ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

名作を読みませんかコミュの「若草物語」  ルイザ・メイ・オルコット  12

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
          第九 虚栄の市

 四月のある日、メグはじぶんの部屋で、いもうとたちにかこまれながら、トランクに荷物をつめこんでいました。

 おかあさんは、娘たちが年ごろになったら与えようと考えて、むかしのはなやかだった時代の記念品のしまってある杉箱を開けて、絹の靴下と、きれいな彫刻のある扇子と、かわいい青いかざり帯を下さいました。

 あくる日は、うららかな天気で、メグはたのしい二週間の遠出に家を出ました。
 上流のマフォット家の客になりにいくのです。
 おかあさんは、あまりこの訪問をよろこびませんでしたが、メグが熱心に頼むし、サリイがよく面倒を見ると約束してくれたので、冬の間よくはたらいたごほうびの意味で許したので、メグは、上流社会の生活を味わう第一歩をふみ出したのであります。

 マフォット家に客となってみると、メグはそのすばらしい家や、そこに住む人々の上品さに、気をのまれてしまいました。
 その生活は、軽薄でしたが、みんなが親切でしたから、らくな気持になりました。
 すばらしいごちそうをたべ、りっぱな馬車で乗りまわし、上等な服を着かざって、なにもせずに遊び暮すことは、たしかに、たのしいことでした。

 それはメグの趣味にかない、メグはその家の人たちの、会話や態度や服の着こなしや、髪のちぢらしかたなどを、まねしようと努めました。
 そして、金持の家の暮しのゆたかさにくらべると、貧乏なわが家の暮しが、いかにも味気なく不幸に見えて来ました。

 メグは、マフォット家の、三人のわかいおじょうさんたちの気にいって、散歩、乗馬、訪問、芝居やオペラ見物、夜会など、いつもいっしょに、たのしい時間をすごしました。
 そして、ベルには婚約者があることがわかりましたが、メグはそれに興味をもち、ロマンチックなことに思えました。

 マフォット氏は、ふとった老紳士で、メグのおとうさんを知っていました。
 マフォット夫人も、やはりふとった婦人で、メグをかわいがってくれ、「ひな菊さん」という名で、よんでくれました。

 いよいよ、夜会があるという日、三人はみんなすばらしい服を着て、はしゃいでいるのに、メグはじぶんのポプリンの服のみすぼらしさに心がおもくなりました。
 それでも、服のことなど、なんとも思っていないように、三人は親切にメグにむかって、髪をゆってあげようとか、かざり帯をしめてあげようとかいいましたが、メグはその親切のなかに、じぶんの貧しさへのあわれをみてとり、いっそう心は重くなるのでした。

 そこへ、女中が花のはいっている箱をもって来ました。
 アンニイが、
 「ジョージから、ベルへ来たんだわ。」
 と、いいましたが、女中は、手紙をさしだしながら、
 「マーチさんへと、使いの者が申しました。」
 と、いいました。

 「まあ、すてき。
  どなたから?
  あなたに恋人があるとは知らなかったわ。」
 みんなは、強い好奇心をいだきました。
 「手紙は母から、花はローリイからですわ。」
 「まあ、そうなの。」
 と、アンニイは、みょうな表情でいいました。

 母からの手紙は、みじかいけれど、よい教訓でした。
 メグはポケットにしまいました。
 また、花はしずんだ気持をひきたててくれました。
 その幸福な気持で、メグは、しだとばらをわずかとって、あとは気前よくわけましたので、メグのやさしさに心ひかれたようでした。
 メグが、みどりのしだを髪にさし、ばらの花を胸にさしたので、服はそのためにいくらかひきたって見えました。

 メグは、その夜、心ゆくまでダンスをしました。
 みんなが親切にしてくれ、歌をうたえばいい声だとほめ、リンカーン少佐は、あの目の美しい令嬢はどなたと尋ねましたし、マフォット氏は、メグの身体にばねみたいなものがある、ぜひメグとダンスするといいました。

 こうしてたのしくしていたのに、温室のなかに腰かけて、ダンスの相手がアイスクリームを持って来てくれるのを待っていたとき、うしろで話す話し声をふと聞いて、メグは気分をこわされました。

 「いくつぐらいでしょう?」
 「十七八かしら、」
 「あの娘たちのうちの一人が、そういうことに、なったらたいしたものですよ。
  サリイがいってましたが、あの人たちは、このごろとても親しくしていて、
  それに、あの老人は娘たちに、まるで夢中になっているんですって。」
 「そりゃ、マーチ夫人の計略ですよ。
  娘のほうではそんな気はなさそうだけど、」
 そういったのは、マフォット夫人でした。

 「あの子ったら、おかあさんからだなんてうそついて、花がとどいたら顔をあかくしたわ。
  いい服さえ着せたら、きれいになるでしょうに。
  木曜日にドレス貸してあげようといったら、あの子、気をわるくするかしら?」

 「あの子、自尊心は強いけれど、モスリンのひどい服しかないのだから、
  気をわるくはしないでしょう。
  それに今晩の服をやぶくかもしれないから、貸してあげる口実になるわ。」
 「そうねえ。
  あたしローレンスをよんで、あの子をよろこばしてあげましょう。
  そして、後で、からかってあげましょう。」

 そこへ、ダンスの相手がもどって来ました。
 メグは、今のうわさ話に怒りをもやし、すぐにも家へ帰って、おかあさんに心の痛みを訴えたくなりました。

 けれど、メグの自尊心は、むろんそのことをさせるわけもなく、できるだけ、ほがらかにふるまったので、だれもメグの努力に気づきませんでした。
 夜会がおわると、メグはほっとしました。
 ベットのなかで考えていると、ほてったほおに、涙が流れました。

 あのおろかなうわさ話は、メグに新らしい世界を開いてくれ、古い平和の世界を根こそぎみだしてしまいました。
 あわれなメグは、ねぐるしい一夜をあかし、おもいまぶたの、いやな気分で床をはなれました。
 その朝は、だれもぼんやりしていました。
 娘たちが編物をはじめる気力が出たときには、もうおひるでした。

 メグは、みんなが好奇心で、じぶんのことを気にしていることを知りましたが、ベルが手をやめて感傷的ないいかたで、こういったので、なにもかもわかりました。
 「ねえ、ひな菊さん、木曜日の会に、
  あなたのお友だちのローレンスさんに招待状を出しましたの。
  あたしたち、お近づきになりたいし、それに、あなたに対する敬意ですからね。」

 「御親切にありがとうございます。
  でも、あのかた、いらっしゃらないでしょう。
  七十に近い、お年よりですもの。」
 「まあ、ずるい、あたしのいうのは、わかいかたのほうよ。」
 と、ベルは笑いました。

 「わかいかたって、いらっしゃいませんわ。
  ローリイなら、まだ子供で、いもうとのジョウくらいでしょう。
  あたしはこの八月で十七ですもの。」
 「あんなりっぱな花をおくって下すって、ほんとにいい方ね。」
 と、アンニイが、意味ありげにいいました。

 「ええ、いつでも下さるの。
  あたしの家のみんなに。
  あのかたの家に、いっぱい花があるし、あたしの家ではみんなが花がすきだからです。
  母とローレンスさんとはお友だちでしょう。
  だから、あたしたち子供同志も遊びますの。」
 メグは、この話を、うちきってくれればいいと思いました。

 「ひな菊さんは、まだ世間のことにうといのね。」
 と、クララはうなずきながら、ベルにむかっていいました。
 「まるで、まだあかちゃんね。」
 と、ベルは肩をすぼめました。

 そのとき、マフォット夫人が、レースのついた絹の服を着てはいって来ました。
 「あたし、これから娘たちのものを、もとめにまいりますが、みなさん御用はありませんか?」
 「ございませんわ、おばさま、ありがとう。
  あたしは木曜日には、あたらしいピンクの絹のを着ますし。」
 と、サリイがいいました。

 「あなた、なにお召しになるの?」
 と、メグにサリイが尋ねました。
 「昨夜の白いのを来ますわ。
  ひどくさけましたが、もしうまくなおせましたら。」

 「どうして、かわりを家へとりにおやりにならないの?」
 と、気のきかないサリイがいいました。
 「かわりなんか、あたしありませんわ。」
 やっとメグがいったのに、サリイは人のよさそうな、びっくりしたふうで、
 「あれっきり、まあ、」
 と、いいかけましたが、ベルは頭をふって、サリイの言葉をさえぎってやさしくいいました。

 「ちっともおかしくないわ。
  まだ社交界に出ていないのに、たくさんドレスこしらえておく必要ないわ。
  ひな菊さん、いく枚あっても、お家へとりにいかせなくてもいいわ。
  あたしの小さくなった、かわいい青色の絹のが、しまってありますから、
  あれを着てちょうだいな。」

 「ありがとうございます。
  でも、あたしみたいな子供には、この前のでたくさんですわ。」
 「そんなことおっしゃらないで、あなたをきれいにしてみたいの。
  だれにも見せないように仕度してシンデレラ姫みたいに、ふたりでふいに出ていって、
  みんなをおどろかしたいの。」
 と、ベルは笑いながら、けれど、あたたかい気持ですすめるので、目雲それをこばむことはできませんでした。

 木曜日の夕方、ベルと女中で、メグを美しい貴婦人にしあげました。
 髪をカールし、いい香りの白粉をぬりこみ、唇にさんご色の口紅をぬり、空色のドレスを着せ、腕環、首かざり、ブローチなど、装身具でかざりたてました。
 美しい肩はあらわに、胸にばらの花はあかく、ベルも女中も、ほれぼれとながめました。
 「さあ、みんなに見せてあげましょう。」
 と、ベルは、ほかの人たちのつめかけている部屋へ、メグをつれていきました。

 メグは、ハイヒールの青い絹の舞踏靴をはき、長いスカートをひきずり、胸をわくわくさせながら歩いていきました。
 鏡がかわいい美人だと、メグにはっきり教えてくれたので、メグはかねての望みがかなえられた満足を味わい、じぶんから進んで、美しさを、見せびらかそうとさえしました。

 ベルは、ナンとクララにむかって、
 「あたしが、着かえて来る間に、ナン、あなたは裾さばきと、靴のふみかたを教えてあげてね。
  ふみちがえてつまずくといけないから。
  それから、クララ、あなたの銀のちょうちょを、
  まんなかにさして髪の左がわのカールをとめてあげてちょうだい。
  あたしのつくった、すてきな作品をだめにしちゃいやよ。」
 と、いって、じぶんの成功に、さも満足らしい顔つきで、いそいで出ていきました。

 ベルが鳴りひびき、マフォット夫人が、使いをよこして、娘たちにすぐ来るように、告げたとき、メグはサリイに、ささやきました。
 「あたし、階下へいくのこわいわ。
  なんだか、とてもへんな、きゅうくつな気持で、それに半分、はだかみたいで。」
 「とてもきれいだからいいわ。
  あたしなんかとてもくらべものにならない。
  ベルの趣味はすてき、ただつまずかないようにね。」

 心のなかにその注意をたたみこんで、メグは無事に階段をおり、客間へ、しずかにはいっていきました。
 メグは、たちまちみんなの目をひきつけ、この前の夜会のときと、まるでちがって、わかい紳士たちが、ちやほやして、いろいろ気にいるようなことを話しかけました。

 ソファに腰かけて、他人の品定めをしていた数人の老婦人たちは、メグに興味をもち、なかの一人がマフォット夫人に身もとを尋ねました。
 「ひな菊マーチです。
  父は陸軍大佐で、あたしどもとおなじ一流の家がらですが、破産しましてね、
  ローレンスさんと親しいんです。
  家のネッドはあの子に夢中なんですよ。」
 「おや、そうなんですの。」
 と、その老婦人はもっとよく見ようとして眼鏡をかけました。

 メグは、聞えないふりをしましたが、夫人のでたらめにはあきれました。
 けれど、その妙な気持を心のすみにおしつけ、笑いをたたえて、貴婦人らしくふるまっていました。
 ところがメグの顔からきゅうに笑いがきえました。
 正面にローリイの姿を見たからで、その目はじぶんを非難しているではありませんか。
 ローリイは、笑っておじぎをしましたが、メグはこんな姿でなくじぶんの服を着ていればよかったと思いました。

 メグは、そばへいき、
 「よくいらっしゃいました。
  お出でにならないと思っていました。」
 「ジョウが、ぜひいって、あなたのようすを見て来てほしいというので来たんです。」
 「ジョウに、なんておっしゃるつもり?」
 「どこの人だかわからなかったといいます。
  だって、まるで大人みたいで、あなたらしくないんですもの。」

 「みんなでこんななりにさせたの。
  あたしもちょっとしてみたかったけど。
  ジョウびっくりするでしょうね?
  あなたもこんなの、おいや?」
 「ぼく、いやです。
  わざとらしく、かざりたてたの、いやです。」

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

名作を読みませんか 更新情報

名作を読みませんかのメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング