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名作を読みませんかコミュのレ・ミゼラブル  ヴィクトル・ユーゴー  52

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 ジャヴェルはなお目を伏せながらまじめに続けた。

 「市長殿、私の免職を当局に申し立てられんことをお願いに上がったのです。」

 マドレーヌ氏は驚いて何か言おうとした。

 ジャヴェルはそれをさえぎった。

 「あなたは私の方から辞職すべきだとおっしゃるでしょう。
  しかしそれでは足りません。
  自ら辞職するのはまだ名誉なことです。

  私は失錯をしたのです。
  罰せらるべきです。
  私は放逐せられなければいけないのです。」

 そしてちょっと言葉を切ってまたつけ加えた。

 「市長殿、あなたは先日私に対して不当にも苛酷であられました。
  今日は正当に苛酷であられなければいけません。」

 「そしてまた何ゆえにです。」とマドレーヌ氏は叫んだ。

 「何でそう無茶なことを言うのです。いったいどういう意味ですか。
  君は私《わたし》に対してどういう有罪な行為を犯したのです?

  君は私に何をしました?
  どんな悪い事を君は私にしました?
  君は自分で自分を責め、免職されることを望んでいるが……」

 「放逐されることをです。」とジャヴェルは言った。

 「放逐ですって、それもいいでしょう。
  しかし私にはどうも了解できない。」

 「只今説明申します、市長殿。」

 ジャヴェルは胸の底からため息をもらした、そしてやはり冷ややかにまた悲しげに言い出した。

 「市長殿、六週間前、あの女の事件後、私は憤慨してあなたを告発しました。」

 「告発!」

 「パリーの警視庁へ。」

 ジャヴェルと同様にあまり笑ったことのないマドレーヌ氏も笑い出した。

 「警察権を侵害した市長としてですか。」

 「前科者としてです。」

 市長は顔色を変えた。

 なお目を伏せていたジャヴェルは続けた。

 「私はそれを信じていました。
  長い前からそういう考えをいだいていました。
  ある類似点、あなたがファヴロールでなされた探索、
  あなたの腰の力、フォーシュルヴァン老人の事件、あなたの狙撃《そげき》の巧妙さ、
  少し引きずり加減のあなたの足、その他種々な下らないことです。

  そしてついに私はあなたをジャン・ヴァルジャンという男だと信じたのです。」

 「え?
  何という名前です。」

 「ジャン・ヴァルジャンというのです。
  それは二十年前私がツーロンで副看守をしていた時見たことのある囚人です。

  徒刑場を出てそのジャン・ヴァルジャンは、ある司教の家で窃盗を働いたらしいのです。
  それからまた、街道でサヴォアの少年を脅かして何かを強奪したらしいのです。

  八年前から彼は姿をくらまして、だれもその男がどうなったか知る者はなかったのですが、
  なお捜索は続けられていました。

  私は想像をめぐらして、ついにそのことをやってしまったのです。
  怒りに駆られたのです。
  私はあなたを警視庁へ告発しました。」

 少し前から記録を手に握っていたマドレーヌ氏は、まったく無関心な調子で尋ねた。

 「そして何という返事がきました。」

 「私は気違いであると。」

 「そして?」

 「そして実際、向こうの方が正当でありました。」

 「君がそれを認めたのは幸いです。」

 「認めざるを得なかったのです。
  真のジャン・ヴァルジャンが発見されたのですから。」

 マドレーヌ氏は持っていた帳簿を手から落とした。

 彼は頭をあげてじっとジャヴェルを見つめた。

 そして名状し難い調子で言った。

 「ほう!」

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