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名作を読みませんかコミュの源氏物語  与謝野晶子・訳  129

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 それに続いてまた入学の式もあった。

 東の院の中に若君の勉強部屋が設けられて、まじめな学者を一人つけて源氏は学ばせた。

 若君は大宮の所へもあまり行かないのであった。

 夜も昼もおかわいがりにばかりなって、いつまでも幼児であるように宮はお扱いになるのであったから、そこでは勉学ができないであろうと源氏が認めて、学問所を別にして若君を入れたわけである。

 月に三度だけは大宮を御訪問申してよいと源氏は定めた。

 じっと学問所にこもってばかりいる苦しさに、若君は父君を恨めしく思った。

 ひどい、こんなに苦しまないでも出世をして世の中に重んぜられる人がないわけはなかろうと考えるのであるが、一体がまじめな性格であって、軽佻なところのない少年であったから、

 よく忍んで、どうかして早く読まねばならぬ本だけは皆読んで、人並みに社会へ出て立身の道を進みたいと一所懸命になったから、四、五か月のうちに史記などという書物は読んでしまった。

 もう大学の試験を受けさせてもよいと源氏は思って、その前に自身の前で一度学力をためすことにした。

 例の伯父おじの右大将、式部大輔、左中弁などだけを招いて、家庭教師の大内記に命じて史記の中の解釈のむずかしいところの、寮試の問題に出されそうな所々を若君に読ますのであったが、若君は非常に明瞭に難解なところを幾通りにも読んで意味を説明することができた。

 師の爪じるしは一か所もつける必要のないのを見て、人々は若君に学問をする天分の豊かに備わっていることを喜んだ。

 伯父の大将はまして感動して、
「父の大臣が生きていられたら」
 と言って泣いていた。

 源氏も冷静なふうを作ろうとはしなかった。

「世間の親が愛におぼれて、
  子に対しては正当な判断もできなくなっているなどと、
  私は見たこともありますが、
  自分のことになってみると、それは子が大人になっただけ、
  親はぼけていくのでやむをえないことだと解釈ができます。
  私などはまだたいした年ではないがやはりそうなりますね」

 などと言いながら涙をふいているのを見る若君の教師はうれしかった。

 名誉なことになったと思っているのである。

 大将が杯をさすともう深く酔いながら畏まっている顔つきは気の毒なように痩せていた。

 変人と見られている男で、学問相当な地位も得られず、後援者もなく貧しかったこの人を、源氏は見るところがあってわが子の教師に招いたのである。

 たちまちに源氏の庇護を受ける身の上になって、若君のために生まれ変わったような幸福を得ているのである。

 将来はましてこの今の若君に重用されて行くことであろうと思われた。

 大学へ若君が寮試を受けに行く日は、寮門に顕官の車が無数に止まった。

 あらゆる廷臣が今日はここへ来ることかと思われる列席者の派手に並んだ所へ、人の介添えを受けながらはいって来た若君は、大学生の仲間とは見ることもできないような品のよい美しい顔をしていた。

 例の貧乏学生の多い席末の座につかねばならないことで、若君が迷惑そうな顔をしているのももっともに思われた。

 ここでもまた叱るもの威嚇するものがあって不愉快であったが、若君は少しも臆せずに進んで出て試験を受けた。

 昔学問の盛んだった時代にも劣らず大学の栄えるころで、上中下の各階級から学生が出ていたから、いよいよ学問と見識の備わった人が輩出するばかりであった。

 文人と擬生の試験も若君は成績よく通ったため、師も弟子でしもいっそう励みが出て学業を熱心にするようになった。

 源氏の家でも始終詩会が催されなどして、博士や文士の得意な時代が来たように見えた。

 何の道でも優秀な者の認められないのはないのが当代であった。

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