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眠れぬ夜の物語コミュの思い出カフェ 春 続き

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「おかえりなさい。」
 俺はカフェに戻ってきていた。木漏れ日が俺のほほを暖めている。
 あぁ、もう戻ってきてしまったんだ。もう戻れないのか。そんなことばかり頭を巡った。
 あんなに幸せだった瞬間はそう。こんな風に、キットいきなり終わってしまうもの。
 なぜだろう。春の木漏れ日はこんなにも暖かいのに、心の寒さはなかなか過ぎ去らずに、俺の傍に居続ける。
「ありがとうございました。」
 俺はマスターに頭を下げた。何が変わったのか分からない。何を整理できたのか分からない。
 もしかして、俺は弱くなっただけかもしれない。でも、でも、あの瞬間に戻らなければよかったとは、俺は全然思っていなかった。
「とんでもないです。何か少しでもお力になれましたか?」
「はい。」
「本当ですか?」
「本当ですよ。」
「まだ哀しそうな顔をしてる。」
 マスターは俺の顔を覗きこんで、哀しそうに笑った。
 男ってなんでこんなに弱いのだろう。背伸びをいっぱいして、いつだって苦笑い。
 男は強くなければ生きていけない。
 でも、それができないでいる


「失恋って苦しいですよね。」
 マスターが急に話そんな話をし始めた。
「なんで失恋ってこんなに
自分ひとりだけのものなんですかね。」
 マスターは、木漏れ日を見上げながらつぶやく。電車が過ぎ行く音だけが遠くに聞こえていた。
「どういう意味です?」
 そう聞く僕にマスターは答えた。
「だって、誰も本当の意味でその痛みは分からないですものね。恋愛はワーワーと皆でするものなのに、終わってしまえば。二人の関係。二人の思い出、二人の約束…全部全部、ひとつしかない…だからみんな寂しいんですよね。誰も本当の意味では、分かり合えないから。」
 そう、その通りだった。どんなにどんなに、自分が何回恋愛したって。どんなにどんなに皆に「分かるよ。」って言われたって、やっぱり恋愛は毎回、それ自体、奇跡だ。

 二度とない、キラキラした、奇跡だった。

 だから皆、笑ったり泣いたり忙しい。誰にも分からない傷を背負って生きていく。
 自分ひとりだけの、奇跡みたいな恋愛を胸にしまって、生きていく。
「失恋した時って、自分が本当に弱い人間だと想いませんか?」
 マスターが笑ってたずねてくる。その顔は本当に優しい笑顔だった。
「そうですね。本当に、自分の弱さと、惨めさと、悔しさがつのりますよね…。」
「分かります。失恋してかっこいい男なんていませんからね。」
 そう言って、マスターは頭をかいてもう一度
「なんでこんなに失恋って、ひとりぼっちなんですかね…。」
 そうマスターは窓の外を見ながらつぶやいた。
「まえ、ずっとまえに僕が失恋した時に、おばあちゃんが言ってくれた言葉があるんです。それがずっと僕の中にあるんですよ。」
 マスターはそう言って
優しくひとりごちた

 大丈夫だよ
 苦しさは

 いつかの
 優しさに
 かわるから

 大丈夫だよ
 弱さは

 いつか
 強さに
 かわるから

 大丈夫だよ
 ひとりじゃないよ
 大丈夫だよ
 辛かったね
 苦しかったね
 良く頑張ったね
 大丈夫だよ
 傍にいるよって

 そう言ってマスターは笑った

 そうだった。そうなんだ。そうだ。恋愛は本当、みんな戦いなんだ。自分と相手の弱さと強さと、ドキドキとワクワクの。それをずっと誠実に伝えるための、奇跡みたいな瞬間なんだ。
 それが終わってしまった瞬間に、どれだけ喪失感を覚えようと…みんなそうして生きているんだ。

 マスターはぼーとしている俺をみながら

 精一杯恋したんだもんね
 良く頑張ったね
 素敵な恋だったんだもんね

 って抱きしめてくれたんです

 そう言った。

 人間の精一杯は何で、こんなにちっぽけなんだろう。それでもみんな、精一杯背伸びして恋をする。精一杯背伸びして生きていく。

 失恋した時って
 本当に惨めで
 誰にもわかってもらえない傷を
 みんな抱えて泣いている
 みんな
 バカだバカだって
 自分を叩いてる
 だからその手を止めて
 誰かこの手を止めてって
 叫んでる

「本当に、男って不器用ですけど。」
 とマスターは言ってから、俺にコーヒーを出してくれた。さっきとは違い氷が入ったアイスコーヒー。
「本当に不器用ですけど、僕たちは男の子だから、転んだだけ起き上がっただけ、誰かを守れるようになってもいいんですよね。」
 そう言ってマスターは、優しい笑顔で俺を真っ直ぐ見つめた。
「いっぱい傷ついたってことは、それだけ真剣に全力で走ったってことですもんね。
 だから転んでしまったら、いっぱい傷つくんですから。」
「そうですね。」
 俺はマスターにお礼をいいコーヒーを飲む。冷えたコーヒーが、現実に引き戻すように、喉を通りすぎて行った。
 あぁこのコーヒーがまた思い出に連れてってくれないか。そんな弱さがジワリと胸をみたす。
 そんな心を見透かしてかどうなのか、マスターが少し力強い声で言った。
「転んだら、いっぱい泣いて苦しんで、わがままいって、また誰かを傷つけて…
 でも、キット立ち上がりますよ。
 そうしたらキット強くなれるんです。
 傷だらけでも両手広げて、ほら!俺はこんなに頑張った!って笑えますよ。
 そうして、人を守れる力がつけれるんです。
だって転んだ人の痛みが分かるんですから。俺は立ち上がれるんだって、もう知ってるんですから。」
 そう言ってもう一度、俺を真っ直ぐ見て、もう一度力強く言った。

 だって僕たちは
 男の子ですから

 そう言ってまた、優しい笑顔に戻って
「少し話しすぎちゃいましたかね。恥ずかしい。」
 と本当の少年のような笑顔で笑った。


 桜並木を見ながら、ぼーっと駅まで歩いていた。だんだん暖かくなったこの時間に、俺だけ置いてけぼりみたいに…心だけ、季節に追いついていなかった。

 俺は。どうしたいのだろう。俺はどうやって強くなろう。

 ふとそんな事を想っていると、そうさっきまでいた思い出の世界の、恵美の笑顔がふっと思い浮かんだ。

「いっぱい笑顔にしてもらったよ。
 ありがとう。」

 そう言って笑う、笑顔が思い浮かんだ。
 その笑顔を思い出して、胸がキュッと音を出した。

 あぁそうだ。そうなんだ
 俺は恵美の笑顔が、大好きだったんだ。
 キット、それだけでよかったんだ。

 ふと横に目をやると、小さな川が流れている。小さな川が、桜の花びらでピンク色に染まっていた。
 春の明るい光の中で、ピンク色の川が眩しかった。
 あんな小さな花びらだって、少しづつ少しづつ、川の色を変えられる。
 ふと、恵美の教えてくれた言葉を思い出した。

 言葉はね
 積み上げる弱い魔法なんだって

 ピンク色の川は本当に綺麗だった。

 本当に少しづつ、少しづつしか、未来は動かないけれど、大切なものを積み上げていけばいいよね。それしかないんだ。

 小さな花を咲かせよう
 たくさん咲いたら春になるから
 小さな花を集めよう
 小さな花だって集めれば
 花束になるから

 俺は男の子だから
 もらえなかった分、誰かに与えなきゃいけない
 辛い時に、掛けて欲しかった言葉を
 辛い人に掛けてあげられる人になろう
 傷ついた分、誰かを守ってあげれるようになろう

 不安定な足元を踏みしめた。春の陽気が俺を包んでくれる。
 そうこれから始まるよ。
 春が俺に告げていた。

 あぁ不器用だなぁー
 そう春の空に背を伸ばす。
 本当は本当は、いっぱいの弱音と
 悔しさをまだ隠し持っている
 
 苦しい期待と、哀しい傷を
 どうしようもできず抱えてる
 でも

 でも

 俺はやっぱり男の子だから
 進んでいこう
 どんな道だって
 進めばどこかに続くはず

 あれはあれで
 必要な過去
 これはこれで
 必要な現実
 
 そして一番大切なのは
 今を進む心

 その先で交わることがあるのなら
 また精一杯の気持ちでいよう

 俺は俺は、胸を張るよ
「ありがとう」って

 桜の花びらが俺の体を包むように、舞い上がった。
 許されないことはない。キット誰にだって、本当の気持ちを夢見ていいから。

 散ってしまうことは
 悪いことじゃない
 また、花は春になれば
 芽吹くのだから

 俺は駅に向かって歩き出した。
   


他にも3編の物語を書きました。
読んでいただけたら幸いです。
誰かの心をあたためれますように…

思い出カフェ
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=25175170&comm_id=492442

思い出カフェ 冬
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=69507744&comm_id=492442

思い出カフェ 夏
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