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名作を読みませんかコミュの「ロミオとヂュリエット」  シェークスピア  20

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   第四幕

   第《だい》一場《ぢゃう》  ローナ。
                   ロレンス法師《ほふし》の庵室《あんじつ》。



   (ロレンス法師《ほふし》とパリスと出る。)

ロレ  木曜日《もくえうび》と仰《おほ》せらるゝか?
    では早急《さっきふ》な事《こと》ぢゃ。

パリス 舅《しうと》カピューレットどのが其樣《そのやう》にしたいと被言《おしゃ》る。
    予《わし》とてもそれを遲《おそ》うしたいとは思《おも》ひませぬ。

ロレ  姫《ひめ》の心《こゝろ》はまだ知《し》らぬと仰《おほ》せらるゝ。
    すれば段取《だんどり》が素直《すなほ》でない、
    吾等《われら》は好《この》もしう思《おも》ひませぬ。

パリス チッバルトの落命《らくめい》をいみじう歎《なげ》いてゞあったゆゑ、
    涙《なみだ》の宿《やど》には戀神《ビヰーナス》は笑《ゑ》まぬものと、
    縁談《えんだん》を差控《さしひか》へてゐたところ、
    餘《あま》り甚《きつ》う歎《なげ》いては、
    姫《ひめ》の身《み》が心元《こゝろもと》ない。

    獨《ひとり》でゐれば洪水《こうずゐ》のやうに出《で》る涙《なみだ》も、
    交《まじ》らふ者《もの》があれば堰止《せきと》むることも出來《でき》るものと、
    舅御《しうとご》の才覺《さいかく》にて、
    急《きふ》に婚禮《こんれい》と事《こと》が決《きま》った。
    速《はや》うせねばならぬ仔細《わけ》を、何《なん》と會得《ゑとく》めされたか?

ロレ  (傍を向きて)
    それは遲《おそ》うせねばならぬ仔細《わけ》が、
    此方《こち》に解《わか》ってをらなんだらなア!
    あれ、御覽《ごらう》ぜ、姫《ひめ》が此庵《こゝ》にわせられた。

    (ヂュリエット出る。)

パリス 嬉《うれ》しう逢《あ》ひました、我妻《わがつま》。

ヂュリ 妻《つま》とも呼《よ》ばしませ、婚禮《こんれい》が叶《かな》ふなら。

パリス 叶《かな》はいでならうか、此次《このつぎ》の木曜日《もくえうび》には?

ヂュリ 叶《かな》はいでならぬことは叶《かな》ふ筈《はず》ぢゃ。

ロレ  こりゃ格言《かくげん》ぢゃわい。

パリス 今日《けふ》は師《し》の御坊《ごばう》に、
    懺悔《ざんげ》をばしよう爲《ため》にわせられたか?

ヂュリ はい、というたなら、貴下《こなた》へ自白《ざんげ》をしたことになりませうぞ。

パリス 吾等《われら》を思《おも》うてゐるといふことを、
    御坊《ごばう》に打明《うちあ》けて言《い》うて下《くだ》され。

ヂュリ では、打明《うちあ》けて申《まう》しませう、
    わたしは御坊樣《ごばうさま》を思《おも》うてゐます。

パリス 吾等《われら》をも同《おな》じやうに思《おも》うてゐる、
    と言《い》うて下《くだ》されうがな。

ヂュリ さア、言《い》ふにせい、それは背《せ》で言《い》うてこそ價値《ねうち》もあれ、
    面《かほ》を見合《みあ》せて言《い》はうより。

パリス やれ、笑止《きのどく》や、
    卿《そなた》の面《かほ》は涙《なみだ》で甚《いか》う汚《よご》れてゐる。

ヂュリ 涙《なみだ》が何程《どれほど》の事《こと》をしませう、
    生得《うまれつき》、見《み》ともない面《かほ》ぢゃもの。

パリス 其樣《そのよ》なことを被言《おしゃ》るのは、
    われから我面《わがかほ》を讒訴《ざんそ》するのぢゃ。

ヂュリ 眞《ほん》の事《こと》は讒訴《ざんそ》とは言《い》はれぬ、
    ましてこれは後言《かげごと》ではない、
    直《ぢか》に面《かほ》に對《むか》うて言《い》うてゐるのぢゃもの。

パリス いや、卿《こなた》の面《かほ》は今《いま》では予《わし》の有《もの》ぢゃに、
    それをば其樣《そのやう》に惡《あ》しう被言《おしゃ》るのは讒訴《ざんそ》ぢゃ。

ヂュリ ほんに然《さう》もあらうか、妾《わたし》の有《もの》ではないゆゑ。
    (ロレンスに)
    御坊樣《ごぼうさま》、今《いま》お暇《ひま》でござりますか、
    改《あらた》めて晩《ばん》のお祈祷頃《いのりごろ》に參《まゐ》りませうか?

ロレ  いや、今《いま》でも故障《こしゃう》は無《な》い。
    若殿《わかとの》、憚《はゞか》りぢゃが、暫《しばら》くの間《あひだ》、
    こゝを吾等《われら》に。

パリス おゝ、かりそめにも勤行《ごんぎゃう》のお妨《さまた》げをしてはならぬ!
    ヂュリエットどの、木曜日《もくえうび》には、
    朝《あさ》早《はや》うお迎《むかへ》に行《ゆ》きませうぜ。
    それまでは、おさらば。
    此《この》聖《きよ》い接吻《キッス》を保有《しま》っておいて下《くだ》され。

    (パリス入る。)

ヂュリ おゝ、早《はや》う扉《と》を閉《し》めて、そしてしめてまうたら、
    わたしと一しょに泣《な》いて下《くだ》され。
    もう絶望《だめ》ぢゃ!
    絶望《だめ》ぢゃ、絶望《だめ》ぢゃ!

ロレ  あゝ、これ、ヂュリエットや、
    其《そ》の悲歎《かなしみ》は善《よ》う知《し》ってをる!
    何《なん》ぼう搾《しぼ》っても予《わし》の智慧《ちゑ》には能《あた》はぬ。
    次《つぎ》の木曜《もくえう》には、寸分《すんぶん》の猶豫《ゆうよ》もなう、
    彼《あ》の若《わか》と婚禮《こんれい》を爲《し》やらねばならぬと聞《き》いた。

ヂュリ いいえいいえ、それを中止《やめ》にする方便《てだて》が無《な》いなら、
    聞《き》いたなぞとおッしゃるな。
    お前《まへ》の智慧《ちえ》にも能《あた》はぬなら、
    つい予《わし》の覺悟《かくご》をば、
    良《よ》い分別《ふんべつ》ぢゃと讃《ほ》めて下《くだ》され。
    すれば此《この》懷劒《くわいけん》で今直《いますぐ》に敢行《しての》けう。

    ロミオとわしの心《こゝろ》と心《こゝろ》を結《むす》び合《あ》はせたは、
    神樣《かみさま》、手《て》と手《て》を繋《つな》いだはお前《まへ》。
    すれば、お前《まへ》がロミオへの封印代《ふいんがは》りにした、
    此《この》手《て》を、他《あだ》し證書《しょうしょ》の、
    封印《ふういん》に使《つか》はうより、又《また》僞《いつは》りの無《な》い、
    此《この》心《こゝろ》を操《みさを》に背《そむ》いて、
    他《あだ》し男《をとこ》に向《む》けうより、此《この》懷劒《くわいけん》で、
    手《て》も心《こゝろ》も突殺《つきころ》してのけう。

    ぢゃによって今直《いますぐ》にお前《まへ》の長《なが》い年功《ねんこう》で、
    良《よ》い思案《しあん》をして下《くだ》され。
    さもなくば、此《この》怖《おそろ》しい懷劒《くわいけん》を、
    難儀《なんぎ》の瀬戸際《せどぎは》の行司《ぎゃうじ》にして、
    年《とし》の功《こう》も智慧《ちえ》の力《ちから》も、
    如何《どう》とも能《よ》うせぬ女一人《をんなひとり》の面目《めんもく》を、
    今《いま》こゝで裁決《とりさば》かす、見《み》て下《くだ》され。

    さ、早《はや》う何《なん》となと言《い》うて下《くだ》され。
    わしゃ早《はや》う死《し》にたい、
    お前《まへ》の言《い》ふことが何《なん》の役《やく》にも立《た》たぬやうなら。

ロレ  まア、お待《ま》ちゃれ。
    助《たす》かる術《すべ》を思《おも》ひついたわ。
    必死《ひっし》の厄《やく》を脱《のが》れうためゆゑ、
    必死《ひっし》の振舞《ふるまひ》をもせねばならぬ。

    パリスどのと祝言《しうげん》するよりも、
    寧《いっ》そ自害《じがい》せうと程《ほど》の、
    逞《たくま》しい意志《こゝろざし》がおりゃるなら、

    いゝやさ、恥辱《はぢ》を免《まぬか》れうために、
    死《し》なうとさへお爲《し》やるならば、
    同《おな》じ望《のぞみ》のために、
    死《し》ぬるに似《に》た一事《あること》をば、
    多分《たぶん》敢行《しての》くることが出來《でけ》う。
    敢行《しての》けう意《こゝろ》なら救《すく》はるゝ術《すべ》を授《さづ》けう。

ヂュリ おゝ、パリスどのと祝言《しうげん》をせう程《ほど》なら、
    あの塔《たふ》の上《うへ》から飛《と》んで見《み》い、
    山賊《やまだち》の跳梁《はびこ》る夜道《よみち》を行《ゆ》け、
    蛇《へび》の棲《す》む叢《くさむら》に身《み》を潛《ひそ》めいとも、
    言《い》はッしゃれ。

    吼《ほ》ゆる荒熊《あらくま》と一しょにも繋《つな》がれう、
    墓《はか》の中《なか》にも幽閉《おしこ》められう、
    からからと鳴《な》る骸骨《がいこつ》や、
    穢《むさ》い臭《くさ》い向脛《むかはぎ》や黄《き》ばんだ頤《あご》のない、
    髑髏《しゃれかうべ》が夜々《よるよる》掩《おほ》ひ被《かぶさ》らうと。

    又《また》昨日《きのふ》今日《けふ》の新墓《しんばか》で、
    死人《しびと》の墓衣《はかぎ》に苞《くる》まって隱《かく》れてゐよとも、
    言《い》はッしゃれ。

    聞《き》いたばかりでも、例《つね》は身毛《みのけ》が彌立《よだ》ったが、
    大事《だいじ》の操《みさを》を立《た》つる爲《ため》なら、
    躊躇《ちゅうちょ》せいで敢行《しての》けう。

ロレ  では、待《ま》ちゃれ。
    先《ま》づ今日《けふ》は立歸《たちかへ》って、嬉《うれ》しさうにもてなし、
    パリスどのとの祝言《しうげん》を承諾《しょうだく》しやれ。
    明日《あす》は水曜日《すいえうび》ぢゃ。
    明日《あす》は何《なん》とかして一人《ひとり》でお臥《ね》やれ、
    乳母《うば》をも同《おな》じ間《ま》には臥《ね》かさッしゃるな。

    床《とこ》にお入《はひ》りゃったら、
    (小さき藥瓶を取出し)
    此《この》瓶《びん》を取《と》って此《これ》なる藥水《やくすゐ》をば、
    お飮《の》みゃれ。

    すると、即《やが》て慄然《ぞっ》として眠《ねむ》たいやうな氣持《きもち》が、
    血管中《けっくわんぢゅう》に行渡《ゆきわた》り、
    脈搏《みゃくはく》も例《いつも》のやうではなうて、全《まった》く止《や》み、
    生《い》きてをるとは思《おも》はれぬ程《ほど》に呼吸《こきふ》も止《とま》り、
    體温《ぬくみ》も失《う》する。

    頬《ほゝ》、唇《くちびる》の薔薇《ばら》も褪《あ》せて、
    蒼白《あをじろ》い灰《はひ》と變《かは》る。
    目《め》の窓《まど》もはたと閉《と》づる、
    生活《いのち》の日《ひ》がつい暮《く》れて行《ゆ》く時《とき》のやうに。

    どこもどこも硬固《しゃちこば》って、冷《つめた》うなって、
    自在《じざい》な活動《はたらき》をば失《うしな》うて、
    死切《しにき》ったやうにも見《み》えう。
    さて、此《この》死切《しにき》ったらしい相《すがた》で、
    四十二時《とき》經《た》つときは、
    氣持《きもち》の好《よ》い睡《ねむり》から醒《さ》むるやうに、
    自然《じねん》と起《お》きさッしゃらう。

    然《しか》るに、翌朝《あくるあさ》、
    あの新郎殿《むこどの》が卿《おこと》を迎《むか》ひにとて來《わ》するころは、
    卿《おこと》は恰《ちゃう》ど死《し》んでゐる。
    すれば、當國《このくに》の風習通《ならはしどほ》りに、
    顏《かほ》は故《わざ》と隱《かく》さいで、
    最《いっち》良《よ》い晴衣《はれぎ》を着《き》せ、
    柩車《ひつぎぐるま》に載《の》せて、カピューレット家《け》代々《だいだい》の、
    古《ふる》い廟舍《たまや》へ送《おく》られさッしゃらう。

    其間《そのひま》に、予《わし》の消息《しらせ》で、
    ロミオが此《この》計畫《けいくわく》を知《し》り、
    卿《おこと》が覺《さ》めさッしゃる前《まへ》に、
    此方《こち》へ來《く》ることとならう。
    予《わし》も共々《ともども》目覺《めさめ》まで番《ばん》をして、
    其夜《そのよ》の中《うち》にロミオが卿《おこと》を、
    ばマンチュアへ伴《つ》れて行《いな》う。

    卿《おこと》の心《こゝろ》さへ變《かは》らずば、
    女々《めゝ》しい臆病心《おくびゃうごゝろ》の爲《ため》に、
    敢行《しての》くる勇氣《ゆうき》さへ弛《ゆる》まなんだら、
    此度《このたび》の耻辱《はぢ》は脱《のが》れられうぞ。

ヂュリ 下《くだ》され、さ、それを。
    早《はや》うそれを!
    おゝ、何《なん》の臆病心《おくびゃうごゝろ》!

ロレ  まゝ、歸《かへ》らしめ。
    (藥瓶を渡し)
    さらば、逞《たくま》しう覺悟《かくご》して、首尾《しゅび》よう、
    事《こと》を爲遂《しと》げさッしゃれ。
    予《わし》はまた一《さる》法師《ほふし》に、
    卿《おこと》の殿御《とのご》への書面《しょめん》を持《も》たせ、
    急《いそ》いでマンチュアまで遣《や》りませう。

ヂュリ 戀《こひ》よ、予《わし》に力《ちから》をくれい!
    力《ちから》さへあれば事《こと》は成《な》らう。
    御坊《ごばう》さま、さらば。

    (左右《さいう》へ別《わか》れて入る。)

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