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眠れぬ夜の物語コミュのある大道芸人が月夜に語る

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今から少しだけ昔のこと。
あれは月が明るく輝く夜でした。

ある村に旅の大道芸人がやってきました。
旅の人がやってくるだけでも珍しいのに、その人が大道芸なんてのをやるものだから村人は大騒ぎです。普段、専ら農業に従事している彼らにとって、これほど大きな娯楽はそうそうありません。
我先にとこぞって大道芸を見にやってきました。
「レディース&ジェントルメン!ようこそ、我がショーへ!」
なからに集まった村人を見回して、彼は声をかけました。
わぁっとわいた歓声を聞いて彼はにんまりと口の端を上げます。
「さてさて、これより語るは本当にあったお話。むかぁし、むかしのお話。」


病気を抱えたジャックという男の子がいました。ジャックは幼なじみのエミが大好きでした。
祖国が遠い黄金の国だという彼女の名前は、祖国の言葉で「beauty smile」という意味なのだそうです。だのに彼女に笑顔が浮かぶことはありません。
小さな頃は良く笑う、名前の通りの娘だと両親は鼻高々でしたが、ジャックが病気だと知った頃からでしょうか。
いつのまにやら笑顔を忘れてしまったようなのです。


「ジャックがエミにこんなおいしそうなクッキーをあげても」
何もなかったはずの大道芸人の手にはクッキーがあり、こどもたちに差し出します。
「こんな美しい花をあげても」
反対の手にはいつ現れたのか、真っ赤なバラが一輪。目の前にいた一人の女性に手渡します。
「まったくエミは笑ってはくれませんでした。あなたたちが僕に向けてくれる笑顔はこんなに素敵なのに。ジャックが一番笑ってほしい人は、悲しげな瞳のままでした。」


毎日のように傍にいるのに、いつまでもエミは悲しくて淋しそうでした。
それがジャックにはとても苦しくて、病気なんかよりずっとずっと辛かったのです。
エミが笑ってくれるなら、きっと病気なんか吹き飛んでしまう。
そう思ったジャックは、エミを笑わせるために様々なイタズラを考えました。


「それはこぉんなイタズラ。」
そう言ったかと思うと、大道芸人は近くにあった枯れ木でジャグリングを始めました。
そのまま柵代わりに張られた綱の上を歩きます。村人たちは目を丸くして驚き、顔が綻んでいます。


ジャックには、自分の死期がなんとなく分かっていました。死ぬ前にもう一度、エミの笑顔が見たくて仕方ありませんでした。しかし、どんなに難しいイタズラをやってのけても、エミの表情は晴れません。
『エミは僕のことが嫌いになってしまったのかい?』
ある日、とうとうジャックは切り出しました。
『いつも悲しそうじゃないか。笑ってくれないじゃないか。』
エミの目から大粒の涙が零れます。
『大好きだから、悲しいんじゃない。ジャックの病気は治らないんでしょう?』
『エミが笑ってくれないことの方が僕には辛いよ』
そう言ったジャックの目にも涙が浮かんでいました。
『私が笑わないのが辛いなら、私は笑ったお面をかぶるわ。そうしたらいつも笑っていられるもの』


「そうしてエミは、いつも笑顔でいられるようにお面をつけるようになりました。」
布が大道芸人の素顔を覆って笑顔のお面が現れました。
「うーん、でももっと丈夫なものが良いですよね」
マントで顔を隠して一回転すると、なんと彼はカボチャで出来たお面をかぶっていました。
「これはジャックがエミにあげたものなのです」


ジャックは手が器用で、カボチャの中身をくりぬいてお面にしてしまいました。エミがそれで笑ってくれるなら、と。
しかしカボチャのお面をかぶったエミははらはら涙を流し続けました。ジャックの病状が悪化したのです。
『ジャック!』
何度名前を呼んだか分かりません。うっすらとジャックは目を開けました。
『エミ』
かすかな口の動きで、エミは自分が呼ばれていることに気付きました。
『ジャック?なぁに?』
『笑って?最期のお願いだよ』
『…笑い方を、忘れてしまったの』
そう言って更に涙を流すエミに、ジャックはゆっくり微笑みました。
『こう、だよ。口の端をあげるんだ』
『…こう?』
ゆっくりと、恐る恐るエミは口の端をあげてみました。
『あぁ、やっぱり…エミは誰、より…かわぃ…』
言いながらジャックは幸せそうに微笑みました。
『誰より何?ジャック?ジャック?……ジャッ…ク…?…っ!』
静かに、穏やかに息を引き取ったジャックの手を、エミはいつまでも握っていました。


「エミは、ジャックを片時も忘れることはありませんでした。
笑い方を忘れないようにするために、ジャックが自分のために練習してくれたイタズラをやり始めました。」
彼はいくつか重ねた椅子の上に座り、立ち、逆立ちなんかしてみせます。
村人たちはジャックとエミの悲しい物語に胸を打たれ、涙している者までいました。
「やがてエミは旅に出て、ジャックが自分にしてくれたように人を笑わせることを始めました。」


最初の頃、エミの芸は魔術じゃないかと噂が流れ、疎まれました。
それでもエミは旅を続けました。人々の笑顔を見るために。
カボチャのお面にはジャックと名付け、いつも持ち歩いていました。エミ自身が笑顔を忘れないように。


「そうして何年か旅をして辿り着いたある村で、あるこどもがエミのイタズラをとても喜んでくれたのです。」
重ねた椅子からフワッと飛び降りて大道芸人は続けます。


今日はキリストの復活祭。あらゆる街で、村で、復活を祝ってご馳走やお菓子が振る舞われます。
そんな最中、エミはやっぱり道でイタズラを披露していました。
『お姉ちゃん、すごいね!ボク、お菓子をもらったときみたいに嬉しくなったよ!』
そう言われてエミは、ジャックが差し出してくれたお菓子やお花を蔑ろにしていたことを思い出しました。
お菓子を喜ばなかったから、ジャックは私にずっと面白おかしくイタズラをしかけていたのだと。
あれは、私を精一杯喜ばせようとしてくれていたんだ、と今更ながら気が付いたのです。
『お菓子とイタズラ、どっちがいい?』
その男の子にエミは尋ねました。
『どっちも!お姉ちゃんのイタズラは好きだもの』
ニコニコ満面の笑顔を見て、ジャックが自分を笑わせようとした理由が分かるような気がしました。
『では、小さなジェントルマン。私がこのカボチャのジャックと一緒に、見事綱を渡りきったらご褒美にお菓子をいただけますか?』
恭しくそう言ったエミに、男の子は大きく頷きました。
無事に綱を渡りきったエミは、男の子からお菓子をもらい、お礼に自分のイタズラを一つ教えました。
男の子は家に帰ってから自分のママンに尋ねました。
『ボクのこのイタズラが見事成功したらお菓子をくれる?ママン』


「男の子はこれを見せてママンからお菓子をもらうことが出来ました。」
大道芸人はそう言ってトランプのマークを変えてみせました。

その男の子はエミが持っていたカボチャのお面を真似して作り、ランプ代わりにして、やっぱり同じようにジャックと名付けました。
それを持ち歩きながら、エミと出会った復活祭の日には大道芸を見せて歩くようになりました。
エミが彼に言ったように『見事成功したらお菓子をいただけますか』と尋ねながら。
それを見た男の子がまた真似をして、また別の子が真似をして…それはあらゆる街や村に広まっていきました。
元々はイタズラを披露していたはずが、世代を重ねるとお菓子をねだることが一人歩きします。同時に、イタズラは徐々に本来のイタズラを指すようになりました。
だから今のこどもたちは皆、カボチャのランプを持ってこう言うのです。
『お菓子をくれなきゃいたずらしちゃうぞ!』


「次第にカボチャのランプは【Jack-o’-lantern】と呼ばれるようになります。これが現在のハロウィンの起源と言われています。」
そこで深々と頭を垂れた大道芸人に、村人は問います。
「エミはどこへ行ってしまったんだい?」
「さぁ…あの復活祭以来、彼女の姿を見た人はいないんです。こんな風に…」
悲しげにそう言って、フワッとマントを翻すと――彼の姿はどこにもありませんでした。

大道芸人の瞳には悲しさと愛おしさが同居していました。
村人の中には、あれはジャックの想いが作り上げた霊だとか、或いはエミが最後に会った男の子なんじゃないかと言う者もいました。
本当のことは誰も知ることは叶いません。最後に彼を見たのはこの村人たちだったのですから。

今から少しだけ昔のこと。
あれは月が明るく輝く夜でした。

コメント(8)

ハロウィンのお話ですね☆
あっと驚くイタズラにワクワクしつつ、でも少し寂しくて悲しいお話…(:_;)ジャックとエミのお話をずっと語り継いで欲しくなっちゃいました(^^)ステキでした!!
明日誰かに話してしまいそうです(笑)
現在ハロウィンの風習はなかなかないけれど、「お菓子くれないとイタズラしちゃうよ。」というのでオレは小さい頃に教えられました耳

エミとジャックのような物語の方がお菓子をあげる側としても楽しめるよね(*^.^*)



やっぱり笑顔がイチバン☆(*^∇^*)☆
ですよね〜ウッシッシ
ハロウィンのお話しがこんなに美しいんですね。誰かに伝えたいです。
>ょすぃ〜さん
コメントありがとうございます!
イタズラの明るさとジャックとエミの物悲しい感じが伝われば幸いです。
きっと村人達はこのお話を語り継いでいってくれると思います(*'-'*)
ステキだなんて嬉しい褒め言葉です!
ありがとうございました☆
>もぐたんさん
コメントありがとうございます!
是非話してみてください(笑)
どんな反応がくるんでしょうねぇ…。(ドキドキ)
>ボイさん
コメントありがとうございます!
私も教わったのは小学校の頃でした。今の学校では教えないのかなぁ。

「ハロウィンの物語ってないなぁ」
「なんで『お菓子をくれないとイタズラしちゃうぞ』なんだろう?」
「【Jack-o’-lantern】はいつも笑った顔で作られるけど、魔除けなのにどうして怒った顔じゃないんだろう」
などなど、様々な疑問から生まれた話です。

やっぱり笑顔が一番!ホント、そう思います。
>さとけんさん
コメントありがとうございます!
日本では仮装してお菓子をねだる風習が一人歩きしていますが、元々お盆のようなものらしいですね。
「あのカボチャのランプがいつも笑顔なのは、誰かに笑っていてほしいからじゃないか」
と思ったことからスタートしました。
美しいだなんて、嬉しい限りです。本当にありがとうございます!

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