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ウラジミールの文章置き場コミュの短編小説「モーニング昇龍。〜第1章.気力相撲」

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名島表現塾提出課題、テーマ:実際の事件
2007年09月30日




「ナゼダ、ナゼコンナ事言ワレル!
あいつラ何ニモワカッテネエ〜〜!」

怒りに震える巨体があった。
彼の名は麻昇龍拳。
日本国の国技たる大相撲の横綱である。
肉厚で堅い手には週刊誌が広げられていた。
B5版、開くとB4サイズとなるがその巨体の前では文庫本のようだ。
「本誌独占告発!横綱八百長疑惑!!」
なる見出しで始まる記事。
彼のプライドを傷付け打ち砕くその内容。
そこには白星を金で買いあさったとされる麻昇龍拳関の動向が、さも見ていたかの様に書き並べてある。
「お、俺ハ八百長ナンカヤッテネエ〜〜」
彼の言葉に嘘偽りは無かった。
相撲こそは日本国の誇り高き国技。
一瞬で勝敗を分ける立ち技のみの格闘技。
それは全てが真剣勝負。
幕下のペーペーのドングリ背比べ戦から横綱の大勝負に至るまで、土俵で繰り広げられるのは徹底された真剣勝負である。
その誇りと精神はモンゴルというはるかな異国からやって来た彼にも継承されている。
にもかかわらず八百長呼ばわりされるとは。
もしもこの場にオーラの泉でお馴染みの江原啓之が居たとすれば、横綱の体から溢れ出す青黒い怒りのオーラを見たであろう。
そうである。横綱は八百長なんかやっていなかったのだ。しかして在りもせぬ疑惑、誤解を招く理由とは…。
「大相撲協会、無気力相撲に厳重注意発令!」
尚も続く中見出しのアオリ文句。
「無気力相撲ナンテネエヨ!」
一人吠える横綱。
「その通りだ。」
その叫びに呼応する、低い声が響く。
「オ、親方。」
眼前に立つのは横綱の師匠である高崎山親方であった。
「あるのは気力相撲だ。奴等は相撲を知らん。大相撲の真の姿を。」
実際、記事を書いた記者は、そして世間は大相撲の真実を知らない。
いや知らされていないのだ。その秘奥義の世界を。

「無気力相撲…八百長…ワシも現役時代はその様なありもしないソシリを受けた。
マスコミ共はそれが最強力士のあかしであるとも知らずにな。
麻昇龍拳よ。お前の胸の内は誰よりこのワシがわかっておる。」
「親方ァ、…ゴッツアンデス」
がっしりと抱き合う師弟。
国技最強の秘奥義を受け継ぐ者のみがわかりあえる苦悩があった。
では無気力相撲とは何か。
やる気の見えない取り組みによりワザと負けている、という八百長疑惑の事である。
しかしそれはデマ、妄言に過ぎなかった。
ここで秘奥義について説明せねばなるまい。
諸君は気功法を御存知だろうか。
西洋科学では解明されていない、体内を流れる生命エネルギー、気。
これを呼吸により作り出すのが気功法である。
目には見えない気を気合いと共に発射し相手にぶつける。
これこそが、勁、または発勁とも呼ばれる秘奥義の正体である。
相撲で言う試合開始の号令
「ハッケヨイ」。
これは発勁からきているという説がある。
大抵の相手は吹っ飛ばせる程の衝撃となるが、
いくさ場は土俵、闘うは大相撲。
重心を下げた突進を攻撃の基本とし、
格闘技者の中でも特に巨体を誇る力士達は、
気を食らっても吹っ飛ばされる者はまず居ない。
しかし相撲に於いては直接の決め技となりえぬも、一瞬のひるみ・よろめきは生じる。
その隙に勝敗は決まるのだ。
されど気を肉眼で捕らえる事は叶わない。
目に見えぬ衝撃を喰らう者の姿は、傍から観ればやる気を失ったかの様に見えるだろう。
それこそが無気力相撲の正体であった。
親方の言葉どおり、真の意味では無気力でなく気力相撲と呼ばれるべきだろう。
されど不可視なる現象、隠されたる秘奥義の事を世間の誰が知っていようか。
麻昇龍拳は今すぐにでも日本中に訴えて誤解を解きたい気持ちであった。
しかし数百年に渡り秘められてきた奥義を公表する事は許されない。
禁を破れば破門はまぬがれない。
涙を飲んで耐える王者。
その傍らには、おのれがかつて通った道を今歩む弟子を見守る師。
この時点で、二人の心は一つだった。

つづく

コメント(2)

なんか、少年ジャンプを読み漁ってたころに戻った気がします。

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