眠れぬ夜の物語コミュのshort-short-STORY 喫茶まほろば

やぁ、ようこそいらっしゃいました。
どうぞお好きな席へ。

あぁ、なるほど。
貴方はその席なんですね。

あ、いえ、なんでも。

実はここ、メニューはないんです。
喫茶店にありそうなものは大概そろえているので、お好きなものをおっしゃってください。

コーヒーなら豆から挽いて、サイフォン式でじっくりと。
紅茶なら、ゆっくり葉っぱからお選びします。

まぁ、お悩みなら、私におまかせって手もありますよ。

はい、じゃあ、おまかせで。
かしこまりました。

実は貴方が今日1人目のお客様なんです。
なんせ、こんなところにありますでしょう。

ところで今日は、なんでまたうちへ？

あぁ、なんとなく。

いえ、いいんですよ、それで。
うちは、なんとなく入ってしまう。
そんな店なんです。

ちょっと雑音が混じるジャズのレコードも
磨りガラスにステントグラスの窓も
アンティークの机と椅子も
昔の映画のポスターも
全部私の趣味でして。

こんな古臭い店と場所なもんだから、一見さんも入りづらいし、だけど常連さんもいなくって。
貴方みたいな、ただ、なんとなく入って来られる方をゆっくりお相手するだけの、私の自由空間なんです。

実は、貴方の座ったその席
”なくしもの”の席って言うんです。

最近、何か大切なものをなくした方が選んでしまう席なんです。

きっと、大事に大事にされてきたのでしょう？
なくしてしまった悲しみは、大きいにきまっています。
大切に思っていた分、悲しみが深いのなんて当たり前なんですよ。

え、あぁ、どうぞ、泣きたいだけ泣いてください。
1人で泣くのなんて、もっと心が寂しくなるばかりでしょう？
泣くのには誰かがいた方がいいんです。
此処には貴方と私だけしかいないし、きっと誰もこないし、遠慮などいりませんから。

だけど、悲しみに押しつぶされないでくださいね。
今の悲しさでいっぱいになって、悲しみ以外のあたたかい思い出が、どこかに忘れられてはいませんか？

悲しい時は、たくさん泣いていいんです。
だけど、最後は笑ってください。
でないと、大切な”想い”がいつまでも悲しみのままで残ってしまう。

涙の雨が降った後、晴れなきゃ虹がかからないでしょう？
その虹の橋を渡って、大切な”想い”があちら側へ行った時、思い出がきっとあなたをあたたかく包み込んでくれるんです。

きっと今は心の中が土砂降りでも、きっといつかは笑ってくださいね。
ゆっくりでいいんです。
涙の雨は必要なんですから、貴方が必要だと思うだけ流してください。

さぁ、出来上がりました。
ホットココア、ミルク多めです。
ゆっくりお召し上がりください。

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久々のshort-shortでした。
頭がなまっているのでイマイチですが、悲しい誰かが救われたらいいなと思います。