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Nivkhコミュのɲi ɲivduɣs eʁzd 私はニヴフ語をかじる 

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アイヌ語をやっているとお隣の言語が気になります。 ウイルタ語についてはどんな言語かくらいの感覚は持っていますが、ニヴフ語はさっぱりのまま何年かが過ぎました。 2015年2月のキロロアンで丹菊先生の講演「サハリンの諸民族の言語の現在と未来 〜アイヌ語、ニヴフ語、ウイルタ語〜」が有るのを機会にほんの少し齧ってみようと思います。 参照  http://www.frpac.or.jp/cultural_exchange/open.html 

語学の習得では何をおいても使ってみるのが一番。 ニヴフ語はアイヌ語よりも使う機会というか場が無いのが問題でしたが幸いこのコミュニティを見つけましたので気の向くまま書き込みをしていくつもりです。

ちなみにタイトルは「私」「ニヴフ語」「かじる」を直訳というか語彙表を見て単語を並べただけです。 「少し学ぶ」をまさかニヴフ語で「かじる」とは言わないでしょう。 御愛嬌ということでよろしく。

コメント(31)

基本的情報

ニヴフ語の語順は日本語と同じ SOV この点ではアイヌ語、ウイルタ語と同じです。
音素とくに子音はまるっきり違います。(写真参照) ウイルタ語の子音が大体日本語と同じなのと対照的です。
 
母音はa, i, u, e, o + ǝ です。

次に代名詞。

私 ɲi ニ
私達 ɲin ニン
あなた ʧi チ
あなた達 ʧin チン

今日は以上です。
あちゃさん、トピック立ち上げありがとうございます。感謝します。
確かに少し学ぶ事を「かじる」とはニヴフの方もおっしゃらないでしょうね(苦笑)。

しかしながら、多くの言語に明るいあちゃさんが教えて下さるおかげで応用力をもってニヴフ語を伺う事ができて幸せです。
(別の囀るSNSでずっと拝見しておりました。笑)

それと、野暮ったい話で恐縮ですが、ローマ字表記にすると、どのような感じになるでしょうか?
おっと、コメント書いている間に書かれてらしたのですね!

大変失礼しました(汗)。
ニヴフ語の文字表記は研究者毎に微妙に異なっていて先の子音字表以外の表記が有ります。 それは整理中という事で、今日は簡単な文章を挙げてみます。 
ニヴフの文化では決まりきった挨拶言葉があまりないそうです。 そこで「こんにちは」の状況では

     ŋafqa ɲi p'r'ədra. ンガフカー ニ プシュッドラー。 友よ、私は来たよ。

などと言うそうです。 これを分解してみましょう。

1. ŋafq 友人
2. -a 与格語尾「〜よ」
3. ɲi 私(単数)
4. p'r'əd 来る、着く
5. -ra 強調の終始形語尾「〜よ」

p'やr'のアポストロフィーは先の子音字表の ʰ の代わりで有気音を表わします。 ɲはにゃ、にゅ、にょの子音部分です。 ə は英語でおなじみのアイマイ母音です。 見慣れない文字が並んでますが、文章の構造自体は日本語話者にとってはフツーですね。

以上、「日本語の隣人たち」白水社 「�競縫凜娶譴寮こΑ廖|圧動鐚C�より
訂正 ×2. -a 与格語尾「〜よ」  → 〇2. -a 呼格語尾「〜よ」
すごいすごい!!ニヴフ語テキストを読んでいるようでワクワクしますよ〜。
ありがとうございます。
前回の文を簡単にすると、

   ɲi p'r'əd. ニ プシュッド。 私は来た。

です。 主語を変えてみましょう。 初回に少し触れましたが表記を改めて代名詞を紹介します。

私 ɲi ニ
私達 ɲin ニン
あなた c'i チ
あなた達 c'in チン
彼/彼女 jaŋ ヤン
彼ら/彼女達 in イン

でして、

あなたは来た。 は   c'i  p'r'əd. チ プシュッド。
彼が来た。 は      jaŋ p'r'əd. ヤン プシュッド。
あなた達が来た。 は    c'in p'r'əd. チン プシュッド。

です。 つまり動詞は人称変化しません。 この点でも日本語と似ています。 一方、ウイルタ語は変化します。 (もっとも人称接尾辞が付くという方が適切でしょう。)

では、時制を変えてみましょう。

    ɲi vi-d. ニ ヴィッド。 私は行った。
    ɲi vi-j-d. ニ ヴィイド。 私は行くことになっている。
    ɲi vi-j-nǝ-d. ニ ヴィイヌッド。 私は行きたい。

といった具合で動詞語幹の後ろにどんどんくっついていく点で日本語に似ています。 この点ではウイルタ語でも同様です。 ちなみニヴフ語では終止形の最後は -d あるいは -t と決まっていますが、ウイルタ語では人称により異なる接尾辞が付くのです。

今日はここまで。
さて、前回に時制の話を見て 「あれ過去形は?」 と思ったでしょう。 英語でそうだったように 語学≒過去形・過去完了形 の感があるのですが、それは印欧語に限った話なのです。 ニヴフ語の動詞には過去形は あ り ま せ ん。

ɲi namr' p'r'əd. ニ ナムシュ プシュッド。 私は昨日来た。

のように時を表す言葉で明示します。 アイヌ語でも通常は同じ方法を用います。 アイヌ語の a は特別に過去であることを強調したいときに用いるもので日本語の 〜った のように義務的ではありませんから、過去を表す方法はアイヌ語に似ていると言えます。

過去形がある印欧語 vs 未来形があるニヴフ語

面白い対照です。
>>[8]
過去形が無いとは驚きました。
言葉は難しいですねぇ〜。
さて、 7の応用で「誰それが」+「(何かを)する・した」が言えるようになった訳ですが、「しない」はどういえばいいのでしょう。 

   ɲi iɲ-ʁavr-d. ニ イニガヴルド 私は食事をしていない。

ʁavrが否定の役割を果たしています。 アイヌ語の語順は日本語とほとんど一緒ですが、否定の somo は例外。 動詞に先立ちます。 ウイルタ語も同様です。 私にとって否定が後にくる言語は(日本語以外では)初めてです。 文法が非常に似ている韓国朝鮮語でも原則は前置なのです。 本来は 〜が無い を表す動詞 qavrd だそうです。 日本語の 〜ない と同趣旨です。 この面ではようやく日本語の仲間を見つけた気がしました。

例文は、丹菊先生の「日本語の隣人たち」白水社 「�競縫凜娶譴寮こΑ廚�らの引用です。 今後も基本的には同文献を参照文献とします。
「しない」が言えるようになりましたが、まだ会話はできません。 会話は相手がいて成立します。  「おなかすいた?」 「うん」 とか答えますね。 次ではニヴフの友達に再会した人が友達の村の様子を尋ねています。

    alr' jivd la?  アルシュ イイヴド ラ? ベリー(キイチゴなど)がなっているかい?

御察しのとおり、alr' jivd. で ベリーが実っている 、la が 「〜かい」です。 はい・いいえで答えられる質問は文末に la とか lu とか lo とかを付ければいいのです。 日本語に似てますね。 またウイルタ語、アイヌ語も同様です。

では、 はい・いいえ はどう言うのでしょう? 原資料では 

    jivdra.  イイヴドラ。 なってるよ。

と答えていますが、

    həŋga フンガ  はい
    k'awk  カウク  いいえ

と答えられるそうです。
さて 「誰それが」+「(何かを)する・した」 については現在(過去)・未来を述べる、否定する、質問する事ができるようになりましたが、まだ何かが足りません。 お気づきのように今まで登場した動詞はは自動詞だけです。 他動詞を使って、 「誰それが」+「誰か・何かに」+「(何かを)する・した」 はどう言えばいいのでしょう。 例文を見てみましょう。

    ɲi c'aj rad. ニ チャイ ラド。 私は茶を飲んだ。
    ɲi c'aχ tad ニ チャホ タド。 私は水を飲んだ。

c'ajが茶、c'aχが水です。 英語だとSVOでしたが、SOVの順に並んでいます。 ニヴフ語が日本語に似ている点の一つですが、やはり別の言語です。 「〜は」と「〜を」すなわち主格助詞と対格助詞は存在しません。 日本語ならば「茶を私は飲んだ」と言えますが、主語と目的語を位置で区別するしかなく順番は基本的にはかえられないと思います。(詳しくは調べていない) 主格助詞と対格助詞が無いのはアイヌ語も同様ですが、アイヌ語は人称接辞で格を示せるので、主語と目的語の位置は比較的自由です。  ウイルタ語は極めて大雑把にいうと「〜は」はありませんが「〜を」があります。 

さて、これで他動詞も使えるようになりました。 めでたしめでたし…

と言いたいところですが、よく見ると動詞が rad と tad となっています。 タイプミスでは? いいえ、どちらも「飲む・飲んだ」です。 

ニヴフ語には、結びつきの強い単語の間では先行する単語の最後の音によって後行する単語の頭の子音が変化する、という現象があるのです。  c'ajの最後の音は j です。 この時は rad となる。 c'aχのχの後では tad となります。 言語というものは一見簡単そうに見えても、どこかに一筋縄ではいかないところがあるものです。 これがニヴフ語のもっとも際立った特徴、頭子音交替で上記は一例にすぎません。 詳しい話は次回。

今日はここまで。
前回の続き、

「結びつきの強い単語」の間には頭子音交替が起こるのですが、結びつきとは具体的に何でしょう?

1.目的語+他動詞
  前回の例文で出てきた 「飲む」 rad tad はこの一例です。 
    飲む rad tad
  語彙集を探すと意味が同じで音の異なる他動詞が他にもありました。
    汲む ʁovd qovd
    煮る jed hed
 これらは頭子音交替の結果生まれるペアのようです。

2.「名詞+名詞」型の合成名詞
 誰それの物は 名詞+名詞 で言えますが、
 Bokon(人名)+taf(家) は Bokon raf となります。

もう一つありますが、今回はスキップ。 

それにしても、この交替の規則は一体どうなっているのでしょう? 次回に続きます。
実は頭子音交替を理解するに欠かせない情報は既に登場しています。 初回に紹介した子音表です。 今回の添付は同様の物です。 ご覧ください。

鼻音を境にして上下に分かれていますね。 閉鎖音 v.s. 摩擦音+顫(ふるえ)音 の対立になっています。 これがキモです。

単語1と単語2の組があり、単語1の語末の子音がC1、単語2の語頭の子音がC2とします。 

    C1が閉鎖音 → C2は摩擦音または顫音
    C1が摩擦音または顫音 → C2は閉鎖音

になるように後続の単語の語頭子音C2が変わるのです。 変わる相手は同じ色でしめしています。 今までに登場したのは r⇔t ʁ⇔q です。 (j⇔h は該当しません。 宿題)

ついでながら、ニヴフ語の文字表記は色々あり、複数の資料を見ているとクラクラしてきます。 そこでこの表に複数の表記を纏めておきました。 でもこれで全部ではありません。 他にキリル文字(ロシア文字)表記もあります。 orz それはおいおい 
ニヴフ語の音素

さて、いままでなじみのないニヴフ語の音がたくさん出てきました。 これらは実際どんな音なんでしょう? 言語学の教科書的にいえば 「ʁは摩擦閉鎖音で有声の口蓋垂音です。」 で終わりですが、やはり実際の音を聞きたいものです。 ʁ,r'(rʰ),p'(pʰ),q,ɲ,ə,ŋを含む単語の音を拾ってみました。 リンクをクリックすると母語話者による発音が聴けます。


ʁとr'(rʰ) http://www.ling-atlas.jp//r/sound/answer/nivkhNYT054.mp3
3055 動物 蜂、蜜蜂 bee /honeybee /ʁarʰ/

p'(pʰ)とq http://www.ling-atlas.jp//r/sound/answer/nivkhNYT058.mp3
3058 道具 浮き袋 air bladder /pʰoqi/

ɲとəとŋ http://www.ling-atlas.jp//r/sound/answer/nivkhNYT245.mp3
3233 人体 顔 face /ŋǝɲk/

実際に聞くと、 ʁが口蓋垂音である事がよく分かります。 口蓋垂とは俗にいういノドチンコで、これを揺らす音が口蓋垂音です。 つまりʁはうがいの要領での「ガー」なのです。

以上の音はニヴフ語サハリン方言語彙一覧 http://www.ling-atlas.jp/r/word/show/3 から抜粋しました。 この語彙一覧は簡易辞書としても使えます。

では今回はここまで。
そろそろ文の話に戻ります。

当初からあげてきた自動詞の文例をより詳しくして、どこに行ったかどこに来たかを言ってみます。 英語では前置詞を使い表現しますが、この点でもニヴフ語は日本語に似ています。

    ɲi Bokon daftoχ vid. ニ ボコン ダッフトッホ ヴィド。 私はボコンの家に行った。

Bokon daf は ボコン(人名)の家 で後に -toχ が付いているのです。 まさに日本語の 〜に に似ています。 もう一つ例文を見てみましょう。

    ɲi noɣlovoroχ p'r'əd. ニ ノグルヴォロッホ  プシュッド。 私はノグリキ村に来た。

noɣlovoノグルヴォ は ノグリキ村 ですが、今度は -roχ が付いています。 実は -roχ と -toχ は頭子音交替をしたペアなのです。 

ここで訂正、14の頭子音交替の規則は次のとおりです。

   ×  C1が閉鎖音 → C2は摩擦音または顫音
   ×  C1が摩擦音または顫音 → C2は閉鎖音
                ↓
    〇  C1が破裂音 → C2は摩擦音または顫音
    〇  C1が摩擦音または顫音 → C2は破裂音

さらに加えて、noɣlovoのように先行する単語の最後が母音であった場合は破裂音と同じ働きをします。 そこで t→r の音交替が起きたのです。 まさに「結びつきの強い単語」の間に頭子音交替が起こる例です。

今回はここまで。
格語尾

前回登場した語尾 -roχ/-toχ は日本語の 〜に(向かって) の働きに似ています。 期待通り、ニヴフ語には「てにをは」に相当する語尾、すなわち格語尾が他にもあります。
例によって丹菊先生の本から引用します。

    〜で、〜から -ux ウフ, -x フ
    〜の方へ -erχ エルフ
    〜で、〜でもって -gir ギル, -ɣir ギル,-kir キル
    〜より(比較) -ak アック
    〜に(させる) -ax アッハ
    〜よ(呼びかけ) -a ア
    〜と(一緒に) -gin ギン, -ɣin ギン, -kin キン

前回の-roχ/-toχと同様に、頭が子音の語尾では頭子音交替が起きることに注意してください。 これでまた表現の幅が広がりました。
ウイルタ語も概ね同じような働きをする語尾を持っています。 ただしニヴフ語にはない 〜を がウイルタ語にはあります。

例文は丹菊先生のホームページをご覧ください→ http://sakhalin.daa.jp/nivkheasy/nivkhgo03tenioha_easy.htm

では本日はここまで。
〜して〜する

今回は動詞の表現を広げます。
日本語の 飲んで行った は動詞1+動詞2の形です。 より正確にいうと動詞1は後ろに動詞2をつけられる形、すなわち連用形になっています。 これと同じ構造がニヴフ語にもあるのです。 もはや当然という感じで感激が薄いでしょうが、ここにニヴフ語の特徴「その2」が潜んでいます。 例文をあげます。

    ɲi kuzt vid. ニ クズト ヴィッド。 私が出て行った。

kuz- は 動詞 kuzd(外へ)出る の語幹です。 そうして -t が 〜て に該当しますが、もう一つ例文を見ると、

    c'i kuzr vid. チ クズル ヴィッド。 お前が出て行った。

-r となっています。 明らかに頭子音交替ではありません。 二つの例文で異なるのは主語だけ。 これはひょっとして……  そうです。 人称変化です。  7.では細かい事は無視して「動詞は人称変化しません」 と書きましたが、不思議なことに連用形だけは人称変化します。 現在形では -t と -r(r-') のみですが、その組み合わせがとても不思議です。

    一人称単数および全人称の複数  -t
    二・三人称単数             -r(r-')

つまり、二・三人称であっても複数だと -t なのです。  英語の -s からの推測でしょうか? 昔々、ニヴフ語はもっと徹底的に人称変化していたがだんだん縮小して連用形だけに半端な形で残っていると考える人もいるそうです。

もうひとつ連用形の特徴として完了形があります。

    jaŋ p'r'auror' vid. ヤン プシャウロシュ ヴィド。 彼(彼女)は勉強してから行った。

p'r'au- は  動詞 p'r'aud勉強する の語幹です。 この完了形も同様に人称変化し、一人称単数および全人称の複数の場合は -tot となります。 

今日はここまで。
〜して〜する  その2

ちょっと風変わりな点がある連用形ですが大変役に立ちます。 昨日の通常形、完了形に加えて未来についても専用の形があるのです。 なお未来の2つは人称変化しません。 

    通常形 jaŋ p'r'au-r' vid ヤン プシャウシュ ヴィッド。 彼/彼女は勉強しに行った。
    完了形 jaŋ p'r'au-ror' vid ヤン プシャウロシュ ヴィッド。 彼/彼女は勉強してから行った。
    未来形 jaŋ p'r'au-n vijd ヤン プシャウン ヴィイド。 彼/彼女は勉強しに行くところだ。
    未来完了形 jaŋ p'r'au-non vijd ヤン プシャウノン ヴィイド。 彼/彼女は勉強してから行く。

通常形とは過去形かつ現在形です。 [8]で過去形はないと書きましたが正確に言えば 

    過去のみを表す動詞の形はなく動詞の基本形が過去も現在も表わす

という事です。 日本語の動詞の基本形が現在の他に未来を表す事があるので

    日本語には未来形がない

と言うのと同趣旨であり、ニヴフ語で過去の出来事を表現できないわけではありません。

[8]で触れた副詞による方法の他に、連用形を使い過去であることを強調する方法があります。

    eʁlŋ iɲd. エガルン インド。 子どもが食事をする/した。

に対し

    eʁlŋ iɲ-r ad. エガルン イニラッド。 子どもは食事をしてしまっていた。

となります。 正確に言えば過去完了です。

今日はここまで。
指示代名詞

動詞の話のキモは前回で終わりました。 動詞の話はどうしても重くなる(笑)  今日は週末という事もあり気楽な名詞の話題とします。

日本語では指示代名詞は3つあります。 これ(近称)、それ(中称)、あれ(遠称) 3つある言語は意外と少なく広義の日本語である琉球諸語をのぞけば私は韓国朝鮮語しか知りません。 アイヌ語、ウイルタ語、中国語、英語は2つです。 フランス語は1つ。 多い方ではエスキモー語が断トツで、中でもユピック語は確か20以上! で、ニヴフ語はというと基本資料にははっきり書いていませんが、

    これ     tud(t'ud) トゥッド
    それ・あれ eɣd    エグッド
 
の2つのようです。 別資料では3つあるのですが、方言差かもしれません。

具多的に指し示せるものではなく、話題の中で出てきたものを指すときは別の言葉、

    hud フッド

を使うそうです。 この使い分けはアイヌ語にもあります。

sik sik.

↑sikは全てという意味です。 繰り返すと「おしまい」、物語の結び言葉です。
誰それの何々  引き続き名詞の話です。

[13]で触れたとおり、誰それの物は 名詞+名詞 にして、頭子音交替に配慮すれば

    Bokon(人名)+taf(家) → Bokon raf

出来上がりですが、私の何々、君の何々、彼/彼女の何々 は簡略化されます。

    私ɲi → ɲ- ニ
    あなたc'i → c'- チ / t'- ト
    彼/彼女jaŋ → ja ヤ/ i イ/ j イ

こののように短くなり、もはや独立した単語ではなく名詞の接頭辞となっています。

    ɲ-raf ニ ラフ 私の家

と言った具合です。 また、この簡略化は所有に限らず目的語にも働いて、

    jan ŋ-xerd. ヤン ニ・ヘルド。 彼/彼女は私に言った。

となります。

所有をあらわす接辞が接頭する点はアイヌ語も同様です。 我が家 のように日本語も同様です。 しかしウイルタ語は違います。 名詞の後に付きます。 ウイルタ語にはさらに面白い話があるのですが、又の機会とします。

sik sik
× jan ŋ-xerd. ヤン ニ・ヘルド。 彼/彼女は私に言った。
〇 jan ɲ-xerd. ヤン ニ・ヘルド。 彼/彼女は私に言った。
自分の何々

いきなり問題。 「私は私の家に行った」をニヴフ語で言ってみましょう。 必要な単語は全部既に出てる。 楽勝、楽勝。

    ɲi ɲraftoχ vid. ニ ニラフトホ ヴィッド。

ところが言語が一筋縄でいかない。 実は間違い。 ニヴフ語では必ず「私は自分の家に行った」と言わなければならのです。 正解は、

    ɲi p'raftoχ vi-d. ニ プラフトホ ヴィッド。

です。一人称に限らず何れの人称でも行った家が主語が所有する家なら p'- あるいは p'i- を用いなければならないのです。 このような制約がある言語を私は他に知りません。 ひょっとしたらニヴフ語だけかもしれません。

sik sik
名詞を修飾する

名詞と動詞の組み合わせが名詞と同様な働きをする事があります。 「私が獲った獲物」とかです。 英語では関係代名詞とかが登場して初めて習う時に戸惑いますが、ニヴフ語ではどうでしょう? そう日本語と同じ順番になる 筈 です。 というのは基礎資料はそこまでは書いていないし、今私が入手している限りのニヴフ語の文章には該当例がないのです。 アイヌ語でもそうですが、出版される文章は口承文芸が多く、いきおい複雑な文型は出てきません。 唯一見つけた例は、

    ŋa ŋanɣ taf 動物を獲る小屋    ŋa動物 ŋanɣd獲る taf小屋・家    

ですが、文脈から見ると「狩猟小屋」という一般的意味のようですので、主語の位置について断定を避けた次第です。 ともあれ、動詞に注目してください。 終止形 ŋanɣ-d から終止形の語尾 -d を取った形、即ち語幹が使われています。 動詞が名詞を修飾する時は語幹のみが使われるのです。

名詞を修飾するといえば形容詞がありますが、ニヴフ語には形容詞がありません。 と言っても、日本語や英語の形容詞と同様の働きをする単語は存在します。 しかしそれを敢えて動詞と分けて考える必要がないという意味です。 

    malʁo c'o マルゴ チョ たくさんの魚 malʁod多い

といった具合です。 同じ意味でアイヌ語にも形容詞はありません。 一方、ウイルタ語には存在します。

以上、「形容詞」については基礎資料の記述に基づいて書きましたが、形容詞的な働きをする単語を見てみると、特徴的な点があるように思われます。 ただそれが何かまだ考えがまとまりません。 実際、別の資料では形容詞を認めていますが、研究対象の方言が異なるのです。

以上、本日は煮え切らないお話でした。

sik sik
複数

ニヴフ語には複数を明示的に表現する方法があります。

    eɣlŋ-gun toraf p'it hunvd-ɣun. 子どもたちは夏の小屋に住んでいた。

eɣlŋ は eʁlŋ と同じで 子ども です。 -gun は複数を表わす語尾です。 日本語の たち、ら と同じような物です。 ただし、ニヴフ語はあくまで別の言語です。 hunvd は ある、いる、暮らしている で、 -ɣun は -gun が頭子音交替した形でして、主語だけでなく動詞の帆にも同じ語尾がつくのです。 ただしこの語尾は必ずつけなければいけない訳ではないのです。 実際、動詞の方にはついていない例があります。 また元々複数である c'inあなた達、in彼ら/彼女達 にはつけません。

複数の表示方法は言語ごとにてんでんばらばらです。 何かのついでではとても書ききれません。 どこかで改めて記したい内容です。

sik sik
動詞の話に戻り、時制の表現を整理しておきます。

    過去・現在形 ɲi vi-d. ニ ヴィッド。 私は行った。
    確定未来形  ɲi vi-j-d. ニ ヴィイド。 私は行くことになっている。
    意志未来形  ɲi vi-j-nǝ-d. ニ ヴィイヌッド。 私は行きたい。

以下連用形

    過去・現在形 jaŋ p'r'au-r' vid ヤン プシャウシュ ヴィッド。 彼/彼女は勉強しに行った。
    完了形 jaŋ p'r'au-ror' vid ヤン プシャウロシュ ヴィッド。 彼/彼女は勉強してから行った。
    但し、過去・現在形/未来形の連用形語尾は  二・三人称単数でのみ -r(r-')/-ror'
       一人称単数および全人称の複数では  -t/-tot。

    未来形 jaŋ p'r'au-n vijd ヤン プシャウン ヴィイド。 彼/彼女は勉強しに行くところだ。
    未来完了形 jaŋ p'r'au-non vijd ヤン プシャウノン ヴィイド。 彼/彼女は勉強してから行く。

連用形では連用形語尾自身が時制を表していましたが、過去完了では連用形の後ろに来る動詞が時制を表しています。

    過去完了 eʁlŋ iɲ-r ad. エガルン イニラッド。 子どもは食事をしてしまっていた。
    
同じ要領で進行形を表す動詞もあります。 これはここで初めて紹介します。

    進行形 eʁlgun ler't iɣmd. エガルグン レシュティグムド。 子どもたちが遊んでいる/遊んでいた。

以上で時制は出そろいました。

sik sik
何、いつ、どこ、誰、なぜ、どのように

[11]では はい・いいえ で答えられる疑問を紹介しました。 では疑問詞疑問はどういうのでしょう。 基本文献には

    c'i əɣr' p'r'ədŋa? チ ウグシュ プシュッドンガー? 君、いつ来たんだい?

が載っています。 əɣr' が いつ です。 文末の -ŋa は日本語の だい に相当し、「君、いつ来た?」と同様に無くても疑問文として成り立ちます。 おそらく他の疑問詞も日本語と同じ要領でしょうが、単純明快な用例は確認できなかったので、単語だけ紹介します。

t'anx         どこに
t'astox        どちらへ、どちら、どっち
nar'/nar'ŋa/t'awud   誰
nud          何
t'amd'iɣr'/t'amd'it どう、どのように
t'amd'ik        どれ、どんな、どのような
t'ad          どれ、どの
jaɲr',janr'      なぜ

sik sik
命令・使役・禁止

命令文は動詞語幹に語尾を付けることで表現します。 この語尾は命令の相手が単数か複数かで異なります。 単数では -jaヤ 複数では -ve/-be ヴェ/ベ です。

単数    c'aχ mar'kja! チャハ マシュク ヤ。 水をついでくれ。
複数    and'aj p'r'əve! アンジャイ プシュヴェー。 またおいでください。

禁止は t'aタ を禁止する行為の前に置きます。

      nəux t'a arak raja! ヌウフ ター アラック ラヤー。 今日はお酒を飲まないように。

nəux は 今日、arak が酒です。アルコールと同語源のようです。 raja は rad飲む の語幹に -ja が付いています。 動詞の前でない事、また文末は命令形になる事に注意が必要です。

sik sik
思いつきで始めたニヴフ語文法スケッチですが、基本的な文法事項は大体カバーできてそろそろ終わりに近づいてきました。 というところで文末の話です。

このトピックを書いていてニヴフ語の動詞は本当に日本語とよく似ていると感じ入りました。

    終止形:行く⇔通常形:vi-d 命令形:行け⇔vi-ja 連用形+動詞:行って〜する⇔vi-r' 〜d

という具合に対応しています。  面白い事に、推量は日本語の  終止形+助動詞:歩くでしょう  とそっくりの構造をしています。

    jaŋ vid-eq. ヤン ヴィダヤク。 彼/彼女は行っただろう。

ご覧のように vi-d行く は通常形即ち終止形で、それに -eq が付いています。 推量の語尾は他にもありますが同様です。 通常形につくという点では複数の語尾 -ɣun もそうです。

このようにニヴフ語では動詞の後に様々な形で様々な接辞が付いて表現の幅を広げています。 その中でひとつ重要なものを紹介します。

    jan pr'ə-ʁai, ɲi iɲ-ɣari-d-ra. 彼女たちが帰ったなら、私は食べてしまうのだぞ。

-ʁaj は 〜ならば の意味です。 このように文と文を接続する接続助詞や副詞があるようです。 なお上の例文と少し表記が違いますが出典のままとしておきました。 以上で動詞の話は終わりです。

sik sik
何々は何々

動詞の話は終わりましたが、英語の"This is a pen." 日本語の「これはペンである。」のような文はどういえばいいのでしょう。 多くの言語で「何々は何々」は通常の文と少し異なる形をとります。 ニヴフ語も例にもれません。 また超簡単な方法です。

    hud iɲk. フッド イニク。 これは食べ物です。

英語のbe動詞や日本語の「である」を特別にコピュラと言いますが、コピュラなしで名詞を二つ並べただけです。 これだけじゃぶっきらぼうです。 一番最初の例文[4]に登場した -ra を付けることもあります。

    hud iɲk-ra. フッド イニクラー。 これは食べ物ですよ。

日本語でも「これ、本」とかいう事もありますがあくまで例外的です。 周辺の言語を見ると、

ウイルタ語では人称やら複数表示が後ろの名詞につき過去形ではしっかりとコピュラが登場します。 但し3人称単数で現在ならば結果的に名詞の羅列となります。 

アイヌ語にもコピュラがありこれを省略することはできません。 どうも孤立無援です。 名詞羅列型を他の言語に探すと、

ロシア語ではまさに通常の表現です。 基本資料以外の資料を見るとニヴフ語にもコピュラらしきものが一応はありますので、ひょっとしたらロシア語の影響かもしれません。

ちなみにアイヌ語について正確にいうと北海道では該当しますが、樺太では省略可能です。 樺太アイヌ語はニヴフ語と隣り合っているので影響を受けたのかもしれません。

sik sik
さていよいよ最後の品詞、数詞のお話です。 

数は簡単、単語表を紹介したらお終まいと思ったら大間違い。 日本語を考えてみましょう。 結構複雑です。 代表的なものだけでも

無生物       ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ、…
人         ひとり、ふたり、三人、四人、五人、…
人以外の生物    一匹、二匹、三匹、四匹、五匹、…

といった具合に後につく言葉、量数詞の使い分けがあります。 日本語に構造がよく似ているニヴフ語では… そう、似た使い分けがあるのです。 残念ながら、手持ちの丹菊資料には一部しか載っていませんのでごく一部を紹介します。

人         ɲenŋ, menŋ, caqr nivɣun, …

これだけでも、1単語である ひとり、ふたり に対して分解可能な 三・人 に似た構造を見てとれます。 丹菊資料と別の方言を見ると、日本語の古語では三人以上も みたり、よたり と呼ぶの同じ系統、つまり -ŋ で終わる単語もあるようです。 更に、尋(ひろ 長さ)、艘、度(回数)等に相当する量数詞もあります。

今回以前の話題も併せて考えると、音声では日本語と全く異なるニヴフ語が構造(文法)では似ていて、音声では日本語に似ているアイヌ語が構造の深層では相違を見せています。 ウイルタ語はこの程度の荒っぽい議論なら双方とも日本語に似てるということになります。 全くもって興味深い話です。

では予定した話題は全て終わりました。 今後もなにか思いつきを書き込むかもしれませんが、おおむね連載はこれで終わりです。 お疲れ様でした。

sik sik

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