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ウラジミールの文章置き場コミュの短編戯曲;「竜宮島少女航海記」

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登場人物
 男
 語り部
 少女1(コジハール)
 少女2(アッチャーン)
 少女3(タカミーナ)
 少女4(マーリ・コーサマ)
 少女5(マーユーユ)
 少女6(カーシワーギ)
 少女7(トーモチーン)
 少女8(ヤーマーグッチリコー)
 島の長

(舞台中央に男、下手の前の方に語り部、上手に少女らと島の長。
 プロローグ・エピローグ部分は男が自ら台詞を喋るが、
それ以外のほとんどは語り部が朗読で代弁する。
 少女1〜8は声のみで演じる。
 少女2〜8の役者は舞台上で楽器により効果音を出したり黒子的な役割を担う。)

●男;待って下さい!あの島は本当にあったんだ!彼女たちは本当に居たんだ!
   どうか、私の、私の話をもう一度、きちんと聞いてください!

(蹴られる音、一斗缶を叩くとか)

●男;げふっ…
   ああ…誰も信じてくれないのか。
   この奇妙な話を話す度に、人は苦笑いを浮かべ、フッ、と鼻息をもらす。
   そして眉をひそめて
   「おいおい冗談はやめてくれよ、俺は忙しいんだ」
   と私を邪険に扱うんだ。
   或いは、
   「イヤだなぁ、おおかたおかしなキノコでもやっているのだろう」
   と、汚い物でも見るような目で見るんだ。
   でもあなたは、あなたは聞いて下さいますか?
   イヤなにぶん風変わりな話ですから信じる信じないはアナタの側の自由ですが、
   これは本当にあった事、この私が

(男と語り部の声、重なる)

男/語;身を持って体験した真実なのです。

(音、鉄琴)

男/語;私は…

語 ;東京は秋葉原で働いていました。
   秋葉原といえば様々なオタク文化が集まる聖地、
   アニメ、マンガ、ゲーム…そしてアイドル。
   そう私は、そのアイドルの頂点に君臨するAKB48の常設劇場、
   AKB劇場のスタッフだったのです。
   AKB48、そのコンセプトは会いに行けるアイドル。
   しかし地方在住者が秋葉原まで足を運ぶのは難しく、
   ライブチケットも今や入手困難なプラチナペーパー。
   そこでローカル版AKBとして、すなわち…私の体を日本列島だとしますと、

(男を挟んで上手に北海道の絵、下手に九州の絵を少女役の役者が出す。
 男は乳首、へそ、股間、九州の博多、
地図にはないがタイペイとジャカルタあたりを手で示す。)

語 ;秋葉原がここで。
   名古屋栄にSKE48、
   大阪難波にNMB48、
   福岡博多にHKT48と、地方に次々関連グループを増やしていきました。
   更には国内のみならず、
   台湾タイペイにはTPE48、
   インドネシアジャカルタにはJKT48を発足させるに至ったのです。

(少女ら九州、北海道の絵をしまい定位置に戻る)

語 ;ある日、突然私は支配人に呼ばれ、重大任務を授かりました。
   すなわち
   「海の向こうのどこかの国で、第3の海外版AKBを組織し、
   アイドルたるべき少女らを発掘せよ!」
   と。
   なんとやりがいのある仕事なのでしょう!
   台湾インドネシアときたからやっぱりアジア諸国がいいなあ。
   私はあれこれ考えて、タイ王国を候補とし、早速国際線へと乗り込みました。
   しかし私が乗ったそのジャンボジェットが、あろうことか海の上で墜落してしまったのです。

(少女の役者が飛行機の絵を持って男の前を通り過ぎ、絵を破いて墜落させる。
 音、ひゅ〜ん、どかーん。)

語 ;空の上から海の中へと放り出され、ぷかーりぷかりと波間をただ漂う哀れな私。

(音、レインスティックしばらく続く)

語 ;…それからしばらくの間の事を、私は覚えていません。

   一体どれほどの間、流されていたのでしょうか。

(音、レインスティック止む)

語 ;私は、唇に、鼻に、触れてくる暖かな感触に目を覚ましました。
   瞼を開くと、眼前の至近距離に人の顔が大接近、いや接触しております。
   その顔は私に、実に強引な口づけを浴びせているのです。
   ふーっと吹き込まれる熱い息。
   唇を離したその人は何と、目鼻立ちのくっきりした、世にも美しい少女でした。
   AKBで言えば、小島陽菜が日に焼けたような。
   ああもしかしたら私は死んでしまったのか、これは臨死体験ではないかしらん、

● 男;もっと、ぶちゅー、もっと…

語 ;と天にも昇る心持ちにうっとりしようとした瞬間、
   胃から肺から込み上げて、私の口から溢れます。
   これは苦しい、天国かと思えば地獄かも。

●男:ごぼごぼガボガボげぼげぼぼ、げふんげふん。

語 ;周りで男の人や女の人の怒号のような声が、まだボンヤリした私の耳に入ってきました。
   聞いた事のない言語でしたがそれは、
   「大丈夫か〜?しっかりしろ〜」
   と私を心配し励ます様に感じられます。

   ようやく事が飲み込めてきた。
   しこたま海水を飲み込んで、溺れてしまったこの私は、
   どことは知らぬ白浜に、波に運ばれ打ち上げられて、
   目の前のこじはる似の美少女に助けられた様なのです。
   命拾いした事がまだ信じられませんでした。

●男;ゲボッ、ゲボッ。ふうふう、ふう。

語 ;寒い。
   飲んだ塩水こそ吐ききっても、長い時間、波に漂い流されて、私の体は冷え切って、
   ガタガタ震えが来ています。

●男;ううう…

語 ;見回すとここは、南の国っぽいというのに、寒さにうち震えています。
   やがて私は、腰蓑姿の屈強な男達によってイキナリ体を持ち上げられ、
   小さな小屋へと運ばれました。

(曲1)

語 ;簡素な作りの小屋の真ん中では、暖炉だか焚き火だかが赤々と燃えています。
   火の周りには、小麦色の肌をした可愛らしい少女たちが、
   なんと一糸まとわぬ生まれたままの姿で、暖を取っているではありませんか。
   そして安置された私の横に、その全裸の少女の一人が添い寝して、
   ギュッて、
   ギュ〜ッてしてくれるのです。

●男;暖か〜い、軟らか〜い、スベスベだぁ〜

語 ;いよいよもってユメ幻か、独身人生38年、あんまりいい事なかったけれど、
   神様は最後の最後にかようなビッグなサプライズ・プレゼントを!

●男;ぱふぱふ、ぱふぱふ

語 ;少女らはしばらく添い寝したら、次から次へとチェンジします。
   なんだよ、何なんだよこの素晴らしすぎるサービスシステムは!
   しかし私は死の淵から蘇生したばかりで、エッチな事などする気になる程の体力もなく、
   少女らの温もりに誘われて、深い眠りに落ちました。

(明かり、暗転まで徐々に絞られる。曲1、フェイドアウト始め)

語 ;意識が途切れる瞬間に、私は思い出しました。
   そうだ、低体温症になった人を温めるには人肌がイイんだって…、
   昔、
   映画でこんなシーン見て興奮した…。

(曲1が終わり、暗転。2〜3秒後に曲2「ガムランホッパー」かかったら明転。
 少女らが踊りだす)

語 ;どこからか流れてきた不思議な音楽によって、私は目を覚ましました。
   もう添い寝の少女はいません。
   エキゾチックな響きに誘われて、小屋の外に出てみると、腰蓑姿の老若男女が見守る中、
   着飾った少女達がこれまた不思議な踊りを踊っています。
   お祭りか、神に捧げる儀式なのでしょうか。
   私はその美しさに、しばし呆然と見とれていました。

(曲2がフェイドアウトで終了し少女ら元の位置に戻る)

語 ;やがて舞が止み、私はハタと我に帰りました。
   そして生じた疑問をぶつけてみたのです。

語 ;「ここは…どこなんだい。」

語 ;彼女らは一瞬戸惑いを浮かべ、
   しかし驚くべき事に私の日本語の問に対し日本語で答えたのです。

(少女は2〜8の誰か)

少女;リューグー・ジマ。

語 ;竜宮島!?それがこの島の名前なのか

少女;ソウデース

語 ;日本語が通じる!
   島の人々に質問して得た答えは、あらかたこのようなものでした。

(説明台詞のBGMとして鉄琴、カリンバ等の音)

語 ;この島は竜宮島。
   太平洋戦争中、私と同じように浜辺に漂着した何人かの日本兵から日本語を学んだ。
   その日本兵達はこの島をたいそう気に入り、竜宮島と名付けた。
   戦争が終わって兵隊たちは日本へ帰って行ったが、島の娘と結婚して残った者もいた。
   ゆえに日本人の血を引く島人がいる。
   日本は我々島人の憧れの国だ。
   日本人は我々島人に様々な知恵を授けてくれた。
   日本から来た人よ、歓迎するぞ!

(楽器終了)

語 ;それから私はこの島で、夢のような楽しい日々を過ごしました。
   「ああ、本当に浦島太郎の竜宮城ように、ここは楽園だ〜。」
   しかし私は一方で、決して使命を忘れた訳ではありませんでした。
   「みんな、アイドルにならないか?
   歌って踊って、CDやDVD出して、コンサートやるんだ!」
   何しろテレビもインターネットも、ラジカセすらもない島です。
   アイドルが何かCDが何か、島人達はわかっていない様子でしたが、
   日本人の歌や踊りを教えると言えば、娘たちは喜んで私の元に集まってきました。
   「さあ、竜宮ジマ発のアイドルグループ、RGJ48を作るんだ!」
   最初に来たのは、人工呼吸で私の命を救った美少女です。

   「君の名前は?」

1 ;コジハール。

語 ;「君の名はコジハールって言うのか!全く偶然にも、それらしい名前だ。」
   思わずじっと見つめ合う私とコジハール。
   「ああコジハール…私はあの熱い口づけを忘れる事ができない…
   私は君に恋をしてしまったのだろうか…
   い、いけない!スタッフとして、所存タレントに恋愛するのは、御法度だ〜ぃ!
   でも、でもこの気持ち…」
   私が密かに心の中で葛藤していると、横から

2 ;ワタシはアッチャーンです

語 ;「あ…ああ、どうも。タイ人みたいな名前だな。」

3 ;タカミーナ、いいま〜す

4 ;ワッタシの名前はマーリ・コーサマで〜す

5 ;マーユーユです

6 ;カーシワーギで〜す

7 ;トーモチーンだよ

語 ;「おお、裸で私を温めてくれた君達も!
   偶然にもみんな聞いた事あるような名前だが、君達はRGJ48の、神セブンだ!」

8 ;ヤーマーグッチリコーです

語 ;「や…辞めたメンバーに似た名前だ…。」

(照明変わり、曲3・男がアカペラで歌う「ヘビーローテーション」がかかる。
男、曲に合わせ途中まで踊る。)

語 ;翌日から、特訓の日々が始まりました。

(男、踊りをやめるが曲3は続いている。)

●男;そこもっときびきび!
   そこしなやかに!
   トモチーン動きにきれがないぞ!
   ようしその調子!
   はい!

語 ;しかし特訓は思うようにうまくいきません。
   この島にはCDもラジカセも無いからです。
   私の歌唱力にも限界が来ていました。

(曲3なんとなく終了。フェイドアウトか?)

●男;ようし、今日はここまで!

語 ;彼女らにきちんとした訓練を受けさせなければ。
   しかし日本へ連絡を取ることもできません。

(音、レインスティック。照明変わる。)

語 ;うーむ困った、と浜辺で遠くを見ながら私は考えこんでいました。

1 ;ナニしてるか?暗い顔シテル

語 ;「コジハールか…」

1 ;日本へ帰リタイカ?このイクジナシ

語 ;「うわっ、よせ、海水をかけるのはよせよ、目に入ったじゃないか」

1 ;ハハハハハ、オッカシーィ

語 ;「やったな〜」

1 ;ホーラ、コッチヨー

語 ;「待て〜」

1 ;ワタシをツカマエテ〜

語 ;「あはははは」

1 ;あはははは

語 ;「あはははは」

1 ;あはははは

語 ;「ようし!…捕まえた」

(曲4かかる。照明変わる。)

1 ;モウ、離サナイデ

語 ;「コジハール…」

1 ;コノ島で、ず〜っと一緒に暮らソウ…ダッテ、アナタノ事、スキ

語 ;「駄目だ、そんな事言っちゃ!」

1 ;スキ、大スキ

語 ;「その口を閉じるんだ」

1 ;アイシテル

語 ;「閉じないなら、こうだ!」

(抱きしめて口づけ)

語 ;「この間のお返しだ」

(口の周りを手で拭い、抱きしめて倒れる、レインスティックと曲4止む、照明変わる)

語 ;私は幸せでした。
   何もかも忘れてこの島で愉快に暮らそうか…とも思いました。
   しかし私の心には、クサビのように刻まれた使命があります。
   新たなアイドルグループを世に出すという使命が。
   やはり私の意志は固かったのです。
   私は島の人々に訴えました。
   「船を貸して下さい!
   彼女たちを日本へ連れて行き、アイドルとしての教育を受けさせるんです!
   そうすれば、島への経済効果は大きいはず。」
   しかし彼らは頑として、首を縦には振らないのです。
   島人いわく…

島長;この島で生まれた民は、島を離れては生きていけない。
   島から離れると、海の神様の怒りにふれ、自分が自分ではなくなるのだ

(言い終わると島の長、退場)

語 ;ここは文明のひかり届かぬ未開の地。
   伝説や信仰とないまぜになって、くだらない迷信が息づいているのだ。
   この時私はそう思いました。

   しかしどんなに止められても、少女たちを連れて、日本へ行かなければならない。
   私は、島の大人達に黙って行動に出ました。

(音、レインスティック)

語 ;月の明るい、波の穏やかな夜に、一番大きな漁船を拝借して海へ出たのです。

(男、船をこぐ動き。船をこぐ音が加わる。)

語 ;8人の少女と共に。

   今にして思えば、何と無謀でムチャクチャな船出だったのでしょう。
   島一番の漁船といっても簡素な木造の帆船で、推進力は帆に受ける風と手こぎであり、
   羅針盤も海図もないまま、星を頼りに漕ぎ出したのです。

(船をこぐ音、この辺かもう少し後に止む)

語 ;不安がる少女たちをなだめつつも、私の心は晴れやかさに満ち満ちていました。
   これで使命を果たせるのだと。

   もしかしたら只の功名心の成せる所業だったのか、
   それとも愛するコジハールを連れて日本へ行ける喜びが勝っていたのかも知れません。

(レインスティック止む)

語 ;半日ほど過ぎた頃、静かだった海が突如、荒々しく騒ぎだしました。

(曲5)

語 ;船は為すすべもなく右往左往し、しぶきを浴びています。

少女;海ノ神様ガ怒ッテイル

少女;島ヲ出ルンジャナカッタ

(少女は2〜8の誰か)

語 ;少女らは怯えています。
   「みんな、しっかり捕まっていろ、振り落とされるな!」
   と声をかけたその直後、

少女;きゃあー

語 ;という声と共に海へ、落ちる少女を見ました。
   「タカミーナ、タカミーナ!」
   海を掻き回すような大しけの中、手を伸ばす事もロープを投げる事も叶いません。
   出来るのはただ、名前を呼ぶのみでした。
   「タカミーナ〜」
   あっという間に波間に呑まれ、彼女は見えなくなりました。
   そして、赤い魚がぴょん、ピチピチと跳ね上がり、海面から消えました。

(赤い魚の絵を持って横切る)

少女;きゃあー!

語 ;「マーリ・コーサマ、トーモチーン!」
   悪魔の様な大波が、また二人の少女をさらいました。
   後には青い魚が二匹、跳ねていました。

(青い魚の絵を持って横切る)

少女;きゃあー!

語 ;「マーユーユ、アッチャーン」
   今度はヒラメとカニでした。

(ヒラメとカニの絵を持って横切る)

少女;きゃあー

語 ;「カーシワーギ、ヤーマーグッチリコー」
   イカと、ウミガメが飛び跳ねて、波間に消えてゆきました。

(イカとウミガメの絵を持って横切る)

語 ;何故魚やカニ、イカ、ウミガメ等が跳ねるのか、この時はその意味を求める事もできず、
   「うう、なんて事だ、大事なアイドル達を、死なせてしまった…私の…私のせいで!」
   と只々悲しみや後悔に捕らわれるばかりだったのです。

   船には、最愛のコジハールと私を残すのみとなりました。
   「もはやこれまで。」
   そう思えば思う程、自分自身の愚かしさが呪わしく、
   そして、海に消えた少女らとコジハールに申し訳無い気持ちが、
   私の心身いっぱいに充満してきます。
   「すまない、こんな事になって。許してくれ、コジハール。」

1 ;アナタと一緒ナラ、怖くナイ。愛シテイルワ。
   デモキット、モウスグお別れ。
   最後ノ時ガ来ルマデ、離レバナレにナラナイヨウニ、シッカリ手ヲ繋イデイテ。

語 ;「離れはしないさ。このロープで、手と手を結ぼう。
   ほらこれで、ずうっと一緒だよ。」

(男、自分で左手にロープをつなぐ。)

1 ;ヤッパリ怖イ。
   ネエお願い。私がドンナニ変わり果てた姿にナッテモ、綺麗な私をズット覚エテイテ。

語 ;「何を言うんだコジハール。
   この手を繋いだまま、二人して遠い世界へ旅立つんだ。」
   私は覚悟していました。これから来たる死を、二人して受け入れようと。
   私は満足していました。愚かな私が選んだ人生の終末に。
   やがて今までにない大きな波が覆いかぶさり、飲み込まれた私の意識も途切れました。

●男;ゴボゴボげぼげぼガボガボボ…。

(曲5終わり、暗転。)

語 ;しかし今度も私は、不本意ながらまたもや目を覚ましました。
   丁度通りかかった、遠洋漁業の船に助けられたのです。

(曲6、明転。男は首まで毛布をかけられている。)

語 ;船内で正気を取り戻した私の、衰弱しきったこの体には全く力が入らず、
   手も足も動きません。
   私はそれでも力の限り叫んでいました。
   「コジハール、コジハールはどこだ!?タカミーナは?
   マーユーユ、アッチャーン、…ヤーマーグッチリコー!」
   けれども私以外には、漂流者の姿はなかったと、乗組員は言うのです。
   少女たちは、そして私の愛したコジハールは、
   どこだか知らぬ遠い海へと流されて、深く深く海底に沈んでしまったのか、
   それとも無惨にもサメの餌になってしまったのか。
   いいや、待て待つんだ私。
   私は思い出しました。
   最後の時、コジハールと離れたくないあまりにロープで手と手をつないだのだと。
   私の左手のその先には、愛するコジハールの右手が…

(毛布から指先だけ出す)

語 ;その時、乗組員の一人が、ニヤニヤ顔をして言うのです。
   「あんた左手になに縛り付けてんだよ、ペットの散歩かい?」
   船乗りの男達は一斉にドッと笑いだしました。
   一体何がおかしいというのか、いやそんな事はどうでもよろしい。
   私は私の左手を、布団の中から出しました。

(毛布から左手を出す。そしてロープの先を探す。)

語 ;確かにロープで繋がれた、その先にあるのは愛するコジハール…
   ではなく何だか赤黒い物体、いや、生きて動いているそれは、
   大きな伊勢海老だったのです。

(男、ロープの先に繋がれた伊勢海老を出す。
 出した瞬間、曲6から曲7に替わる。)

●男;おおコジハール、哀れなコジハール。私のせいでこんな姿に。

(鐘の音が、ちーん、と鳴る。照明、スポットに変わる。)

●男;島人たちが恐れていた海の神様の祟りで、
    美しかった彼女は伊勢海老に変えられてしまったのです。
    これがその伊勢海老です。
    なんと悲しい運命であった事か。
    信じてくれますよね。
    え、くだらん話で時間をムダにしたですと?
    何故です、何故私の話を信じてくれないのですか!
    待って、待ってください、あなたもヤッパリ行ってしまうのですか。
    ああ…あああ、誰か私の話を、聞いてください。そして信じてください!
    でないとコジハールがあまりにも可哀想です。
    どうか、お願いです!
    ああああ、秋本先生〜!

(スポット閉じ、暗転。曲7は続いている。)

(終わり)


平成23年11月25日初演

出演者
 男/ウラジミール大屋
 語り部/後藤峰彦
 少女1/新郷美奈
 少女2、4、6、8/岩崎香澄
 少女3、5、7/大屋美貴子
 少女2〜8の悲鳴/岩崎友璃香
 島の長/半田志朗

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