け込むや慣れた手つきで注射器でコカインを摂取する。
それで最後の一本。コカインは高価な麻薬だ。金は足りない。弟の手術費用までつぎ込んで手に入れた薬はものの１ヶ月で体内に溶けて消えた。
もう金はない。クスリは欲しい。どうする。決まってる。ある所から奪えばいい。
正常な思考能力を失いフラフラと歩き出すモミジロウ。公園で素振りをしていた少年から奪った金属バットをカラカラと地面に擦りつけながら、向かうは最近通い詰めていたマフィア経営の非合法カジノ。
入口の見張りを問答無用に殴り飛ばして乱暴に扉を開け放つ。
突然の闖入者に唖然とする客とディーラー。禁断症状で人間の顔がブロッコリーに見え、怯えるように縦横無尽にバットを振り回しながらモミジロウは叫ぶ。

「ホームラン打たれたくなかったらありったけ金とコカインよこせやあああ！！」



大怪盗、爆誕。