片桐　咲羅－作品集－コミュの第８章　『華』

『月面草』

月夜に咲いたサボテンよ
お前の心は何思う
鋭い刺に込められた
警戒心の内側で

赤い花をつける頃
光を浴びて育つお前
枯れ行く明日を知りながら
それでも良いと
笑っているのか

誰も知らない辺境で
泣いても泣いても
差し伸べられる手は無い

もしも足があったとしたら
お前は一体どこへ行くのか

留まる事しか知らぬ者
月夜に咲いたサボテンよ

お前の心は何思う
膨らむ身体の内なる想い
失う物の儚い跡で

『コゲアト』

君が煙草を嫌がるから
いつも窓際で吸っていた

突風に煽られて
カーテンについた焦げ跡

気に入って買ったモノ
予期せぬ過ちで傷つけた

あの日の２人と同じだね
僕ら互いに傷つけ合った

窓を閉めて鍵を重ねる
僕が買った机に２つ
もう戻る事ない空間と
君との時間を振り返り

重い重い扉を開けた

「いってきます」の
代わりに呟く

「さよなら」残して

思い出残して

『ありふれた言葉の中で』

「ただいま」

「おかえり」

「会いたい」

「おはよう｣

「おやすみ」

君の言葉

ありきたりでも

僕を笑顔にする言葉

『戦場の願い』

セスナがまだ空を舞っていた頃の話…

軍服に身を包み

貴女を影から見守っていた

私には明日がないから

「帰りを待っていて欲しい」

言えずに出発の朝を迎えてしまった

庭先で花に水をやる姿

この目に焼き付けた

私に気付き近寄ってくる
その愛しい笑顔

堪え切れず口づけしてしまった事を許して欲しい

今、意識が薄れていく中
貴女の恥じらった顔が浮かんでくる

次に生まれ変わるとしたら

また貴女と出会いたい

平和な時代で

戦争のない国で

また貴女と…