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眠れぬ夜の物語コミュのノキとリビアと合格日−前編−

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(↓こちらのお話の続きになってます。良ければお先にどうぞ。
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大人になったら、分かると思っていた。

何かを失うことの意味だとか、

目に見えないものの理由だとか。

大人になれば、きっと―――。









ふいに、目が覚めた。
またくっつきそうな青の瞳を擦りながら、
ノキはむっくりと起き上がった。

「ふぁ・・・おはよぅ・・・。」

特に誰かに向かって言ったわけではなく、
前方の晴れ渡った虚空に向かってである。

大人試験・その10
『朝起きたら、朝の挨拶をしましょう』

なので、誰も聞いていなくても
起きたら挨拶を口にするのが習慣なのだ。

「ん・・・おはよ。」

だが、思いもよらず、
隣からその返事をする声が聞こえた。
それは、ころんとこちら側に体を向けた、
寝ぼけ眼のリビアの声だった。

「ごめん。起こしたか俺。」
「うぅん、起きてた・・・だいじょぶ。」

さらっと流れた金髪の隙間から覗く顔は、
明らかに今起きたばかりのものなのだが・・・。
ノキはそれに、何となしに微笑んだ。

「もうちょっと寝ててもいいぞ。
 まだ時間早いから。」

リビアはちょっと空を見上げて思案した後、
ひょいと軽々上体を起こした。

「でも、目が覚めちゃったし。
 早く仕度した方が、早く着くもの。」

んーっと大きく伸びをして、リビアはにこっと微笑んだ。

「朝ご飯にしよっか。」
「ん、そだな。」

二人微笑んで、頷き合った。
のんびりと寝袋を畳み終えると、
完全に鎮火している昨夜の焚き火跡に、
集めておいた枝葉や燃やす物を追加する。

「さて、と・・・。」

ノキは小さな布袋に人差し指を突っ込み、
赤い光る粉をちょんと指先に付けると、
次いでピッとその指を真っ直ぐに立てて、
文字か何かを描くように、空を切った。
その軌跡が、炎のように赤く宙に浮かぶ。

「えーと、こうして・・・
 ≪デル・エリフ ―火よ―≫!」

言って、ビシッと木の枝を指した。
・・・が、何も起こらない。

「あり?」
「ねぇノキ・・・水の陣書いてなかった?」
「・・・。」

むむ・・・と首を捻って、ノキは俯いた。
その様子に、リビアはにこっと微笑んで、

「私も忘れちゃった。ちょっと待って。」

言いながらリビアは、カバンから
重たそうな大きな魔導書を取り出した。
―――魔導書と言っても、
本当はただの分厚いノートで、
二人が勝手にそう呼んでいるのだが。
その古いボロボロになったページを、
リビアは丁寧に一枚ずつめくっていく。

「火の陣は、っと・・・あ、これだね。」
「う、うん。よぉし!」

ノキは再び宙に図形を描き、唱えた。

「≪デル・エリフ ―火よ―≫!」

今度は難なく、ボッと音が爆ぜて
ノキの細い指先に、小さな火が灯った。

「やったやったぁ!」

リビアが歓声を上げてぱちぱち拍手する。
ノキがぽいっと焚き火の中に火を落とすと
すぐに小枝は、音を立てて燃え始めた。






二人の母は、祖母と同じく魔女だった。
色んな魔法を使えて、魔法薬の知識もあり
二人が尊敬する偉大な魔女だった。

母は、魔法をとても大切にしていた。

亡くなる前にもらった母のノートは、
何年も使い古したような色褪せた羊皮紙で
ぎっしりと、でも要点が見やすく、
理解しやすいように丁寧に書かれていた。
自分がいなくなった後に誰かが読んでも、正しく理解出来るように。
どんな思いでそれを書いたのか、伝わるように・・・。

ノキとリビアは、それを、
魔法使いを導く書――『魔導書』と呼んだ。






熾した火で、さっそく朝食を作る。
昨夜のスープに野菜とミルクを入れて、
予め味付けした干し肉を割いて入れれば、
とろとろ野菜スープの出来上がりだ。
一緒に昼食用のサンドウィッチも作り、
それを包んで、それぞれの布袋に入れる。
パンとスープで朝食を済ませた後、
護晶石の後片付けをしているリビアの横で

「じゃ、消すぞー?」
「うん。」

革製の水筒から、小さな滝が流れ落ちる。
ジュッと別れを告げるような音を立てて、
焚き火はその役目を終えた。
ノキはブーツの先で消火を確認すると、

「よしっ、じゃあ出発ー!」
「おー!」

元気よく声を上げて、その場を後にした。






・・・歩き始めて、数時間が経っただろうか。
いくら歩いても飽きない景色の森ではあったが、
さすがに歩きっぱなしで足が痛くなってきた。
そんな時、木々の隙間に灰色の煙が見えたのだ。
ノキは思わずぴょんと飛び上がった。

「ほらっ!リビア見てみろよ、煙!」
「近くに人がいるのかな?」

リビアも嬉しそうに瞳を輝かせた。
二人は思わず疲れも忘れて走り出した。
湧き水で土がぬめり、服に泥が跳ねても
気にも留めずに森の中を駆け抜けた。

「はぁ、はぁ・・・・ここ、かな?」

辿り着くと、二人は息を整えながら外観を見た。
年輪を感じさせる古びた色の小屋だった。
その辺りだけ木々がなく、空が見えているせいか
周りはとても明るく、カーテンのように木漏れ日が差し込んでいる。

瑞々しい緑色の苔が小屋の壁の所々に生えて
どこか守るように小屋と共生していた。
小屋の傍には、長方形の小さな畑がある。
野菜のように支えの棒に蔓を絡ませて、
青や黄の色鮮やかな実を付けている植物や、
不思議なギザギザの葉っぱが列を成すように
にょっきりと地面から生えている。
いずれものんびりとした田舎の風情だ。

「・・・ここが、おばあちゃん家?
 クラレの羽ペンは?」

言って、ノキはリビアが広げている地図を
横からひょいと覗き込んだ。
5cmも無いような小さな羽ペンが、
現在地でぴょんぴょん飛び跳ねている。

「・・・ここ、みたいだよ。」

二人とも、何となしに顔を見合わせた。



―――何だか、急にドキドキしてきた。



すると、
何の前触れもなく、小屋の扉がギィと動いた。
思わず二人して固まる。

「・・・何だい、あんた達は。」

ぬっと扉の中から現れたのは、
すっかり色素の抜けた真っ白な髪に、
皺だらけの顔をした老婆だった。



猛禽類の嘴のような大きな鷲鼻に、
ギョロリとした恐ろしいツリ目。
上から下まで真っ黒な古びた服に、
小柄でずんぐりとした体格。
日に焼けて浅黒い骨張った手に、
スカートの下から覗くひょろりと細い足。



どう見ても、二人が絵本で見たような
人を食べてしまうような恐ろしい魔女の姿だった。
強がりのノキも、さすがに踵を返しそうになる。

「あの・・・!」

口を開いたのは、リビアだった。

「おばあちゃんに、会いに来ました。」

リビアは、ぎゅっと鼓舞するように拳を握り締めた。
小さな心臓は、警鐘のように鳴っている。
それでも勇気を振り絞って、尋ねた。

「あなたは・・・魔女・・・ですか?」

老婆は、ギロッと目を見開いた。
怖くなって体が後ろへ引こうとするのを
リビアは、強いて前へ出ることで制した。

「わっ、私達・・・その・・・。」

唇が震えて、次の言葉が出てこない。
早く。言わなきゃ。何か。
じわりと涙が溢れそうになる。

「俺達、フローリアの子供です。」

ノキがリビアの隣に並んで、言った。
その手が、自分のスカートの端を握り締めているリビアの手に触れた。
大丈夫。二人だから。
そんな気持ちが手を通して伝わってくる。

「あなたが、おばあちゃんですか?」

ノキは凛として声を放った。
だが老婆はそれを「ふん」と鼻で嘲り、

「・・・自分の名前も名乗らないで、
 要求ばかりするガキは嫌いだよ。」

冷たい瞳に二人はびくっと肩を震わせた。

「あっ・・・ごめんなさい、私・・・」

先に声を掛けたリビアが慌てて弁解しようとするが
だが、老婆はそれすら聞こうとせずに、

「大体、アタシに子供なんてもんはないよ。
 人違いだ。さっさと帰りな。」

言って、バタンッと乱暴な音を立てて
古びた木製の扉は閉ざされた。



・・・・・・。



「っな・・・何だよあれッ!!」

憤慨の声を上げたのは、ノキだった。

「あれで大人かよ!態度悪ィの!!
 あんなのおばあちゃんじゃないよ。
 別のとこ捜そうぜ、リビア。」

ノキは踵を返して、リビアの腕を引っ張った。
それに、まだ呆然とした様子だったが、
それでもリビアはそこを動かず、首を横に振った。

「もう一回・・・もう一回、訊いてみようよ。
 きっと私が失礼なことしたからだよ。」
「えぇ?でも・・・」
「あの人、母さんに似てたと思う!
 今度はちゃんと準備していこう。
 多分さっきは機嫌が悪かっただけだよ。」

そうかなぁ・・・と内心思ったが、
ノキは、リビアの勢いに押されて、
渋々といったように了承した。






老婆は、しばらく中から二人の様子を窺っていた。
だが二人が踵を返して森の中に入って行くのを見て
ようやく息を吐いて、ベッドに腰掛けた。
小さな子供達の真っ直ぐな瞳が頭を過ぎり、
それが、記憶の中の娘の瞳と、重なり合った。



―私の好きな人を、母さんにも、好きになってほしい。―



―――アタシらは、魔女なんだ。
それなのに、人間なんかを誰が好きになるもんか。
育ててやった恩も忘れて駆け落ちして、
挙げ句子供まで作って・・・・。

あぁ、さぞ幸せだっただろうね。

出来た子をああしてアタシに会わせて
幸せを見せびらかしたいぐらいに。



魔女を迫害し続けてきた人間なんかとの子を。
あの子の父親を殺した人間なんかの子を。
アタシの夫を殺した人間なんかの子を。

あんな恩知らず・・・もう娘なんかじゃないんだ。






日が陰り、焚き火の燃えかすが固まったような雲が
雷の音を連れて、黒く空に広がってきていた。
老婆が、窓を閉めようと立ち上がった所で、
トントン、と扉を叩く音が聞こえた。
次いで、扉の向こうから大きな声が聞こえた。

「ノキです!」
「リビアです!」

老婆は思わず顔をしかめた。

(また性懲りもなく・・・。)

こうなれば少々驚かして追い払ってやろうと思い、
戸口にあった愛用の箒を手に取ると、
老婆は勢い込んで、古く痛んだ木の扉を開いた。

「あんた達いい加減に・・・!」

と同時に、老婆の視界いっぱいに
色とりどりの何かが広がっていた。

花だ。
いや、花束だ。

予想だにしない事態に、老婆は固まってしまった。
勢いよく開いた扉にびっくりして、
目をまん丸にして同じく固まっている子供達が
両手いっぱいに、色鮮やかな花を抱えていたのだ。

「あ・・・の・・・。」

振り上げられたままの箒に涙目になりながら
リビアが恐る恐る、引きつった口を開いた。

「さっきは、失礼なことをして、ごめんなさい。
 それで・・・お花、お詫びに。」

緊張した面持ちで花束を差し出すリビアを他所に、
ノキは不服そうに箒を睨み付けている。
精一杯に微笑みながら、リビアは言った。

「おばあちゃん・・・ですよね?」

その言葉で、老婆はハッと我に返った。

「ひ・・・人違いだって言ってるだろう!?
 アタシゃあんな娘のことなんて・・・」

言いかけて、老婆の顔が急に歪んだ。
箒を取り落として、ヨロヨロと地面にうずくまった。
次いで僅かな呻き声と共に、きつく胸を押さえる。

「ど、どうしたのおばあちゃん!?」
「ッ・・・だから、アタシゃおばあちゃんじゃ・・・。
 何でもないよ・・・いつものことさね・・・。」
「だって顔が真っ青だよ!早くベッドに行こ!」

ノキも花束を取り落としながら、急いで老婆の手を取る。
慌ててリビアもそれに続き、そっと花束を地面に置くと、
ノキと反対の方に回って、老婆の手を取る。
老婆はその小さな肩に支えられて中に入ると、
脱力したようにベッドに横になった。

「どうしよう・・・早くお医者さんを・・・。」
「でも医者なんて、山を一つ越えないと・・・。」

二人は一様に口をつぐんで、俯いた。
老婆の呻き声が、遠くの雷鳴と奇妙に混ざり、
ノキとリビアの胸に不安が募っていく。

「・・・リビア、魔導書。」
「え?」
「薬、作ろう。俺達で。
 母さんのと一緒だったら載ってる。」
「でも、材料が・・・。」
「とにかく見てみよう!」

戸惑いながら頷いて、リビアは布袋の紐を解くと
辞書ほどもありそうな分厚いノートを取り出した。

「魔法薬のページは・・・・あった。
 症状、胸の痛み、呼吸困難や・・・これだ。
 母さんが・・・死んだ時のと一緒だ。」
「・・・ノキ・・・。」

真っ青な顔でノキの方を見るリビアに、
ノキは極力不安を隠し、冷静な表情で頷く。

「・・・大丈夫。あの時とは違う。
 今の俺達なら薬を作れる。
 二人なら、大丈夫。」

ページを繰りながら、ノキは自分の布袋を漁る。

「えぇと、材料は・・・・・。
 チロロ草に、ラフテナの鱗に・・・。
 ダメだ、千年花の茎が足りない。」

悪態を吐いて、少年は悔しげに顔をしかめる。
ノキは袋から手の平サイズの植物図鑑を取り出して
印の付けてある千年花のページを開いた。
小さいけれど、花びらの大きな、白い花だった。
その時、ハッと思い出したようにリビアが息を呑む。

「・・・あれ・・・私っ、その花見た!
 おばあちゃんに花を摘んでいった時に。
 確か、ノキがつまずいた木の所で。」
「・・・あそこか!俺、取ってくる!」

扉へ向かう少年のローブを、反射的に少女が掴む。
驚いてノキが振り返ると、リビアは必死な顔で言う。

「・・・私が、私が行く。」
「雨が降り出したし、危ないよ。」

だがぶんぶんと首を横に振って、リビアは尚も言う。

「私が行く!待つだけは嫌っ!」

そう強く訴えるリビアに、ノキはとても驚いた。
恐がりのリビアが、何故今こうも頑ななのか。
・・・そこで、思い至った。



『あの日』だ。



母の倒れた『あの日』に、
医者を呼びに行ったのは足の速いノキで、
母の傍に残ったのはリビアだった。
医者と共にノキが帰ってきた時には、
リビアは、壊れたように大声を上げて泣いていた。
・・・冷たくなった母を、抱き締めながら。

その時の恐怖は、少女の胸に強く刻み付けられていた。
・・・だが。

「俺が行く。」

ノキは首を縦には振らなかった。

「雨の森は危ないし、俺の方が足が速いだろ。」
「でも、私・・・。」

泣きそうになりながらローブを握り締めるリビアに
ノキは不安を吹き飛ばすように笑って、言った。

「リビア、大人試験その100!」
「・・・え?」
「覚えてるだろ?母さんが言ったこと。」

二人の脳裏に、在りし日の母の言葉が蘇る。






最後の大人試験の内容を語った時に、
母は二人に言った。

『傷付くのを恐れている時間は、
 本当に傷付くことよりも、
 辛くて、苦しいものだわ…。』

幼い子供達の頭を優しく撫でながら、母は言う。

『だからね、二人とも。
 いつでも勇気を持って歩みなさい。
 恐れは人の大事な感情だけれど、
 それは一番の気持ちではないはずよ。』
『一番の・・・気持ち?』
『そう。』

母は、柔らかく微笑んで、言った。

『あなたの一番は、何?』






「私の・・・一番の気持ちは・・・・・」

リビアは、顔を上げてノキを見た。

「おばあちゃんが、元気になること。」
「うん。俺も。」

雷光に照らされながら、ノキは笑った。

「だから、俺が行くよ。
 世界で一番早く走って、すぐに帰ってくるから。」

それに、きゅっと唇を噛みしめてから、
リビアはノキのローブを掴んでいた手を離した。

「・・・気を付けてね。」

少年は、それに力強く頷くと、

「おばあちゃん、頼むな。」

図鑑をローブの内側に入れて、出て行った。
外は雨音がハッキリと聞こえるほど強くなっている。
急に静かになった小屋の中で、
老婆の苦しげな呼吸と、近付いて来た雷鳴だけが、重く響いている。

「大人試験その100・・・『自分に負けない』。」

呟いたリビアの顔に、もう不安はなかった。





**************************
あとがき

長くなっちゃったので後編に続きます!
とりあえず前編の後書きを。

苦労したのは、おばあちゃんに会うまで。
あれからどうなるんだろう?というのが
本当になかなか浮かばなくて…><;
モヤモヤしながらも書いてみたら、
二人が私を引っ張るように動いてくれました。
それからはすごく楽しく書けました♪
この楽しさが読んでくれた人にも
伝わればいいなぁと思います。(^^)

長い話を読んでくださりありがとうございます。
続きは近日中に。
ではまた。

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