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名作を読みませんかコミュの「若草物語」  ルイザ・メイ・オルコット  17

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          第十二 ローレンスのキャンプ

 ベスは郵便局長でした。
 たいてい家にいて、時間をきめて局へいくことができましたし、かぎで小さな扉を開けて、郵便物をとって来て、くばるのがすきだったからです。

 七月のある日のこと、ベスはりょう手にいっぱい郵便物をかかえて帰り、家中にくばりました。
 「おかあさん、はい、花束。
  ローリイは一度も忘れたことないのねえ。」
 と、いって、ベスはおかあさんの花瓶にさしました。

 「メグねえさんには、手紙が一本、手ぶくろが片っぽ。」
 メグは、おかあさんのそばにすわって、シャツのそで口をぬっていましたが、
 「あら、りょうほう忘れて来たのに。
  お庭に落して来やしない?」

 「いいえ、郵便局に片っぽしかなかったわ。」
 「片っぽなんていやだわ。
  でもそのうちに片っぽ見つかるでしょう。
  あたしのお手紙は、ドイツの歌の訳したのがはいっているだけ、
  きっとブルック先生がなさったのね。」

 「ジョウ博士には、手紙が二通、本が一冊、おかしな古帽子、帽子は大きくて、
  郵便局からはみ出していました。」
 ベスは、書斉でなにか書きものしているジョウに、笑いながらいいました。

 「まあ、いやなローリイ。
  あたし日にやけるから大きな帽子がはやるといいといったら、
  流行なんか気にしないで、大きな帽子かぶりなさいっていうから、あればかぶるといったの。
  いいわ。
  あたしかぶって、流行なんか気にしないこと見せてあげよう。」
 その帽子をそばの胸像にひっかけて、手紙を読みはじめました。

 それはおかあさんからの手紙で、ジョウの目はよろこびにかがやきました。
 「愛するジョウ。
  あなたが、かんしゃくをおさえようと努めているのを見て、
  かあさんはたいへんうれしく思っています。
  あなたはその試み、失敗、成功についてなにもいわないし、
  日々あなたを助けて下さる神さまのほかには、だれも見ていないと考えておいででしょう。
  けれど、かあさんものこらず見ていました。
  そして、りっぱな実がむすびそうですから、
  あなたの決心が真心からであることがわかります。
  愛する娘よ、しんぼう強く勇ましくやり通して下さい。
  かあさんが、あなたに同情をよせていることを、常に信じて下さい。」

 「まあ、うれしい。
  百万円もらって山ほど賞讃されるよりうれしい。
  かあさんが助けて下さるんですもの、あたしやります。」
 ジョウは、顔をふせたので、うれし涙で原稿をぬらしてしまいました。
 やっと顔をあげたジョウはこのありがたい手紙を、
 ふいにおそって来る敵へのふせぎの楯にするつもりで、上衣の内がわにピンでとめました。

 もう一つの手紙はローリイからでした。
 「やあ、親愛なるジョウさん。
  明日、イギリス人の男の子と女の子が二三人来るから、おもしろくあそびたいのです。
  天気がよかったら、ロングメドウへボートでいってテントを張り、
  べんとうを食べてからクロッケーをし遊ぼうというわけ。
  焚火をし料理をつくり、ジプシイみたいにやるつもり。
  みんないい人たちで、そういうことが好き、ブルック先生もいっしょで、
  男の子のかんとくをして下さるし、ケイト・ボガンさんが女の子をとりしまって下さいます。
  みんなぜひ来て下さい。
  食料の心配は無用、すべてぼくのほうで用意します。
  右とりいそぎ、あなたの永久の友ローリイ。」

 「すてきだわ!」
 と、ジョウはさけんで、メグに知らせるためにいそぎました。
 「ね、かあさん、いってもいいでしょう。
  いけばローリイも助かるわ。
  あたしボートこげるし、メグはおべんとうの世話ができるし、
  エミイやベスだってなにか役にたつわ。」

 「ボガンの人たち、大人くさくなければいいのね。
  あの人たちのこと知ってる?」
 と、メグがいいました。
 「兄妹四人ということしか知らないわ。
  ケイトはあなたより年上、ふた児のフレッドとフランクはあたしぐらい、
  グレースは九つか十でしょう。
  ローリイは、その人たちと外国で知り合ったんだって。
  兄妹のうち男の子が好きらしいのよ。
  でもローリイは、ケイトをあまり好きでないらしいわ。」

 メグとジョウは、着ていく服について話し合いました。
 キャンプだから、しわくちゃになってもかまわないものにすることにきまりました。
 ジョウは、
 「さあ、精出して、今日中に、二倍の仕事をしておきましょう。
  明日、安心して遊べるように」といって、
  ほうきをとりにいきました。

 つぎの日、いい天気を約束しに、お日さまが娘たちの部屋をのぞいたとき、そこでは、娘たちがたのしい遠足の仕度をしていました。
 ベスは、さっさと仕度をすまして、窓ぎわへいって、おとなりのようすを、たえず知らせました。
 「あ、おべんとうをつめている。
  あら、ローリイが、まるで水兵さんみたいなかこうをして……」

 やがて、みんなの仕度ができました。
 ジョウは、ローリイがじょうだん半分でよこした旧式の麦わら帽子をかぶり、あかいリボンをしばりました。
 それを見て、メグがやめなさいというと、ジョウは

 「あたし、だんぜんかぶっていくの。
  だって、かるくて大きくて日よけになるし、みんなおもしろがるわよ。」
 と、いって、平気で出ていきました。
 それにつづいて、はなやかな三人の娘たちの小隊がいきました。

 ローリイは、かけて来て小隊をむかえ、じぶんの友だちに紹介しました。
 芝生が応接間になり、そこに陽気な光景がひろげられました。
 すぐにみんなは心やすくなり、えんりょなく話し合いました。
 テントやおべんとうは、クロッケーの道具などといっしょに、さきへ運んでありましたので、一行は二隻のボートにのりこんで岸をはなれました。

 ローレンス氏は、岸に立って帽子をふっていました。
 ローリイとジョウが一隻のボートをこぎ、ブルック先生と大学生のネッドが、もう一隻のほうをこぎました。
 ジョウのおかしな帽子は、みんなを笑わせて気分をやわらげ、ボートをこぐと、つばがばたばたしてすずしい風が起りましたし、ジョウにいわせれば、もし夕立でもふれば、みんなをいれてあげることができるそうでした。

 メグは、もう一隻のボートにのっていましたが、ブルック先生とネッドにとって、よろこばしい存在で、この二人の青年は、メグがいるので、いつもよりいっそうじょうずにボートをこぎました。

 ロングメドウについたとき、もうテントがはられ、クロッケーをするための、鉄輪がとりつけてありました。
 そこは、気持のよい緑の野原で、まんなかに、三本の樫の樹が、広く枝をはり、クロッケーをする芝生は、きれいに刈りこまれていました。

 「キャンプ・ローレンスばんざい!」
 みんなが、よろこびの声とともに上陸すると、ローリイがいいました。
 「ブルック先生が司令官で、ぼくが兵站総監、ほかのみんなは参謀です。
  それから、女のかたはお客さま、テントはみなさんのために、とくに張ったもので、
  樫の樹のところは客間、ここが食堂、そちらが台所です。
  あまり暑くならないうちに、ゲームをやって、それから、ごちそうの支度をしましょう。」

 フランク、ベス、エミイ、それからグレースは芝生に腰をおろし、ほかの八人がクロッケーをはじめました。
 ブルック先生はメグとケイトとフレッドと組み、ローリイは、サリー、ジョウ、ネッドと組みました。
 みんな張りきって、ものすごく戦い、しばらくは、どちらが勝つか敗けるわかりませんでした。

 そのうちに、フレッドが、だれも近くにいなかったので、じぶんの打ちいいように、ボールを靴のさきでころがしました。
 そして、
 「ぼくはいったよ。
  さあ、ジョウ、あなたを敗かして、ぼくが一ばんだ。」
 と、いいました。

 ジョウは、ずるいフレッドにむかって、やり返しました。
 そして、しばらく戦いましたが、とうとう勝つことができました。
 ローリイは、帽子をほおりあげましたが、お客の敗けたのをよろこんではいけないと気がつき、小声になってジョウにいいました。

 「きみ、えらかったぞ。
  あいつインチキやった。
  ぼく見てた。
  みんなの前でいってやることできないが、二度とやらないだろう。」

 メグも、髪をなおすふりをしてジョウをひきよせ、さも感心したというような顔で、
 「ほんとに、しゃくだったわ。
  でも、よくこらえたわ。
  あたし、うれしかった。」
 「ほめないでよ。
  メグ。
  今だってあいつの横っ面はりとばしたいくらいよ。
  もうすこしであのとき、かんしゃく玉がはれつしそうだったわ。」
  と、ジョウは、フレッドをにらみつけました。

 時計を出して、ブルック先生がいいました。
 「さあ、おべんとうにしましょう。
  兵站総監、きみは火を起させたり、水をくませたりして下さい。
  マーチさんとサリーさんとぼくとで食卓の支度をするから、
  だれかコーヒーをじょうずにいれる人はいませんか?」

 「ジョウがじょうずです。」
 と、メグはよろこんで妹をすいせんしました。
 ジョウは、このごろ、料理のけいこをしたので、こんな名誉な役をひきうけられるのだと思いながら、支度にかかりました。
 そのあいだに、少年たちは火を起し、近くの泉から水をくんで来ました。

 司令官とその部下は、すぐにテーブルかけをひろげ、食べものや飲みものをならべ、みどりの葉でかざりました。
 コーヒーの用意ができると、みんな席につきました。
 食慾はさかんでしたし、まことにたのしく、しばしば起る大きな笑い声は、近くで草を食べているおとなしい馬をおどろかせました。

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