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映画レビューアーフォーラムコミュの【ネタバレ有り】『僕達急行 A列車で行こう』 [2012年3月24日公開]

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●Introduction
 女心には疎くても、同じ鉄ちゃん相手ならとことん粘って落としてみせる小町&小玉のオタクコンビ。松山ケンイチ、瑛太が演じるのは、一見そうは見えないが、誠実さと確かな技術で仕事のできる男たちなのだ。そんな今時の趣味に生きる青年たちを主人公に、ばかばかしいほどディープで楽しい「鉄ちゃん」の世界をほのぼのとしたコメディで見せてくれたのは、『家族ゲーム』で注目されて以来、バラエティ豊かな作品を撮り続けてきた森田芳光監督。残念ながら遺作となってしまった本作だが、長年構想を練ったというオリジナル脚本は細部まで笑いに溢れ、登場人物の誰もが自分の「好き」に忠実に生きている姿が描かれている。

 「うさぎドロップ」の松山ケンイチと「ワイルド7」の瑛太が鉄道マニアに扮し、恋に仕事に奮闘する姿を描いたコメディ。九州ロケを敢行し、合計20路線80モデルにもおよぶ車両の登場が鉄道映画らしいこだわり。共演は「パレード」の貫地谷しほり、「ALWAYS 三丁目の夕日'64」のピエール瀧。森田芳光監督の遺作。

 のぞみ地所の社員、小町圭(松山ケンイチ)とコダマ鉄工所の二代目、小玉健太(瑛太)は、ともに鉄道を愛する者同士。ふとしたきっかけで出会った2人は、すぐに仲良くなる。住まいにも、鉄道が見える景色“トレインビュー”を追求する小町は、コダマ鉄工所の寮に入居したものの、やがて九州支社に転勤することに。転勤先の九州では、大手企業の社長(ピエール瀧)をなかなか口説き落とせず、のぞみ地所は苦戦していた。ところが、社長も鉄道ファンだったことから、小町や小玉と意気投合。事態は一気に好転する。仕事も趣味も順調そのもの。これに対して、恋の方は思ったように進展せず、2人は途方に暮れていたが……。
[2012年3月24日公開]

コメント(1)

 はっきりいって『釣りバカ』と作りは一緒でした。趣味の鉄道を活かして、本社が手を焼く物件を口説き落としてしまうところなんてそっくりです。しかも予定調和にトントンと決まっていくところは、まだ『釣りバカ』の方が波乱を感じました。小粋で軽妙なところは悪くないのですが、余りに箱庭的なんですね。これは監督の前前作『わたし出すわ』でも強く感じたことなんです。箱庭的とは、全て監督の小さな世界に役者やロケ現場を飾って、自己満足で動かして楽しんでいるような観客無視の映画趣味を指しております。故人となられた森田監督には大変申し訳ないのですが、ちょっと特異な主人公のふたりから、一体どんなメッセージを発信しているのか、そして本作に込められたテーマというものがイマイチよく伝わってこないのです。
 安直に鉄道ブームに便乗して、JR九州とタイアップした企画なら鉄道ファンを舐めんなよといいたいですね。鉄道映画としてもちょっとネタがありきたりで、まだ『RAILWAY』シリーズのほうがマニアの心を擽る映像が多かったと思います。

 主人公は、不動産会社で働く小町と父親が経営する鉄工所社員の小玉。現代の若者を描くと、すぐにニートとか格差とか嫌々薄給の仕事をしながら、不満を募らせるパターンにはまりがちでしょう。その方がドラマとしてはメリハリが浮かびやすくなります。けれども小町と小玉のコンビは、そんな演出者がイメージしやすい若者像とはかけ離れているのです。
 実直な性格がKYと誤解された小町は、事実上の左遷にあたる九州支社へ転勤を命じられます。転勤後も地元の成長企業の社長を口説き落とすために、自分の会社の女社長に付き添いを命じられ、営業上のプレッシャーをかけられまくるのです。
 一方小玉は経営に苦しむ社長の父親のぐちを聞かなければいけない。何と言っても銀行から繋ぎ資金が下りなければ、新規の顧客の仕事にも対応できなくなるのです。そんな
決して、恵まれた環境には見えないのに、彼らのなんと軽やかで誠実なキャラなんでしょう。生真面目、深刻にはなりすぎず。常にひょうひょうとしているのが持ち味の若者が、中心人物としてタブルで登場してくるところをどう思うかで、本作への評価が激しく変わってくることでしょう。

 そんな軽快なキャラの小町と小玉のやりとりは、見ていて楽しいのも正直なところ。さすがは当代若手の演技派である松山ケンイチと瑛太が肩の力を抜いて、自然体で演じているだけのことはあります。二人を割と自由にアドリブを連発させたところに、森田監督の遊び心を感じました。なかでも小玉の父親にプロポーズする女性役を演じた伊東ゆかりに小指をかむ仕草をさせたのは、可笑しくて笑ってしまいました。会話や間の妙などは、森田監督ならではのリズム感なのだと感じました。
 森田作品の見どころは、何と言っても人間同士の距離の取り方にあると思います。本作であるなら、駅のホームや列車の座席で向き合ったり、横に並んだりしているときの登場人物たちの表情だったり、立ち位置だったり、演技だけで登場人物の関係性を直感的にさらりと見せてくれました。そんな観客には意識させないところで細かくこだわりを持って描いてるのが森田流の真骨頂ではないでしょうか。

 続編を熱望していたマツケンと瑛太でした。けれども脚本を書いた森田監督は既にこの世にはいません。でも鉄道あるところ限りなく連作は可能な企画ではあります。小町が言い寄られた女性に逆に振られるところなど、寅さんそっくりの本作です。そうであれば、いっそマツケンを2代目渥美清に仕立てて、小町を寅さんぽくしていき、山田洋次監督作品にしてしまったらいいのではないでしょうか。不動産会社勤務なら、スズケン勤務のハマちゃんやスーさんと出会うことだって不自然ではないでしょう。

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