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眠れぬ夜の物語コミュのアップルパイ

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先に断っておくが、僕は甘いものが特別好きではない。
と書くと否定的に受け取られそうだけど嫌いなわけでもない。
誰かの家で紅茶と一緒にクッキーでも出されたらとりあえず食べるし、たまにはコンビニでアーモンド・チョコレートを買うこともある。
でも紅茶とクッキーじゃなく茶碗蒸が出てきても(驚くだろうけど)喜んで食べるし、コンビニでアーモンド・チョコレートを買うよりはおにぎりを買うことの方が多い。
羊羹だけは出されても食べられない。自分で買ってくることもない。それにしたって羊羹の歴史とか羊羹哲学を嫌悪するというほどじゃない。その点、甘くなくても納豆は全否定だ(納豆を食べる人の人間性までは疑わないけど)。

ただ、甘いものが特別に好きというわけじゃない。
喫茶店で頼むのはコーヒーだけ。ケーキはいらない。
そういうことだ。


今日は朝からアップルパイが食べたかった。
会議中もアップルパイのことを考えていた。
コンビニに売ってるやつじゃだめだ。
今食べたいのはもっと、あからさまに美味しそうなアップルパイ。
白い大き目のプレートの真ん中に、まだ温かいアップルパイ。
アイスクリームが乗っててソースのかかってるやつだ。
パイ皮がサクサクでアップルパイ自体は甘くないけど、アイスクリームはなるべく甘ったるい方がいい。
それに煙草とコーヒー。

『アップルパイとアイスクリームの関係性・ソースの介在』って企画書を出そうかと思った。煙草とコーヒーにも絡めて、主役たるリンゴではなくてあくまでパイ生地の視点で・・・馬鹿らしくてやめた。


夕方、仕事から解放されたので調べておいたカフェに向かった。
17時頃だ。
よくあることだが、今日は朝から何も口にしていない。


アップルパイはあくまでデザートである。
一日の最初のご飯が夕方のアップルパイでは不満だ。
アップルパイをデザートとして食べるには何かメシを食べなければいけない。それが順序ってもんだ。


もうひとつ断っておくけど、僕はビールが苦手だ。
もちろん大勢で飲むときはビールも飲む。乾杯はビールで。
異論はない。
だけど部屋でひとりでビールを飲んだりはしない。美味しいと思わないから。一度だけ2リットルのビールを美味しく飲んだことがあったけど、2リットルというのは大した数字じゃないような気がするし、その時もビール自体をうまいと思っていたか怪しい。
一緒に飲む相手や場の雰囲気で味が変わるのだ。
孤独だとビールが苦手というより、楽しければビールが美味いってことだと思う。


スペイン坂のレストランに急遽飛び込んで、パスタとグラスビールを頼んだ。アップルパイへの道のりとしてビールは相応しい。
注文を取りに来た女の子がビールはサッポロですがよろしいですか、と聞いた。
もちろんよろしい。
ビールの銘柄なんかなんでも構わない。パスタだってパスタでなくてもよろしい。儀式みたいなもんだ。アップルパイへ至る過程。
とにかくでてきたビールを一気に飲んであろうことか2杯目を頼んだ。2杯目のビールグラスとパスタの皿をキレイに片付けて店を出た。
準備は整った。



税務署の脇、司法事務所の並ぶマンションの1階にそのカフェはあった。手作り感の漂う木の扉を開けて中に入ると店内は広くて薄暗い。テーブル席もあるしソファー席もある。
なんだって気の利いたカフェに『ザリガニ』って名前を付けたのかよくわからなかったけど、とても雰囲気のいい店だった。
なるべく店内を見渡せるソファー席を選んで座った。
人を見るのは好きなのだ。
注文を聞かれる前にアップルパイとコーヒー、あと灰皿を頼む。
ソースはどれにしますかと聞かれて初めてメニューに目を落とした。
4種類あるうち、迷わずハニーシナモンソースを選んだ。チョコレートソースは無粋すぎるし、果実ソースの甘酸っぱさの酸っぱさは余分だ。
程なくコーヒーとアップルパイが運ばれてきた。今日の一日はきっとこの瞬間のためにあったのだ。


運ばれてきたアップルパイは思っていたよりアイスクリームの量が多かった。10cm四方のアップルパイの上に盛られたアイスクリーム。高さ15cm。アップルパイの、大雑把な網の目になっているであろう上部は確認できない。望むところだ。
フォークをパイ生地に刺しナイフで切る。
アイスクリームをすくって口に入れる。

結論から言うとそのアップルパイの味は申し分がなかった。
パイ生地はサクサクで香ばしい。煮詰められたリンゴはしっとりとしているが、ふやけたような感じはしない。甘すぎないアップルパイはまだ温かくてバニラ・アイスは甘ったるかった。ハニーシナモンという選択も間違っていない。
僕は夢中でアップルパイを食べ、コーヒーを流し込んだ。
15分もしないうちにアップルパイと山盛りのバニラ・アイスは姿を消した。
皿の底のソースを舐めてしまいそうな勢いだった。
人目が無ければ躊躇わずにそうしただろう。
カップに半分ほど残ったコーヒーを飲み干すとソファーに深く座りなおして煙草に火をつけた。
コーヒーの味はいまいちだ。


店内は客が増えて賑わっている。
勘定を済ませて店を出て、まっすぐ家に帰った。


夜、テレビをつけると東京タワー。
携帯電話のアドレス帳。あいつの名前を探す。

コメント(1)

小説を読む様にスラスラと読んでしまった。
久しぶりに良い小説に出会えた気分ハート
私はこの言葉の感じが好きです
読んだ後なぜだか満ちた気分になりました

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