ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

眠れぬ夜の物語コミュの天使の等身大

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
その日。
僕が過ごした一日は普段通り単調で平凡に終わっていくはずだった。
そう。
放課後、帰り道。
"それ"を見つけるまでは。
いつもの帰り道のいつもの風景。
そこに、見慣れないものが落ちていた。
いや・・・落ちていたと表現するのはにわかに失礼かもしれない。
それは仮にも人の姿をしていて。
背中には真っ白な翼が生えている。
ファンタジーの浸透した日本、あるいは、キリスト教圏の人間ならばそれをこう表するだろう。

"天使"と・・・・・

とはいえ、普通に考えてそんなものが人通りは皆無とはいえ、道路のど真ん中でぶっ倒れている光景などにわかに信じられるものではない。
本来なら関わらずに無視して道を変えるのが得策なのだろうが。
かといって、行き倒れている人間を無視して通り過ぎることが出来るほど僕の思考回路は事なかれ主義を主張してくれる代物ではないと自覚している。
それに、遠目から見ただけではなかなか判別しづらいものではあるが、髪の長さだけを見るならば、綺麗なシルバーブロンドのロングヘア。
これは先入観というものかもしれないが確率的に女性である可能性は高いように思われる。
もし女性だとすればこんなところに転がしておくのもどうかと思う。
どうせここで無視して通り過ぎたところで、後で気になって戻ってくることは容易に想像できた。

「はぁ・・・・」

一度ため息をついて、その人影に近づく。
近づくごとにそのシルエットは鮮明になっていくが、うつぶせに倒れている人影の肩の辺りがかすかに上下していることがわかる。
マネキンとかの人形・・・・と言うわけでもないらしい。
最も、僕の知らないところで呼吸するマネキンが開発されていなければの話だが、生まれてこの方そんなものが開発されたなんて話は聞いたことは無いし、当然、生まれる以前に存在していたなんて話も無いのだから、おそらくは生物だろう。
人影のすぐ横に到着し顔を覗き込んでみると、予想通りというかなんというか、顔だけを見れば女の子に見える。
身長は大体160センチくらい?
白いワンピースの服を着ていて翼の出ている背中の部分は穴があいてるのかと思いきやどうゆう原理なのか穴などあいていないようだ。
呼吸に合わせて服がかすかにずれるのだが翼の存在など無いかのように普通にずれるからだ。

「・・・・この羽どうなってるんだ?」

まぁ、こんなものを見れば大抵の人間は気になるだろう?
とりあえずちょっと翼に触ってみる。
服が翼の存在を無視したように動くことから、もしかしたら触れないかも、と思ったのだがそんなことは無く、普通に触れてしまった。
触った感じは・・・・羽毛布団の中身に触ってる感じ?
羽毛といってもなんというか、羽の根元にあるやわらかい毛?
あれだけで全体を構成されてる感じ。
結構、手触りがいい。

「・・・・・・」

とりあえずちょっと引っ張ってみた。
すると、下のほうで"う゛ぅ〜"と苦しげな声が聞こえてきて慌てて手を離す。
顔を覗き込みながらもう一回引っ張ってみるとやはり"う゛ぅ〜"とうなりながら顔をしかめている。
翼が取れる気配も無い・・・・・・
なんか、こうなってくると本格的に天使説が正しいような気になってくる。
他の可能性としては。

1.実はニューファッション女子高生に大人気?
2.翼をボンドで背中にくっつけてしまうちょっと電波な女の子
3.新種の生き物発見!突然変異!?翼を生やした少女!
4.奇妙な組織あるいは国がらみの陰謀で背中に翼を移植、あるいは翼を生やす人体実験を受けたかわいそうな女の子。

とかかぁ?
翼が体にくっついてるって時点で、まぁ、まともな感覚ではかれる人物ではなさそうだ。
だって、ねぇ?
一番なんて聞いたことも無いし、第一、人は触れるけど服は通り抜けるなんて素材、開発されてたならそれこそニュースになってそうだがそれも聞いた事が無い。
二番目は一番と同じ素材の問題もさることながら、推定年齢僕と同い年誤差プラマイ3年としても、そんなことすればどうなるかっていう分別くらいはつく年頃だ。
とすればこの娘は痛い!
とてつもなく!痛い!
三番目はそんな生物が自然発生してるならまず見つからないはず無いと思う。
四番目なんて天使以上にファンタジーの世界だ。
こっちを信じるくらいなら天使っていわれたほうがまだ納得できるというものだ。
ごめん、嘘、四番目の方が信憑性はあるかも。

「う゛ぅ〜ん、んん??」

何度も翼を引っ張ったせいだろうか?
女の子がうっすらと目を開けた。

「よ。」

ぐっぐぐぅぅぅぅぅぅ

僕の呼びかけに答えたのは、少女の口ではなくおなかだった。

「・・・・・腹減ってるの?」

僕がそう聞くと少女はまだ寝ぼけているのかボーっとしたまま力なくうなずく。
どうすっかなぁ、としばらく考え込んでいると、だんだん意識がはっきりしてきたのか少女の目がパッチリと開いていく。

ぐぅぅぅぐぐぅぅぅぅぅぅ

「おなか減った。」
「は?」

鈴の鳴るような声とはこうゆう声を言うのだろうか。
容姿も一般の女の子と比べるとかわいすぎるくらいなのだが、声もそのイメージを裏切らない。
もっとも・・・・・。

「おなかへったー!
 おなかへった!おなかへった!おなかへった〜!」

叫んでる内容がこれでなければな!
しかも、だだっこみたいに表情豊かにやってるならまだしも、力尽きたように無表情で言うもんだから、ちょっとしたホラーだよこれ・・・・。

「あ〜、わかった、わかったから、とりあえず叫ぶのやめて。」

僕がそう言うとピタッと叫ぶのをやめる。
相変わらず無表情なままカクンという感じの動作で僕の方を見る。
だから、なんで一々動きがホラー調なんだって・・・・・。
まぁ、そんなこと言っても仕方が無い。
僕はごそごそとカバンをあさり野菜ジュースを取り出し少女に渡す。
まぁ、多少ぬるくなってるけどそこは我慢してもらいたい。
ジュースを渡された少女は迷うことなくペットボトルのふたを開け一気に飲み干す。

ゴキュゴキュゴキュゴキュッ

・・・・・・

ゴキュゴキュゴキュゴキュゴキュゴキュゴキュ
ゴキュゴキュゴキュゴキュゴキュゴキュゴキュゴキュゴキュゴキュゴキュゴキュゴキュゴキュ

「ぷはぁーーーーー」

少女はそれを飲み終えるとなんともおやじくさい言い方で息を吐く。
ジュースを飲み干したのはいいものの、飲み終えたペットボトルをじっとにらんでいる。

「ジュースだけじゃ物足りない。」

今度はそんな文句を言い始める。
唯一の救いはさっきまでの無表情ではなくてちゃんとむっとした表情で話していること。
どうやら、さっきまでは表情を作る気力も出ないほど空腹だったらしい。

「あ〜、ハイハイ、ラーメンでも食べにいく?」
「ラーメン!そこ、安くて、うまくて、早い?」

反応は上々、天使(仮)にラーメン進める僕もどうなの?とは思わないでもないけれど。
しかし、上機嫌に『安くて、うまくて、早い?』なんて聞いてくるやつもどうなの?
それとも、さっきの仮説の別パターンだったのだろうか?

「あのさ、その前に一つ聞きたいんだけど。」
「ん〜?な〜に〜?」

・・・・めちゃ不機嫌そう。
その表情は飯を出し惜しみするなと暗に・・・・いや、思い切りあからさまに叫びまくってる。
だが、さすがに完全に身元不明のまま連れ歩くのは僕が嫌だ。

「君、何者?」

そう問いつつついでに背中の翼も指差してやる。
それでようやく翼に気付いたのか、背中に手を回して翼に触っている。

「うあぁぁぁぁ!法翼きえてないぃぃぃ!
 どうりで疲れるわけだ・・・・・・」

そんなことを叫んだ直後、背中にあった翼は大気に溶けるように消えていく。
あぁ・・・・なんかもう・・・とことん非常識な存在だってのはわかったから、もう、どうでもいいかも・・・・。

「あ、ごめん、というわけで私はこの世界で言うところの"天使"ってやつだからよろしく。」

あぁ、そう・・・みたいな?
でも、なんか引っかかる言い回しだな。

「この世界でいうところのって?」
「う゛ーーーー!」

僕の問いかけにすっごく不満そうにうなりを上げる。

「そんなのどうでもいいよ!
 とりあえずごはん!
 ラーメン!!」

・・・・・理不尽だ。
正直な話、これが天使?
世の敬虔なる信徒に謝れって感じだ。

「あ〜、はいはい、じゃぁ、ラーメン待ってる時間でもいいから説明して。」
「う゛ー、わかった。」

不承不承という感じではあるがそううなずく。
とりあえず自称天使(確定)をたたせてここから歩いて五分ほどのところにあるラーメン屋へと移動する。
道中、ものめずらしいのか辺りをキョロキョロと伺って非常に落ち着きが無い。

「なに、なんか珍しいの?」
「いや、だって、知らない土地だし、珍しくてもおかしくないでしょ?」

まぁ、そりゃそうだ。
・・・・・・?
そういえばこいつ、ジュースの存在は知ってたよな?
あと、ペットボトルのふたの開け方とか?
ラーメンとか・・・・・

「なぁ、お前本当に天使なの?」
「うん、そうだよ、なんで?」
「いや、ジュースとかペットボトルの開け方とか知ってたし。」

そう問い掛ける僕にきょとんとした表情でごく当たり前のように答えを返してくる。

「そんなの、こっちの世界は私たちの世界から丸見えなんだから、
 知らないほうがおかしいでしょ?」

・・・・・なんともご都合主義なかほりがプンプン。

「そうゆうもんなのか?」
「あのねぇ、おばあちゃんとかに聞いたこと無い?
 "神様は何でもお見通しなんだよ"って。
 あれ、あながち間違いじゃないんだよ。
 まぁ、世界中の人間を監視なんて不可能だし意味無いからやってないけど。
 こっちでの発明とかイベントとか事件は、
 私たちの世界では娯楽として見世物になってるよ?」

うわ・・・・そこはかとなく微妙にリアルで嫌な感じ。

「それじゃ、さっきからキョロキョロしてるのは何で?」
「だから、知らない土地だから。」
「でも、こっちの世界観察してるんだろ?」
「こんな辺境わざわざ観察するような事件でもあったの?」

あ、何気にひどいこと言うよこの娘。
そりゃ何も無いところだしな。
むぅ、微妙、だけど反論も思いつかんぞ・・・・・
なんか、言い負かされたようで非常にむかつく。
そんな内心のムカムカをよそに歩みは進み。
歩みが進めば当然ラーメン屋には到着するもので。
僕達も当然のごとくラーメン屋に到着する。

ガラガラガラ

「いらっしゃいませー」

おやじさんのいつもながら丁寧なお迎えの言葉に導かれ店内に入っていく。
安くて、うまくて、早い、貧乏学生ならそりゃ探しますそんな店。
そして、こここそが僕の見つけた桃源郷!
いや、ごめんそれは言い過ぎ。
まぁ、とりあえず理想的な店ではある。
味自体はちょいと美味い店程度ではあるが、問題なのはそのお値段!
360円!
大手チェーン店並の安さ!
しかし確実にそんな大手チェーン店より美味い!
しかも、なぜかそれほど有名になっておらず注文してからの対応も早い!
これならくるでしょ!
でも、滅多に客と鉢合わせしないのはなぜだろう?
というか、本気で経営状態が心配になる。
お願いだからつぶれないで欲しい。

「おっちゃんいつもの〜!」
「いつもの〜!」

僕に続いて天使殿が同じように注文をするが。
お前一見さんだろ?
いつものなんてあるわけないだろ!

「はは、いつもごひいきに、そちらさんは彼女かい?」
「え・・・・いや!違いますよ!友達というかなんというか・・・」
「そうかい、んじゃまぁ、彼女さんも同じもんでいいかね?」
「はぁ、それでお願いします。」

おっちゃん相変わらず、聞いてないなぁ。
まぁ、いいか。
そんなことよりも天使殿には聞きたいことがいろいろあるのだ。

「さて、まず最初に名前、あれば聞いておこうか。」
「リア、こっちみたいにファミリーネームとかそうゆうのは無いからリアでいいよ。」

ほう、それはそれは。

「なんでファミリーネーム無いの?」
「それくらいは想像で補って欲しいけどなぁ。
 私たち天使は性別無いから固体が増えるのって
 恋愛感情によるエネルギー暴走の結果なわけですよ。
 んで、その固体自体も体の中である程度育成したからって過程を踏まずに
 唐突にどこかに生れ落ちるわけ。
 あとは、子育て専門の階級の人が育てる。
 だから、家族って言う概念が薄いの。
 そうすると、ファミリーネームなんて無意味でしょ?」

むぅ、これ、正直な話あの翼を見てないとかなり痛い娘に見えるよなぁ。
翼をどうゆう原理でかは知らないけど消してる現在だと、実際に翼を見た僕でもちょっと引きそうになる。

「そう・・・・」

しかし・・・・そうすると・・・・
目の前の"女の子"に視線を走らせる。
細身のワンピースを着ているせいか体のラインがはっきり出ているのだが・・・・。
どう見ても・・・・女の子だよなぁ?
発育は結構いいほう。
出るところは出て、くびれるところはキュッと締まってる感じ。
ん〜、でも性別無いって言ってたし・・・

「リア、性別無いの?」
「ううん、今はあるよ。」
「はい??」

先ほどの説明となんか違う。

「さっきは性別無いって言ってたじゃん!」
「うん、向こうの世界にいた時は無かったね。」
「でも今はある?」
「うん、多分見てわかると思うけど女だね。
 見てみる?」

なんか無邪気に言ってるけど・・・・

「遠慮しとく。」

そんなことよりも。

「性別の有無ってそんなに簡単に変わるものなのか?」
「ん〜?
 簡単じゃないよ?
 私が元いた世界からこちらに飛ばされてくるって本当は大変なことなんだよ。
 ・・・・・・って、その辺りはもう少し詳しく話したほうがいいのかな??」

と頭をひねり始める。

「そうだなぁ。
 あ、君名前は?」
「僕?
 深島 海、カイとでも呼んでくれ。」
「それじゃぁカイ。
 君はパラレルワールドって知ってる?」
「この世界と平行して存在するIFの世界。
 例えるならその世界の中には僕が君を助けなかった場合とか
 そうゆう世界がズラーッと並んでるって概念だろ?」
「うん、そうだね。」

それくらいはSF初期からあるくらいの基本的な概念だから知っている。

「私たちはね、そのパラレルワールド"みたいなところ"に世界を持ってるの。」
「みたいなところ?」
「そう、正確にはこの世界のパラレルワールドじゃない。」

どうゆうことだろう?
僕は無言で次の言葉を待つ。

「この世界では起こりえない可能性のパラレルワールド。
 そこが私たちの世界。」
「なんだそりゃ?」

意味が成り立たない。
この世界で起こりえないならパラレルワールドではないし。
パラレルワールドならば起こりうる可能性のはず。

「ん〜、理解してもらえるように説明するのは難しいんだけどね。
 この世界の可能性、つまりパラレルワールドの根っこはどこにあると思う?」
「そりゃぁ、この世界が始まった瞬間だろ?」
「そうだね。
 正確にはこの世界の時間が流れ始めた瞬間と定義していいね。
 ただ、この時間の流れ始めた瞬間って言うのもちょっとしたパラドックスを
 はらんでるんだけど、それはまた別の話かな、置いておこう。
 とにかく。
 この世界が始まった瞬間に、この世界の可能性はある程度のふり幅を持った
 "この世界"という有限性をはらんだパラレルワールドを内包する存在になるわけ。
 そこから先は時間がたつごとにパラレルワールドは増加していく。
 ここまでOK?」

あ〜。
ちょっと整理。
パラレルワールドが時間を経るごとに増加傾向になるというのは、まぁOK。
パラレルワールドはIFの積み重ねだから時間が経るごとに増えていくだろう。
だが、しかし。

「有限性を持つ?」
「そう。」
「なんで?」
「ん〜、例えばね、今、ここにあるこの世界はこの世界が始まった瞬間に
 宇宙は広がって極大になると縮小するっていう定義づけがされてるの。」

あ〜、なんか、そんな論説聞いたことあるな。

「でも、それゆえにどこまでも広がりつづける宇宙にはなり得ないわけ。
 そうすると、この時点でもう有限なわけよ。」

ふむ・・・・・・

「わかった、続けて。」
「ん、それでね。
 それなら、世界の始まりの時点でもいくつかの分岐がなされてたらどうなると思う?」
「・・・・・・は?」
「この世界が始まらず、別の世界が始まっていたとしたら?」

それって・・・・・

「ただのパラレルワールドなんじゃないの?」
「んなわけないって。
 だって、この世界は始まってないんだから。」

むぅ・・・・なんか、詐欺にあってる感覚。

「まぁ、そうゆうわけで、パラレルワールドであって、
 この世界ではありえない可能性の世界。
 私たちのエイリーンがあるわけ。
 その中でも私のいた時系列はこの世界と同じIFを積み重ねてきた近似位相にあたるわけ。
 そうすると、この世界はエイリーンから時々干渉を受けちゃうのよ。
 それが、いわゆる神話の類の一部になったりしてるの。」

ほほう、全部といわない辺りがさらに詐欺くさいけど。

「神隠しの中にはその干渉の結果エイリーンにいっちゃった人もいるんだけど。
 私はその逆、干渉に巻き込まれて飛ばされてきちゃったのよ。」

・・・・・・なるほど、どうりで背中に珍妙なものをくっつけてたわけだ。
しかし・・・・・こいつ話し長い。

「で、性別の話はどうなった。」
「あぁ!ここでそれよ!」

微妙に疲れる、こいつの相手。

「で、ここって存在しえない可能性の世界って言ったでしょ?」
「言ってたね。」
「私たちの世界でもこっちの世界は存在しえないのよ。」
「で?」
「こっちの世界の健康体は普通、性別を持ってるじゃない?
 だからこっちに飛ばされた時に、こっちの世界の仕様に丸め込まれたの。」
「えぇ〜!なんだそりゃぁ。」

インチキくせー

「だって、塩基配列持ってない生物なんてこの世界に存在してる?
 持ってなかったとしても何らかの物質による設計図みたいなものがあると思うのよ。
 何も持ってない生物なんていないでしょ?」

・・・・・・いたっけ?
生物とって無いからよくわからんが・・・・

「リアたちは塩基配列持ってないのか?」
「ないねぇ、あったら、恋愛感情によるエネルギーの暴走で子供が出来る。
 なんて非常識な生まれ方しないでしょ?
 あ、非常識っていうのはこの世界の常識に合わせた場合ね。」

そういえば、そんなこといってたな。

「なんか、それってアメーバーみてぇ。」
「!!
 ひどい!あんな単細胞生物と一緒にするなんて!
 リアさんは非常に傷つきましたよ!
 おやじさん餃子追加!」
「あいよぉ!」

うわ・・・・勝手に注文しやがった。

「な〜にすんだてめぇ。」
「慰謝料です。」
「お前、それでも天使か・・・・・」
「慰謝料です。」

・・・・・あくまで正当な要求として通すつもりらしい。
しかし、こうしてみると本当にそんな変な生物って感じがしない。

「あい!兄ちゃん野菜ラーメンおまち!」

丁度話が途切れた所でおっちゃんがラーメンを持ってくる。
リアはラーメンを受け取ると早速割り箸を割り食べ始める。
普通の味噌ラーメンに野菜炒めを盛り付けただけの一品だが、これが意外と美味いのだ。

ズズッ、ズズズゥゥゥゥゥ

二人でラーメンを食べる音が辺りを満たす。
ラーメンをすすりつつ隣のリアの様子をうかがっているとふと何かに気が付いたように箸を止める。
しばらく様子をみていると顔をしかめつつラーメンをつついている。
ちょっと気になって覗き込んでみると、どうやら野菜炒めの豚肉をより分けて端に寄せてるようだった。

「なぁ、肉食えないの?」
「うん?・・・・・うん」

なにやら恥ずかしそうにうつむきつつうなずく。
なにやらその仕草がえらくかわいい。
・・・・・・・・
・・・・・いかんいかん。
素性のよくわからない不思議生物との恋愛はご法度だ。
古今東西、どの話を見てもいい恋愛よりは悲恋になる話のほうが多い。
やめやめ、それよりリアの偏食疑惑。

「ん〜、それって戒律とかのせい?」
「かいりつ〜?そんなの人間が勝手にやってるだけでしょ?
 私たちは関係ないよ。
 第一、天使の存在を神話の中に盛り込んでる宗教で、
 偏食を戒律にしてる宗教ってあったっけ?」
「俺は宗教マニアじゃないから知らない。」

・・・・・肉食はご法度というわけではないらしい。
それがわかれば怖いものなど無い。
イタズラ心に火がつく!
さぁ♪やってみよう〜か〜♪
自分のどんぶりの中から豚肉を探し出し、野菜を口にしようと開いたリアの口の中に放り込む。

モフモフ?

モフモフモフ??

????

!!!!!!!!!!

「☆@*#$%&@*#☆!!!」

事態に気付いたリアは声にならない声を上げて口を抑える。
ヤバ・・・・・
なんか泣きそうになりながらこっちみてる。
その視線は確実に『なにすんだこのやろう!』と訴えかけている。

「あ〜、すまん、そんなにだめだったか・・・・・」

モフモフモフモフモフモフモフモフモフモフゴクン

凄い勢いで咀嚼し飲み込む。

バンババンバン!

で、思いっきり僕の背中をたたきまくる。
手に水が入っていたグラス・・・・つまり空になっているグラスを持っているところをみると水をご所望らしい。

「ほい。」

すぐ手元にあった僕のグラスを差し出す。
中の水を一気に飲み干し、ようやく一息ついた。
かと思えばキッとこっちをにらみつけてくる。

「なにするんだよ〜〜〜!!」

それはさっきから視線で言われててわかってる。

「だから、悪かったって。」
「悪かったですめば公僕はいらないのですよ!」

いや、これは悪かったですむレベルだし。
あ、そういえば。

「おっちゃん餃子まだ?」
「おぉ〜、今もってくよ。」

そう言って餃子を目の前へ二つ並べる。

「一皿はサービスだ。」

おっちゃん・・・・・・あぁ、本当に、この店の経営は大丈夫なのでせうか。
おっちゃんの粋な笑い顔にちょっと感謝しつつちょっと心配。
一方、リアはといえば、口直しとばかりに目の前に並べられた餃子に取り掛かっている。
6個並べられた餃子のうち一つに餃子のたれをつけ口に運びなにやら至福顔だ。

「・・・・なぁ、思ったんだけど餃子の餡も豚肉じゃねぇ?」
「・・・・・・そ・・・・そうだねぇ。」
「何で餃子は平気なん?」
「・・・・・・・・・なんで?」

いや、それはこっちが聞きたいんだって。
リアはモフモフと餃子を咀嚼しながら思案し、何かを思いついたように手をポンと合わせた。

「食感だよ食感!
 あのグニュ、ブニィっていう食感がダメなんだよ〜
 後、脂身。」

ふむ・・・・・

「なら鶏肉は平気なの?」
「・・・・・・皮以外は平気。」

なるほど、食感だな。
しかし、偏食まであるとなるといよいよ人間と変わらないじゃないか。

「リアの世界の住人はみんなリアみたいなの?」
「ん〜、一般平均だと思うよ私は。
 まぁ、どんなに狂った人も自分は一般平均だと思ってる人はいるだろうから、
 本当にそうなのかは友達に聞いてみないとわかんないけどねぇ。」
「偏食とかは?」
「ある人はあるよ。
 こっちで言う大統領?にあたるビシュヌさんとかシヴァさんとかは牛肉超好き。
 こっちに干渉する時に牛を使いにするくらい好き。
 もうこっちではそれだけで有名になるくらい大好きとかね。」

うわぁ・・・・なんか、牛肉食べちゃダメみたいな戒律無かったか?確か・・・・
神聖な動物だからって理由で。
それが実は大好物だから使者にするって感覚どうなのよ?

「なんか感覚狂うなぁ。」
「そう?」

モフモフと餃子を平らげ、リアは再びラーメンに取り掛かりつつ実にあっさりと流してくれる。
実際、リア達にとっては大した事は無いんだろうけど・・・・・。
実に夢やら信仰というものをぶち壊してくれる。

「なぁ。」
「ん〜、なぁ〜に〜?」

ズズズッっとラーメンをすすりながらリアは僕の声に答える。

「なんかさ、お前らがこうだと知ると、信仰とかってすげぇ馬鹿らしく思えるんだが。」
「ん〜、まぁ、そうかもね。
 でもそれは、実態を知ってしまったからでしょ?
 実態を知らない人にとっては関係ないでしょ?」
「神の加護なんて無いのにか?」
「元からそんなの期待してる人いるの?」

う"・・・・それは、ちょっと言葉に詰まる。

「信仰って・・・・いや、信仰に限らずだけど。
 多分ね信じることそのものに意味があるんだと思うんだよ。
 例えば、この実態をあなたが敬虔なる信徒に教えたとして、それが、
 その人にとって何か価値があると思う?」

いや、それは無いだろう。
というか信じてもらえないだろうな。

「じゃぁ、その人が、実際に私の存在を是としたとして。
 実態を受け入れたとするじゃない?
 それで、その人は何か利があると思う?」

それも、おそらくないだろう。
むしろ、今まで信じてきたものがまがい物と知った分、失望とかマイナス点はありそうだが。

「ね?
 その人たちに真実なんて必要ないのよ。
 信じているものが全てで。
 信じられるからこそ、それはプラスになる。
 それは、恋愛だったり、友情だったり、社会の構造だったりも同じでしょ?
 お互いの恋愛感情を信じられるから恋人同士だし。
 お互いの友情を信じられるから親友だし。
 その価値を信じられるからお金で取引できたり、身分を証明したり出来るの。
 信じられるものが全てで。
 信じられるからこそ、それは自分にプラスになる。
 それは多分、人が求めてるのは"真実"ではなくて、"信実"だってことなんだよ。
 わ〜っかるかなぁ、わ〜かんねぇだろうなぁ。」

せっかくのご高説をちょいと古臭い芸で締める辺りやっぱりこいつら人間とかわんねぇなぁと思う。

でも、確かにそうかもしれない。
人が真実を求めるのは。
信じたい心の裏返し。
信じたいから色々なものをひっくり返して信じるに足る何かを見つけたがる。
そうゆうことなのだろう。

そんな話を聞いていると、なんとなく、リアが天使という話も信じていいような気がしてくる。

「なぁ、お前これからどうするん?」

ずずずず〜っとスープを飲み干し、リアはこっちに顔を向ける。

「ん〜、とりあえず、裏山に行って作戦会議かな。」
「さくせんかいぎ〜?」
「そう、向こうの監査職は優秀だからねぇ。
 人一人いなくなればすぐにわかっちゃうのよ。
 とりあえず神様から連絡あると思うし。
 連絡が取れれば向こうから引っ張り上げてもらえるし。」
「ふ〜ん、そっか。」

なら、ここでお別れかぁ。
リアが食べ終わったのを見届けて、僕も残りを平らげる。
しばしまったりとした満腹感に浸りカウンターに声をかける。

「おっちゃんおかんじょう〜」
「あいよ、二人で880円だね。」

おっちゃんにキッチリ880円を渡して店を出る。
二人して背伸びしてブハァっと息を吐き出す。
ここから先は別々の道。
裏山は僕の家とは反対方向なのだ。
さすがにリアもこの状態で裏山に行くまでに行き倒れることは無いだろう。
・・・・・最も、裏山の中で行き倒れてる可能性は否定できないが。

「んじゃぁ、私行くね。
 おせわになりました〜。」
「ん〜、まぁ、気にするな。
 それと、また行き倒れそうになったらここにこい。」

そう言って、僕の家の住所を渡す。

「必要になる機会は無いに越したことは無いけど。
 まぁ、向こうと連絡がなかなか取れないこともあるだろ?
 そんときは飯くらいおごってやるさ。」
「ん、ありがとう。
 でも、まぁ、多分二度と合わないだろうけどね。」

最後の方は若干茶化しながら。
ほんのひと時の邂逅だったけれど。
これはこれでよかったと思える。

「んじゃ、また機会があったら。」
「うん、機会があったら。」

そうしてこの出会いは終了する。
二人は別れて。
ほんの少しの寂しさと。
奇妙で、楽しいひと時の思い出を残して。


・・・・・と綺麗に終わらせればいいものを・・・・・


翌日、僕の家の隣に引っ越してきたやつがいる。
・・・・・非常に切ないことに、その人物とは大方の予想を裏切らず・・・・

「おはよ〜」

リアの間の抜けた声がする。
何故?
とおもわんでもないが。
リア曰く。

『こっちの仕様に体の仕様を変換されちゃったから向こうに帰ると
 塵になっちゃうんだって。』

らしい。
神様とやらから詳しい説明を聞いて全てを理解しているリアによる説明は、実際にはもっと長かったのだが、要点だけまとめるとそうなる。
で、神様とやらがどうゆうずるをしたのか、戸籍の捏造までやってのけ、僕の家の隣に引っ越してきやがった。

「・・・・はぁ、何の因果だ?これは?」
「まぁ、いいじゃない、この世はなべてこともなし。
 理不尽こそがこの世界のあり方であり。
 多分一番美しい終わり方だよ。」

あぁ・・・・はいはい、そうですね・・・・・・
もう、反論する気力もなし。
リアの言葉ではないが。
この世はなべてこともなし。
理不尽に身を任せ。
あるがままに割り切るとしましょう。
それが、今の僕の"信じられるもの"なのだから。

コメント(3)

なんかいろんなこと考えちゃいました☆
素敵なお話ありがとうございました(^^)
絶対的な”真実”は無いかもしれないですね。
”信実”はいつまでも持っていたいですね。
把握できる”真実”だけでそれを裏付けようと
一喜一憂してますが。。。必要ないのに!

ログインすると、みんなのコメントがもっと見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

眠れぬ夜の物語 更新情報

眠れぬ夜の物語のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。